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第十一章 文明開化

第344話 疑惑は深まった

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 ――九月末。

 今日は、ギュイーズ侯爵と海軍をどうするか打ち合わせをしている。
 俺の婚約者でギュイーズ侯爵の孫娘であるアリーさんも同席だ。
 護衛役の黒丸師匠とルーナ先生も俺の後ろに控えている。

 キャランフィールドの館にある会議室で話し合っていると、じいがやって来た。
 俺にコソッと耳打ちする。

「調査が終わりました」

 じいが、約二週間の調査を終えたのだ。
 なぜか、じいは渋い顔をしている。

「じい、調査結果を報告して」

「よろしいのですか?」

「ギュイーズ侯爵にも関わりのあることだから聞いてもらおう」

 俺がアルドギスル兄上を疎んじているという噂。
 そして、黄金航路で商船を襲わせている海賊。

 北メロビクスを預かるギュイーズ侯爵には、どちらも関係がある重要な話だ。

「では、調査の結果ですが――」

 じいの報告によれば、噂は悪い方向へ拡大している。

 俺がアルド・フリージア王国の商船を襲わせて、アルドギスル兄上に嫌がらせをしている。
 アルドギスル兄上が決起する。
 俺たちが滅ぼしたニアランド貴族の残党が蠢動している。

 アルドギスル兄上のアルド・フリージア王国内は、かなりきな臭い雰囲気になっているそうだ。

「不味いな……」

「不味いですじゃ。それで、噂の発生源を当たってみたのですが……」

「どうだった?」

「それが……。エリザ女王国領事パーマー子爵が噂の発生源であるとしか、わかりませんでした……」

「敵は巧妙に隠蔽しているのか……」

 参ったな。
 じいと情報部が動いても尻尾をつかめないとは……。

「ふむ。パーマー子爵は知っているが、謀略とは無縁の……。というより、頭のネジが何本か足らない人だからな」

 ギュイーズ侯爵が、パーマー子爵の情報を提供してくれた。
 温厚なギュイーズ侯爵に、『頭のネジが足りない』と言わしめるとは、パーマー子爵はどれだけ頭の回転が遅いのだろう。

「ギュイーズ侯爵。パーマー子爵は囮だと、我々は見ています。真の敵を隠すためのブラインド、カモフラージュの類いであろうと」

「妥当な判断だ。パーマー子爵は、デコイであろうよ。婿殿の目を欺くとは、手強い敵だね」

「ええ。情報戦で、こうも後手を踏むとは……」

 俺は深くため息を吐く。

「面目次第もございません。しかし、我らには切り札がありますじゃ! 凄腕のエージェントを投入します!」

「「「おお!」」」

「パーマー子爵が囮であることは、間違いないでしょう。ですが、全容を解明する取っ掛りではあります。まず、パーマー子爵を崩すのですじゃ」

「わかった。任せるよ」

「はっ!」

 凄腕のエージェントか……。
 この謀略の全容が解明される日も近いぞ!

「ゴホン! ところで婿殿。その……体の方はどうかな?」

「体ですか? いたって健康ですが?」

 じいとの話が終わると、ギュイーズ侯爵が俺の健康状態について聞いてきた。
 ギュイーズ侯爵は、なんだが話しづらそうにしている。

「ギュイーズ侯爵。何か?」

「いや、港に来た商人たちが噂していたのだがね。婿殿が……その……患っているのではないかと」

「患う? 特に病気はありませんよ」

「そうですわ。おじい様。アンジェロ様は、お元気ですよ」

 アリーさんも、ギュイーズ侯爵に『何を言っているのか』と遠回しにたしなめる。
 だが、ギュイーズ侯爵は、モジモジとして落ち着かない。

「いや、その……。商人たちが噂しているのだよ。婿殿が痔瘻を患っていると」

「は……?」

「本当に大丈夫かね? 痔を放っておくと大変なことになるからね。早く治療した方が良い」

 俺が痔?
 何で?
 誰が言ってるの?
 商人?

 アリーさんが、物凄い顔で俺を見ている。

「いやいや、違いますよ! 俺は健康です! お尻のトラブルはありません!」

 俺は必死に弁解した。
 だが、それを許さない人がいる。
 ルーナ先生と黒丸師匠だ。

 獲物を見つけて大喜びで会話に参入してきた。

「アンジェロはお尻を出す! 私が痔専用ヒールで治してあげる」

「アンジェロ少年は、痔であるか! それは大変である! ルーナに治してもらうのである!」

「ルーナ先生! そんなヒールはないでしょう! 黒丸師匠! 喜ばない!」

「婿殿。治してもらってはどうか?」

「ギュイーズ侯爵! 真に受けないで下さい!」

「アンジェロ様。お薬を塗って差し上げましょうか?」

「いやいや、アリーさん。何プレイですか!」

 こうして疑惑は深まった。
 とんでもない噂を流したヤツをとっ捕まえてやる!
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