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第十一章 文明開化

第318話 復活の女神ズ

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 その頃、天上の神界では、三人の神がダラけていた。
 三人は謹慎中である。

 アンジェロを異世界にスカウトした女神ジュノー。
 アンジェロに魔力を授けた女神ミネルヴァ。
 アンジェロにアイテムボックスを授けたニートな男神メルクリウス。

 天界にある仕事部屋で、女神ジュノーは執務机に足を放り出し、片手でオレンジを食べていた。

「ミネルヴァ、さっきから何を読んでるの?」

「ん? 君が地球で手に入れた本だ」

「カラスの仮面か……。今、どこ?」

「二人の喪女の所だ。亜弓君が、鯛焼きをパクついているぞ」

「あー、あそこね。その先は――」

「おっと! ネタバレは止めてくれたまえ!」

 女神ジュノーと女神ミネルヴァはダラダラと多愛のない話を続け、ニート神メルクリウスはソファーに寝っ転がりいびきをかいていた。

 この男は、どこでも寝られるのだ。


 そこへ鹿型の神が訪問した。
 鹿型の神は、全ての神のトップである『始祖の神』の腹心である。

 鹿型の神は、三人のダラけきった様子を見てため息交じりに言葉を発した。

「何をやっているのだ……」

「謹慎してるのよ! き! ん! し! ん!」

 女神ジュノーは、鹿型の神にテーブルの上のオレンジを放って投げた。
 続いて女神ミネルヴァが、手にした本から視線を外さずに答える。

「カラスの仮面を熟読中だ。君も読んでみるか?」

「今、どこだ……?」

「二人の喪女の所で、亜弓君が鯛焼きをパクついた」

「ふむ。その後は、オオカミ少女を演じるのだぞ。オオカミ少女になって香辛料を投げつけながら、商人と旅に出るのだ」

「貴様……! ネタバレするとは……!」

 怒った女神ミネルヴァが鹿型の神に襲いかかり、二人は殴り合いを始めた。
 足を止めてのガチンコの殴り合い。

 神パワーが周囲に拡散するが、女神ジュノーは我関せずとブドウを手に取り、ニート神メルクリウスは涎を垂らしながら睡眠を続ける。

「まったく、あんた何しに来たのよ! 用がないなら帰ってよ! 私はダラけるので忙しいのよ!」

 鹿型の神は、ステップバックして女神ミネルヴァから距離をとった。

「始祖の神様の使いで来たのだ。良い報せと悪い報せがある」

 女神ジュノーは、心の中で激しく舌打ちしながらも、ポーカーフェイスを押し通した。

「良い方から聞かせてくれるかしら……」

「女神ジュノー! 君が担当する世界の評価が大幅に上昇した! なんと六千ポイントになったのだ!」

「「えっ!?」」

 女神ジュノーと女神ミネルヴァが、同時に驚きの声をあげた。
 鹿型の神は、腕を組み感心しきりだ。

「三千ポイントだったのが、一気に倍増して六千ポイントだぞ! 始祖の神様も感心しておられた! おめでとう!」

「キャー! やったー!」
「おお! 素晴らしい!」

 女神ジュノーと女神ミネルヴァは、手を取り合って喜ぶ。
 鹿型の神は、しばらく二人の様子を見守ると、まじめな表情になった。

「おい……。喜んでいるところに水を差すようだが、悪い報せもあるのだぞ」

「悪い方は?」

「地球神から強い申し出があった。地球神配下の下級神が殺害されたのだ」

「それ、私たちに関係ないじゃない」

「女神ジュノー。殺害された場所は、君の世界だ!」

「はあ!? 何で地球神の手下が、私の世界にいるのよ!? 言いがかりじゃないの!?」

「事情は……、まだ、よくわからぬ。だが、地球の下級神が、君の世界で消滅したのは事実だ」

「ちょっと! 私たちは謹慎していたのよ! 知らないわよ!」

「ああ、そのようだな。だが、地球の神は宣戦布告だと騒いでいる」

「いやいやいや! 地球の下級神が、私の世界に勝手に立ち入っている時点で、ダメでしょ! 悪いのは地球側よ!」

 それまで黙って聞いていた女神ミネルヴァが激発寸前の声をあげた。

「ほう……、地球神は……、再び我らとの戦いを希望するのか……。いいだろう!」

 女神ミネルヴァがグッと拳を握ると、神力が周囲に溢れた。
 不穏な空気に鹿型の神が敏感に反応する。

「オイ! 落ち着け!」

 だが、女神ミネルヴァは目を血走らせ、不敵な笑みを浮かべる。

「惑星ごと! 世界ごと! 滅してくれる!」

 女神ミネルヴァの周りに神力が溢れ、戦鎧がかたどられていく。
 右手には聖なる槍、左手には光の盾。
 武装を整えた女神ミネルヴァは、今にも飛び出してしまいそうだ。

 鹿型の神が血相を変える。

「女神ジュノー! 止めろ!」

 このままでは、神同士の戦いが起きてしまう。
 女神ジュノーはグッと奥歯をかみしめ、女神ミネルヴァを制止した。

「ミネルヴァ! よしなさい!」

「ジュノー! 止めるな! ともがらのカタキをとる! 君とて戦いたいはずだ!」

「私は、止めろと言っているの!」

「なぜ、止める! 恨みを忘れることなど出来ようか!」

 拳を強く握ったまま、にらみ合う二人。
 そこへいつの間にか目を覚ましていたニート神メルクリウスが、穏やかな声をかけた。

「なあ、止めようぜ。俺たちの世界に住んでいる連中も、地球に住んでいる連中も、巻き込んだらかわいそうだ」

「メルクリウス……」

 ニート神メルクリウスの穏やかな笑顔に、女神ミネルヴァの怒りのボルテージが下がり始めた。

「まあ、なんだ。何か理由があって、地球神の下っ端が俺たちの世界に紛れ込んだ。その下っ端を誰かが殺した。そんなことが出来そうなのは、一人だけだろ?」

 アンジェロのことだと、女神ジュノーと女神ミネルヴァは理解した。
 だが、鹿型の神がいるので、二人は名前を出すのは控えたのだ。

 ニート神メルクリウスは、鹿型の神に向かって話を続ける。

「あれだろ? 始祖の神様から呼び出しがあるのだろ?」

「ああ。その予定だ」

「それまでに、俺たちで経緯を調べておけってことかな?」

「そうしてくれると助かる。私は、どちらにも肩入れできない立場だからな」

「了解した。それじゃ、ちょっと調べてくるぜ!」

 ニート神メルクリウスは、珍しくキリッとした表情をするとペガサスに変化しアンジェロのもとへと向かった。

「メルクリウス! 待ちなさい!」

「私も行こう!」

 女神ジュノーは孔雀に、女神ミネルヴァはフクロウに変化し、メルクリウスの後を追った。

 残された鹿型の神は、一息つき独りごちた。

「上手くやれよ……。女神ジュノー……」
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