追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

武蔵野純平

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第十章 レッドアラート!

第273話 女ばかり狙う理由

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 俺は、ルーナ先生、黒丸師匠と一緒に、ソ連軍の後ろに降り立った。

 督戦隊は、百人程度だろうか。
 軍服に身を包み、腕に赤い腕章を巻いた男たちが、声を張り上げ、逃げようとする人たちをナイフで斬り付けているのだ。

 この督戦隊が、ソ連軍の最後尾で恐怖を与えているので、撤退が出来ずにいる。

「逃げるな! 戦え!」
「前へ進め! 後退する者は、処刑するぞ!」
「インターナショナル万歳!」

 督戦隊の近くには、斬り付けられた人たちが泣き叫んでいた。
 処刑すると言いつつも、殺さずに痛みを与えているのだとわかった。

 体の一部、特に顔面の一部を切り取っているのだ。

 それも……こいつらは、手慣れた感じだ。
 手慣れているのは、剣を振るうことじゃない。
 人をいたぶることに……だ。

 普段は秘密警察でもやっているのだろう。

 俺は督戦隊のやり口に強い嫌悪感を覚えた。

「止めるのである!」

 黒丸師匠が、大喝した。
 黒丸師匠の声は、ビリビリと戦場全体を振るわし、その場にいた全員の動きを止めた。
 オリハルコンの大剣を背中から引き抜きながら、ゆっくりと歩き出す。

「ミスル王はクズであったが、ソビエットは更にクズであるな……」

「貴様! 何者だ!」

 督戦隊の一人が、黒丸師匠に吠えかかった。

「おまえたちの敵であるよ。遠慮は無用である。かかってくるのである」

「フ……フッ……」

 黒丸師匠に吠えた男は、黒丸師匠の尋常でない雰囲気を感じ取ったのか、一歩も動かない。
 かろうじてナイフを黒丸師匠に向けてはいるが、脂汗を垂らし、ナイフの先は震えている。

「どうしたのであるか? そのナイフは敵を倒すためであるか? それとも――」

「フ……フォ……」

「弱い者を、いたぶるためのナイフであるか?」

「キエー!」

 督戦隊の男が、こらえられなくなったのだろう。
 黒丸師匠に斬りかかった。

 だが、その動きは雑で、黒丸師匠が目をつぶってよけられる程度の動きでしかなかった。
 奇声を発して振り回すナイフは、黒丸師匠にかすり傷一つ与えられない。

「この程度であるか……」

「アア!」

「軍場に立つ資格はないのである!」

 オリハルコンの大剣が振り降ろされ、グシャリと嫌な音がした。
 濃い血の臭いが漂い、頭を潰された督戦隊の男は、自ら作った血だまりの中に倒れた。

 俺はルーナ先生と回復魔法を発動し、倒れている人たちの治療にあたった。
 督戦隊に斬られたのは、女性が多い。

「ルーナ先生。女性が多くないですか?」

「多い。女性の方が弱い。悲鳴が甲高く響く」

 わざと女性を狙ったのか……。
 俺は黒丸師匠に報告を行う。

「黒丸師匠!」

「アンジェロ少年。何であるか?」

「斬られたのは、女性が多いです」

「……」

 黒丸師匠の肩が、怒りに震えていた。
 そして、悠然と歩きながら、督戦隊を次々に斬り伏せた。

 いや、斬り伏せるというよりも、オリハルコンの大剣で殴り倒すと言った方が適切だろう。

「剣と己の力で、命のやり取りをするのが戦士である! 貴様らは戦士ではないのである! 汚水のネズミにも劣るのである!」

 督戦隊が腕に巻いている赤い腕章が、血に染まり一層鮮やかな赤に変わる。
 中には盾で防ごうとした者もいたが、黒丸師匠は、情け容赦なく盾ごと敵を叩き潰した。

 黒丸師匠が督戦隊を皆殺しにするまで、大した時間はかからなかった。

「さあ! みんな帰るのである! もう、戦いは終わりなのである! 帰るのである!」

 黒丸師匠が呼びかけると、それまで足を止めていた人たちが、一斉に動き出した。
 中には、俺たちにお礼を言う人もいた。

 こうしてベロイア王国からソビエト軍――赤軍は撤退した。
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