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ルドルのダンジョン編

第4話 Fランルートが転生後の俺の仕事

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「暑いな……」

 俺は山道を歩いている。
 夏の日差しが厳しい。

 転生した俺の名前はヒロトという。
 今は十二才、誕生日を半年過ぎた。

 アラフォー日本人、加藤創の記憶は、ちゃんと残っている。

 転生した直後は赤ん坊で、転生前の年齢と転生後の年齢のギャップに苦しんだが、今はうまく適応している。
 それはそれ、これはこれ、といった感じで、自分の中で年齢をうまく使い分けている。

 今日は仕事だ。
 背負子しょいこをしょって、この山道の先にある小さな村を目指している。

「もう、間もなく見えてくる頃だ……」

 山道を抜けるとアニメに出てきそうな高原の小さな村が見えた。俺は勝手にハイジ村とこの村を呼んでいる。

 道を歩いて行くと村人の羊飼いのおじいさんが俺に気が付いた。

「よー! お兄ちゃん! ご苦労さんだね!」

「どーも! 変わりはありませんか?」

「ああ、いたって平和だよ! 問題なし!」

 俺の今の仕事はルートだ。
 日本にルート配送という仕事があった。あれと似ている。
 決められたルートにある村々を訪問するのが仕事だ。

 ああ、いつものおばあちゃんの家が見えて来た。

「おばあちゃん! 元気?」

「あー、ヒロトちゃん。元気だよ。ありがとう。これ今回の分お願いね」

 おばあちゃんは、薬草を一束俺に差し出した。
 これを買い取る。

「じゃあ、大銅貨一枚、千ゴルドね」

 通貨単位はゴルド。
 一ゴルドは、日本の一円くらいの価値がある。

「ありがとうね。次はまた十日後だね?」

「ああ、また十日後に来るよ」

 薬草を受け取って、俺はハイジ村の外れにある小川に向かった。
 ここハイジ村が担当ルートで最後の村だ。戻る前に小川のほとりで休憩をとる。

 俺が転生したのは、中世ヨーロッパに似た世界だった。オーランド王国ルドルの街、それが俺の住んでいる街の名前だ。街の住人は、見た感じ欧米風の人が多い。

 俺はルーツが遠い国にあるらしく、日本風のスッキリした顔だ。そのおかげか、転生した違和感はない。

 この世界では、十二才になったらみんな働く。俺も十二才から働き出した。仕事は冒険者だ。

 冒険者は、この世界独特の仕事だ。この世界には、魔物が出る森やダンジョンがある。
 冒険者は森やダンジョンで魔物を倒し、毛皮や肉などの魔物素材や魔石を集めて冒険者ギルドに売る。商人や偉い人の護衛をすることもある。

 腕が上がれば冒険者の稼ぎは良い。

「だが、まあ、俺がやっているのは、安いルートだけどね……」

 俺は力が弱いので、まだ魔物と戦えないとギルドで判断された。
 ギルドは冒険者の協同組合みたいな感じで、仕事を斡旋し魔物の素材を買い取ってくれる。

 力のない俺に割り当てられた仕事は、このルート仕事だ。
 前の日本でいう所の過疎地域を回って、村人の集めた薬草を買い取り、異常がないか見回るだけの簡単なお仕事です!

 だから報酬も安い……。

「さてと、帰りますか!」

 山道を下ってルドルの街へ向かう。
 背負子には、村々を回って買い集めた薬草が山積みになっている。

 この辺りは平和で盗賊も出ないし、魔物も出ない。
 一応、ショートソードを背中の背負子にくくり付けてあるが使うことはない。
 服装も歩きやすい普通の服で、防具は付けてない。

「地獄での人生設計と違っちゃったな……」

 地獄で悪魔とガチャをやったのを、俺はバッチリ覚えている。
 あの時はガチャで引いたカードを見て、商人か役人になろうと思っていた。

 けど、商人になるには元手の金がいる。
 役人になるにはコネがいる。
 俺には、そのどちらもなかった。

「ああ! 帰って来た!」

 山道を抜け街道に入った。
 ウネウネと丘を越える街道の先にルドルの街が見える。

 俺の担当ルートは、七日間村々を回って、三日間休みのルートだ。
 七日間ずっと僻地を歩いて回るのは、肉体的にも精神的にもシンドイ。

 街道をノンビリと歩く。日が暮れるまで、まだ時間がある。
 幼馴染のシンディの家が見える。

 ああ、シンディが手を振っている!
 俺の帰りを待っていてくれたんだ!

「シンディ!」

「ヒロト!」

 シンディは十二才で同い年、金髪サラサラの美少女。近くの農家の子だ。
 俺とは小さな頃から仲良しだ。

「お帰りヒロト。大丈夫だった?」

 シンディは、いつも俺のことを心配してくれている。
 俺の仕事がルートになったので、子供の頃と違って今は毎日会えない。

「ああ、問題なし。今回もいたって平和だったよ。俺は何かあって欲しいけどね」

 そうなのだ。ルートの仕事は退屈極まる。
 冒険者というよりも、配送業者だ。

 半年もやると飽きてくる。正直、何か起こって欲しい。
 そんな俺をシンディは、お姉さんぶって注意してくる。

「ヒロトは弱いから戦っちゃだめよ。何かあったら逃げるの。いい?」

「ああ、わかってるよ。俺のステータスは、低いからな。ちょっと見てみるかな……」

 俺はステータス画面を呼び出した。
 転生した世界では、自分のステータス、能力値を見ることが出来る。

 ものすごく微弱な魔力を使って、自分のステータス画面を呼び出せるのだ。
 十才くらいから、みんなこれが出来るようになる。


 -------------------

 ◆基本ステータス◆

 名前:ヒロト
 年齢:十二才
 性別:男
 種族:人族

 LV: 1
 HP: 12/12
 MP: -
 パワー:-
 持久力:-
 素早さ:-
 魔力: -
 知力: 70
 器用: -

 ◆スキル◆
 なし

 ◆装備◆
 ショートソード

 ◆アイテム◆
 薬草×120

 -------------------


 俺のステータスに変化はなかった。
 ステータス表示の『-』は、能力が計測可能な数値に達していないということだ。
 ステータスが『-』でも日常生活に支障はないが、戦闘には向かない。

 ルートの仕事で歩き回って、休みの日はショートソードを振っている。
 そろそろステータスに変化があっても良さそうだが……。

 俺は自分のステータスを見て溜息をつく。
 この低スペックなステータスのせいで、安い報酬のルート仕事から抜け出せない。

「ダメだな……。今日もステータスに変化がないや。ダメダメだ……」

「大丈夫! ヒロトはがんばってるもん! そのうちステータスも上がるわよ!」

 シンディは、笑顔で俺を励ましてくれた。

 だが、俺は毎日あきらめそうになっている。

 地獄で寿命を使ってガチャを引いたが、転生してからちっとも良いことがない。最近では、あの悪魔野郎にだまされた気がしている。

 だけど、落ち込んだり、あきらめたりしそうになると、シンディが励ましてくれる。
 転生前アラフォーだった俺が、十二才の女の子に励ましてもらうのもおかしな話だが、シンディに励まされることで、なんとか生きている。

「ありがとう! シンディ! そうだな、がんばるよ!」

「うん! がんばって! そうしたらヒロトのお嫁さんになってあげる!」

「ああ、約束だよ!」

 俺はシンディと別れて、ルドルの街にあるギルドへ向かった。
 しばらく歩くとルドルの街に着いた。

 防具屋の前に人だかりが出来ている。
 何だろう?
 集まっている人の興奮した声が聞こえてくる。

「スゲー! この黒い盾カッケー!」
「これボルツだろ!? ボルツの黒盾だろ!?」
「スモールシールドだけど、それでも金貨十枚ってとこじゃねえか!?」

 どうやら新作の盾が入荷したみたいだ。
 ボルツは、頑丈さが売りの有名な工房だ。

 日本でいう所のメーカー、ブランドみたいなものだ。
 弟子も五十人以上いる大手の工房で、ボルツの防具は値段も高い。

 金貨一枚は、百万ゴルド。
 ボルツの小さな盾は金貨十枚、一千万ゴルドだ。

 ボルツ製の防具は黒で統一されていて見た目のインパクトが強い上に、性能も良いのでファンが多い。
 金貨十枚、一千万ゴルドでも、買うヤツは買う、買えるヤツは買える……。
 それが冒険者の世界だ。

「ボルツか……。高値の花だな……」

 俺は溜息をついて、また一人で勝手に落ち込んでしまった。

 だってなあ、俺のショートソードは、大銅貨五枚――五千ゴルドの中古品で安物だ。
 ボロボロだったのを自分でいで、みがいて、どうにか使えるようにした代物しろものだ。

 俺のショートソードは、五千ゴルドで、ボルツの小さな盾が一千万ゴルド。
 そりゃ、溜息しかでないよ。

 いつかは俺もブランド物の高性能な装備を!
 とは思うけどね。

「ふう、やっとギルドに着いたか」

 ルドルの冒険者ギルドは、木造二階建ての大きな建物だ。
 中に入るとロビーと木製のカウンターがある。

「お帰り~ヒロト君! 担当ルートはどうだった?」

 ギルド受付のジュリさんが、俺を見つけてカウンターから声を掛けて来た。
 ジュリさんは、十八才くらいのきれいなお姉さんで、俺にも割と優しい。

「異常なし! これが買い取った薬草。これが残金。背負子も返却するね」

「はーい。ご苦労様! 今回の報酬が大銅貨三枚。じゃあ、三日休みで、また次もよろしくね!」

 はあ……、大銅貨三枚……。七日間歩き回った報酬が、大銅貨三枚、たった三千ゴルド。

 だから、このルート仕事はみんなやりたがらない。
 見習いのFランク冒険者がやる。
 普通はルートを、一、二回やったら、他の仕事をやるが、俺はステータスが低いので他の仕事を回してもらえない。

 稼ぐならダンジョンに潜る手もある。
 ダンジョンの中の魔物を倒して、魔物の素材や魔石をギルドに販売すれば金が稼げる。

 ここルドルの街のダンンジョンは、十階層で初心者向けのダンジョンだ。
 各地から初心者冒険者が集まって来ている。

 だが、俺はステータスが低くてダンジョンに入場する資格がない。
 だから、報酬が安くてもルート仕事をやるしかない。

 情けないことに一日千ゴルドも稼げないのが、転生後の俺の現実だ。
 あの寿命を使ったガチャはなんだったんだ! と俺は悪魔に文句が言いたい。

「お~う。Fランおつかれちゃん!」
「ヒロトは今日もFランルートか……。進歩がねえな……」
「ププッ! 君、まだその木のギルドカードなの、いつまでFランクなの?」
「テメエ! Fラン! ゴミ! 縁起が悪いから、ギルドにツラ出すんじゃねーよ!」

 ギルドでは、いつも俺に罵声が浴びせられる。
 半年経っても俺は見習いのFランクを抜け出せないから、他の冒険者にバカにされ嫌われている。

 悲しいことに、同期の冒険者も離れて行ってしまった。

 ギルドに登録している冒険者には、ランクがある。
 ランクによってギルドカードの素材が違う。
 ギルドカードは首から下げていて、身分証兼ドッグタグだ。


 Sランク ミスリル
 Aランク 金
 Bランク 銀
 Cランク 銅
 Dランク 青銅
 Eランク 鉄
 Fランク 木

 Fランクは、見習い。
 Eランクは、新人。
 Dランクで、一般ってところだ。
 
 Dランク、通称ブルーカードになれば、一人前の冒険者として扱ってもらえる。
 普通はFからEになるのに、一か月。EからDになるまでに、一か月。
 だが、俺は半年たってもFのまま。みすぼらしい木製のギルドカードのままだ。

 ついたあだ名がFラン。
 俺の担当しているルートは、Fランルートと名付けられてしまった。

 俺の今の目標はDランク、ブルーカードになる事だがFランクから抜け出せない。
 ギルドに居ても嫌な気持ちになるだけだ。さっさと帰ろう。
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