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第二章 冒険は楽しいぞ!

第17話 レベルアップの罠

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 うちの鉱山ダンジョンを引き続き探索する。
 俺は腕に残った沢本さんの柔らかい感触を思い出さないように、緊張感を持って鉱山ダンジョンの坑道を進む。

 俺は健康な男子なのだ。
 雑念が入っては、色々と探索に支障が出る。
 俺は再び集中した。

「出たぞ!」

 今日、二匹目の魔物、スコップを持ったコボルドが現れた。

「俺が出る! 沢本さんは、トドメを!」

「任せろ!」

 俺はバールを両手で握って、先ほどの戦闘と同じように左前へ踏み出す。
 魔物コボルドは、先ほどの戦闘とまったく同じ動きをした。
 まるでトレースしているようだ。

 俺は落ち着いてコボルドの動きを見て、振り下ろされたスコップをバールで受け止めた。

「もーらいっ!」

 絶妙のタイミングで沢本さんが、細身の剣で突きを放つ。
 細身の剣がコボルドに深く突き刺さり、コボルドはうめき声とともに光の粒子になって消えた。
 光の粒子の一部は、パーティーメンバー全員に吸い込まれる。
 この体に吸い込まれる光の粒子は、経験値だといわれている。

 俺と御手洗さんの体が光った!

「うおっ!」

「ええっ!」

 光った瞬間、俺は平衡感覚を失った。
 頭がクラクラして、足腰に力が入らなくなった。

「おお! レベルアップしたな! おめでとう!」

 沢本さんが、大きな声で俺と御手洗さんを祝っているのが聞こえた。
 聞こえたけれど、どこか遠くで話しているように聞こえる。

 俺の頭は、熱が出た時のような、ボーッとした感じで、とても立っていられなかった。
 俺は、よろけてそのまま倒れてしまう。

「危ねえ! 二人ともレベルアップ酔いだな! そのまま、休んでろよ!」

 遠くで沢本さんの声が聞こえた。
 近くにいるはずなのに、遠く聞こえるということは、聴力もおかしいのだろう。

 俺の頭は少しずつ思考能力が戻ってきた。

 レベルアップ酔いとは、レベルアップ時に酔っ払ったのと似た状態になることだ。

 レベルアップ酔いが、なぜ起るのか諸説ある。

 ・レベルアップに伴って、体が再構成される。
 ・レベルアップによって、新たな力を得るから。新たな力に体が馴染もうとするから。
 ・レベルアップは、そもそも人間に備わっていない能力・現象なので、体が拒否反応を示すから。

 研究中で、はっきりしたことは、医者や学者でもわからないらしい。

 わかっていることは、レベルアップによって、各種能力が強化されること、新たなスキルを得られる場合があることだ。

(そうか、俺は強くなったのか……!)

 俺はクラクラしながらも、嬉しさをかみしめた。

 少し状態が良くなった気がする。
 レベルアップ酔いから、徐々に回復しているのだろう。
 俺は立ち上がろうとして、四つん這いの姿勢を取ろうとした。

(ん? 何だ? この感触は?)

 右手に何かを握っている。
 俺は右手で握っている物を確かめようと、手を握ったり開いたりしてみた。

(なんだ? これ? 柔らかいぞ。丁度、手に収まるな。んんん?)

 頭の中のモヤが晴れるように、意識がハッキリしてきた。
 レベルアップ酔いから回復したのだ。
 視界もクリアになって、俺はどういう状況なのか理解した。

 俺は御手洗さんの上に倒れてしまい、御手洗さんを押し倒す格好になっていた!
 そして、右手は御手洗さんの胸の上にのっていた。
 つまり、俺が握っていたのは……!

「あっ! ごめん! ごめんなさい!」

 俺は慌てて飛び起きた。
 御手洗さんは、顔を真っ赤にして俺をにらんでいる。

「いやっ! 今のは! ワザとじゃないです! 本当にクラッときて、倒れてしまったんですよ! すいません! すいません! すいません!」

 俺は必死に謝った。
 だって、御手洗さんの胸をもんでしまったのだから。

 沢本さんは、楽しそうにゲラゲラ笑っている。
 沢本さんは、状況を知っていたのに放置していたのだ。
 ヒドイ!

「いや~カケル! 積極的だな! どうだ? シズカの胸は、柔らかかったか?」

 沢本さんの冷やかしに、俺は固まる。
 よりにもよって、今、そんなことを聞くか!

「し、し、し、し、知らないよ!」

「えー、じゃあ、固かったのかよ~。シズカ~、カケルは、オマエの胸は固かったってよ! すげー、かわいそう!」

 俺は慌てて、沢本さんのコメントを否定する。

「そ、そうじゃない! 御手洗さんの胸は、凄く柔らかかったよ!」

 俺は沢本さんに右手を握ったり開いたりしてみせた。
 真っ赤な顔をした御手洗さんが近づいて、俺の頬をビンタした。

「バカッ! エッチ!」

「すいません。本当に、ごめんなさい」

 俺は平身低頭するしかなかった。
 レベルアップは、おめでたいハズなのに、なぜ、俺はひたすら謝罪を繰り返しているのだろうか?

 右手に残った感触を大切な思い出にしようと、俺は決めた。

「よし! じゃあ、進むぜ!」

 沢本さんが、前進しようと言う。
 俺はすかさず、その提案に乗る。

「ああ、レベルアップ酔いも収まったし! 行こうか? 御手洗さんは大丈夫?」

 しまった!
 声が裏返った!

「大丈夫ですけど!」

 御手洗さんの視線が厳しい!
 ツンとしていて、取り付く島もない。

 仕方がない。がんばって御手洗さんの信用を取り戻そう!

 俺たちは、鉱山ダンジョンの坑道で探索を再開した。
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