追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

武蔵野純平

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第十一章 文明開化

第316話 尻に敷かれる俺の人生

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 フォーワ辺境伯から側室の話があったと告げると、アリーさんの雰囲気が一変した。
 六月なのに部屋の中は、零下の寒さだ。

 おかしいな。
 アリーさんは魔法使いじゃないのに。

「それがしは、冒険者ギルドの様子を見てくるのである!」

 黒丸師匠が、逃げ出した!

「しまった! 情報部との打ち合わせの時間でした。では、これで!」

 じいも、逃げ出した!

「あー、お腹が空いた! みんなのお昼を作ってくる!」

 ルーナ先生も、逃げ出した!

「ちょっと! みんな! あ~!」

 なんという逃げ足の速さ!
 部屋に残されたのは、俺とアリーさんだけ……。

 いや! 他にもいた!
 アリーさんの護衛の猫族が、自由気ままに部屋のあちこちでごろ寝している。

 ――さてはオマエらが、どこかで聞きつけて、アリーさんにチクったな!

 俺が猫族の一人をにらむと、猫族が一斉に非難の鳴き声を上げた。

「にゃ~!」
「にゃ~!」
「にゃ~!」
「にゃ~!」
「にゃ~!」

「わかった! わかった! ちゃんと話すから!」

 俺は、フォーワ辺境伯の話を、アリーさんに報告し始めた。
 浮気したわけでもないのに、なんで俺がこんなに追い詰められるの?


 *


 スターリンがヴィスに討ち取られたことで、俺は戦争の終結を宣言した。

 俺とじいは、ドクロザワで後処理の指示を出しながら、次々と軍を解散させる。

 軍は大飯ぐらいだ。

 毎日の食事。
 兵士に払う給料。
 兵士の娯楽となる酒などの嗜好品。
 矢など消耗した武器の補充。
 騎馬隊の軍馬が食べる糧秣。
 魔道具に使う魔石。
 などなど……。

 早く軍を解散させないと、俺は破産してしまう。

 治安維持に必要な最低限の戦力を除いて、各地から馳せ参じてくれた騎士・兵士の皆さんには、順次お帰りをいただいている。

 ありがとう!
 君たちの勇姿を忘れない!

 俺は、次々と友軍が故郷へ帰っていくのを見送った。

 そんな中、俺の大天幕にギュイーズ侯爵とフォーワ辺境伯が、帰郷する挨拶にやって来た。
 二人は旧メロビクス王大国貴族たちを、よくまとめてくれている。
 俺の強力な与党だ。

 形式的な挨拶と事務的な確認が終ると、二人から『軽便鉄道を買い取りたい』と申し出があった。

「軽便鉄道ですか……。売れなくもないですが、高いですよ?」

「婿殿。もちろん、それ相応の対価は支払うよ」

「まあ、最新鋭の設備ですからな。仕方ないでしょう。それと、あの飛行機……。そろそろ我らにも配備していただきたい」

「そうだな。婿殿。兄君のアルドギスル陛下は、専用のグースをお持ちと聞くが?」

「あれはレンタルです。買えば高いですよ? ミスリルを使っていますし、羽根はワイバーンの翼ですから」

「「それでも欲しい!」」

 ギュイーズ侯爵とフォーワ辺境伯は、この戦争の勝ち組だ。

 二人とも小麦などの食料をかき集めて、軍に売却し莫大な利益を上げた。
 ギュイーズ侯爵など、領都の港で食料を荷揚げして、軽便鉄道で内陸部まで輸送したのだ。

 軽便鉄道と異世界飛行機グースを買い上げても、二人の財布は余裕だろう。

「婿殿。そういえば、シメイ伯爵も飛行機を欲しがっていたぞ」

「シメイ伯爵が?」

「彼の領地は山間部なので、空から領内の見回りが出来れば便利だと言っていた」

「なるほど」

 シメイ伯爵も勝ち組だ。
 あそこは領民が出稼ぎ感覚で参陣してくれるし、戦いにも慣れている。
 何気に頼もしい。

 襲いかかってきた敵兵を、料理をしていたおばちゃんたちが、鍋の蓋でぶっ叩きノックアウトしているのを見た。

 南部騎士団とあだ名されたのは、伊達ではない。

 シメイ伯爵は、領地から木材と魔物の肉を運び入れて一稼ぎした。
 木材は陣地構築や士官や兵士の仮宿舎を建てる為、大量に必要とされたのだ。

 馬型の魔物が牽引する大型の馬車が、次々にシメイ街道を下って前線に木材を運ぶ光景は、なかなか壮観だった。

 それに魔物の肉が、兵士たちに大人気だった。
 シメイ伯爵自ら鉄板焼きの屋台を出して、商売していたからな。
 チャリチャリ稼いで、武闘派に見えてしっかりしたオヤジだ。

「それと、婿殿。奥向きの話を、よいかな?」

「奥向きですか?」

「うむ」

 話題が変わり、ギュイーズ侯爵がフォーワ辺境伯に目配せした。
 フォーワ辺境伯が、しゃっちょこばる。

「えー……、ゴホン! アンジェロ総長陛下にお願いがございます。我がフォーワ辺境伯家から、側室をお召し上げ下さい」

「側室ですか……?」

 ギュイーズ侯爵を見ると、無表情にうなずいた。
 ギュイーズ侯爵は、俺の婚約者であるアリーさんの祖父だ。

 俺の後ろに控えていたじいが、話に割って入った。

「突然のお話で、アンジェロ様も困惑しておいでです。もう少し詳しい事情をお聞かせ下さい」

「うむ……。実はですな……」

 フォーワ辺境伯が、長々と事情を話した。
 要約すると――。

 ・派閥内(寄親寄子)から、婚姻政策を求められている。

 ・旧メロビクス王大国貴族の気持ちを考えるとギュイーズ侯爵とのバランスを取った方が良い。

 ・自分も総長(俺)と親戚になりたい。

 ――と、いう理由だ。

 なるほどな。
 アルドギスル兄上と俺は異母兄弟。
 ギュイーズ侯爵と俺は、将来義理の祖父と孫。
 有力者であるフォーワ辺境伯が、俺と縁を結びたいと思うのは当然のことか……。

 それに北部――つまりギュイーズ侯爵派閥の力が突出してしまうのは、南部――フォーワ辺境伯派閥としては、面白くないのだろう。

 じいも納得したようだ。
 話を進める方向でフォーワ辺境伯に確認をし始めた。

「それでしたら一度検討をいたしましょう。しかし、フォーワ辺境伯殿に年頃の娘はおらんでしょう?」

「ええ。ですので、分家から年頃の娘を養子にとろうかと」

「なるほど。それなら側室で釣り合いがとれますな。ギュイーズ侯爵殿は、よろしいので?」

「まあ、側室なら構わんよ」

 大人同士で、ドンドン話が進んでいる。
 俺も希望を伝えておこう。

「フォーワ辺境伯。出来るだけ優秀な子を寄越して下さい」

 俺の婚約者はみんな優秀だ。
 アリーさんは、政治家、行政官として活躍し、ルーナ先生は魔法、白狼族のサラは特殊部隊を率いている。

 出来れば内政寄りの人材が欲しい。

 だが、俺の希望を聞いたフォーワ辺境伯は、キョトンとしている。

「優秀……ですか? アンジェロ陛下の側室の話ですが?」

「ええ。側室の話をしていますが?」

「あの……、下世話な申しようで恐縮ですが……。普通は、美しい娘がよいとか、胸が大きい娘がよいとか、そういう希望が出てくるモノですが?」

「そうなのですか? ウチの婚約者は優秀で、みんな働き者ですよ。後宮のお飾りはいりません。実戦型を送って下さい」

「……」

 どうやら俺の希望は、一般的な側室探しからは乖離していたようだ。
 それに俺の婚約者は三人とも美人だからな。
 美人は間に合っている。

 こうして、ギュイーズ侯爵とフォーワ辺境伯は領地へ帰っていった。


 *


「――という訳です」

 俺は、側室取りの経緯を正直にアリーさんに話した。
 特に『美人は間に合っている』という俺の気持ちを強調して伝えたのだ。

「美人とは誰のことですの?」

「もちろんアリーさんですよ! 僕の女神!」

「まあ!」

 片膝をついた芝居がかったポーズで、クサイセリフを決めたのが功を奏した。
 アリーさんの笑顔が、パッと明るくなった。

 後ろで猫族が『ニャー! ニャー!』と冷やかしているが無視だ。

「事情はわかりました。正式な回答は、まだ、ですのね?」

「そうです。アリーさんが嫌なら断りますよ?」

「いえ。フォーワ辺境伯様のご希望通りに、側室を受け入れて下さい。国内貴族のバランスを考えると、受け入れた方がよろしいでしょう。今は安定が必要ですわ」

 アリーさんの顔が政治家の顔に変わった。
 こういう所は、さすが大物貴族の出身だ。

「ただし、私との結婚式の後にしていただきたいですわ」

「もちろん!」

「それから人族の正室は、私だけにするとお約束ください」

「なるほど……」

 ああ、それで急に俺のことを『あなた』と呼び出したのか。
 アリーさんは、グンマー連合王国における自分の立場を、確立させたいのだ。

 俺が現在の婚約者と結婚すると――。

 ・人族の正室:アリーさん
 ・エルフの正室:ルーナ先生
 ・獣人の正室:サラ

 ――となる。

「それは……。別種族の正室はいても構わないが、同種族である人族の正室は自分一人にしないと争いが起る……。ということですか?」

 アリーさんは、ニコリと笑った。

「理解のある婚約者を得て、私は幸せ者ですわ」

 こうしてフォーワ辺境伯から側室を娶る件は、アリーさんのお許しが出た。
 俺は尻に敷かれる人生を送るのだなと理解したのだった。
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