追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

武蔵野純平

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第十一章 文明開化

第345話 三度トラント

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 二週間後の十月中旬、王都キャランフィールド。

 じい、ことルイス・コーゼン伯爵は、グンマー連合王国情報部を統括している。

 情報部は流浪の民エルキュール族を中心に構成され、ある者は商人、ある者は吟遊詩人、またある者は踊り子として市井に紛れた。

 彼らは情報を集めるプロである。
 そんなエルキュール族の中でも飛び切りの男がいる。

 ――その名は、トラント。

 ルイス・コーゼン伯爵は、今回の謀略を調査するためにトラントを投入した。

「しかし、ヤツは気難しい男じゃ」

 ルイス・コーゼン伯爵は、執務室の椅子に深く寄りかかりながら独りつぶやく。

 トラントは優秀すぎるがゆえに、周囲との協調性がない。
 常に単独行動だ。

 いや、そうではない。
 単独行動こそが、ヤツの神髄。
 複数人で行動すれば、周りがトラントの足を引っ張ってしまうのだ。

 ルイス・コーゼン伯爵の思考は、今回の騒動へと移ろう。

(アンジェロ様がアルドギスル様を疎んじているとの噂。そして、黄金航路での海賊行為。恐らくは、エリザ女王国が仕掛けた謀略じゃろうて……)

 ルイス・コーゼン伯爵は、事態を正確に見抜いていた。
 しかし、自分の推測だけで行動を起こすわけにはいかない。

 事は二国間、ひいては大陸の安全に関わる問題なのだ。
 自分の推測が間違っていた場合、『ごめんなさい。間違えました』では、済まされない。

 ルイス・コーゼン伯爵は、深く息を吐き出す。

(ふう。抜かったわい。エリザ女王国には、エルキュール族が浸透できておらんのじゃ)

 エリザ女王国は島国である。
 大陸を活動の中心としていたエルキュール族は、エリザ女王国に住んでいない。

 少しずつ浸透をさせているが、一度に大量のエルキュール族がエリザ女王国へ移り住めば目立ってしまう。

 エリザ女王国に防諜組織はないが、島国は閉鎖的な部分がある。
 住民が余所者に目を光らせているのだ。

(裏付けが欲しい……。)

 ルイス・コーゼン伯爵は、自分の推測が正しいと裏付けが欲しかった。

「そろそろかの……」

 執務室の窓から夕日が差し込み始めたのを感じて、ルイス・コーゼン伯爵は視線を窓に移しギョッとした。

 窓際に男が立っていた。

「もう、来ている……」

「ぬっ!? いつの間に!?」

 男の身長は、およそ百八十センチ。
 体格はガッチリとした筋肉質で、年齢は四十才程度。
 黒髪短髪で、顔立ちは高倉健に似ている。

 夕日に照らされた横顔に、男のダンディズムがにじみ出ている。

 彼こそが、トラントだ。

 トラントとは、メロビクス王大国の一部の地域では、数字の30を意味する。
 13でも31でもなく、30である。

(相変わらず神出鬼没な男じゃ。頼もしいのう)

 ルイス・コーゼン伯爵は、トラントと握手をしようと椅子から立ち上がった。
 トラントがたたずむ窓辺へ歩み寄る。

「俺の背後に立つな……」

「むっ! そうじゃったな! 失礼した!」

 ルイス・コーゼン伯爵は、トラントの横に移動した。
 トラントは、ジッと窓の外を見つめながら言葉を発した。

「横にも立つな……」

「ええい! 相変わらず面倒な! どうすれば良いのじゃ! 話が出来んじゃろうが!」

 トラント――一分の隙も無い男であるが、ちょっとやりづらい。

 結局、ルイス・コーゼン伯爵は、座っていた椅子に戻り、トラントは窓際に立つことになった。
 ルイス・コーゼン伯爵は、フッと息をはき気持ちを落ち着ける。

「では、報告を頼む」

「エリザ女王国の謀略だ」

「間違いないか?」

「裏は取れた」

 トラントは、胸元から報告書を取り出し、ルイス・コーゼン伯爵に放った。
 ルイス・コーゼン伯爵は、報告書にサッと目を通す。

「なに!?」

 ルイス・コーゼン伯爵が、驚く。
 だが、トラントは、夕日を見つめたまま身じろぎ一つしない。

「どうした?」

「噂の発生源は、パーマー子爵じゃと!? ヤツは囮ではないのか!?」

「違う。一見すると囮だが、噂をたどるとパーマー子爵に行き着く」

「ぬう……」

 してやられた。
 ルイス・コーゼン伯爵の顔が屈辱に歪む。

 だが、ルイス・コーゼン伯爵の考えは、敵を過大評価しすぎていた。

 エリザ女王国の女王エリザ・グロリアーナは自国内にも敵が多く、使える駒が限られていた。
 今回はパーマー子爵しか動かせる駒がなかったのだ。

 結果的にルイス・コーゼン伯爵は、振り回されてしまった。

「ご苦労じゃった。それで――」

 ルイス・コーゼン伯爵は、気持ちを立て直しトラントに話しかけた。
 しかし、トラントは既に執務室にいなかった。

 ルイス・コーゼン伯爵は、トラントが立っていた窓辺を見つめた。

「はて、料金はどこに振り込むのじゃろうか?」

 ルイス・コーゼン伯爵の問いに答える者はいなかった。
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