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ルドルのダンジョン編
第20話 師匠が王都へ向かう
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ホーンラッビットを2匹解体した所で、師匠が戻って来た。
昼食をダンジョンの外で買ってきてくれたのだ。
少し離れた所に移動し、安全そうな通路でお昼を食べる事にした。
トマトソースのパスタ、ピザ、スープ、野菜サラダ……、ダンジョンの中とは思えない料理が、師匠のマジックバックから皿ごと取り出された。
俺達がホーンラビットを2匹解体している間に、外へ出て街のレストランで作ってもらって来たらしい。
師匠マメだな~、それに移動時間が早い。
神速の二つ名は、伊達じゃないと言うか……。
能力の無駄遣いと言う気も若干するが……。
「いや~ん! おいしそ~!」
狩猟スイッチが切れて、天然モードに戻ったセレーネが大喜びしている。
師匠は、片手で器用にスプーンとフォークを持って、パスタを取り分けている。
カッコ良いな。
それって、なんてスキルですか?
後で聞いてみたい。
「ああ~! おいしーい!」
「やっぱり夏はね。トマトソースみたいに、さっぱりしたのが良いよね」
その料理解説スキルも欲しいな。
セレーネは、すごく喜んでいる。
結局、師匠は食後のデザートまで用意していて、セレーネはチョコレートケーキを、美味しく、美味しく、食べていた。
セレーネは、ものすごく満足したらしい。
食事が終わると、師匠が俺にそっと耳打ちして来た。
「ヒロト! あの子をよそのパーティーに渡すなよ。昼飯は良いのを用意しろよ。デザートもな」
ああ、そうか、そういう事か!
待遇を良くして、セレーネがよそに行かないようにする為に、わざわざダンジョンの外へ昼食を買いに出たのか。
女性冒険者の扱いは、また男の冒険者と違うのかもしれないな。
食事は、なるたけ良くする事。
覚えておこう!
そうだ!
師匠に幸運の指輪を渡そう。
昨日、ブルーベリースライムからドロップした指輪だ。
俺はショルダーバッグから、青い石の付いた幸運の指輪を取り出した。
「師匠、これはお礼と言うか、プレゼントです」
師匠は、びっくりした顔をした後、嬉しそうに指輪を受け取った。
「おお! なんだよ! ヒロト! 気を使うなよ~。これどうした?」
「昨日、ダンジョンの奥の方でドロップしました。幸運の指輪です」
「いや……。俺はいいよ~。お袋さんに、あげろよ」
「母には、色違いのピンクの幸運の指輪をプレゼントしました。二つドロップしたんですよ。だから一つは師匠にあげます」
「タハ……。参ったな、照れるね……」
師匠は頭をカキカキして、照れ臭そうにしている。
師匠は色男だから、指輪も似合うと思うけどね。
「師匠だったら、指輪も似合いますよ」
セレーネも一緒にプッシュしてくれた。
「そうですよ~。ダグさんカッコいいから、指輪も似合いますよ」
「そ、そうかな~」
師匠は、目をウルウルさせながら、青い幸運の指輪を付けた。
師匠が指輪を身に着けると、指輪は師匠の指にぴったりとはまった。
自動でサイズ調整されている。
さすがダンジョン産のアイテムだ。
「ヒロト……、ありがとうな……。大事にするよ!」
そこまで感動してくれなくても良いのに。
師匠は感動したがり屋さんだな。
セレーネも、一緒になってウルウルしている。
場はかなりホンワカした感じになった。
「じゃあ、ヒロトにお返しでこれをあげよう」
師匠はマジックバックから、鞘付きのショートソードを取り出した。
ん? 青い鞘? 珍しいな?
「俺が昔使っていたショートソードだ。Eランク昇格のお祝いも兼ねて、ヒロトにプレゼントするよ!」
「ありがとうございます! ショートソード欲しかったんですよ!」
おお! ナイスだ! 師匠!
ちょうど、ショートソードも買い換えたいと思っていた。
「ヒロトの鎧、それボルツだろ? 黒くないけど、形でわかるよ。素材もそこそこ良いのを使っているみたいだからな。剣も鎧に合わせて良い物にしなくちゃな!」
「さすが師匠! 見ただけで分かるんですね! それで、このショートソードは……」
俺は、師匠から受け取ったショートソードを【鑑定】してみた。
-------------------
コルセア製ショートソード(ブルースチール) 攻撃力+150
-------------------
「うお! これ! コルセアのショートソード!」
「そうだ。一回、折っちまってな。打ち直してもらったから、新品ほどの攻撃力は無いが、それでも並みの剣より強いぜ」
「うあああ! ありがとうございます!!」
コルセアは、外国にある武器工房だ。海に面した国にある。
コルセア工房は、船の上で扱いやすい軽量で小回りの利く武器を造る。
ウリは、ブルースチール。
鋼鉄に何かを混ぜて作る青い鋼鉄で、サビづらく、軽くて硬度がある。
ブルースチールのレシピは、秘密でコルセア工房でしか作れない。
俺はコルセアのショートソードを抜いてみた。
細身のやや反りが入った刀身で、とにかく軽い。
コルセアを振ってみる。
軽い、俺でも振りやすい。
突いてみる。
うん、いい感じだ。
「軽くて良いですね! 大事にします! ありがとうございます!」
俺は師匠に満面の笑顔で、もう一度礼を言った。
師匠は、満足そうに微笑んで、刀の使い方を教えてくれた。
「コルセアは刀身が細いから、突いたり、急所を切るのに向いている。叩きつけるような切り方はダメだ。力よりも技で扱う剣だな。昔の俺の相棒だ。大事にしてやってくれ」
「わあ~、ヒロト良かったね~!」
セレーネもほわほわな感じで、一緒に喜んでくれている。
うん、この剣とこの鎧があれば、どんどん下の階層まで行けそうだな。
Lvは1だが、装備でチート出来るならそれで良いだろう。
そんな事を考えて俺がニマニマしていると、師匠が急に話を切り出して来た。
「ああ、そうだ。俺な。一月ほど出かけて来るから。後はヒロト、よろしくな」
「え?」
「え?」
おいおい、急だな。
俺とセレーネは、同時に返事をして、仲良くポカンとしてしまった。
師匠は、そんな俺達にお構いなく話を続けた。
「ちょっと王都に用事が出来てな。一月で帰って来るから」
「…………」
「…………」
「ダンジョン探索は、6階層まで進めて良いぞ。2人なら大丈夫だろう」
「…………」
「…………」
「必ず1日2回ギルドに顔を出してくれ。ダンジョンに入る前とダンジョンから出た後な。ハゲールとジュリちゃんに、お前らの事を面倒見るように言っとくから」
「…………」
「…………」
「ああ、セレーネちゃんのお父さんの情報も王都で探ってみるから。じゃあ、よろしく!」
師匠はそのまま、風のように消えてしまった。
無駄に神速のダグだった。
俺達2人は、師匠の消えて行ったダンジョンの通路をしばらく見つめていた。
「セレーネ、ごめん」
「ううん、大丈夫。お父さんの情報も集めてみるって言ってたし。ダグさん優しい」
そ、そうだな。
師匠だって自分の仕事がある。
不安も多いにあるけど、まあ、コルセアの剣も貰ったし。
装備は揃った、弓の得意な相棒も出来た。
ここからは、自分でやっていかないと。
「じゃあ、セレーネ。改めてよろしく!」
俺はセレーネに右手を差し出した。
「はい! こちらこそ! よろしくヒロト!」
セレーネは、笑顔で俺の手を握ってくれた。
*
「10匹達成したね~」
「ですね~」
食事の後、セレーネはホーンラビット10匹を狩った。
これでギルドに戻れば、冒険者ランク昇格だ。
「でも、ヒロトさ~ん。これどうやって地上に運ぶんですか~」
今、俺達の目の前には、4つのデカイ布袋がある。
布袋の内訳は、ホーンラビットの毛皮5匹分×2袋と肉5匹分×2袋だ。
「ロングボウもあるし~。地上まで2人で運ぶのは~、ちょっと~無理かも~」
セレーネは、先ほどまで狩猟スイッチが入っていて、効率的に狩る、解体するを繰り返した。
10匹解体し終えたところで、普段のおっとり天然モードに戻った。
「まあ、大丈夫! ちょっとここで、荷物を見ていて! すぐ戻るから」
俺は狩場にしていた通路から、人通りの多い通路に向かって走った。
師匠が王都に行ってしまったから、マジックバッグがない。
解体してもホーンラビットの毛皮や肉は結構な重さだ。
12才の子供の俺達では、10匹分をギルドまで運ぶのは難しい。
けど、その辺はちゃんと考えてある。
人通りの多い通路に出た。
ここでギルドまでポーター、運んでくれる人を雇う。
ルドルのダンジョンは、初心者向けだが、そのせいで人が多い。
獲物は取り合いになる。
中には今日の獲物が少ない連中もいるはずだ。
そういう冒険者に、帰り道ちょっと荷物を持ってお小遣い稼ぎ、を持ちかける。
横取りされては困るから、なるたけ親切そうな、人の良さそうな感じの冒険者を見つけて……。
あー、いたいた。
3階から2階へ上がる階段前の広場に、5人のパーティーが座り込んでいる。
ギルドカードは木のカード、Fランクだ。
今日は獲物0なのか、がっかりした顔で元気がない。
16才くらいかな。気の良さそうなお兄ちゃんって雰囲気だ。
俺は5人に声を掛ける事にした。
「すいません! ここからギルドまで荷物を運んで、大銅貨1枚、千ゴルド! やりませんか?」
5人は顔を見合わすと、リーダーらしい男が立ち上がった。
「お、俺は! スケアクロウのリーダーのジムだ! し、仕事の依頼か?」
ププ! メチャクチャ緊張している。
いや笑っちゃ悪い。
でも、スケアクロウって、カカシの事なんだけど、意味わかってるのかな。
ま、とにかくこの人達にお願いする方向で行こう。
「はい、そうです! 師匠と狩りに来たんですが、師匠が急用で帰ってしまって……。俺たち子供二人なので、困ってるんです」
「お、おう! そ、それは大変だな! で、ほ、報酬は5人で大銅貨1枚か?」
ジムさん!
子供相手にそんな緊張しなくても大丈夫ですよ!
「いえ。1人あたり大銅貨1枚、千ゴルドです。5人でやってもらえたら、5千ゴルドお支払いします」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。な、仲間と相談する」
ジムさんとお仲間は立ち上がってボソボソと話している。
いや~、なんか5人とも人が良さそうな感じなんだよね~。
あ、話が終わったみたい。
「ヨシ! その依頼スケアクロウが引き受けた!」
「ありがとうございます! 俺はヒロトです。よろしくお願いします」
そして、スケアクロウの面々は自己紹介を始めた。
「俺がリーダーのジムだ!」
「ジムです。よろしく」
「ジムだ」
「ジムだよ」
「ジム……」
「え? えっと……、5人とも名前がジムなんですか?」
「ああ、そうだ。地元の仲良し5人組だ」
と、リーダーのジムさんが答えた。
「……、それって不便じゃないですか?」
「そうなんだよ~。地元だとケンさんの息子のジムとか、池の側の家のジムとか呼ばれてて、問題なかったんだよ~。でも、こっちに出てきたらね~いろいろと不便で……」
と、4番目のジムさんが答えた。
「何か良い方法ないか?」
この人は何番目のジムさん、なんだろう……。
ああ、そうだ。
「あだ名で呼んだらどうですか? あなたはリーダーだから、レッドさん。あなたは頭が良さそうだから、ブルーさん。あなたは落ち着いている感じだから、グリーンさん。あなたは明るい雰囲気だから、イエローさん。あなたは強そうだから、ブラックさん」
戦隊物のイメージで、色分けしてみた。
「おお! 良いじゃねえか! レッドか! かっこいいな!」
「ブルーか……、なんか品が良いね」
「グリーン、気に入った」
「イエローだよ。明るくてゴキゲンだよ!」
「ブラック……、俺向きだ……」
スケアクロウの皆さんは、俺の付けたあだ名を、気に入ってくれたらしい。
これなら途中で荷物を奪われる事もないだろう。
「さあ、こっちです! この先に荷物があります!」
この後、俺とセレーネは、スケアクロウの皆さんに毛皮と肉の入った袋とロングボウを、ギルドまで運んでもらった。
スケアクロウは今日が初日で獲物ナシだったらしい。
臨時収入に喜んでいた。
俺の残金は5000ゴルドになってしまった。
昼食をダンジョンの外で買ってきてくれたのだ。
少し離れた所に移動し、安全そうな通路でお昼を食べる事にした。
トマトソースのパスタ、ピザ、スープ、野菜サラダ……、ダンジョンの中とは思えない料理が、師匠のマジックバックから皿ごと取り出された。
俺達がホーンラビットを2匹解体している間に、外へ出て街のレストランで作ってもらって来たらしい。
師匠マメだな~、それに移動時間が早い。
神速の二つ名は、伊達じゃないと言うか……。
能力の無駄遣いと言う気も若干するが……。
「いや~ん! おいしそ~!」
狩猟スイッチが切れて、天然モードに戻ったセレーネが大喜びしている。
師匠は、片手で器用にスプーンとフォークを持って、パスタを取り分けている。
カッコ良いな。
それって、なんてスキルですか?
後で聞いてみたい。
「ああ~! おいしーい!」
「やっぱり夏はね。トマトソースみたいに、さっぱりしたのが良いよね」
その料理解説スキルも欲しいな。
セレーネは、すごく喜んでいる。
結局、師匠は食後のデザートまで用意していて、セレーネはチョコレートケーキを、美味しく、美味しく、食べていた。
セレーネは、ものすごく満足したらしい。
食事が終わると、師匠が俺にそっと耳打ちして来た。
「ヒロト! あの子をよそのパーティーに渡すなよ。昼飯は良いのを用意しろよ。デザートもな」
ああ、そうか、そういう事か!
待遇を良くして、セレーネがよそに行かないようにする為に、わざわざダンジョンの外へ昼食を買いに出たのか。
女性冒険者の扱いは、また男の冒険者と違うのかもしれないな。
食事は、なるたけ良くする事。
覚えておこう!
そうだ!
師匠に幸運の指輪を渡そう。
昨日、ブルーベリースライムからドロップした指輪だ。
俺はショルダーバッグから、青い石の付いた幸運の指輪を取り出した。
「師匠、これはお礼と言うか、プレゼントです」
師匠は、びっくりした顔をした後、嬉しそうに指輪を受け取った。
「おお! なんだよ! ヒロト! 気を使うなよ~。これどうした?」
「昨日、ダンジョンの奥の方でドロップしました。幸運の指輪です」
「いや……。俺はいいよ~。お袋さんに、あげろよ」
「母には、色違いのピンクの幸運の指輪をプレゼントしました。二つドロップしたんですよ。だから一つは師匠にあげます」
「タハ……。参ったな、照れるね……」
師匠は頭をカキカキして、照れ臭そうにしている。
師匠は色男だから、指輪も似合うと思うけどね。
「師匠だったら、指輪も似合いますよ」
セレーネも一緒にプッシュしてくれた。
「そうですよ~。ダグさんカッコいいから、指輪も似合いますよ」
「そ、そうかな~」
師匠は、目をウルウルさせながら、青い幸運の指輪を付けた。
師匠が指輪を身に着けると、指輪は師匠の指にぴったりとはまった。
自動でサイズ調整されている。
さすがダンジョン産のアイテムだ。
「ヒロト……、ありがとうな……。大事にするよ!」
そこまで感動してくれなくても良いのに。
師匠は感動したがり屋さんだな。
セレーネも、一緒になってウルウルしている。
場はかなりホンワカした感じになった。
「じゃあ、ヒロトにお返しでこれをあげよう」
師匠はマジックバックから、鞘付きのショートソードを取り出した。
ん? 青い鞘? 珍しいな?
「俺が昔使っていたショートソードだ。Eランク昇格のお祝いも兼ねて、ヒロトにプレゼントするよ!」
「ありがとうございます! ショートソード欲しかったんですよ!」
おお! ナイスだ! 師匠!
ちょうど、ショートソードも買い換えたいと思っていた。
「ヒロトの鎧、それボルツだろ? 黒くないけど、形でわかるよ。素材もそこそこ良いのを使っているみたいだからな。剣も鎧に合わせて良い物にしなくちゃな!」
「さすが師匠! 見ただけで分かるんですね! それで、このショートソードは……」
俺は、師匠から受け取ったショートソードを【鑑定】してみた。
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コルセア製ショートソード(ブルースチール) 攻撃力+150
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「うお! これ! コルセアのショートソード!」
「そうだ。一回、折っちまってな。打ち直してもらったから、新品ほどの攻撃力は無いが、それでも並みの剣より強いぜ」
「うあああ! ありがとうございます!!」
コルセアは、外国にある武器工房だ。海に面した国にある。
コルセア工房は、船の上で扱いやすい軽量で小回りの利く武器を造る。
ウリは、ブルースチール。
鋼鉄に何かを混ぜて作る青い鋼鉄で、サビづらく、軽くて硬度がある。
ブルースチールのレシピは、秘密でコルセア工房でしか作れない。
俺はコルセアのショートソードを抜いてみた。
細身のやや反りが入った刀身で、とにかく軽い。
コルセアを振ってみる。
軽い、俺でも振りやすい。
突いてみる。
うん、いい感じだ。
「軽くて良いですね! 大事にします! ありがとうございます!」
俺は師匠に満面の笑顔で、もう一度礼を言った。
師匠は、満足そうに微笑んで、刀の使い方を教えてくれた。
「コルセアは刀身が細いから、突いたり、急所を切るのに向いている。叩きつけるような切り方はダメだ。力よりも技で扱う剣だな。昔の俺の相棒だ。大事にしてやってくれ」
「わあ~、ヒロト良かったね~!」
セレーネもほわほわな感じで、一緒に喜んでくれている。
うん、この剣とこの鎧があれば、どんどん下の階層まで行けそうだな。
Lvは1だが、装備でチート出来るならそれで良いだろう。
そんな事を考えて俺がニマニマしていると、師匠が急に話を切り出して来た。
「ああ、そうだ。俺な。一月ほど出かけて来るから。後はヒロト、よろしくな」
「え?」
「え?」
おいおい、急だな。
俺とセレーネは、同時に返事をして、仲良くポカンとしてしまった。
師匠は、そんな俺達にお構いなく話を続けた。
「ちょっと王都に用事が出来てな。一月で帰って来るから」
「…………」
「…………」
「ダンジョン探索は、6階層まで進めて良いぞ。2人なら大丈夫だろう」
「…………」
「…………」
「必ず1日2回ギルドに顔を出してくれ。ダンジョンに入る前とダンジョンから出た後な。ハゲールとジュリちゃんに、お前らの事を面倒見るように言っとくから」
「…………」
「…………」
「ああ、セレーネちゃんのお父さんの情報も王都で探ってみるから。じゃあ、よろしく!」
師匠はそのまま、風のように消えてしまった。
無駄に神速のダグだった。
俺達2人は、師匠の消えて行ったダンジョンの通路をしばらく見つめていた。
「セレーネ、ごめん」
「ううん、大丈夫。お父さんの情報も集めてみるって言ってたし。ダグさん優しい」
そ、そうだな。
師匠だって自分の仕事がある。
不安も多いにあるけど、まあ、コルセアの剣も貰ったし。
装備は揃った、弓の得意な相棒も出来た。
ここからは、自分でやっていかないと。
「じゃあ、セレーネ。改めてよろしく!」
俺はセレーネに右手を差し出した。
「はい! こちらこそ! よろしくヒロト!」
セレーネは、笑顔で俺の手を握ってくれた。
*
「10匹達成したね~」
「ですね~」
食事の後、セレーネはホーンラビット10匹を狩った。
これでギルドに戻れば、冒険者ランク昇格だ。
「でも、ヒロトさ~ん。これどうやって地上に運ぶんですか~」
今、俺達の目の前には、4つのデカイ布袋がある。
布袋の内訳は、ホーンラビットの毛皮5匹分×2袋と肉5匹分×2袋だ。
「ロングボウもあるし~。地上まで2人で運ぶのは~、ちょっと~無理かも~」
セレーネは、先ほどまで狩猟スイッチが入っていて、効率的に狩る、解体するを繰り返した。
10匹解体し終えたところで、普段のおっとり天然モードに戻った。
「まあ、大丈夫! ちょっとここで、荷物を見ていて! すぐ戻るから」
俺は狩場にしていた通路から、人通りの多い通路に向かって走った。
師匠が王都に行ってしまったから、マジックバッグがない。
解体してもホーンラビットの毛皮や肉は結構な重さだ。
12才の子供の俺達では、10匹分をギルドまで運ぶのは難しい。
けど、その辺はちゃんと考えてある。
人通りの多い通路に出た。
ここでギルドまでポーター、運んでくれる人を雇う。
ルドルのダンジョンは、初心者向けだが、そのせいで人が多い。
獲物は取り合いになる。
中には今日の獲物が少ない連中もいるはずだ。
そういう冒険者に、帰り道ちょっと荷物を持ってお小遣い稼ぎ、を持ちかける。
横取りされては困るから、なるたけ親切そうな、人の良さそうな感じの冒険者を見つけて……。
あー、いたいた。
3階から2階へ上がる階段前の広場に、5人のパーティーが座り込んでいる。
ギルドカードは木のカード、Fランクだ。
今日は獲物0なのか、がっかりした顔で元気がない。
16才くらいかな。気の良さそうなお兄ちゃんって雰囲気だ。
俺は5人に声を掛ける事にした。
「すいません! ここからギルドまで荷物を運んで、大銅貨1枚、千ゴルド! やりませんか?」
5人は顔を見合わすと、リーダーらしい男が立ち上がった。
「お、俺は! スケアクロウのリーダーのジムだ! し、仕事の依頼か?」
ププ! メチャクチャ緊張している。
いや笑っちゃ悪い。
でも、スケアクロウって、カカシの事なんだけど、意味わかってるのかな。
ま、とにかくこの人達にお願いする方向で行こう。
「はい、そうです! 師匠と狩りに来たんですが、師匠が急用で帰ってしまって……。俺たち子供二人なので、困ってるんです」
「お、おう! そ、それは大変だな! で、ほ、報酬は5人で大銅貨1枚か?」
ジムさん!
子供相手にそんな緊張しなくても大丈夫ですよ!
「いえ。1人あたり大銅貨1枚、千ゴルドです。5人でやってもらえたら、5千ゴルドお支払いします」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。な、仲間と相談する」
ジムさんとお仲間は立ち上がってボソボソと話している。
いや~、なんか5人とも人が良さそうな感じなんだよね~。
あ、話が終わったみたい。
「ヨシ! その依頼スケアクロウが引き受けた!」
「ありがとうございます! 俺はヒロトです。よろしくお願いします」
そして、スケアクロウの面々は自己紹介を始めた。
「俺がリーダーのジムだ!」
「ジムです。よろしく」
「ジムだ」
「ジムだよ」
「ジム……」
「え? えっと……、5人とも名前がジムなんですか?」
「ああ、そうだ。地元の仲良し5人組だ」
と、リーダーのジムさんが答えた。
「……、それって不便じゃないですか?」
「そうなんだよ~。地元だとケンさんの息子のジムとか、池の側の家のジムとか呼ばれてて、問題なかったんだよ~。でも、こっちに出てきたらね~いろいろと不便で……」
と、4番目のジムさんが答えた。
「何か良い方法ないか?」
この人は何番目のジムさん、なんだろう……。
ああ、そうだ。
「あだ名で呼んだらどうですか? あなたはリーダーだから、レッドさん。あなたは頭が良さそうだから、ブルーさん。あなたは落ち着いている感じだから、グリーンさん。あなたは明るい雰囲気だから、イエローさん。あなたは強そうだから、ブラックさん」
戦隊物のイメージで、色分けしてみた。
「おお! 良いじゃねえか! レッドか! かっこいいな!」
「ブルーか……、なんか品が良いね」
「グリーン、気に入った」
「イエローだよ。明るくてゴキゲンだよ!」
「ブラック……、俺向きだ……」
スケアクロウの皆さんは、俺の付けたあだ名を、気に入ってくれたらしい。
これなら途中で荷物を奪われる事もないだろう。
「さあ、こっちです! この先に荷物があります!」
この後、俺とセレーネは、スケアクロウの皆さんに毛皮と肉の入った袋とロングボウを、ギルドまで運んでもらった。
スケアクロウは今日が初日で獲物ナシだったらしい。
臨時収入に喜んでいた。
俺の残金は5000ゴルドになってしまった。
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と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
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ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
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「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
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三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
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