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第十章 レッドアラート!

第275話 説明(肉体による)

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 なぜかは、知らないが……。
 俺は祝勝会で、赤ら顔のベロイア貴族にからまれてしまった。

「まったく! 皆殺しにすれば良いものを! アンジェロ陛下は、甘い!」

 赤ら顔の貴族は、そう言うと銀杯からワインをあおった。

 俺の隣に座るベロイア国王カール三世が、慌てて赤ら顔の貴族を叱る。

「これ! スコーン伯爵! 行儀良くせんか!」

「何をおっしゃるのですか! 我らの国の行く末が、かかった話なのですぞ? 行儀良くなどしていられませんぞ!」

「しかしだな――」

「しかしもヘチマもありません! 攻めてきた連中を皆殺しにしておけば、後腐れがなかったのですよ! アンジェロ陛下! そこのところは、どうなのですか?」

 俺が酔っ払いにからまれているのだが、護衛役の黒丸師匠は全く気にしていない。
 すました顔でワインを飲んでいる。

 俺の婚約者であるルーナ先生にいたっては、自分で持ち込んだフライドチキンとクリスマスケーキをパクつき、クリスマスを満喫中だ。

 しょうがないなあ……。
 俺は面倒だと思いながらも、スコーン伯爵の相手をすることにした。
 グンマー連合王国総長として、威厳をもって答えた。

「スコーン伯爵。皆殺しというが、敵とはいえ十万を殺すのは、気が進まぬ」

「それは我がベロイアのことだからだ! 他人事だからじゃないですか?」

「そうではない。十万の内訳は、ロクな装備もない一般人だったのだ。命のやり取りを覚悟した騎士団相手ならともかく、一般人相手では、さすがに風聞が悪かろう」

「だーかーら! それが他人事だと言っているのですよ!」

 スコーン伯爵のボルテージは、上がりっぱなしだ。
 右手に持った銀杯に注がれたワインをちょいちょいやりながら、得意げに話している。

 なんか腹が立ってきたな……。

「女性もいたのだぞ? 女兵士ではなく、一般人の女性だ!」

「それがナンです? 攻め込んで来たら、敵であることにかわりないでしょう?」

「いや、彼ら彼女らは、扇動されただけだ。それに、イチイチ敵を皆殺しにしていては、大陸北西部の労働力が激減する。飢饉が発生しかねん!」

「イヤイヤイヤ~。言い訳だな~。軍事支援に来た限りは、きっちり働いてくださいよ~」

「スコーン伯爵――」

 いい加減にしろと言おうとしたら、スコーン伯爵は顔を俺に近づけて酒臭い息を吐きかけやがった。

「……」

 どうやら、この赤ら顔の貴族――スコーン伯爵は、俺が現役の冒険者であり、今よりも小さな頃からあちこち遠征しては、居酒屋でどんちゃん騒ぎをしていたのを知らないらしい。

 ダンジョン探索打ち上げの席で、強面冒険者にからまれるなんて日常茶飯事……。

 俺は、『いたいけな少年王』ではないぞ。
 この程度でビビって退くと思ったか?

 そもそも、この人たちだけでは対処できないから、俺たちが軍事支援で出張ってきたのだ。
 敵を追い払って、少なくとも直近の危機は回避してやったのだ。

 敵に対してどんな対応をしようが、文句を言われる筋合いはない。

 だいたい皆殺しにしろと気軽に言うが、十万人を目の前で見てみろ!
 憎くもない相手を十万人も殺せるわけがない。

 サイコパスかオマエは!

 俺は近くにあったワインを勢いよく飲むと、酔っ払いのスコーン伯爵にケンカを吹っかけた。

「息がクセえよ」

「は……?」

 俺の乱暴な言葉遣いをスコーン伯爵は、聞き間違えだと思ったのだろう。
 きょとんとした顔で聞き返してきやがった。

「えーと……今、何ておっしゃったのです?」

 俺はおもむろに立ち上がると、スコーン伯爵のアゴめがけてアッパーカットをぶちかました。

「息がクセえっつってんだ! このデコ助野郎!」

「グハッ!」

 派手に吹っ飛ぶスコーン伯爵。
 俺は祝勝会会場を見回して啖呵を切った。

「文句のあるヤツはかかってこい! 腰抜けでなければ、拳で語れ!」

 すると次々にベロイア貴族が名乗りを上げた。

「ぬう! 腰抜け呼ばわりとは!」
「騎士の面目を潰すか!」
「許さぬ!」

 俺が、まだ子供と侮ったな。
 ベロイア貴族が、俺に向かって次々に突撃してきた。

 俺は飛行魔法を発動して、横にジャンプすると壁を蹴って反動をつけた。
 右手にベロイア貴族の頬をとらえる。

「ゲホッ!」

 勢いが拳にのった。
 イイ手応えが、右拳に伝わる。

 一人のベロイア貴族が倒れると同時に、次の貴族が俺に蹴りをみまおうとした。
 その貴族が蹴りの体勢の途中で、真横にすっ飛んだ。

 黒丸師匠だ!

「おお! アンジェロ少年! ステゴロであるな! それがしも参戦するのである!」

 言うが早いか、駆け寄ってきたベロイア貴族を、楽しそうにぶん殴った。

「うおおおお! ルーナ・ブラケット見参!」

 そして両手にフライドチキンを握りしめたルーナ先生が、ベロイア貴族にフライングボディプレスをお見舞いした。

 やられた貴族男性は、若干嬉しそうな気配を漂わせているのは、なぜだ?

 この祭り好き師匠どもめ!

 ――この後、散々殴り倒した。

 俺たちの説明(肉体による)に、納得してくれたベロイア貴族たちは、全員が直立不動で俺たちを見送ってくれた。

 両国関係は前向きに改善されたと判断する!
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