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第一章 異世界と奴隷のサラと大儲け

第1話 四十歳独身貴族が訪れた異世界

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 俺が異世界で『マヨネーズ男爵』と呼ばれるようになった話しをしよう。

 平凡な四十歳独身サラリーマンの俺が、異世界で幸せになった話だ。
 ちょっと自慢が入るかもしれないが、そこは大目に見て欲しい。

 あれは五月半ばのある晴れた日曜日。
 俺、峰山真夜は、自宅の賃貸ワンルームマンションでダラダラと過ごしていた。

 すると突然俺の部屋のドアが強く叩かれた。
 ドアの外から女性の声が聞こえる。

「誰かいないか?」

 ドンドンドン!
 ドンドンドン!

「うわっ! 何だ⁉︎」

 誰だろう?
 俺の住んでいるマンションは、オートロックなので、住人以外は勝手に入れない。
 セールスではないと思うが……。

 ドアを叩く音は続く。

 ドンドンドン!
 ドンドンドン!

「すまぬが、水があれば分けてもらえないだろうか!」

 若い女性の声だ!

 でもおかしいな?
 俺の住んでいる部屋の隣は男性だ。
 この階に女性は住んでいなかったと思うけど……。

 それに……、ふっ……。
 四十歳独身貴族のサラリーマンに、休みの日に訪ねてくる女性などいないのだよ(涙)。

「おーい! 頼む!」

 ドンドンドンドンドンドン!

 こりゃよほどの緊急事態だな!
 まさか火事!?

 俺は慌てて玄関に向う。

「今開けるから、ちょっと待って下さい!」

「おお! 了解した!」

 俺がマンションのドアを開けると、そこには革鎧を着込んだ青い目の若い女性が立っていた。
 腰には長剣、背中に大きなリュックサックを背負い、赤い長髪を後ろでまとめている。

 誰だ?
 この人?

 アニメのコスプレか?
 ファンタジー的な?
 いや、そもそも日本人じゃないっぽいよね?
 外人さん?

 俺が無言で青い目の女性を見つめていると、女性の方から話し出した。

「突然すまないが、水を分けてもらえないだろうか?」

 彼女は金属製の古ぼけた水筒を差し出した。
 水筒の栓は、コルク製だ。
 随分、クラシカルな水筒だけれど、これに水を入れて欲しいのか?

「それくらいならお安い御用だけど……」

 この人は何階に住んでいる人だろう?
 見かけない人だな……。
 水道を止められてしまったのか?

「助かる! 彼女たちの分も良いだろうか?」

「へっ?」

 青い目の女性の後ろに、まだ二人女性がいた。
 一人は黒いローブを着て、三角形の大きな帽子をかぶっている。
 目の色は黒いけど髪の毛は紫。

 もう一人は金髪で白と青の服を着ている。
 ゲームの神官みたいな服装だ。
 金髪でグラマー!
 やったね!

 そして俺は気が付いた。
 ここはいつものマンションの廊下じゃない。
 森の中だ!

 ええ!?
 これは……、どう言う事だ!?

 森を見回すと大きな木々にツタが巻きつき、枝に止まった小鳥がさえずっている。

 おかしい!
 なぜマンションのドアを開けたら、森の中なんだ!

 俺がキョロキョロしていると、青い目赤髪の女性が真剣な声で頼んできた。

「貴重な水を分けてもらうのは大変心苦しいのだが、我らも度重なる戦闘で疲弊している。何とか彼女たちの分もお願い出来ないだろうか?」

 金属製のクラシカルな水筒が三つ目の前に差し出された。

「あっ、ああ。ちょっと待っていて下さい。お水ね! はい、はい!」

 動揺した俺はひったくるように水筒を受け取りドアを閉めた。

「これ……、どうなってるの?」

 混乱した頭で考えるが、考えがまとまらない。
 わかっているのは……。
 三人とも若くて美人だと言うことだ!

「大事なのは、そこだよな!」

 事情も状況もよく分からないが、とにかく彼女たちは水が欲しい。
 なら分けてやれば良い。

 感謝されて良い事があるかもしれない。
 良い事とは、すなわち……。

 あんなことや、こんなことだ!
 ムフフ!

 キッチンで水道から水筒に水を入れながら、色々考える。

 しかし、彼女たちは何者だろう?
 外人コスプレパブのお姉さん?
 近所にそう言うお店が出来て営業して回っているとか?

 そこまで考えて、ハッと思った。

「あれっ? でも、ドアを開けたら森の中だったよね?」

 俺は、次の水筒に水道から水を入れながら独り言ちる。

 そうだ!
 そうだよ!
 ドアの外はいつものマンションの廊下じゃなかった!

「明らかな異常事態……。そして、あの胸の大きさは非常事態……」

 俺は神官風の金髪お姉さんの豊満な体つきを思い出して、ニヤニヤといやらしく笑った。

 水筒三つに水を入れ、玄関のドアに向かう。
 狭い部屋だから、すぐ玄関だ。
 四十歳独身貴族は、ワンルームマンション住まいで事足りるのだ。

 ドアを開けると……ああ、やっぱり森の中だ。

「お待たせしました。お水を入れておきましたよ。あの~、私はミネヤマ・マヨと申しまして、よろしければ皆さんのお名前を――」

「感謝する! よし! 出発するぞ!」

「えっ!? ちょっと待って! ああ……」

 三人のお姉さんたちは水筒を受け取ると、森の奥へと消えて行ってしまった。
 仲良しになりたかったな……。
 四十歳独身貴族は、孤独なのだよ……。

 まあ、それはそれとして……。
 今、どういう状況だ?

 俺は自宅マンションで休日を満喫していたはずだ。
 それなのにドアを開けると森の中……。

 まさか今流行の異世界転移とかじゃないだろうね?

「外に出て見ますか……」

 とにかく現状確認。
 これ大事。

 部屋着の黒ジャージにサンダル履きで、ドアの外に出てみた。

「うん。森の中だね。それも日本の森じゃない……」

 森に生えている木は、枝が太くウネウネとしている。
 杉とか、松とか、見慣れた気が一本もないのだ。

 振り返って部屋の方を見ると、おかしな光景が……。

「なんだこりゃ!」

 四角いレンガ造りのプレハブサイズの箱が、森の中にポツンと置いてある状況だった。
 その箱の真ん中に、俺が部屋から出て来たドアがある。

 木の枝を掻き分けて四角いレンガ造りの箱を一周する。
 ちょうど俺の部屋と同じくらいのワンルームサイズだな。

 ……って事は、このレンガ造りの箱が俺の部屋か!

「やばい……、異世界転移だよ……。部屋ごとか……? どうしよう……」

 俺は慌てて部屋に戻りドアを閉める。
 カギを閉めて、念の為チェーンロックもする。

「落ち着け……。落ち着け……。ここが異世界だとして……」

 俺は荒い呼吸と混乱した頭で必死に考えた。

 ここが異世界だとしたら、俺はどうやって生活して行けば良いのか?
 こんな森の中で生きて行けるのか?

 これからどうしよう……?
 日本に戻る方法を探すか?

 俺が頭を抱えてうずくまっていると、スマホからメッセージ着信音が聞こえた。

 ピロピロリーン!

「えっ!? スマホ!? 電波来てるの!?」

 慌ててスマホのメッセージを見ると母からだった。

『元気ですか? たまには家にも来てください』

 母からのメッセージが届いた……。

 あれ? ここは異世界じゃないのか?
 どう言う事だろうか?

「そう言えば……、さっき水道が使えたな……」

 部屋ごと異世界に転移したなら、水道は使えないだろう。
 けれども、さっき巨乳一名を含む女性三人組の水筒に、水道から水を入れた。

 異世界なのに、水道から水が出る?
 おかしいよな?

 俺はキッチンで蛇口をひねってみた。
 すると勢いよく水が出た!

「水道……生きているね……」

 続いて冷蔵庫を開くと、ブーンとモーターの音がする。
 冷蔵庫はちゃんと冷えている。

 水道だけでなく、電気も来ている!

 それから部屋の中を調べてみたが、ネットにもつながるし、固定電話もスマホも使える。
 部屋の電気も点くし、シャワーから暖かいお湯も出る。

 電気、ガス、水道、電話、スマホ、ネット、全てが正常!
 いつも通りに動いているのだ!

 ここは本当に異世界なのか!?
 俺は、ますます混乱した。

「もう一度玄関の外に出て見よう……」

 玄関のドアを開けてみると……。
 やっぱり森の中だ。

 もう一度、森から俺の部屋の外観を確認してみる。
 レンガ造りの四角い箱には、電線も電話線もない。
 なのに電気が来て、電話が通じるだと!?

「おかしい……。おかしい……」

 部屋の中に戻り冷蔵庫から麦茶を出して飲む。
 五月半ばだが、今日は暑い。
 エアコンのリモコンを押すとエアコンから涼しい風が出て、俺の肌を冷やす。

 いつもと変わらない俺の部屋……。
 だが、ドアの外は異世界の森……。

 ピンポーン!

 今度は、インターホンが鳴った!
 このマンションはオートロックで、モニターが付いている。
 俺はキッチン横のモニターを見る。

 マンションのエントランス前の画像がモニターに映し出されていた。
 モニターには、白いワイシャツにネクタイを締めた営業マンが映っている。

 普段なら居留守を決め込むのだが……。
 今は異常事態だ。
 モニターに映る営業マンと会話できるか確かめて見たい。

 モニター下の会話ボタンを押す。

『はい?』

『毎朝新聞ですけど! 新聞とってもらえませんか? 洗剤とかお付けしますよ!』

『結構です!』

 会話ボタンをもう一度押すとモニターから営業マンの姿は消えた。

 あれれ?
 これはどう言う事だろう?

 俺の部屋は異世界に転移したと思ったけれど、日本ともつながっているのか?

 あくまで推測だが……。
 俺の部屋は、異世界と日本、どちらにもつながっている状態じゃないだろうか?

 そう考えれば、異世界の森の中に部屋があるのに、水道や電気が生きている事の説明がつく。

 よしっ!
 試してみよう!

 俺は近所のピザ屋に電話した。

「お電話ありがとうございます! トランプ・ピザです!」

「注文をお願いします。トランプ・デラックス・ピザをエムサイズで一つ。あとコーラとポテナゲを一つ」

「ご注文ありがとうございました! 三十分以内にお届けします!」

 実験の為、宅配ピザを注文した。
 果たしてピザ屋は、この部屋に辿りつけるだろうか?

 俺の推測通りに、この部屋が異世界と日本の両方とつながっているのなら、あのドアからピザが受け取れるのではないか?

 ――待つ事二十分。

 ピンポーン!

 インターホンが鳴った。
 モニターにピザ屋のお兄さんが映っている。

「ご苦労様!」

 オートロック解除のボタンを押し、玄関に向かう。
 ドアを開けると……。

 ダメだ!
 異世界の森の中だ!

 俺の部屋は異世界と日本の両方につながっている……、はずだ!
 そうでなければ、電気水道が生きている訳はないし、インターホンも鳴らない!

 ピザ屋の配達は、このマンションのエントランスに来ている。
 配達のお兄さんがモニターに映っていた。

 だが、玄関のドアを開くと、異世界の森につながってしまう。
 どうすれば、日本につながる?
 どうやってピザを受け取る?

 そうだ!
 それなら……。

 俺は考え直してドアを閉める。
 そのままピザ屋が来るのを待つ。

 ピンポーン!

 またインターホンが鳴った。
 今度は部屋のドア横のインターホンだ。

 ピザ屋の配達がマンションの廊下にいる。
 俺の部屋の玄関前にいるはずだ。

 俺はドアの向こうに大きな声で言う。

「ごめん! 両手がふさがっているから、自分でドアを開けてくれるかな? 鍵は開いてますよ!」

 すると配達のお兄さんの返事が、ドア越しに聞こえた。

「わかりました! 失礼しまーす!」

 ドアが向こう側から開いてピザ屋のお兄さんが現れた。
 ドアの向こうは、いつものマンションの廊下だ。

 やった!
 成功した!
 日本につながったぞ!

 ピザを受け取り、代金を支払う。
 ドアを閉じずに配達のお兄さんを見送り……。
 そして、そのまま外に出て見た。

「出られるね……。いつものマンションの廊下だね……」

 間違いなくマンションの廊下だった。
 異世界の森の中ではない。

 今、間違いなく俺の部屋は、日本とつながっている。

 部屋に戻ってドアを閉める。
 ひと呼吸して、またドアを開けてみる。
 今度は……。

「森の中か……」

 今度は異世界の森の中とつながった。

 この後、俺は実験した。
 ピザ屋に三回注文をして、三回配達をしてもらった。

 そしてわかったのだが――

 1 部屋の内側からドアを開ける⇒異世界の森の中
 2 部屋の外側からドアを開けてもらう⇒マンションの廊下

 ――と言う事だ。

 俺の部屋は、異世界と日本の両方につながっている事がわかった。
 そして、ドアをどちらから開けるかによって、異世界に行けたり、日本に行けたりするのだ。

 なぜピザ屋に都合四回も配達してもらって実験したかと言うと、四十歳独身貴族には自宅に訪ねてくれる友人はいないのだよ(涙)。

 問題が解決した俺はスッキリとした。
 しかし、新たな問題が発生した。

 都合四回もピザの配達を頼んだ為に、テーブルの上に大量のピザとポテナゲが……。
 俺は『どうしましょうか?』と頭を悩ませた。

 ドンドンドン!
 ドンドンドン!

「度々、すまない! また水をもらえないだろうか!」

 ドアの外から声が聞こえた。
 さっきのお姉さんだ!
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