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第十章 レッドアラート!
第314話 ずっと好きだった(十章最終話)
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地球の神の使いとの戦いを終え、静かになった砂漠に荒い息づかいが聞こえる。
赤獅子族のヴィスだ!
「ハア……ハア……ハア……」
「ヴィス!」
俺たちは、急いでヴィスに駆け寄った。
ヴィスは、砂漠を必死の形相で這っている。
ヴィスの視線の先には、足を怪我したスターリンが逃げようとしていた。
「ルーナ先生……ヴィスの体が……」
「……」
俺とルーナ先生は、ヴィスを見て言葉を失った。
既に全身が黒いモヤで覆われているのだ。
「どうして……、地球の神の使いは倒したのに!」
「たぶん……、術者が死亡しても消えない強烈な呪いなのだと思う……」
俺が悲鳴まじりの声を上げると、ルーナ先生が苦々しそうに推論を口にした。
「じゃあ……、ヴィスは……」
「助からない……」
「何と言うことであるか!」
黒丸師匠が絶句する。
俺は激しく動揺した。
ヴィスとは、まだ、短い付き合いだが、同じ日本からの転生者同士、相通じるものがあった。
『ベースが同じ』
『前置きしなくても話が通じる』
このことは、俺とヴィスの心の距離を縮めた。
ヴィスと話すのは、楽なのだ。
軽率と思える所や直情的な所があるヤツだが、助からないと思うと……。
俺は、言葉に出来ない寂しさを覚えた。
「ルーナ先生! 何とかして下さい! お願いします!」
「アンジェロ……。すまないが、無理……」
「そんな……!」
俺が絶叫すると、ヴィスがいつもの口調で俺に語りかけてきた。
「よう……、アンジェロ……、そんな……、悲しそうな……、声を……、出すなよ」
だが、息が苦しそうだ。
「けど――」
「俺は……、今……、忙しいんだよ!」
ヴィスが、這って逃げるスターリンの足首をつかんだ。
「は、離せ!」
「嫌なこった……」
そのまま、スターリンの上に覆い被さるヴィス。
ヴィスはスターリンの首に腕を回し、締め上げ始めた。
「や……やめろ!」
「やめねえよ。バーカ……。テメエを逃がしたら、ネチネチ復讐をするだろう? この根暗野郎が……!」
「う……うるさい! 離せ! 苦しい!」
「ダメだ! テメエは殺す! イネスの所には行かせねえ!」
「ガ……ガアアア!」
ヴィスが力を振り絞ると、スターリンの体からミシミシと嫌な音が聞こえだした。
イネスはサーベルタイガーテイマーで、ヴィスが随分気に入っていた。
そうか、ヴィスは最期にイネスを守るために、スターリンをここで仕留めるつもりなのだ。
ヴィスの意図を理解した俺たち三人は、黙ってヴィスのやることを見守った。
夕暮れの砂漠にスターリンの絶叫が空しく響く。
「た、助けてくれ!」
「世話になったな!」
――ゴキン!
ヴィスがスターリンの首をへし折り、スターリンの体から力が抜けた。
スターリンは白目をむき、だらしなく口を開き、舌がデロンと出たまま……。
惨めな死に顔だ。
ヴィスは、仰向きにゴロリと寝転がり、やりきった表情をしている。
だが、全身が黒いモヤに覆われていて、顔にも黒いモヤがかかろうとしている。
俺は、急いでヴィスを抱き起こした。
「ヴィス……」
「アンジェロ……、楽しかったぜ……、カツサンドうまかったなあ……」
「ああ、そうだな……」
抱き起こしたヴィスの体からは、体温を感じない。
それどころか、重さも感じないのだ。
黒いモヤが、ヴィスから生命力や体を構成している物質を奪い取っているのではないかと考えて、呪いの強さにゾッとした。
そして、俺は……。
――これが最期の別れなのだと理解した。
俺の目から涙がこぼれ落ちてきた。
涙がヴィスの顔に落ちると、うつろな目をしたヴィスが声を発した。
「あー、好きだったなあ……」
「イネスさんか?」
「ああ……、伝えてくれよ……。ずっと……好きだった……って……」
「わかった……。イネスさんに伝えるよ……」
ヴィスが自分で気持ちを伝える機会は、もう、永遠にないのだ。
既に黒いモヤは、顔のほとんどを包んでいて、かろうじてヴィスの目が見えるだけだ。
「ずっと……好きだった……」
ヴィスは体中が黒いモヤに包まれた。
やがて黒いモヤが消えると、残されたのはヴィスの形をした灰だけだった。
砂漠の風に、ヴィスの形をした灰が流されていく。
俺は立ち上がると北の方を向き、風に飛ばされたヴィスの灰が、イネスの住む街まで飛ばされて欲しいと思った。
「さようなら……、ヴィス……」
夜になり、星が瞬いて見えた。
赤獅子族のヴィスだ!
「ハア……ハア……ハア……」
「ヴィス!」
俺たちは、急いでヴィスに駆け寄った。
ヴィスは、砂漠を必死の形相で這っている。
ヴィスの視線の先には、足を怪我したスターリンが逃げようとしていた。
「ルーナ先生……ヴィスの体が……」
「……」
俺とルーナ先生は、ヴィスを見て言葉を失った。
既に全身が黒いモヤで覆われているのだ。
「どうして……、地球の神の使いは倒したのに!」
「たぶん……、術者が死亡しても消えない強烈な呪いなのだと思う……」
俺が悲鳴まじりの声を上げると、ルーナ先生が苦々しそうに推論を口にした。
「じゃあ……、ヴィスは……」
「助からない……」
「何と言うことであるか!」
黒丸師匠が絶句する。
俺は激しく動揺した。
ヴィスとは、まだ、短い付き合いだが、同じ日本からの転生者同士、相通じるものがあった。
『ベースが同じ』
『前置きしなくても話が通じる』
このことは、俺とヴィスの心の距離を縮めた。
ヴィスと話すのは、楽なのだ。
軽率と思える所や直情的な所があるヤツだが、助からないと思うと……。
俺は、言葉に出来ない寂しさを覚えた。
「ルーナ先生! 何とかして下さい! お願いします!」
「アンジェロ……。すまないが、無理……」
「そんな……!」
俺が絶叫すると、ヴィスがいつもの口調で俺に語りかけてきた。
「よう……、アンジェロ……、そんな……、悲しそうな……、声を……、出すなよ」
だが、息が苦しそうだ。
「けど――」
「俺は……、今……、忙しいんだよ!」
ヴィスが、這って逃げるスターリンの足首をつかんだ。
「は、離せ!」
「嫌なこった……」
そのまま、スターリンの上に覆い被さるヴィス。
ヴィスはスターリンの首に腕を回し、締め上げ始めた。
「や……やめろ!」
「やめねえよ。バーカ……。テメエを逃がしたら、ネチネチ復讐をするだろう? この根暗野郎が……!」
「う……うるさい! 離せ! 苦しい!」
「ダメだ! テメエは殺す! イネスの所には行かせねえ!」
「ガ……ガアアア!」
ヴィスが力を振り絞ると、スターリンの体からミシミシと嫌な音が聞こえだした。
イネスはサーベルタイガーテイマーで、ヴィスが随分気に入っていた。
そうか、ヴィスは最期にイネスを守るために、スターリンをここで仕留めるつもりなのだ。
ヴィスの意図を理解した俺たち三人は、黙ってヴィスのやることを見守った。
夕暮れの砂漠にスターリンの絶叫が空しく響く。
「た、助けてくれ!」
「世話になったな!」
――ゴキン!
ヴィスがスターリンの首をへし折り、スターリンの体から力が抜けた。
スターリンは白目をむき、だらしなく口を開き、舌がデロンと出たまま……。
惨めな死に顔だ。
ヴィスは、仰向きにゴロリと寝転がり、やりきった表情をしている。
だが、全身が黒いモヤに覆われていて、顔にも黒いモヤがかかろうとしている。
俺は、急いでヴィスを抱き起こした。
「ヴィス……」
「アンジェロ……、楽しかったぜ……、カツサンドうまかったなあ……」
「ああ、そうだな……」
抱き起こしたヴィスの体からは、体温を感じない。
それどころか、重さも感じないのだ。
黒いモヤが、ヴィスから生命力や体を構成している物質を奪い取っているのではないかと考えて、呪いの強さにゾッとした。
そして、俺は……。
――これが最期の別れなのだと理解した。
俺の目から涙がこぼれ落ちてきた。
涙がヴィスの顔に落ちると、うつろな目をしたヴィスが声を発した。
「あー、好きだったなあ……」
「イネスさんか?」
「ああ……、伝えてくれよ……。ずっと……好きだった……って……」
「わかった……。イネスさんに伝えるよ……」
ヴィスが自分で気持ちを伝える機会は、もう、永遠にないのだ。
既に黒いモヤは、顔のほとんどを包んでいて、かろうじてヴィスの目が見えるだけだ。
「ずっと……好きだった……」
ヴィスは体中が黒いモヤに包まれた。
やがて黒いモヤが消えると、残されたのはヴィスの形をした灰だけだった。
砂漠の風に、ヴィスの形をした灰が流されていく。
俺は立ち上がると北の方を向き、風に飛ばされたヴィスの灰が、イネスの住む街まで飛ばされて欲しいと思った。
「さようなら……、ヴィス……」
夜になり、星が瞬いて見えた。
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