264 / 358
第十章 レッドアラート!
第264話 アダモちゃんとイネス
しおりを挟む
イネスは、怒っていた。
「何だって、私たちがグンマー連合王国と戦わなくちゃならないの……?」
イネスの前には、カーキ色の軍服に身を包んだ男がふんぞり返っていた。
中央委員会から派遣された政治将校のアダモヴィチだ。
「同志スターリン及び中央委員会の決定だからだ」
「スタリーンねえ……。サロットのことだろ?」
「今は、同志スターリンだ!」
「何で名前を変えるのかしらねえ……。あなたも前はアーリフって名前だったわよねえ……。確か、今の名前は――」
「アダモヴィッチだ! 同志スターリンに、つけていただいた名だ!」
アダモヴィッチは、嬉しそうに胸を反らした。
ここは、ソビエト連邦のカタロニア地方である。
カタロニアは、ソビエト連邦の支援でマドロス王国から独立し、すぐにソビエト連邦に加入した。
カタロニア人の独立国で、国名は『カタロニア・ソビエト社会主義共和国』。
ソビエト連邦の構成国の一つだ。
ヨシフ・スターリンは、構成国の支配を強めようと画策していた。
そこで、政治将校をカタロニアに送り込んできたのだ。
政治将校アダモヴィッチ(ヨシフ・スターリンに与えられた名前。アダモステのロシア誤訳)も、その一人だ。
一方、サーベルタイガーテイマーのイネスたちカタロニアの幹部たちは、困惑していた。
念願の独立を勝ち取った。
支援してくれたソビエト連邦に加入した。
幹部たちは、ソビエト連邦加入を『緊密な同盟』程度に考えていたが、中央委員会直属の政治将校が送り込まれ、あれこれと命令をしはじめたのだ。
特にイネスは、ヨシフ・スターリンと中央委員会の好戦的な姿勢に反感を覚えていた。
「ねえ、アダモヴィッチさん……。私たちカタロニア人は、独立した。独立できた以上、平和に暮らしたいの……」
「同志イネス! カタロニア独立を支援したのは、同志スターリンや中央委員会だ。我々が活動資金や武器を提供したからこそ、支配者マドロス人を追い出すことが出来たのだと思うが?」
「それは……感謝しているわ……」
「で、あれば! 次は諸君らが、我々に協力する番だ!」
「それが……、グンマー連合王国との戦争……?」
「共産主義革命を世界規模で起し、支配階級を打倒するのだ!」
「……」
政治将校アダモヴィッチの言葉に、イネスは閉口した。
理想としては、わからないでもない。
しかし、隣の国の政治体制がどうであろうと、イネスはどうでもよかった。
転生者である赤獅子族のヴィスは、イネスのそばでジッと話しを聞いていた。
立ち上がると、アダモヴィッチに近づいた。
「なあ、アダモちゃんよう」
「アダモヴィッチだ!」
「どっちでもイイだろ? コラ! 昔のお笑い芸人みたいな名前しやがってよ! ペイとか言ってみろよ?」
「ペ、ペイ?」
アダモヴィッチは困惑した。
ペイとは、何であろうか?
その困惑に赤獅子族のヴィスはつけ込んだ。
「イネスさんが、困ってるだろうが? やりたくねえって、言ってるだろ? 無理強いすんなよ!」
ヴィスの威嚇に、政治将校アダモヴィッチは黙り込んだ。
だが、もう一人の政治将校メドベジェンコが、話しを引き継ぐ。
「同志ヴィス。君はカタロニアの人間ではなく、中央の人間だ。同志スターリンと中央委員会の意向に従ってもらいたい」
「えーと……オマエは……。名前が変わったんだっけ? 何て言ったかな?」
「メドベジェンコ」
「メドベチンコ?」
「メドベジェンコ!」
ヴィスの激安な挑発にメドベジェンコは、簡単にのってしまった。
澄ました顔をしているが、沸点の低い男なのだ。
「なあ、チンコ。王様は、いなくなった。それでイイだろ?」
「同志ヴィス! 共産主義革命は、まだ、終わっていない。むしろ始まったばかりなのだ!」
「だから! その革命で倒す王様が、もう、いないだろう?」
「グンマー連合王国を始め、ほとんどの国が王政だ。これを打ち倒し、世界を共産主義に統一することこそが、真の共産主義革命なのだ! 同志ヴィス、そうは思わないか?」
「いや、キリがねえだろ?」
赤獅子族のヴィスは、あまり頭が良くなかったが、政治将校メドベジェンコの言うことが、実現不可能であることはわかった。
「テメエは、カルシウムが足らねえんだよ!」
そう吐き捨てるとヴィスは、そっぽを向いた。
結局、カタロニアの幹部たちは、ソビエト連邦中央委員会が派遣した政治将校に押し切られ、出兵を了承した。
政治将校たちは、資金援助の打ち切り、供与した武器の返還などを言い立て、幹部たちを従わせたのだ。
同じことが、ソビエト連邦の構成国全てで起こっていた。
こうしてソビエト連邦は、着々と開戦に向けて準備を進めていた。
「何だって、私たちがグンマー連合王国と戦わなくちゃならないの……?」
イネスの前には、カーキ色の軍服に身を包んだ男がふんぞり返っていた。
中央委員会から派遣された政治将校のアダモヴィチだ。
「同志スターリン及び中央委員会の決定だからだ」
「スタリーンねえ……。サロットのことだろ?」
「今は、同志スターリンだ!」
「何で名前を変えるのかしらねえ……。あなたも前はアーリフって名前だったわよねえ……。確か、今の名前は――」
「アダモヴィッチだ! 同志スターリンに、つけていただいた名だ!」
アダモヴィッチは、嬉しそうに胸を反らした。
ここは、ソビエト連邦のカタロニア地方である。
カタロニアは、ソビエト連邦の支援でマドロス王国から独立し、すぐにソビエト連邦に加入した。
カタロニア人の独立国で、国名は『カタロニア・ソビエト社会主義共和国』。
ソビエト連邦の構成国の一つだ。
ヨシフ・スターリンは、構成国の支配を強めようと画策していた。
そこで、政治将校をカタロニアに送り込んできたのだ。
政治将校アダモヴィッチ(ヨシフ・スターリンに与えられた名前。アダモステのロシア誤訳)も、その一人だ。
一方、サーベルタイガーテイマーのイネスたちカタロニアの幹部たちは、困惑していた。
念願の独立を勝ち取った。
支援してくれたソビエト連邦に加入した。
幹部たちは、ソビエト連邦加入を『緊密な同盟』程度に考えていたが、中央委員会直属の政治将校が送り込まれ、あれこれと命令をしはじめたのだ。
特にイネスは、ヨシフ・スターリンと中央委員会の好戦的な姿勢に反感を覚えていた。
「ねえ、アダモヴィッチさん……。私たちカタロニア人は、独立した。独立できた以上、平和に暮らしたいの……」
「同志イネス! カタロニア独立を支援したのは、同志スターリンや中央委員会だ。我々が活動資金や武器を提供したからこそ、支配者マドロス人を追い出すことが出来たのだと思うが?」
「それは……感謝しているわ……」
「で、あれば! 次は諸君らが、我々に協力する番だ!」
「それが……、グンマー連合王国との戦争……?」
「共産主義革命を世界規模で起し、支配階級を打倒するのだ!」
「……」
政治将校アダモヴィッチの言葉に、イネスは閉口した。
理想としては、わからないでもない。
しかし、隣の国の政治体制がどうであろうと、イネスはどうでもよかった。
転生者である赤獅子族のヴィスは、イネスのそばでジッと話しを聞いていた。
立ち上がると、アダモヴィッチに近づいた。
「なあ、アダモちゃんよう」
「アダモヴィッチだ!」
「どっちでもイイだろ? コラ! 昔のお笑い芸人みたいな名前しやがってよ! ペイとか言ってみろよ?」
「ペ、ペイ?」
アダモヴィッチは困惑した。
ペイとは、何であろうか?
その困惑に赤獅子族のヴィスはつけ込んだ。
「イネスさんが、困ってるだろうが? やりたくねえって、言ってるだろ? 無理強いすんなよ!」
ヴィスの威嚇に、政治将校アダモヴィッチは黙り込んだ。
だが、もう一人の政治将校メドベジェンコが、話しを引き継ぐ。
「同志ヴィス。君はカタロニアの人間ではなく、中央の人間だ。同志スターリンと中央委員会の意向に従ってもらいたい」
「えーと……オマエは……。名前が変わったんだっけ? 何て言ったかな?」
「メドベジェンコ」
「メドベチンコ?」
「メドベジェンコ!」
ヴィスの激安な挑発にメドベジェンコは、簡単にのってしまった。
澄ました顔をしているが、沸点の低い男なのだ。
「なあ、チンコ。王様は、いなくなった。それでイイだろ?」
「同志ヴィス! 共産主義革命は、まだ、終わっていない。むしろ始まったばかりなのだ!」
「だから! その革命で倒す王様が、もう、いないだろう?」
「グンマー連合王国を始め、ほとんどの国が王政だ。これを打ち倒し、世界を共産主義に統一することこそが、真の共産主義革命なのだ! 同志ヴィス、そうは思わないか?」
「いや、キリがねえだろ?」
赤獅子族のヴィスは、あまり頭が良くなかったが、政治将校メドベジェンコの言うことが、実現不可能であることはわかった。
「テメエは、カルシウムが足らねえんだよ!」
そう吐き捨てるとヴィスは、そっぽを向いた。
結局、カタロニアの幹部たちは、ソビエト連邦中央委員会が派遣した政治将校に押し切られ、出兵を了承した。
政治将校たちは、資金援助の打ち切り、供与した武器の返還などを言い立て、幹部たちを従わせたのだ。
同じことが、ソビエト連邦の構成国全てで起こっていた。
こうしてソビエト連邦は、着々と開戦に向けて準備を進めていた。
16
お気に入りに追加
4,058
あなたにおすすめの小説
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました
ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが……
なろう、カクヨムでも投稿しています。
没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。
亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。
さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。
南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。
ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。
転生したら妖精や精霊を統べる「妖精霊神王」だったが、暇なので幼女になって旅に出ます‼︎
月華
ファンタジー
21歳、普通の会社員として過ごしていた「狐風 空音」(こふう そらね)は、暴走したトラックにひかれそうになっていた子供を庇い死亡した。 次に目を覚ますとものすごい美形の男性がこちらを見、微笑んでいた。「初めまして、空音。 私はギレンフイート。全ての神々の王だ。 君の魂はとても綺麗なんだ。もし…君が良いなら、私の娘として生まれ変わってくれないだろうか?」えっ⁉︎この人の娘⁉︎ なんか楽しそう。優しそうだし…よしっ!「神様が良いなら私を娘として生まれ変わらせてください。」「‼︎! ほんとっ!やった‼︎ ありがとう。これから宜しくね。私の愛娘、ソルフイー。」ソルフィーって何だろう? あれ? なんか眠たくなってきた…? 「安心してお眠り。次に目を覚ますと、もう私の娘だからね。」「は、い…」
数年後…無事に父様(神様)の娘として転生した私。今の名前は「ソルフイー」。家族や他の神々に溺愛されたりして、平和に暮らしてたんだけど…今悩みがあります!それは…暇!暇なの‼︎ 暇すぎて辛い…………………という訳で下界に降りて幼女になって冒険しに行きます‼︎!
これはチートな幼女になったソルフイーが下界で色々とやらかしながらも、周りに溺愛されたりして楽しく歩んでいく物語。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お久しぶりです。月華です。初めての長編となります!誤字があったり色々と間違えたりするかもしれませんがよろしくお願いします。 1週間ずつ更新していけたらなと思っています!
異世界転生したら何でも出来る天才だった。
桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。
だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。
そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。
===========================
始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。
異世界転生は、0歳からがいいよね
八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。
神様からのギフト(チート能力)で無双します。
初めてなので誤字があったらすいません。
自由気ままに投稿していきます。
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる