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ルドルのダンジョン編

第7話 ダンジョンに入る許可が出ない(泣)

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「だから、お願いしますよ!」

「ダメだって! ヒロト君は、ダンジョンには入れないのよ!」

「そんな事言わないで下さい! ほら魔石! 昨日スライムを倒しましたよ!」

「ダンジョンの中ではスライムも強くなるの! ヒロト君も知ってるでしょ?」

 俺はギルド受付のジュリさんともめている。
 押し問答になっている。

 昨日はシンディが奴隷に売られるのを見て、ショックだった。
 あの後、トボトボ歩いてギルドに戻りルート仕事の報告をした。
 家へ帰ったら、晩御飯も食べずにベッドに潜り込んだ。
 とにかく落ち込んだ。

 だが、このままでは終わらない。
 終わらせない。
 終わらせてはいけない。

 俺は転生者、生まれ変わった人間なんだ。
 前の人生はうまく行かなかった。
 だから、今度の人生では絶対にうまくやってやる。

「シンディを取り戻すんだ!」

 俺は朝起きると、商人ギルドに向かった。
 昨日の奴隷商人は、ミゲルと言う名前だった。
 まずミゲルの情報を集める事にした。

 ミゲルは王都の奴隷商人で、主に金持ちや貴族が顧客らしい。
 美人になりそうな女の子を集めて、礼儀作法など教育をして高く売るタイプ。
 買い取った奴隷の扱いは良いらしい。
 すぐにシンディがヒドイ目に合う訳ではなさそうなので、少しホッとした。

「だけど……」

 今は12才、この世界でもまだ子供だ。
 あと3、4年、15、6才になったら、どうなるかわからない。
 シンディがどこかの金持ち親父に売り飛ばされてしまう。
 それを防ぐには……。

「俺がシンディを買えば良い。シンディを買って自由にしてあげれば良いんだ!」

 奴隷の値段は、ピンキリらしい。
 美人の若い女だと、金貨20枚前後、つまり2000万ゴルド前後が相場らしい。
 ルート仕事で大銅貨3枚、3000ゴルドしか稼げない俺には用意するのが不可能な大金だ。

「だが、裏スキル【カード】が俺にはある!」

 そう! 昨日ゴールドガチャカード【カード】が解放された。
 裏スキル【カード】は倒した魔物からステータスカードをゲット出来る。

 これで魔物を倒しまくって、強くなり。
 より強い魔物を倒しまくって、さらに強くなる。

 魔物の素材を売り、魔石を売り、そうしたら金貨20枚、2000万ゴルドも何とかなるんじゃないか?
 その為には……。

「ダンジョンに潜ろう!」

 ルドルの街の近くはめったに魔物が出ない。
 出ても街の冒険者にすぐ狩られてしまう。

 ならダンジョンに潜って魔物を狩るしかない。
 幸いルドルの街のダンジョンは、初心者向けのダンジョン。
 俺でも何とかなる。
 だがステータスの低い俺は、ダンジョンに入る資格がない……。

 と言う訳で、ギルドに来て交渉しているのだが、許可がおりない。

「オイ! Fラン! お前いい加減にしろよ!」

 デップリと太ったオヤジのギルドマスターのハゲールが、俺と受付のジュリさんの間に割って入って来た。

「ギルドマスター! お願いしますよ! 俺もダンジョンに入りたい。許可を下さい!」

「ダメだ! お前はステータスが低い。規則があるから許可出来ん!」

「いや、でも、俺、スライムは倒せたし……」

「いい加減にしろ! ルートの仕事も取り上げるぞ!」

 くっそ~。ルートの仕事何て、今はどうでもいいんだ!
 ダンジョンに入って、魔物を倒しまくらなきゃ前へ進まない。
 シンディを取り戻せない。
 どうしたら……。

「おいおい! どうした? さっきから聞いてりゃ、新人がかわいそうじゃないか」

 後ろから男の人が声を掛けて来た。
 振り返るとそこには……。

 神速のダグ!
 この前ギルドに来ていた有名な冒険者だ!
 近くで見るとさらにカッコイイな……。
 35才くらいかな?

 神速のダグはニコッと笑って俺に話しかけて来た。

「よう、ルーキー!」

「ダ、ダグさん! こんにちは!」

「ルーキー、名前は何て言うんだ?」

「ヒロトです!」

「ヒロトか……。良い名前だな!」

「ありがとうございます!」

 すげー、神速のダグと言葉交わしちゃったよ……。
 他の冒険者達も注目してる。
 そりゃ神速のダグだからな。
 前の世界で言うと何だろう? 金メダリスト?

 その神速のダグが、Fランクの俺に話し掛けて来たんだ。
 みんな何事かと思うよな……。

「よう! ハゲール! やる気のある新人がダンジョンに潜りたいって言ってるんだ。許可くらい出してやれよ~」

 神速のダグは、ギルドマスターに話し始めた。
 ギルドマスターはあたふたし出した。

「ダ! ダグ先輩! どうしたんですか? 男には興味ないでしょう?」

「いや、ほれ、俺もさあ、この街出身のS級冒険者としてだな。将来有望な新人を応援したいと思ってさ」

「将来有望?」

 ギルドマスターが、ふふんと鼻で笑った。

「ダグ先輩……、先輩はこいつをご存知ないから、そんな事をおっしゃるんですよ。こいつはね。Fランって呼ばれてましてね。半年たってもFランクから上がれない、カス冒険者ですよ」

「おいおい! カスはヒドイだろ。オマエも駆け出しの頃は、使えない冒険者だったじゃないか。長い目で見てやれよ」

「わ、私の事は良いでしょう! 問題はコイツのステータスなんですよ。ステータスが低いんです!」

「新人なんだから、ステータスが低いのは当たり前だろう?」

 神速のダグが呆れたようにギルドマスターに言葉を返した。
 ギルドマスターは胸を反らして説明し出した。

「ダグ先輩。ルドルのダンジョンには、ルールがあるんです。ルールが! ステータスの、パワー、持久力、素早さ、器用のどれかが10以上でないと、ダンジョンには入場できません」

「はあ? そんなルールあったか?」

「私が作りました!」

 ギルドマスターは、フン! フン! と鼻息を荒くした。
 ルールを作ったのがそんなに嬉しいのかね……。

 まあ、でもこのルールは、あながち的外れじゃない。

 パワーがあれば、力技で戦える。
 持久力があれば、スタミナを武器に長期戦で戦える。
 素早さがあれば、攻撃を回避するフットワークで戦える。
 器用さがあれば、弓を使って遠隔攻撃で戦える。

 初心者向けダンジョンと言っても、下の階層にはそれなりに強いモンスターもいる。
 万一の事態を防ぐ為のルールなんだろう。

「おい、ハゲール。お前が作ったルールなら、お前が許可を出す分には問題ないだろう?」

「いいえ、ダメです。先輩、このルールは、貴族の子供が装備だけ整えてダンジョンに入って、大怪我したから制定したルールです。貴族の皆さんにも守ってもらっています」

「だからって、やる気のある新人の成長を妨げるのはマズイだろ?」

「成長? 成長ですと? ふふ、ハハハ!」

 ギルドマスターは、俺を横目で見ながら笑い出した。
 クソ! 俺を見下し、軽蔑した、ゴミでも見るような目だ!

「ダグ先輩……。何度も言いますが、コイツはクズなんです。成長なんかしませんよ」

「オマエ……」

「まー! 先輩! 聞いて下さい。こいつのステータスはホトンド横棒-、測定不能な程低いのです。知力は70ですが……、まあ、戦闘には関係がない。そしてスキルもなし。ブフフフ! これでどうやって成長するって言うんですか?」

 ギルドマスターは、勝ち誇ったように話し始めた。
 様子を伺っていた冒険者達も、うなずいたり、ギルドマスターのいう通り、とかヤジを飛ばし始めた。

「先輩もね~。コイツのステータスを見たら匙《さじ》を投げますよ。オイ! オマエ! ステータスボードに手を置いて、ステータスをダグ先輩にお見せしろ!」

 まずい。
 昨日、カードを消費して【鑑定(上級)】をスキルに追加したばかりだ。

 半年前にはなかったスキルが追加されてる……。
 これは不自然だよな……。
 理由を追求されたら困る。

 神速のダグは腕組みをして、憮然とした顔をしている。
 ああ、すいません。
 好意で俺をかばってくれたのに、何だが面倒臭い事になってしまった。

「オイ! 早くしろ!」

 ギルドマスターがせかす。
 ええい! しょうがない! どうとでもなれ!

 俺はスキルボードに手をのせた。
 俺のステータスが、ボードに映し出された。

 ギルドマスターは勝ち誇り得意満面な顔をしている。
 周りの冒険者達はニヤニヤとこっちを見ている。

 神速のダグがスキルボードをジッと見ている。
 ああ、もう、これでダメか……。
 ごめん、シンディ……。

「【鑑定】スキルがあるじゃねえか! すごいぞ!」

 神速のダグがスキルボードを覗き込むようにして、驚きの声を上げた。

「えっ!?」
「えっ!?」
「えっ!?」
「えっ!?」

 周りの冒険者達も驚いている。
 ギルドマスターも呆気にとられた顔をしている。

「おい! ハゲール! スキルが無いなんて、ウソじゃないか。この新人は【鑑定】スキル持ちだぞ~」

「そ、そんなバカな!」

 ギルドマスターがスキルボードを覗き込む。

 そこには、


 ◆スキル◆
【鑑定】


 とはっきりと表示があった。
 どうやら(上級)までは表示されないみたいだ。

「ハゲール……。お前なあ、【鑑定】スキルは、そこそこレアなスキルだぞ。対戦する魔物の情報取得やダンジョンで見つけたアイテムの鑑定やら、役に立つスキルだ」

「いや、これは!? 何かの間違いじゃ!?」

「ハゲール! スキルボードにちゃんと表示されてるじゃないか。あーあ、これは責任問題だなぁ~♪ レアなスキル持ちの有望な新人を見逃してたなんてなあ~♪」

 ギルドマスターは顔色が青くなってる。
 さっきまで俺を言葉でいびって得意満面な顔をしていたのに。

「でも、半年前にコイツが登録した時は、本当にスキルがゼロだったんですよ!」

「だったら、ますます将来有望じゃないか! 半年で鑑定スキルを手に入れたんだろ? やるな! ルーキー!」

 神速のダグは、俺の背中をバンバンと叩いた。
 ギルドマスターは殺意のこもった目で俺をにらんでいる。

「い、いつからだ? なぜだ!」

「えーと、たぶん昨日だと思います。……半年間、薬草の買取をしていたので、それで薬草以外が混じっていないかチェックしていたので、たぶん、それで【鑑定】スキルが付いたんじゃないかと……」

 俺は苦し紛れの言い訳をした。
 だけど、これ、結構筋は通ってるよね。
 神速のダグが俺の言葉にのっかってくれた。

「なるほどな~。そういう訳か! ルーキーの真面目な仕事振りが、スキル獲得に結び付いたって訳だ。おい! ハゲール! ダンジョンに入る許可出してやれよ!」

「ぐう……。わかりました。それなら条件付きで許可しましょう……」

「条件?」

「そうです。安全対策として、Cランク以上の冒険者がコイツに同行する事が条件です。それなら許可しましょう」

 クソッ! その条件じゃ、無理に決まってる。
 Cランク、銅のギルドカードを持つ冒険者はベテランやリーダークラスだ。

 俺みたいな新人に構うほどヒマじゃない。
 Cランクのいるパーティーに入れてもらう事も、俺じゃあ力不足で無理だ。

 ギルドマスターは、サラサラと紙に何か書いて、俺に差し出して来た。

「さあ、これが許可証だ。Cランク以上の冒険者が同行すれば、ダンジョンへの入場を許可すると書いてある。おめでとう!」

 ギルドマスターは、ニヤニヤと嬉しそうに笑いながら俺を見ている。
 チクショウ! どうしたらいい?

 他の街に行くか?
 いや、ダメだ! 他の街に行くにも旅費がない。
 どうしたらいい?

「なあ、ルーキー。俺が一緒に行ってやろうか?」

 えっ? 聞き間違いか?

「えーと、ダグさん。一緒に行ってやるって、それはいったい?」

「俺がルーキーに同行してやるよ。そうすりゃダンジョンに入れるだろ?」

 神速のダグが、パチンと俺にウインクした。

 マジか!
 それならダンジョンに入れる!

 でも、良いのか?
 この人はSランク冒険者の神速のダグだぞ。

 ギルドマスターが真っ赤な顔で、神速のダグに食ってかかった。

「な! 先輩! 何言ってるんですか! ダメですよ! そんなの!」

「俺はSランクだぞ。なーんにも問題ないけど」

 神速のダグは、首元から銀色に輝くミスリルの冒険者カードを取り出して、ギルドマスターの目の前でヒラヒラさせた。

「だ、だから! Sランクの先輩が、Fランの面倒を見る事はないでしょ!?」

「そうか~。そうだな~。まあ、俺も名前が売れちゃってるしな~。理由もなく同行なんかすると、後々面倒くさいよな~」

「そ、そうでしょう! 先輩は有名人なんですから、次から次へ同行希望者が出てきて収拾が付かなくなりますよ!」

「なーるほどー、ハゲールの言う通りだわ~。それは困るわ~」

「ふふ、ご理解をいただけたようですね。ダグ先輩!」

 俺は黙って神速のダグとギルドマスターのやり取りを見ていた。
 神速のダグが、何か企んでいるように見えて仕方がなかったからだ。

 神速のダグが俺の方をパッと向いた。

「なあ、ルーキー! 俺の弟子にならないか?」

 弟子? 俺が? 神速のダグの? 何で急に?
 だが、理由はどうでも良い。

 俺は今の状況を変えて、シンディを取り戻したいんだ。
 その為なら何でもやるし、神速のダグの弟子なら望む所だ。

「はい。師匠! よろしくお願いします!」

 ギルドマスターや周りの冒険者達は呆気に取られている。
 そんな固まった空気の中を、俺の師匠になった神速のダグの明るい声が響いた。

「よーし! じゃあ弟子の同行で、ダンジョンに行ってきまーす♪」

 神速のダグは、ギルドの出口に向かって歩き出した。
 あわてて俺が後をついて行く。
 後ろからギルドマスターの悲鳴のような声が聞こえて来た。

「そ! そんな! メチャクチャだ!」

 神速のダグは、振り向いてギルドマスターにニカッと笑った。

「弟子の修行に、師匠が付き合う。これ、常識」

「ダグ先輩!!!!」

「あー、それと、ハゲール! 俺、弟子を取るのは生涯で一人だけって決めてるから~、ヒロトが最初で最後の弟子だから~。そこんとこよろしく~♪」

「そんなのありかーーーー!!!!」

 ギルドマスターの絶叫を背中で聞きながら、俺と師匠こと神速のダグはギルドの外に出た。
 神速のダグは師匠になって初めての言葉を俺にかけてくれた。

「さて、ルーキー! 冒険を始めよう!」
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