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第一章 異世界と奴隷のサラと大儲け
第4話 異世界でのパワーストーン
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「お金があれば、どなたでも奴隷を買う事が出来ます」
「金か……」
まあ、そうだよな。
当たり前だ。
だが、困った事に俺はこの世界の通貨を持っていない。
俺はブッチギーネを待たせて、部屋から財布を取り戻って来た。
「俺はこの国のお金を持っていないのです。これが俺の国のお金ですが、使えそうですか?」
テーブルの上に日本円を載せ、ダメ元で聞いてみる。
「拝見いたします……。これは銅貨ですかな? それからこちらは……金貨? いや、それにしては軽い……」
ブッチギーネは、十円玉や五円玉をつまんで見ている。
「それは金色だが金貨ではないです」
「ふーむ……。わたくしも見た事がない硬貨です。おそらく両替は難しいかと」
やっぱりそうか。
まあ、仕方ないね。
「そうですか。俺の国は遠方だから仕方ないですね。そすると他に金目の物……。何かないかな……。あっ! ちょっと待っていて下さい」
俺は部屋に戻ってパワーストーンのブレスレットを持って来た。
一時、母がパワーストーンに凝ってさ。
パワーストーンでブレスレットや携帯ストラップ作りをやっていた。
独身の俺を心配して恋愛運向上のパワーストーンブレスレットをプレゼントしてくれたのだ。
ふっ……効果はなかったがな。
四十歳独身貴族に、パワーストーンなど気休めにもならないのだ。
俺がピンクのパワーストーンのブレスレットをテーブルの上に置くとブッチギーネの目がキラリと光った。
「ほう! これはなかなか!」
食いついて来た!
俺は母の受け売りでパワーストーンの説明をする。
「それはローズクォーツのブレスレットです。ローズクォーツは、ピンク色の水晶の事です。石の中はゴムひもを通してあります」
「ゴムひも?」
「えーと、伸び縮みするひもの事です」
「ほほう! これはなかなか良い物ですな」
ブッチギーネは、パワーストーンのブレスレットを日にかざしチェックしている。
しばらくして俺にブレスレットを返した。
「このブレスレットなら良い値段で売れると思います。あいにくと私は、宝石は専門外なので、友人の宝石商をご紹介させください。彼が欲しがると思います」
「本当ですか? ぜひご紹介ください!」
良し!
これで奴隷購入に一歩前進だな!
話しが終わるとブッチギーネは全員を連れてバルデュックの街へ帰って行った。
宝石商は来週の土曜の朝に来てくれるそうだ。
ブッチギーネたちは、金曜の朝に街を出て金曜の夕方に俺の家の前に到着したらしい。
一泊してから朝一で俺に会った訳だ。
朝早いうちに俺の家を出発すれば、夕方にはバルデュックの街に帰れる。
一泊出張だな。
――そして一週間が経った。
この一週間は、なかなか大変だった。
週末異世界で宝石商人と会うので、売れそうなパワーストーンを仕入れていたのだ。
昼間は仕事なので、夜ネット通販でパワーストーンを注文する。
そして夜一番遅い時間指定で受け取るのだ。
どんなパワーストーンに価値があるかわからないので、色々な種類を取り寄せた。
三粒で500円とかだから出費は微々たる物だ。
ただねえ……。
異世界の冒険者がドアを叩くんだよ。
今週は夜遅い時間にパワーストーンの配達がある。
だから、家に帰ったら一回ドアを完全に閉じてしまった。
そうしたら異世界の冒険者がドアを叩いて俺を呼び出すんだ。
水を分けて欲しい。食料が欲しいと。
それも一回じゃなくて、何回もだよ。
知らない冒険者でオッサンだったり、態度の悪い若いヤツだったりした。
水道代もバカにならない。
さすがに食料は断った。
そんな事があって昼間仕事中に、ぼーっとしてしまいミスをしてしまった。
例の年下上司に怒られた。
だが!
俺には『性奴隷を買う』と言う崇高な目的があるのだ!
今日はその為の一歩、資金獲得だ!
ドンドンドン!
ドンドンドン!
「ミネヤマ様はご在宅でいらっしゃいますか?」
ドアが叩かれて外から俺を呼ぶ男性の声が聞こえた。
土曜の朝、まだ六時だが俺は早起きして準備していた。
「はい! はい!」
ドアを開けると宝石商が来ていた。
「私は宝石商のイシルダと申します」
「ミネヤマです。どうぞこちらへ」
屋外に置きっぱなしにしているテーブルとベンチに案内する。
何か玄関前の広場が……、広がっている?
先週は車一台分の広さだったが、今日は車二台をとめられそうな広さになっている。
そう言えば、今週は何人も冒険者が野営していたからな。
彼らが森の木を切ったのか?
気になるが、それよりも宝石商人との話だ。
宝石商人は、俺の対面のベンチに座る。
「恐れ入りますが、この二人も同席してよろしいでしょうか?」
「構いませんよ」
屈強そうな護衛六人が周囲を固め、俺の前に三人が座った。
中央に宝石商のイシルダ。
仕立ての良いスーツのような立派な服を着ている。
襟元のアスコットタイには、大きめの真っ赤なルビーがとめられている。
まだ若いな。三十歳くらいかな?
「ご紹介させていただきます。こちらは魔道具士のヴェルニでございます」
「はあ」
俺の右前に座る男が紹介された。
魔道具士と言われても良く分からないので、俺は気のない返事をした。
魔道具士のヴェルニは、色白で金色の眼鏡をかけている。
年齢は……ちょっとわからないな……若そうに見えるけれど、すごく落ち着いた雰囲気を醸し出している。
イシルダと同じく仕立ての良い服を着ているから、上級スタッフなのだろう。
「それからこちらは魔法使いのザシクです」
「はあ」
次に俺の左前にいる男が紹介された。
こちらは白い髭の老人で茶色のローブを着ている。
宝石の商談に魔道具士や魔法使いが何で同席するのだろう?
まあ、良いけど。
イシルダが早速商談を始めた。
「ミネヤマ様は、大変良い宝石をお持ちと伺いました」
「これですね」
ポケットから母が作ったローズクォーツのブレスレットを取り出しイシルダに手渡す。
イシルダは胸のポケットから取り出した白いハンカチでブレスレットを受け取った。
どうやら商品の扱いは丁寧な人らしい。
「これは! 一目見てわかりますが、良い物ですね!」
イシルダが感嘆の声を上げ、ヴェルニとザシクも目を見開く。
「魔力を通させていただいてよろしいでしょうか?」
イシルダが変な事を聞いて来た。
魔力を通す?
そのローズクォーツのブレスレットに?
どう言う事だろう?
良く分からないが、この世界ではそう言う事もあるのだろう。
俺は背中に汗をかきながら、澄ました顔で答えた。
俺は外国の貴族設定だからな。
この程度で動揺してはいけない。
「無論だ」
「では、失礼いたします」
ローズクォーツのブレスレットを魔法使いのザシクが受け取った。
ザシクはジッとブレスレットを見ている……と思ったら、ブレスレットが光った!
「魔力の通りは非常に良いです。良い石です」
ザシクは、そうコメントをすると魔道具士のヴェルニにローズクォーツのブレスレットを手渡した。
ヴェルニも同じようにジッとブレスレットを見ている。
今度はブレスレットが淡い光に包まれた。
赤、青、緑、茶色、白、黒、紫とブレスレットを包む淡い光が次々と変化していく。
とても神秘的な光景だ。
俺は何をしているのか質問をしたかったが、ギリギリで堪えた。
今は商談中だ。
無知だと思われて足下を見られるのは良くない。
ジッと我慢の子でヴェルニのする事を見ていると、ブレスレットを包む光が消えた。
ヴェルニとイシルダが話し始めた。
「火属性と聖属性の両方を付与可能です。聖属性の方が、魔法効率が高そうですね」
「ほう! 二属性を付与可能な石か!」
「ええ。ただし火属性はルビーに比べると魔法効率が落ちます」
「それでも二属性付与は魅力的だ」
「ええ。魔石と上手く組み合わせれば、面白い魔道具を制作できるでしょう」
ふーん。
どうも話の内容からすると、この世界では宝石を使って魔道具を作るらしい。
あの言いぶりだと、俺のブレスレットは素材として優秀なのだろう。
四十歳独身貴族は、出来る男なのだ!
商談の流れを読む事など造作もない。
しばらく宝石商たち三人だけで、ガヤガヤと議論をしていた。
俺はジッと黙って、その議論を見つめ聞き耳を立てる。
話しが出尽くした所で宝石商のイシルダが俺に聞いて来た。
「大変良い宝石でございます。ぜひお売り頂ければと――」
「申し訳ないですが、それは母に貰った物で売る事は出来ません。ですが、同程度の石をもっと沢山用意する事が出来ますよ」
「おお! それは素晴らしい!」
「他の種類の石もあるのですが、ご覧になりますか?」
「ぜひ、お願いします!」
三人とも非常に興奮している。
俺は用意しておいたパワーストーンが入った箱をテーブルに置いた。
箱の中には多種多様なパワーストーンが満載なのだ。
宝石商のイシルダが箱を開けて絶句した。
「こ! これは! こんな沢山の……」
「私の出身国の名産品です。ああ、石の鑑定はゆっくりどうぞ」
結局三人は丸一日かけてパワーストーンに魔力を流したりしては、あーでもない、こーでもないと議論をしていた。
夕方になりやっとパワーストーンのチェックが終わった。
「それではこちらの石を可能であれば、各十個ずつお譲りいただきとうございます」
俺が用意しておいたパワーストーンは、右と左に分けられていた。
右が買い取り希望のパワーストーンだ。
どうやら透明度の高いパワーストーンが良いらしい。クォーツ、つまり水晶系のパワーストーンが多い。
一方、左側は買い取り不能の石。
タイガーアイやトルコ石など透明でない石は欲しくないらしい。
彼らの話を一日聞いていてわかったが、まず透明度が高い宝石じゃないと魔力が通らないらしい。
魔力が通らないと魔道具の素材として使い物にならない。
そして宝石によって、付与できる属性が違うらしい。
例えば青系統の宝石は水属性を付与出来る。
水属性を付与した宝石と水属性の魔石を組み合わせると、水が湧き出る指輪型の魔道具や水属性の攻撃魔法を発動させられる魔道具が作れるらしい。
魔石と言うのは、魔物を倒すと体内から得られるようだ。
イシルダたちの話しぶりからすると、魔石は消耗品で、電池や燃料みたいな役割っぽい。
宝石も使い続けると割れてしまうが、魔石よりははるかに長持ちをするみたいだ。
今日三人が話していた内容からするとパワーストーンの継続取引が期待できるな。
奴隷購入に二歩近づいた気がする。
イシルダの注文は十種類のパワーストーンを各十個だ。
それなりの取引ボリュームになった。
「来週……えーと、また七日後に来ていただければ、宝石を用意しておきます」
「ありがとうございます! ところで……代金でございますが……」
イシルダが買い取り代金の内訳を説明し始めた。
パワーストーン一個当たり二万ゴルドから五万ゴルドと言っている。
パワーストーンの種類によって買い取り価格にかなり差が出ている。
しかし、二万ゴルドと言われても、貨幣価値がわからないからピンと来ない。
二万円程度なのか?
二万ドル程度なのか?
それとも二万ジンバブエドル程度なのか?
宝石商イシルダの説明を聞きながらそんな事を考えていた。
「合計350万ゴルドでいかがでしょうか?」
「ふむ」
さっぱりわからない。
350万ゴルドって、高いの? 安いの?
この世界でどのくらい生活できるの?
俺が腕を組んでむっつりと黙っていると宝石商は買い取り価格を上げて来た。
「で、では! 380万ゴルドでは?」
あれ?
30万ゴルド上がったよ!
俺が買い取り価格に不満だと勘違いしたみたいだな。
「仕入れ先が遠い外国なんですよ。もう、一声お願いします!」
「うーん。では、400万ゴルド! これで精一杯です!」
「わかりました! 400万ゴルドでお取り引きをお願いします!」
ふっ。
四十歳独身貴族は出来る男なのだ。
買い取り価格を吊り上げるなど、造作も無い事よ。
奴隷購入に更に前進したぜ!
「金か……」
まあ、そうだよな。
当たり前だ。
だが、困った事に俺はこの世界の通貨を持っていない。
俺はブッチギーネを待たせて、部屋から財布を取り戻って来た。
「俺はこの国のお金を持っていないのです。これが俺の国のお金ですが、使えそうですか?」
テーブルの上に日本円を載せ、ダメ元で聞いてみる。
「拝見いたします……。これは銅貨ですかな? それからこちらは……金貨? いや、それにしては軽い……」
ブッチギーネは、十円玉や五円玉をつまんで見ている。
「それは金色だが金貨ではないです」
「ふーむ……。わたくしも見た事がない硬貨です。おそらく両替は難しいかと」
やっぱりそうか。
まあ、仕方ないね。
「そうですか。俺の国は遠方だから仕方ないですね。そすると他に金目の物……。何かないかな……。あっ! ちょっと待っていて下さい」
俺は部屋に戻ってパワーストーンのブレスレットを持って来た。
一時、母がパワーストーンに凝ってさ。
パワーストーンでブレスレットや携帯ストラップ作りをやっていた。
独身の俺を心配して恋愛運向上のパワーストーンブレスレットをプレゼントしてくれたのだ。
ふっ……効果はなかったがな。
四十歳独身貴族に、パワーストーンなど気休めにもならないのだ。
俺がピンクのパワーストーンのブレスレットをテーブルの上に置くとブッチギーネの目がキラリと光った。
「ほう! これはなかなか!」
食いついて来た!
俺は母の受け売りでパワーストーンの説明をする。
「それはローズクォーツのブレスレットです。ローズクォーツは、ピンク色の水晶の事です。石の中はゴムひもを通してあります」
「ゴムひも?」
「えーと、伸び縮みするひもの事です」
「ほほう! これはなかなか良い物ですな」
ブッチギーネは、パワーストーンのブレスレットを日にかざしチェックしている。
しばらくして俺にブレスレットを返した。
「このブレスレットなら良い値段で売れると思います。あいにくと私は、宝石は専門外なので、友人の宝石商をご紹介させください。彼が欲しがると思います」
「本当ですか? ぜひご紹介ください!」
良し!
これで奴隷購入に一歩前進だな!
話しが終わるとブッチギーネは全員を連れてバルデュックの街へ帰って行った。
宝石商は来週の土曜の朝に来てくれるそうだ。
ブッチギーネたちは、金曜の朝に街を出て金曜の夕方に俺の家の前に到着したらしい。
一泊してから朝一で俺に会った訳だ。
朝早いうちに俺の家を出発すれば、夕方にはバルデュックの街に帰れる。
一泊出張だな。
――そして一週間が経った。
この一週間は、なかなか大変だった。
週末異世界で宝石商人と会うので、売れそうなパワーストーンを仕入れていたのだ。
昼間は仕事なので、夜ネット通販でパワーストーンを注文する。
そして夜一番遅い時間指定で受け取るのだ。
どんなパワーストーンに価値があるかわからないので、色々な種類を取り寄せた。
三粒で500円とかだから出費は微々たる物だ。
ただねえ……。
異世界の冒険者がドアを叩くんだよ。
今週は夜遅い時間にパワーストーンの配達がある。
だから、家に帰ったら一回ドアを完全に閉じてしまった。
そうしたら異世界の冒険者がドアを叩いて俺を呼び出すんだ。
水を分けて欲しい。食料が欲しいと。
それも一回じゃなくて、何回もだよ。
知らない冒険者でオッサンだったり、態度の悪い若いヤツだったりした。
水道代もバカにならない。
さすがに食料は断った。
そんな事があって昼間仕事中に、ぼーっとしてしまいミスをしてしまった。
例の年下上司に怒られた。
だが!
俺には『性奴隷を買う』と言う崇高な目的があるのだ!
今日はその為の一歩、資金獲得だ!
ドンドンドン!
ドンドンドン!
「ミネヤマ様はご在宅でいらっしゃいますか?」
ドアが叩かれて外から俺を呼ぶ男性の声が聞こえた。
土曜の朝、まだ六時だが俺は早起きして準備していた。
「はい! はい!」
ドアを開けると宝石商が来ていた。
「私は宝石商のイシルダと申します」
「ミネヤマです。どうぞこちらへ」
屋外に置きっぱなしにしているテーブルとベンチに案内する。
何か玄関前の広場が……、広がっている?
先週は車一台分の広さだったが、今日は車二台をとめられそうな広さになっている。
そう言えば、今週は何人も冒険者が野営していたからな。
彼らが森の木を切ったのか?
気になるが、それよりも宝石商人との話だ。
宝石商人は、俺の対面のベンチに座る。
「恐れ入りますが、この二人も同席してよろしいでしょうか?」
「構いませんよ」
屈強そうな護衛六人が周囲を固め、俺の前に三人が座った。
中央に宝石商のイシルダ。
仕立ての良いスーツのような立派な服を着ている。
襟元のアスコットタイには、大きめの真っ赤なルビーがとめられている。
まだ若いな。三十歳くらいかな?
「ご紹介させていただきます。こちらは魔道具士のヴェルニでございます」
「はあ」
俺の右前に座る男が紹介された。
魔道具士と言われても良く分からないので、俺は気のない返事をした。
魔道具士のヴェルニは、色白で金色の眼鏡をかけている。
年齢は……ちょっとわからないな……若そうに見えるけれど、すごく落ち着いた雰囲気を醸し出している。
イシルダと同じく仕立ての良い服を着ているから、上級スタッフなのだろう。
「それからこちらは魔法使いのザシクです」
「はあ」
次に俺の左前にいる男が紹介された。
こちらは白い髭の老人で茶色のローブを着ている。
宝石の商談に魔道具士や魔法使いが何で同席するのだろう?
まあ、良いけど。
イシルダが早速商談を始めた。
「ミネヤマ様は、大変良い宝石をお持ちと伺いました」
「これですね」
ポケットから母が作ったローズクォーツのブレスレットを取り出しイシルダに手渡す。
イシルダは胸のポケットから取り出した白いハンカチでブレスレットを受け取った。
どうやら商品の扱いは丁寧な人らしい。
「これは! 一目見てわかりますが、良い物ですね!」
イシルダが感嘆の声を上げ、ヴェルニとザシクも目を見開く。
「魔力を通させていただいてよろしいでしょうか?」
イシルダが変な事を聞いて来た。
魔力を通す?
そのローズクォーツのブレスレットに?
どう言う事だろう?
良く分からないが、この世界ではそう言う事もあるのだろう。
俺は背中に汗をかきながら、澄ました顔で答えた。
俺は外国の貴族設定だからな。
この程度で動揺してはいけない。
「無論だ」
「では、失礼いたします」
ローズクォーツのブレスレットを魔法使いのザシクが受け取った。
ザシクはジッとブレスレットを見ている……と思ったら、ブレスレットが光った!
「魔力の通りは非常に良いです。良い石です」
ザシクは、そうコメントをすると魔道具士のヴェルニにローズクォーツのブレスレットを手渡した。
ヴェルニも同じようにジッとブレスレットを見ている。
今度はブレスレットが淡い光に包まれた。
赤、青、緑、茶色、白、黒、紫とブレスレットを包む淡い光が次々と変化していく。
とても神秘的な光景だ。
俺は何をしているのか質問をしたかったが、ギリギリで堪えた。
今は商談中だ。
無知だと思われて足下を見られるのは良くない。
ジッと我慢の子でヴェルニのする事を見ていると、ブレスレットを包む光が消えた。
ヴェルニとイシルダが話し始めた。
「火属性と聖属性の両方を付与可能です。聖属性の方が、魔法効率が高そうですね」
「ほう! 二属性を付与可能な石か!」
「ええ。ただし火属性はルビーに比べると魔法効率が落ちます」
「それでも二属性付与は魅力的だ」
「ええ。魔石と上手く組み合わせれば、面白い魔道具を制作できるでしょう」
ふーん。
どうも話の内容からすると、この世界では宝石を使って魔道具を作るらしい。
あの言いぶりだと、俺のブレスレットは素材として優秀なのだろう。
四十歳独身貴族は、出来る男なのだ!
商談の流れを読む事など造作もない。
しばらく宝石商たち三人だけで、ガヤガヤと議論をしていた。
俺はジッと黙って、その議論を見つめ聞き耳を立てる。
話しが出尽くした所で宝石商のイシルダが俺に聞いて来た。
「大変良い宝石でございます。ぜひお売り頂ければと――」
「申し訳ないですが、それは母に貰った物で売る事は出来ません。ですが、同程度の石をもっと沢山用意する事が出来ますよ」
「おお! それは素晴らしい!」
「他の種類の石もあるのですが、ご覧になりますか?」
「ぜひ、お願いします!」
三人とも非常に興奮している。
俺は用意しておいたパワーストーンが入った箱をテーブルに置いた。
箱の中には多種多様なパワーストーンが満載なのだ。
宝石商のイシルダが箱を開けて絶句した。
「こ! これは! こんな沢山の……」
「私の出身国の名産品です。ああ、石の鑑定はゆっくりどうぞ」
結局三人は丸一日かけてパワーストーンに魔力を流したりしては、あーでもない、こーでもないと議論をしていた。
夕方になりやっとパワーストーンのチェックが終わった。
「それではこちらの石を可能であれば、各十個ずつお譲りいただきとうございます」
俺が用意しておいたパワーストーンは、右と左に分けられていた。
右が買い取り希望のパワーストーンだ。
どうやら透明度の高いパワーストーンが良いらしい。クォーツ、つまり水晶系のパワーストーンが多い。
一方、左側は買い取り不能の石。
タイガーアイやトルコ石など透明でない石は欲しくないらしい。
彼らの話を一日聞いていてわかったが、まず透明度が高い宝石じゃないと魔力が通らないらしい。
魔力が通らないと魔道具の素材として使い物にならない。
そして宝石によって、付与できる属性が違うらしい。
例えば青系統の宝石は水属性を付与出来る。
水属性を付与した宝石と水属性の魔石を組み合わせると、水が湧き出る指輪型の魔道具や水属性の攻撃魔法を発動させられる魔道具が作れるらしい。
魔石と言うのは、魔物を倒すと体内から得られるようだ。
イシルダたちの話しぶりからすると、魔石は消耗品で、電池や燃料みたいな役割っぽい。
宝石も使い続けると割れてしまうが、魔石よりははるかに長持ちをするみたいだ。
今日三人が話していた内容からするとパワーストーンの継続取引が期待できるな。
奴隷購入に二歩近づいた気がする。
イシルダの注文は十種類のパワーストーンを各十個だ。
それなりの取引ボリュームになった。
「来週……えーと、また七日後に来ていただければ、宝石を用意しておきます」
「ありがとうございます! ところで……代金でございますが……」
イシルダが買い取り代金の内訳を説明し始めた。
パワーストーン一個当たり二万ゴルドから五万ゴルドと言っている。
パワーストーンの種類によって買い取り価格にかなり差が出ている。
しかし、二万ゴルドと言われても、貨幣価値がわからないからピンと来ない。
二万円程度なのか?
二万ドル程度なのか?
それとも二万ジンバブエドル程度なのか?
宝石商イシルダの説明を聞きながらそんな事を考えていた。
「合計350万ゴルドでいかがでしょうか?」
「ふむ」
さっぱりわからない。
350万ゴルドって、高いの? 安いの?
この世界でどのくらい生活できるの?
俺が腕を組んでむっつりと黙っていると宝石商は買い取り価格を上げて来た。
「で、では! 380万ゴルドでは?」
あれ?
30万ゴルド上がったよ!
俺が買い取り価格に不満だと勘違いしたみたいだな。
「仕入れ先が遠い外国なんですよ。もう、一声お願いします!」
「うーん。では、400万ゴルド! これで精一杯です!」
「わかりました! 400万ゴルドでお取り引きをお願いします!」
ふっ。
四十歳独身貴族は出来る男なのだ。
買い取り価格を吊り上げるなど、造作も無い事よ。
奴隷購入に更に前進したぜ!
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