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第十章 レッドアラート!

第306話 星屑のコントレイル

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 俺たちは、モスクワ強襲作戦を立案した。

 作戦名は『暁の雷撃』。

 早朝、空からグースとブラックホークで兵員を送り込み一次攻撃を行う。
 二次攻撃は、俺が転移魔法で陸上兵力を送り込む。

 この二段構えの攻撃で、モスクワを解放するのだ。

 俺はソビエト連邦の首都モスクワ――旧ミスル王国の王都レーベ――を強襲するために、航空兵力をかき集めた。

 ドクロザワの北に、土魔法で大規模な飛行場を生成し、『イルマー飛行場』と名付けた。

 イルマー飛行場に、各地から異世界飛行機が続々と集まってくる。
 グンマー連合王国のありったけの航空戦力、合計九十機だ。

 連絡・偵察用に用いられている異世界飛行機グースが、五十六機。
 特殊部隊をのせ垂直離着陸が可能な特殊作戦機ブラックホークが、三十四機。

「よーし! グースにシートとステップを取り付けろ! 急げよ!」

 ホレックのおっちゃんの怒鳴り声が、ハンガー内で響く。

 グースには、木製のシートと足を置くステップを取り付けることになった。
 シートといっても、木の板を機体の横に無理矢理取り付けるだけだ。

 発案者は、ホレックのおっちゃん。
 ホレックのおっちゃんによれば――。

「貴族様の馬車じゃねえんだ! 戦場に着くまで、多少乗り心地が悪いのは我慢しろ!」

 ――だそうだ。

 ホレックのおっちゃんたち技術者が突貫工事で、シートの取り付け作業を行っている。

 グースのシート増設は、かなり無理矢理で乗り心地が悪い。
 だが、左に二人、右に二人、合計四人兵士を乗せられる。

 空から送り込める兵力が増えるのは、正直ありがたい。
 グースに乗り込む兵士には、イルマー飛行場からモスクワまで少々我慢してもらおう。


 ――そして、一週間後の五月中旬。

 まだ薄暗い夜明け間近のイルマー飛行場に怒声が響く。

「搭乗せよ!」
「エンジン始動!」

 ひんやりとした空気をプロペラがかき乱し、見送りの兵士たちが歓声を上げる。

 作戦に投入する異世界飛行機は、合計九十機だ。
 離陸準備をしている光景は、壮観の一言に尽きる。

「よし! オマエラ! 行くぞ!」

「「「「「オウ!」」」」」

 サラのかけ声に、白狼族の特殊部隊員たちが、野太い声で応えた。

 ブラックホークには、次々と白狼族の特殊部隊員が乗り込み、白狼族の族長の娘にして俺の婚約者サラが指揮を執る。

 特殊部隊員に混じって、エルハムさんがいる。
 エルハムさんは、元ミスル貴族の女性だ。キャランフィールドで、即製蒸溜酒クイックの生産管理をお任せしている。

 だが、エルハムさんは、今回のモスクワ攻撃に志願した。

『アンジェロ陛下には、大変よくしていただき騎士爵も賜りました。ご恩に報いるために、武勲を立てる機会をお与えください』

『しかし……』

 エルハムさんの戦闘能力は高くない。俺は彼女の作戦参加に躊躇した。
 だが――。

『私の祖国なのです!』

『わかった……。作戦参加を許可する!』

 俺はかなり迷ったが、結局許可を出した。
 祖国での戦いに不参加では、エルハムさんの面子が立たないだろうし、貴族としての矜持があるだろう。

 それにエルハムさんは、ミスル王宮内を知っている。
 特殊部隊の案内役として役立つ。

 軍楽隊のラッパ手が、甲高くラッパを吹き鳴らした。
 出撃だ!

 三本の滑走路から、異世界飛行機グースが次々と飛び立っていく。

 シートを増設したグースは、加速装置をオンにしてプロペラに魔力を流し込む。
 グースの軌跡に、キラキラと輝く魔力の残滓が彩りをそえる。

 ブラックホークは、機首を前へ傾けたヘリコプター機動で空へ舞い上がる。

 俺の隣に立つ黒丸師匠が、気合い十分の声を出した。

「それがしたちも行くのである!」

 黒丸師匠が飛び立つと、続いてルーナ先生が飛行魔法で空へ上がった。

「じい、あとは頼む」

「お任せください、アンジェロ様! ご武運を!」

 俺も飛行魔法を発動して空へと羽ばたく。
 チラリと地上を見ると、見送りの兵士や整備員たちが、大きく手を振っていた。

 ホレックのおっちゃんが、酒の入ったグラスを軽くこちらに掲げて見せた。

 真っ暗な空へ視線を戻す。

 濃い青色をした地平線が、空と地上を隔つ。
 暗い夜空には、まだ沢山の星が輝いている。

 グースとブラックホークが放つ魔力の残滓が、星屑のようだ。

 もう、間もなく陽が昇る。
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