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ルドルのダンジョン編

第20話 師匠が王都へ向かう

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 ホーンラッビットを2匹解体した所で、師匠が戻って来た。
昼食をダンジョンの外で買ってきてくれたのだ。
 少し離れた所に移動し、安全そうな通路でお昼を食べる事にした。

 トマトソースのパスタ、ピザ、スープ、野菜サラダ……、ダンジョンの中とは思えない料理が、師匠のマジックバックから皿ごと取り出された。

 俺達がホーンラビットを2匹解体している間に、外へ出て街のレストランで作ってもらって来たらしい。
 師匠マメだな~、それに移動時間が早い。
 神速の二つ名は、伊達じゃないと言うか……。
 能力の無駄遣いと言う気も若干するが……。

「いや~ん! おいしそ~!」

 狩猟スイッチが切れて、天然モードに戻ったセレーネが大喜びしている。
 師匠は、片手で器用にスプーンとフォークを持って、パスタを取り分けている。

 カッコ良いな。
 それって、なんてスキルですか?
 後で聞いてみたい。

「ああ~! おいしーい!」

「やっぱり夏はね。トマトソースみたいに、さっぱりしたのが良いよね」

 その料理解説スキルも欲しいな。
 セレーネは、すごく喜んでいる。

 結局、師匠は食後のデザートまで用意していて、セレーネはチョコレートケーキを、美味しく、美味しく、食べていた。
 セレーネは、ものすごく満足したらしい。

 食事が終わると、師匠が俺にそっと耳打ちして来た。

「ヒロト! あの子をよそのパーティーに渡すなよ。昼飯は良いのを用意しろよ。デザートもな」

 ああ、そうか、そういう事か!
 待遇を良くして、セレーネがよそに行かないようにする為に、わざわざダンジョンの外へ昼食を買いに出たのか。

 女性冒険者の扱いは、また男の冒険者と違うのかもしれないな。
 食事は、なるたけ良くする事。
 覚えておこう!

 そうだ!
 師匠に幸運の指輪を渡そう。
 昨日、ブルーベリースライムからドロップした指輪だ。

 俺はショルダーバッグから、青い石の付いた幸運の指輪を取り出した。

「師匠、これはお礼と言うか、プレゼントです」

 師匠は、びっくりした顔をした後、嬉しそうに指輪を受け取った。

「おお! なんだよ! ヒロト! 気を使うなよ~。これどうした?」

「昨日、ダンジョンの奥の方でドロップしました。幸運の指輪です」

「いや……。俺はいいよ~。お袋さんに、あげろよ」

「母には、色違いのピンクの幸運の指輪をプレゼントしました。二つドロップしたんですよ。だから一つは師匠にあげます」

「タハ……。参ったな、照れるね……」

 師匠は頭をカキカキして、照れ臭そうにしている。
 師匠は色男だから、指輪も似合うと思うけどね。

「師匠だったら、指輪も似合いますよ」

 セレーネも一緒にプッシュしてくれた。

「そうですよ~。ダグさんカッコいいから、指輪も似合いますよ」

「そ、そうかな~」

 師匠は、目をウルウルさせながら、青い幸運の指輪を付けた。
 師匠が指輪を身に着けると、指輪は師匠の指にぴったりとはまった。
自動でサイズ調整されている。
 さすがダンジョン産のアイテムだ。

「ヒロト……、ありがとうな……。大事にするよ!」

 そこまで感動してくれなくても良いのに。
 師匠は感動したがり屋さんだな。

 セレーネも、一緒になってウルウルしている。
 場はかなりホンワカした感じになった。

「じゃあ、ヒロトにお返しでこれをあげよう」

 師匠はマジックバックから、鞘付きのショートソードを取り出した。
 ん? 青い鞘? 珍しいな?

「俺が昔使っていたショートソードだ。Eランク昇格のお祝いも兼ねて、ヒロトにプレゼントするよ!」

「ありがとうございます! ショートソード欲しかったんですよ!」

 おお! ナイスだ! 師匠!
 ちょうど、ショートソードも買い換えたいと思っていた。

「ヒロトの鎧、それボルツだろ? 黒くないけど、形でわかるよ。素材もそこそこ良いのを使っているみたいだからな。剣も鎧に合わせて良い物にしなくちゃな!」

「さすが師匠! 見ただけで分かるんですね! それで、このショートソードは……」

 俺は、師匠から受け取ったショートソードを【鑑定】してみた。


 -------------------

 コルセア製ショートソード(ブルースチール) 攻撃力+150

 -------------------


「うお! これ! コルセアのショートソード!」

「そうだ。一回、折っちまってな。打ち直してもらったから、新品ほどの攻撃力は無いが、それでも並みの剣より強いぜ」

「うあああ! ありがとうございます!!」

 コルセアは、外国にある武器工房だ。海に面した国にある。
 コルセア工房は、船の上で扱いやすい軽量で小回りの利く武器を造る。
 ウリは、ブルースチール。
 鋼鉄に何かを混ぜて作る青い鋼鉄で、サビづらく、軽くて硬度がある。
 ブルースチールのレシピは、秘密でコルセア工房でしか作れない。

 俺はコルセアのショートソードを抜いてみた。
 細身のやや反りが入った刀身で、とにかく軽い。

 コルセアを振ってみる。
 軽い、俺でも振りやすい。

 突いてみる。
 うん、いい感じだ。

「軽くて良いですね! 大事にします! ありがとうございます!」

 俺は師匠に満面の笑顔で、もう一度礼を言った。
 師匠は、満足そうに微笑んで、刀の使い方を教えてくれた。

「コルセアは刀身が細いから、突いたり、急所を切るのに向いている。叩きつけるような切り方はダメだ。力よりも技で扱う剣だな。昔の俺の相棒だ。大事にしてやってくれ」

「わあ~、ヒロト良かったね~!」

 セレーネもほわほわな感じで、一緒に喜んでくれている。
 うん、この剣とこの鎧があれば、どんどん下の階層まで行けそうだな。
 Lvは1だが、装備でチート出来るならそれで良いだろう。

 そんな事を考えて俺がニマニマしていると、師匠が急に話を切り出して来た。

「ああ、そうだ。俺な。一月ほど出かけて来るから。後はヒロト、よろしくな」

「え?」
「え?」

 おいおい、急だな。
 俺とセレーネは、同時に返事をして、仲良くポカンとしてしまった。
 師匠は、そんな俺達にお構いなく話を続けた。

「ちょっと王都に用事が出来てな。一月で帰って来るから」

「…………」
「…………」

「ダンジョン探索は、6階層まで進めて良いぞ。2人なら大丈夫だろう」

「…………」
「…………」

「必ず1日2回ギルドに顔を出してくれ。ダンジョンに入る前とダンジョンから出た後な。ハゲールとジュリちゃんに、お前らの事を面倒見るように言っとくから」

「…………」
「…………」

「ああ、セレーネちゃんのお父さんの情報も王都で探ってみるから。じゃあ、よろしく!」

 師匠はそのまま、風のように消えてしまった。
 無駄に神速のダグだった。

 俺達2人は、師匠の消えて行ったダンジョンの通路をしばらく見つめていた。

「セレーネ、ごめん」

「ううん、大丈夫。お父さんの情報も集めてみるって言ってたし。ダグさん優しい」

 そ、そうだな。
 師匠だって自分の仕事がある。

 不安も多いにあるけど、まあ、コルセアの剣も貰ったし。
 装備は揃った、弓の得意な相棒も出来た。
 ここからは、自分でやっていかないと。

「じゃあ、セレーネ。改めてよろしく!」

 俺はセレーネに右手を差し出した。

「はい! こちらこそ! よろしくヒロト!」

 セレーネは、笑顔で俺の手を握ってくれた。


 *


「10匹達成したね~」

「ですね~」

 食事の後、セレーネはホーンラビット10匹を狩った。
 これでギルドに戻れば、冒険者ランク昇格だ。

「でも、ヒロトさ~ん。これどうやって地上に運ぶんですか~」

 今、俺達の目の前には、4つのデカイ布袋がある。
 布袋の内訳は、ホーンラビットの毛皮5匹分×2袋と肉5匹分×2袋だ。

「ロングボウもあるし~。地上まで2人で運ぶのは~、ちょっと~無理かも~」

 セレーネは、先ほどまで狩猟スイッチが入っていて、効率的に狩る、解体するを繰り返した。
 10匹解体し終えたところで、普段のおっとり天然モードに戻った。

「まあ、大丈夫! ちょっとここで、荷物を見ていて! すぐ戻るから」

 俺は狩場にしていた通路から、人通りの多い通路に向かって走った。

 師匠が王都に行ってしまったから、マジックバッグがない。
 解体してもホーンラビットの毛皮や肉は結構な重さだ。
 12才の子供の俺達では、10匹分をギルドまで運ぶのは難しい。
 けど、その辺はちゃんと考えてある。

 人通りの多い通路に出た。
 ここでギルドまでポーター、運んでくれる人を雇う。

 ルドルのダンジョンは、初心者向けだが、そのせいで人が多い。
 獲物は取り合いになる。

 中には今日の獲物が少ない連中もいるはずだ。
 そういう冒険者に、帰り道ちょっと荷物を持ってお小遣い稼ぎ、を持ちかける。

 横取りされては困るから、なるたけ親切そうな、人の良さそうな感じの冒険者を見つけて……。
 あー、いたいた。

 3階から2階へ上がる階段前の広場に、5人のパーティーが座り込んでいる。
 ギルドカードは木のカード、Fランクだ。
 今日は獲物0なのか、がっかりした顔で元気がない。
 16才くらいかな。気の良さそうなお兄ちゃんって雰囲気だ。

 俺は5人に声を掛ける事にした。

「すいません! ここからギルドまで荷物を運んで、大銅貨1枚、千ゴルド! やりませんか?」

 5人は顔を見合わすと、リーダーらしい男が立ち上がった。

「お、俺は! スケアクロウのリーダーのジムだ! し、仕事の依頼か?」

 ププ! メチャクチャ緊張している。
 いや笑っちゃ悪い。

 でも、スケアクロウって、カカシの事なんだけど、意味わかってるのかな。
 ま、とにかくこの人達にお願いする方向で行こう。

「はい、そうです! 師匠と狩りに来たんですが、師匠が急用で帰ってしまって……。俺たち子供二人なので、困ってるんです」

「お、おう! そ、それは大変だな! で、ほ、報酬は5人で大銅貨1枚か?」

 ジムさん!
 子供相手にそんな緊張しなくても大丈夫ですよ!

「いえ。1人あたり大銅貨1枚、千ゴルドです。5人でやってもらえたら、5千ゴルドお支払いします」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。な、仲間と相談する」

 ジムさんとお仲間は立ち上がってボソボソと話している。
 いや~、なんか5人とも人が良さそうな感じなんだよね~。

 あ、話が終わったみたい。

「ヨシ! その依頼スケアクロウが引き受けた!」

「ありがとうございます! 俺はヒロトです。よろしくお願いします」

 そして、スケアクロウの面々は自己紹介を始めた。

「俺がリーダーのジムだ!」
「ジムです。よろしく」
「ジムだ」
「ジムだよ」
「ジム……」

「え? えっと……、5人とも名前がジムなんですか?」

「ああ、そうだ。地元の仲良し5人組だ」

 と、リーダーのジムさんが答えた。

「……、それって不便じゃないですか?」

「そうなんだよ~。地元だとケンさんの息子のジムとか、池の側の家のジムとか呼ばれてて、問題なかったんだよ~。でも、こっちに出てきたらね~いろいろと不便で……」

 と、4番目のジムさんが答えた。

「何か良い方法ないか?」

 この人は何番目のジムさん、なんだろう……。
 ああ、そうだ。

「あだ名で呼んだらどうですか? あなたはリーダーだから、レッドさん。あなたは頭が良さそうだから、ブルーさん。あなたは落ち着いている感じだから、グリーンさん。あなたは明るい雰囲気だから、イエローさん。あなたは強そうだから、ブラックさん」

 戦隊物のイメージで、色分けしてみた。
「おお! 良いじゃねえか! レッドか! かっこいいな!」
「ブルーか……、なんか品が良いね」
「グリーン、気に入った」
「イエローだよ。明るくてゴキゲンだよ!」
「ブラック……、俺向きだ……」

 スケアクロウの皆さんは、俺の付けたあだ名を、気に入ってくれたらしい。
 これなら途中で荷物を奪われる事もないだろう。

「さあ、こっちです! この先に荷物があります!」

 この後、俺とセレーネは、スケアクロウの皆さんに毛皮と肉の入った袋とロングボウを、ギルドまで運んでもらった。

 スケアクロウは今日が初日で獲物ナシだったらしい。
 臨時収入に喜んでいた。

 俺の残金は5000ゴルドになってしまった。
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