追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

武蔵野純平

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第十一章 文明開化

第350話 機械的解決と魔法的解決

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 ――翌日。

 俺はエルフ族を取りまとめているラッキー・ギャンブルと面会することにした。
 開発する新型機シーホークに取り付ける計測器機について打ち合わせるためだ。

 母艦から飛び立ったシーホークが、海上を偵察して母艦に帰還する。
 現代の技術であれば、無線、レーダー、各種計測器機を使って実現されているが、この異世界では、そこまでのテクノロジーはない。

 計測器機は、ホレック工房に頼んでも良いが、あいにく手一杯だ。
 そこでエルフ族の力を借りることにした。

 エルフ族の研究所は、王都キャランフィールドの東にある。
 安全が確保された森の中に、石造りの建物をエルフたちが魔法で造った。

 俺は護衛の黒丸師匠とルーナ先生を連れて、エルフの研究所を訪問した。
 ラッキー・ギャンブルの執務室に通され、応接ソファーに座るとラッキー・ギャンブルは、気軽な口調で挨拶をして来た。

「やあ! アンジェロ陛下! ご無沙汰していますね! 黒丸殿もお元気そうで! ルーナ様も相変わらずお美しい!」

 ルーナ先生は俺の婚約者なんだが、ラッキー・ギャンブルは遠慮なくルーナ先生に『美しい』と軽口を飛ばす。
 ルーナ先生が、ジトッとした目でラッキー・ギャンブルをにらみつけた。

「口を閉じろ! 小僧! 私が美しいのは、当たり前」

「おお! その自信に満ちあふれた態度は、美の女神を――」

「寝小便していたことを町中に言いふらすぞ」

「何卒、ご勘弁を……」

 ラッキー・ギャンブルは、親戚のお姉さんに叱られたようにシュンとなった。

 ルーナ先生は、ハイエルフ。
 エルフ族の中でも長寿なのだ。
 ラッキー・ギャンブルの子供の頃を知っているのだろう。

 王都キャランフィールドで浮名を流しているラッキー・ギャンブルだが、ルーナ先生にかかれば小僧扱いなのが面白い。

 俺は内心ニヤッとしたが、真面目モードに気持ちを切り替えた。

「新型機の開発をするが、色々な計測器機が欲しい。エルフ族で開発出来ないだろうか?」

「計測器機? 何かの重さを量るのですか?」

「えーと、必要と考えているのは……」

 俺はラッキー・ギャンブルに、現時点で『あったら良いな』と考えている機材を伝えた。

 ・速度計
 ・方位計
 ・計算機
 ・レーダー
 ・無線

「速度計の原理は、確か気圧を測定して……。あ、そうすると、気圧計も必要なのか……」

 俺が説明をし出すと、ラッキー・ギャンブルは眉根を寄せ俺の話を止めた。

「アンジェロ陛下! 待った! 待った! そんなに一気に言われたら、わからないですよ!」

「ああ、ごめん」

「その機械で何をしたいのかを教えて下さい!」

「やりたいことは、帆船から飛び立った飛行機が、無事に母艦に帰ること」

 俺はラッキー・ギャンブルに、現状説明を行った。

 帆船から垂直離着陸機を飛び立たせて、海上を索敵させたい。
 広い海上、特に沖合では目印がないので、飛行機は母艦の位置を見失うかもしれない。
 だから、飛行機が無事に母艦に帰れる方法が欲しい。

「なるほど……」

「それから飛行機が飛んでいる位置が分かれば、母艦に敵の居場所を教えることが出来る」

「うん、うん! やりたいことが、分かってきましたよ!」

 ラッキー・ギャンブルは、足を組み、アゴに手をあて、天井を見ている。
 何か考えているな。

「ねえ、アンジェロ陛下……」

「なんだい?」

「つまりは、こういうことでしょ?」

 ラッキー・ギャンブルは、俺の話を要約してくれた。


 ・船から飛び立った飛行機が、船に戻れること。

 ・海上で飛行機が敵の船を見つけたら、見つけた場所が分かるようにすること。


「この二つの条件を満たせば、良いのですよね?」

「そう……だね……。うん、この二つの条件を満たせば、海上で飛行機を運用出来る」

 確かにラッキー・ギャンブルの言う通り、『飛行機が船に戻れて、敵の場所が分かる』のであれば良い。

「で、あればですよ。今ある魔道具を改造した方が早いですね」

「出来るの!?」

「ええ。余裕で」

 ラッキー・ギャンブルは、自信満々に請け負った。
 本当だろうか?

 俺はルーナ先生をチラッと見た。

「ラッキー・ギャンブル。外に出していない魔道具もある」

 外に出していない魔道具?
 つまりエルフの里から持ち出し禁止の魔道具があるということか?

 ルーナ先生の言葉を、ラッキー・ギャンブルが飄々とした口調で切り返した。

「ですがねぇ~。このままドワーフに我が物顔をされているのも業腹でしょう? エルフの里の長老たちに許可をもらいますよ。それに、大した魔道具じゃない」

「む……。なら、任せる」

 ルーナ先生は、納得したようだ。
 エルフとドワーフは仲が悪い。
 対抗意識を燃やしている。

 しかし、大丈夫なのだろうか?
 エルフ族は、ちょっと扱いが難しい部分があるので、俺はラッキー・ギャンブルに確認を取ることにした。

「大丈夫なのか? エルフ秘伝の魔道具とかだったら、不味いだろう?」

「いえいえ。そんな大した魔道具じゃないですよ。方向を示す魔道具があるのです。ただ、制作している者が少ないので、エルフの里から外へ出してないだけですよ。あまり売れないのです」

 方向を示す魔道具と聞いて、俺は方位磁針をイメージした。

「それなりに売れそうだけど?」

「まあ、ダンジョンや森の中を探索するには便利な道具ですが、屋外なら太陽や星の位置、ダンジョンなら通路を覚えることで代替出来ますからね。その為に、高価な魔道具は買いませんよ」

 なるほど。
 コスト対効果が見合わない魔道具なのか。
 すると……。

「売れないから、あまり作ってない?」

「そうです。だから数がない。それで、エルフの里から持ち出していないだけです。長老たちに掛け合えば、許可はおりますよ」

「わかった。では、その魔道具を利用する方向で頼む」

「承りました。それと、ちょっと良いですかね?」

 ラッキー・ギャンブルが真面目な表情をした。
 目元は、ちょっと寂しそうな感じだ。

「アンジェロ陛下は、機械が好きだよね。しかし、機械的解決でなく、魔法的解決で済む場合もある。もっと我々エルフの魔法技術を頼って欲しいものです」

「なるほど……」

 魔法的解決か……。
 確かに俺は、地球の技術を再現しようとする気持ちが強い。
 ここは魔法のある世界だから、もっと魔法で問題解決をしても良い。

「わかった。今後は、もっと頼りにさせてもらう」

 ラッキー・ギャンブルが、ニッと男前に笑った。
 とにかく一つ課題解決のめどがついた。

 だが、問題は次から次へと発生する。

 俺の執務室に戻ると、リス族のパイロットリーダーが髪の毛を逆立てて報告した。

「アンジェロ陛下。我々リス族は、協力出来ません!」

「えっ!?」
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