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第十章 レッドアラート!

第305話 思わぬ苦戦、強固な抵抗

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 ――一週間後。

 俺は天幕で文官からギガランドの報告を受けた。

「――と、このようにギガランドから共産党は一掃されました。蜂起に参加した反政府組織の話し合いにより、ブンゴ隊長を旗頭に仰ぎ、グンマー連合の傘下に入りたいとのことでございます」

「ご苦労!」

 ギガランドの首都タランティで起きた市民の蜂起は成功した。
 共産党の幹部たちは、市民により処刑された。

 市民の蜂起といっても、じいとグンマー連合王国情報部が人為的に起こした騒動で、全てはじいの手のひらの上だ。

 ちらりとじいを見ると、涼しい顔で茶を飲んでいる。
 すっかり謀将が板についてきた。

 俺はじいとの打ち合わせ通りに、文官に命じた。

「ギガランドは、グンマー連合王国の領土とする。ブンゴ騎士爵を男爵に陞爵し、臨時総督に命じる。ブンゴ男爵は、ギガランドの復興に努めるように!」

 ギガランドは広いが、荒れ地や砂漠が多い。
 フットワークの良いブンゴ男爵に、しばらく面倒を見てもらう。
 ブンゴ隊長は、ギガランドの民から信頼があつい。心配ないだろう。

 うまくこなせたら、さらに子爵に陞爵して正式に総督にする予定だ。

 羊皮紙に印章を押し、公式の任命書を発行する。
 文官が任命書を恭しく受け取り、ギガランドへと向かった。

 文官が大天幕から出て行くと、じいが大きく息を吐く。

「ふう……。これでギガランドは片付きましたな」

「うん。じいのおかげだよ。ありがとう!」

「いやいや。ブンゴ隊長がよくやってくれました」

「問題は、俺たちの方だな……」

「いかにも……」

 俺たちはドクロザワから南下してソ連領に進撃した。
 後は、一気に制圧……と思ったのだが、大混乱と思わぬ苦戦を強いられている。

 赤軍が激しく反撃してくるのだ。

 簡易なトーチカや塹壕を掘って、鉄砲を撃ってくる。
 トーチカごと自爆する。

 特に政治将校たちは、狂信的で火薬を抱えて自爆攻撃を仕掛けてくるのだ。


『インターナショナル万歳! 共産党よ! 永遠なれ!』

『水魔法だ! 水をかけろ!』

『ウォーター……』

 ドン!


 火薬への対処として、水魔法で水をぶっかけろと指示を出している。
 だが、連中は、我が軍が至近距離に近づくまで森にひそみ、突然自爆攻撃を仕掛けてくるのだ。

 魔法使いの詠唱が間に合わないこともある。

 トーチカも厄介だ。
 丸太と土を固めただけの簡易なトーチカだか、中から鉄砲を撃ちかけてくる。

 制圧しようと兵が近づくと……ドン!
 トーチカごと自爆するのだ。

『水魔法だ! トーチカの中に水魔法を打ち込め! 火薬は水をかければ、爆発しない! まず、火薬を無力化しろ!』

 俺もすぐに対応策を出したが、あちこちにトーチカがあり、魔法使いの配置が間に合わない。

 気分の悪いことに……、トーチカの中で兵士たちは鎖に縛られていた。
 政治将校たちに『最後まで抵抗しなければ、家族を殺す』と脅されていたのだ。

『また、人質であるか! 卑怯! 卑劣! 外道の所業である! 許せないのである!』

 黒丸師匠は、激しく立腹している。
 だが、怒ったところで事態は好転しない。

 俺の配下は、すでに三桁を超える死傷者を出しているのだ。

 俺は進撃をストップし、軍議を開くことにした。


 *


 ――翌日。

 大天幕で軍議を開いた。
 各軍の代表者、参謀、主な部隊の指揮官が出席し、五十名を超える人が集まった。

 軍議の冒頭、俺から挨拶をする。

「このまま力押ししても犠牲が増えるだけだ。みなの意見を聞きたい。遠慮なく発言してくれ!」


 グンマー連合王国軍は、大きく横に広がり長い戦線を構築して前進をしている。
 一気に面制圧を狙ったのだ。


 ◆編成◆

 ・右翼:フォーワ辺境伯軍、ギュイーズ侯爵軍

 ・中央軍:諸侯混成軍、第二騎士団

 ・左翼:アルドギスル軍、シメイ伯爵軍


 俺は、じい、ルーナ先生、黒丸師匠と中央軍を指揮しているのだが……。

 諸侯混成軍がヒドイ!
 混成部隊の弱みが出て、連携も取れず、てんでバラバラに戦っている。

 さらに、異世界飛行機グースとの連携を取ったことがないので、グースが上空から偵察している間に先走り、赤軍の待ち伏せ攻撃を受けて被害甚大……なんてことになっている。

 諸侯混成軍は、編成からしてバラバラだから仕方がないことではるが……。


 ◆諸侯混成軍◆

 ・アンジェロ・フリージア王国の貴族連合部隊 千名

 ・新参の旧マドロス王国三地方――カタロニア地方、エウスコ地方、アラゴニア地方から集まってきた義勇兵部隊 百五十名

 ・マドロス王国部隊 二百名

 ・キャランフィールド冒険者ギルド部隊 五十名


 アンジェロ・フリージア王国の貴族連合部隊は、手柄を立てたがって突出する。

 旧マドロス王国三地方の部隊とマドロス王国部隊は、当たり前だが仲が悪い。
 戦闘中に罵り合いを始める始末だ。

 現状、一番規模の小さいキャランフィールド冒険者ギルド部隊が、一番使いやすい。
 つまり、俺の命令通りに動いてくれる部隊が五十名だけなのだ。

 これでは苦しい。

 扱いづらそうな連中を俺の下にひとまとめにしたのだが、さすがに手に余る。

 俺の隣は第二騎士団なのだが、第二騎士団は俺が指揮する部隊と呼吸を合わせるのが難しく進撃速度が出ない。

 第二騎士団は機械化部隊だから、進撃速度を出せる作戦でないと、本来の力が発揮されない。

 参謀連中は、新たに登場した機械化部隊の使い方をわかっていないのだ。

 失敗したな。
 俺が作戦を立てた方が良かった。

 俺が頭の中でグチグチと後悔をしている間に、軍議は進む。

 今は、右翼のフォーワ辺境伯が、強い口調で話している。

「それで、やっと村を占領したと思ったら、井戸が使い物にならんのだ! あやつら撤退する時に、井戸に毒を投げ入れた!」

 フォーワ辺境伯軍の担当地域では、焦土戦術が行われている。
 赤軍のヤツラは、容赦ないな……。

「このままでは、干からびてしまうわ!」

 あちこちから現状報告が次々と行われた。
 どの軍も敵の抵抗が強固で、被害が大きくなる一方だと報告……いや、もう愚痴だ。

 アルドギスル兄上が、手を上げて発言をした。

「ねえ、アンジェロ。この状況は不味いよ」

「アルドギスル兄上……。確かに進撃速度が出ませんし、被害も思いのほか大きいですね」

「それよりも、我らグンマー連合王国軍の士気が下がっているよね。そっちの方が問題だよ」

「士気ですか……、確かにそうですね……」

 アルドギスル兄上の発言に追随する声が上がった。

「昼も夜も自爆攻撃を警戒するので、兵士が寝不足になっております!」
「トーチカに兵をつなぐなど……、外道としかいいようがございません!」
「あやつら狂信的すぎますぞ!」

 俺は両手を大きく広げて、軍議の場を静めた。

「わかった! わかった! それでアルドギスル兄上、何かご提案があるのでは?」

 アルドギスル兄上がニヤリと笑う。

「首都を強襲するのはどう? 赤軍兵士の人質は、首都に集められているらしいよ。えーと、ミスル王国の時代はレーベ、今は……」

「モスクワです」

 アルドギスル兄上が、ヘンテコな決めポーズを取りながらウインクした。

「そうそう! そのモスクワに強襲をかけて、一気に本拠地を抑えるのさ!」

 モスクワ強襲作戦か!
 いささか強引な気はするが、このままズルズルと進軍して被害が増えるよりも良さそうだ。

 軍議に出席している将官たちの顔を見回すと、みんなうなずいている。

 俺は決断を下した。

「アルドギスル兄上の案を採用する! 近日中に、モスクワ強襲作戦を発動する!」
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