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第三章 マヨネーズ男爵爆誕!

第35話 唐揚げに何をかけるか?

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 荒れ模様の謁見の間から、王宮内に用意してもらった控室に来た。
 ミネヤマ領から同行して来た七人も一緒だ。
 家令のネリー、護衛のサラ、元女冒険者三人組、商人ギルド長のサンマルチノさん、冒険者ギルド長のラモンさん。

 それと、サラボナー子爵も一緒に来てくれた。

「ミネヤマ辺境開拓騎士爵。お疲れ様でした」

「サラボナー子爵、付き添いありがとうございました。しかし……、あまりの展開に驚いているのですが……。今日の私の陞爵は延期と言う事ですよね?」

「そうですな。しかし、ご安心なされよ。明日の晩餐会でミネヤマ辺境開拓騎士爵の料理。カレーを振舞えば何も問題はございますまい!」

「はあ……カレー……」

 もう一度言うぞ……。
 それで良いのか!
 ロレイン王国!
 ま、まあ、カレーを振舞うくらいは……。

 サラボナー子爵は、ニコニコと笑いながら続ける。

「他にも何か美味しい料理があれば、それをお出しいただければ陞爵は間違いありませんぞ!」

「あの……確認ですが……。ホントは、国王陛下が美味しい物を食べたいだけじゃ?」

 俺はじっとりとした目でサラボナー子爵を見た。
 するとサラボナー子爵は、さっと視線を外す。

「頼みましたぞ! ミネヤマ騎士爵! いや、まだ辺境開拓騎士爵でしたな!」

「いや! 誤魔化されませんよ! 今! 目を逸らしましたよね! ちょっと! 王様が食いしん坊なだけですよね!?」

「頼みましたぞ!」

 結局、サラボナー子爵に押し切られて、俺は明日の晩餐会で料理を提供する事になった。

「サラボナー子爵。料理を提供するのは良いですが、足りない物があるので一度ミネヤマ領に戻らなくてはなりません」

「ふむ……そうなると、今日の予定は……」

 腕時計を見ると、ちょうど三時だ。
 これからミネヤマ領に戻って、日本へ行ってカレー粉を買ってとなると今日中に戻るのは厳しい。
 明日の戻りだろう。

「今日、明日の予定はキャンセルですね……」

「ううむ……困りましたな。国王派を始めとした貴族に挨拶の予定でしたが……」

「贈り物は、山ほど用意したのですが……」

「むっ!? 何かお持ちになっているのですか?」

「ええ。ジャージ生地を、プレゼント用に」

 新しくお友達開拓をする為に、ジャージ生地を沢山馬車に積んで来たのだ。
 この世界はワイロ、もとい、贈り物大好き社会みたいだからな。
 小さな領地の新興貴族ミネヤマ家としては、後ろ盾になってくれるお友達が沢山欲しいのよ。

「ふむ。それは良いお心がけですな。よろしい! それでは私が対応をいたしましょう。ミネヤマ殿の代理として対応いたしましょう」

「お願いできますか?」

「ええ。お任せいただきましょう!」


 *


 貴族の先輩方へのご挨拶、と言う名の贈り物攻勢をサラボナー子爵にお願いして、俺はミネヤマ領にある俺の部屋へ戻る事にした。

 家令のネリーと商人ギルド長のサンマルチノさんにサラボナー子爵のサポートをお願いしたので、まあ、王都の方は大丈夫だろう。

 要はワイロが行き渡れば――もとい、プレゼントが行き渡れば、それで良いのだ。
 新人貴族のミネヤマと仲良くしておけば、良いことがあるぞ! と思わせれば、今後俺の貴族生活がやりやすくなる。
 面倒な事を先輩貴族のサラボナー子爵に丸投げできたわけで、結果オーライだ。

 王宮を出て、箱馬車に乗ってミネヤマ領へ向かう。
 御者席に、御者と赤髪の剣士オリガと金髪神官ジュリアが乗る。

 箱馬車の中には、俺、護衛のサラ、冒険者ギルド長のラモンさん、紫髪魔法使いロールが乗っている。
 ロールは『森の定食屋さん』で、料理担当だ。
 馬車の中で、明日の晩餐会の打ち合わせが始まった。

「ご主人様、明日の料理はどうしますか?」

「まあ、カレーで良いだろう。ロールたちも手伝ってくれるな?」

「はい。カレーでしたら、材料もバルデュックの街ですぐに調達できます」

「よし! カレー粉は、俺が調達して来る」

 晩餐会に出すとなるとカレー粉は多めに必要だな。
 何件かスーパーをハシゴすれば、集められるだろう。

 俺は楽観しているのだが、冒険者ギルド長のラモンさんは腕を組み心配そうな顔をしている。

「うーん、それだけで良いですかね?」

「ラモンさん? どう言う事です?」

「いやね。サラさんたちのカレーは私も食べた事がありますよ。あれは旨いですよ。貴族も満足だと思いますよ。ただ、一品だけだと、ちょっと物足りない気がするんですよ」

「そう……ですか?」

「貴族の晩餐会と言えば、色々な料理が出るそうですから。カレー一品だけだとちょっと印象が薄いかなと」

「なるほど……」

 ふむ。
 ラモンさんの言う事もわかるな。
 そうすると他の料理も何か作るか?

 俺が考えていると、サラが元気よく手を上げた。

「ご主人様! そこで唐揚げですよ!」

 出た!
 サラの大好物!
 鶏のから揚げ!

「サラは、唐揚げ好きだよな。まだ、森の定食屋では出してないよな? 大丈夫か?」

「大丈夫ですよ! みんなに練習させているのですよ!」

 サラの鼻息がフンスと荒い。
 ロールさんもサラに同意する。

「あれは美味しいですよ! ロレイン王国にない料理ですから、喜ばれると思いますよ!」

「そうか、それなら唐揚げも出すか。レモンをつけて」

 俺がレモンと言った瞬間、サラの顔が曇った。

「ご主人様……。唐揚げには、マヨネーズだとあれほど……!」

 いかん!
 地雷を踏んでしまった!

 永遠の問題であり、究極の問題でもある、『唐揚げに何をかけるか問題』だ。
 この問題は難解さにおいて、フェルマーの最終定理すら及ばず、意味不明さにおいてヴォイニッチ手稿すら及ばない。

 答えは千変万毛だ。

 かつて……。
 大学時代に秋田出身の友人は俺に問うた。

『峰山、唐揚げにソースをかけて良いか?』

 唐揚げにソースだと?
 ヤツは中濃ソースを掲げてさらに問うて来た。

『峰山は東京出身だから、やっぱり唐揚げには醤油なのか? ソースはダメか?』

 唐揚げに醤油だと?
 唐揚げ粉には、既にススパイシーな味がついているのだ。
 レモンをサラっとかけあっさりと頂く事こそが至高にして、不動であると当時の俺は確信していた。

 だが、秋田の友人の勧め通りソースをかけた唐揚げを食した瞬間、俺の脳髄に稲妻が走った。
 唐揚げにソース!
 これはこれでありだ……。

 そう、唐揚げの神が俺を導いたのだ。
 唐揚げの奥深い世界へようこそ……と。

 唐揚げに――

 レモンがけ。
 醤油がけ。
 ソースがけ。
 ケチャップがけ。
 タルタルソースがけ。
 ネギポン酢がけ。
 おろし醤油がけ。
 七味唐辛子がけ。
 山椒がけ。
 柚子コショウがけ。
 ラー油がけ。
 焼き肉のタレがけ。
 ゴマ味噌がけ。
 なぞの粉がけ。
 そして、俺の名前と真夜と同じマヨネーズがけ。

 恐らく世界には、まだ俺の見ぬ『唐揚げ○○がけ』があるだろう。
 だが、良い。
 今日の所はサラに譲っておこう。

「そうだな。唐揚げにはマヨネーズだな。マヨネーズも忘れないようにするよ」

「それで良いのです!」

 譲る所は譲るのが、円満の秘訣さ。

 かつてドイツ軍の難攻不落の暗号『エニグマ』でさえ、イギリス軍とアラン・チューリングによって解読されたのだ。

 唐揚げに何をかけるのか?
 この謎が解読される日が来ると俺は信じる。

 だが、フィッシュ・アンド・チップス!
 オマエはダメだ!

 王都の街中で、急に馬車が停まった。
 まだ転移門に着いてない。

 外から赤髪剣士オリガと金髪神官ジュリアの声が聞こえた。

『おい! 待て!』

『あいつよ!』
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