左遷されたオッサン、移動販売車と異世界転生でスローライフ!?~貧乏孤児院の救世主!

武蔵野純平

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第六章 スタンピード

第82話 思い出のラーメン

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 ――午前十一時。

 十五階層の探索を終えて、一階層に戻ってきた。
 一階層は冒険者の憩いの場になっていて、冒険者がテントを張り、商人が露店を広げている。

 俺たちは転移魔法陣から移動販売車へ向かって歩く。
 朝早くから活動しているので、十一時になるとお腹がペコペコである。

「おとーさん、お腹空いた~」

 ソフィーが甘えた声を出し、俺の手を引っ張る。
 ダンジョンを探索している間は頑張っているが、終れば甘えん坊の十歳の女の子だ。
 俺は笑顔でソフィーを抱き上げ肩車をした。

「そーだね。お腹が空いたね~。何を食べようか? ソフィーは何を食べたい?」

「オーク! オーク!」

 先ほど十五階層で狩ったオークは絶対に食べると言い張る。
 プレミアム・ロースト・オークは美味しいからな。
 問題はどうやって食べるかだよな……。

 俺は隣を歩くシスター・エレナに話しかけた。

「シスター・エレナ。プレミアム・ロースト・オークはどうしましょうか? サンドイッチにするのは飽きましたよね?」

「そうですね……。そういえば、プレミアム・ロースト・オークのサンドイッチが続いていますね。贅沢ですが、さすがに同じメニューが続くと飽きちゃいますね」

「うーん……そうだ! ラーメンはいかがでしょう?」

「ラー……メン? リョージさんのお国の料理でしょうか?」

「ええ。私の国でよく食べる料理です」

「わあ! それは食べてみたいです!」

 サラリーマン時代は、よく食べたな。
 サッと店に入って、パッと食べて、ガッツリ栄養補給が出来る。
 企業戦士の強い味方だ。

「私は食べてみたい!」

「私も御相伴にあずかりたいです!」

 後ろを歩いていた、アシュリーさんとマリンさん――王都から来た若い神官――が、食べる気満々の声を上げた。
 この二人は育ちの良いエリート神官のはずだが、結構食い意地が張っている。
 食べ物のことになると、食いつきが良いのだ。

「ソフィーも食べたい! おとーさんの料理食べたい!」

「ハハハ! みんなラーメンに賛成だね。よし! お昼はラーメンだ!」

 移動販売車に到着。
 早速、ラーメンを探す。

「あった! あった!」

 冷蔵庫の中に生麺タイプのラーメンがあった。

『名店の味 東京 鶏ガラ醤油ラーメン』

 鶏ガラ醤油でオーソドックスな昔ながらの味だ。

 長ネギ、瓶詰めのメンマ、海苔、チャーシューの代わりにプレミアム・ロースト・オークだ。
 レンゲ、ラーメン丼、割り箸もある。

 俺は移動販売車の外に出て、テキパキと指示を出す。

「アシュリーさんとマリンさんでオークの解体をお願いします。シスター・エレナとソフィーは、俺のお手伝いをお願いします」

「「「「了解!」」」」

 さあ、ラーメン作りだ!

 一階層にある煮炊きするスペースに鍋とフライパンを持ち込む。
 このスペースは、石を積み上げた竈が設えられていて、作業に使える木製のテーブルもある。
 誰でも利用出来る簡易調理場なのだ。

 鍋を火にかけて湯を用意する。
 俺の隣でシスター・エレナが珍しげに長ネギを見ていた。

「これは変わった野菜ですね」

「長ネギという故郷の野菜です。肉とよく合うのです」

「まあ! そうですの!」

 シスター・エレナが俺の指示を受けて、長ネギを斜めにザックザックと切り始めた。

「リョージ。オークを解体した」

 アシュリーさんが、黒焦げオークを解体して無事だったブロック肉――プレミアム・ロースト・オークを持ってきた。
 片手で持てる程度の分量だ。

「ありがとう。じゃあ、ソフィーはプレミアム・ロースト・オークを、このくらいに薄切りにしてくれるかな? 出来る?」

「出来るよ! ソフィーに任せて!」

 ソフィーがプレミアム・ロースト・オークを丁度良い厚さに切り出した。

 お湯が沸いたところで、麺をゆでる。
 フライパンに油をひいて、長ネギとチャーシュー代わりのプレミアム・ロースト・オークに焦げ目をつける。
 長ネギとオーク肉の良い匂いが漂う。

「美味しそう……」

 アシュリーさんが、ボソリとつぶやく。

 ドンブリにスープをこさえて、麺、炒めた長ネギとプレミアム・ロースト・オーク、海苔、メンマを盛り付ければ完成である。

「さあ! 出来たぞ!」

 テーブルに並んだラーメンから美味しそうな匂いが立ち上る。
 ソフィーは今にも飛びつきそうな目つきだ。

「「「「「いただきます!」」」」」

 みんな一斉にラーメンを食べ始めた。
 俺がお箸を使うので、他の人も真似して使うようになった。
 みんな器用にお箸を使ってラーメンをすする。

 スープ、麺、スープ、チャーシュー、麺、メンマ、麺、スープ……。
 美味しさのフーガだ。
 シンプルな鶏ガラ醤油スープの旨さが口いっぱいに広がる。
 プレミアム・ロースト・オークのチャーシューが肉の旨さを伝え、脂の甘さと香ばしいネギの香りがたまらない。
 シコシコした麺はかみ応えがあり、海苔の薫りがアクセントに……。

 口の中に懐かしい味が広がり、俺はしみじみとつぶやいた。

「旨いな……」

「おとーさん! これ! 凄い美味しいよ! ソフィー好き!」

「そうか! これがお父さんの故郷の味なんだよ。あっ……、昔、父に連れられてラーメンを食べたな……」

「おじいちゃんと?」

「ああ。これが東京のラーメンの味だって言っていたよ」

 俺はソフィーに父との思い出を話した。

 俺が子供の頃、父が映画を見に新宿へ連れて行ってくれた。
 帰りは夜になっていた。
 どこをどう歩いたかは覚えていないが、ゆるい下り坂で左右に飲食店がビッシリ並んだ路地に着いた。

 一軒の狭い店に入ると、美味しい醤油ラーメンが出て来た。
 鶏ガラでアッサリした澄んだスープ。
 縮れた細麺にチャーシュー。
 ネギと海苔。
 ナルトものっていた気がする。

 俺が喜んで食べると、父は自慢するように言った。

『これが本当の東京のラーメンなんだ』

 田舎から出て来て苦労した父は、東京で出会ったお気に入りの味を、息子の俺に伝えたかったのだろう。

 今日のラーメンは、まったくの偶然だが父と食べたラーメンの味に似ていた。

 俺はラーメンを食べながら父の思い出を語り、ソフィーはラーメンを食べながら興味深そうに俺の話を聞いた。

「そっか。おとーさんの家は、とーきょーなんだね。このラーメンがとーきょーの味なんだ! おとーさんとおじいちゃんが好きな味なんだ!」

「ああ。そうだよ」

「ソフィーも好き! 美味しいよ!」

 ソフィーがニカッと笑った。

「沢山、お食べ」

「うん!」

 ふと見ると、シスター・エレナ、アシュリーさん、マリンさんの三人が、箸を止めてニコニコしながらこちらを見ていた。

 俺は三人に微笑みを返してから、ラーメンをすすった。

 ああ、旨いな!

 父と食べたラーメンの味は、娘と食べた思い出の味になった。

 ――父さん。ありがとう。
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