259 / 358
第十章 レッドアラート!
第259話 ソビエット! ソビエット!
しおりを挟む
――十月二十四日。革命発生から十五日目。
キャランフィールドの執務室で、俺とじいは頭を抱えていた。
グンマー連合王国に、亡命者が続々とやってくるのだ。
最初はウーラのブンゴ隊長からの報告だった。
王都レーベから逃げてきた十二人のミスル王国貴族と家族が、亡命を希望していると対処要請が入った。
次は、フォーワ辺境伯から、そしてドクロザワの町から、また、ブンゴ隊長から……。
亡命希望者がひっきりなしに現れ、今、俺が把握しているだけで千人を超える。
最初は、ミスル王国貴族とその家族が亡命希望者だった。
今は、商人とその家族、商会の従業員が中心だ。
全部受け入れているが、千人単位の亡命者など、どう扱ったものか……。
「じい、どうする?」
「とりあえず、ミスルとの国境近くに仮住まいしてもらっては?」
「そうだな。じゃあ、サイターマ領に住んでもらうか……」
サイターマ領なら温暖だから、ミスル人でも住みやすいだろう。
亡命受け入れ作業で、エルハムさんを始めとした元ミスル貴族が現地へ行っている。
エルハムさんたちに指示を出そう。
そして相変わらず執務室の内外は人が多い。
「通して下さい! 通して下さい!」
廊下から切迫した声が聞こえてきた。
使いの若い男が入室し、じいにメモ書きを手渡す。
じいが、メモ書きを一瞥した。
「アンジェロ様! ギガランドでも革命が起こったようです!」
「えっ!?」
ギガランドは、ミスルの隣国で、千年戦争をやっていた。
革命の火が、隣国に飛び火したか……。
いや……、そんな簡単に革命が起こせるわけがない!
また、バタバタと沢山の人が執務室から飛び出して行くのを横目に、俺はじいに小声で話しかけた。
「共産主義革命組織が、ギガランドでも準備していたのか……?」
「恐らくそうでしょう……連中の組織力、あなどれませんな……」
すると、また廊下から声が聞こえた。
「通して下さい! 通して下さい!」
じいが、またメモ書きを受け取る。
「ミスル王国が、新しい国名を名乗ったそうです。ソ……ソビ……?」
「貸して!」
じいからメモ書きを受け取り、目を通す。
そこには、ミスルの新しい国名が書いてあった。
『ソビエト連邦』
*
俺は、ルーナ先生が火薬の実験をしている仮設の工房を訪ねた。
ソビエト連邦誕生のメモ書きを、ルーナ先生に渡す。
「ソビエット!」
「ソビエトです!」
ルーナ先生が、独特のイントネーションでソビエトを読み間違えた。
「面白い名前。気に入った!」
「俺は気に入りません」
まさか、異世界で共産主義の亡霊と出会うとは思わなかった。
ソビエト連邦――ソ連だよな。
俺が生まれる前に、崩壊した国だ。
教科書の中でしか見たことがない。
いや、むしろ、同志スターリンとか、ネット上ではネタだ。
ネタとしてなら、見たことがあるぞ。
「それで、アンジェロ、どうする?」
「様子を見ます。ソ連の出方を見ないと――」
「ソ連?」
「ソビエト連邦のことです」
「ソビエット!」
「だから、ソビエトですって!」
ルーナ先生のツボにはまったらしい。
俺は、話題を変えた。
「火薬の方は、どうですか?」
「魔方陣と印術を組み合わせた。爆発力アップ。殺傷力アップ。破壊力アップ」
嫌なアップ、アップだな。
怖いわ。
この仮設工房は、キャランフィールド郊外の荒れ地にポツンと建っている。
町の連中には、危険だから立ち入り禁止を言い渡した。
毎日、ドーン! ドーン! と、派手な爆発音がしているから、誰も近づこうとしない。
「もう、だいたい出来上がった。キューや酒樽と相談して、運用を考える」
ルーナ先生は、南方から入ってきた紅茶をすすりながら、今後の予定を説明してくれた。
リス族のキューとホレックのおっちゃんに相談するということは、異世界飛行機グースやケッテンクラートでの運用を想定しているのだろう。
「お任せします」
俺が頭を下げると、ルーナ先生はコクリとうなずいた。
「ソビエットとは、戦になる?」
「どう……ですかね……」
「歯切れが悪い」
「戦うとなると、ソ連の民衆全体を敵に回すことになります」
「ふむ。一国、皆殺しはキツイ」
正直、やりたくないな。
共産主義の善し悪しはおいておくとして、現在の旧ミスル王国――ソ連は、共産主義革命組織が民衆を煽動して革命を起こした。
ミスル王やミスル貴族は千年戦争を行い、民衆に安くない税を課してきた。
良い政治だったとは、言えない。
今、こちらからソ連に攻め込めば、ソ連の民衆はグンマー連合王国をどう思うか?
たぶん、ミスル王やミスル貴族が行った政治に戻そうとする勢力と見なすだろう。
つまり、人民の敵。
ソ連の民衆全てを敵に回すことになりかねない。
ルーナ先生に俺の推測を話すと、ゲラゲラ笑い出した。
「人民の敵アンジェロ! 民衆の敵アンジェロ! ソビエットの敵アンジェロ!」
「笑い事じゃないですよ~」
俺も苦笑いだ。
とにかく、ソ連との戦いはやっかいなことになりそうだ。
単なる武力のぶつかり合いではなく、俺の政治力も試されそうだ。
「ソビエット! ソビエット!」
「ルーナ先生! うるさいですよ!」
キャランフィールドの執務室で、俺とじいは頭を抱えていた。
グンマー連合王国に、亡命者が続々とやってくるのだ。
最初はウーラのブンゴ隊長からの報告だった。
王都レーベから逃げてきた十二人のミスル王国貴族と家族が、亡命を希望していると対処要請が入った。
次は、フォーワ辺境伯から、そしてドクロザワの町から、また、ブンゴ隊長から……。
亡命希望者がひっきりなしに現れ、今、俺が把握しているだけで千人を超える。
最初は、ミスル王国貴族とその家族が亡命希望者だった。
今は、商人とその家族、商会の従業員が中心だ。
全部受け入れているが、千人単位の亡命者など、どう扱ったものか……。
「じい、どうする?」
「とりあえず、ミスルとの国境近くに仮住まいしてもらっては?」
「そうだな。じゃあ、サイターマ領に住んでもらうか……」
サイターマ領なら温暖だから、ミスル人でも住みやすいだろう。
亡命受け入れ作業で、エルハムさんを始めとした元ミスル貴族が現地へ行っている。
エルハムさんたちに指示を出そう。
そして相変わらず執務室の内外は人が多い。
「通して下さい! 通して下さい!」
廊下から切迫した声が聞こえてきた。
使いの若い男が入室し、じいにメモ書きを手渡す。
じいが、メモ書きを一瞥した。
「アンジェロ様! ギガランドでも革命が起こったようです!」
「えっ!?」
ギガランドは、ミスルの隣国で、千年戦争をやっていた。
革命の火が、隣国に飛び火したか……。
いや……、そんな簡単に革命が起こせるわけがない!
また、バタバタと沢山の人が執務室から飛び出して行くのを横目に、俺はじいに小声で話しかけた。
「共産主義革命組織が、ギガランドでも準備していたのか……?」
「恐らくそうでしょう……連中の組織力、あなどれませんな……」
すると、また廊下から声が聞こえた。
「通して下さい! 通して下さい!」
じいが、またメモ書きを受け取る。
「ミスル王国が、新しい国名を名乗ったそうです。ソ……ソビ……?」
「貸して!」
じいからメモ書きを受け取り、目を通す。
そこには、ミスルの新しい国名が書いてあった。
『ソビエト連邦』
*
俺は、ルーナ先生が火薬の実験をしている仮設の工房を訪ねた。
ソビエト連邦誕生のメモ書きを、ルーナ先生に渡す。
「ソビエット!」
「ソビエトです!」
ルーナ先生が、独特のイントネーションでソビエトを読み間違えた。
「面白い名前。気に入った!」
「俺は気に入りません」
まさか、異世界で共産主義の亡霊と出会うとは思わなかった。
ソビエト連邦――ソ連だよな。
俺が生まれる前に、崩壊した国だ。
教科書の中でしか見たことがない。
いや、むしろ、同志スターリンとか、ネット上ではネタだ。
ネタとしてなら、見たことがあるぞ。
「それで、アンジェロ、どうする?」
「様子を見ます。ソ連の出方を見ないと――」
「ソ連?」
「ソビエト連邦のことです」
「ソビエット!」
「だから、ソビエトですって!」
ルーナ先生のツボにはまったらしい。
俺は、話題を変えた。
「火薬の方は、どうですか?」
「魔方陣と印術を組み合わせた。爆発力アップ。殺傷力アップ。破壊力アップ」
嫌なアップ、アップだな。
怖いわ。
この仮設工房は、キャランフィールド郊外の荒れ地にポツンと建っている。
町の連中には、危険だから立ち入り禁止を言い渡した。
毎日、ドーン! ドーン! と、派手な爆発音がしているから、誰も近づこうとしない。
「もう、だいたい出来上がった。キューや酒樽と相談して、運用を考える」
ルーナ先生は、南方から入ってきた紅茶をすすりながら、今後の予定を説明してくれた。
リス族のキューとホレックのおっちゃんに相談するということは、異世界飛行機グースやケッテンクラートでの運用を想定しているのだろう。
「お任せします」
俺が頭を下げると、ルーナ先生はコクリとうなずいた。
「ソビエットとは、戦になる?」
「どう……ですかね……」
「歯切れが悪い」
「戦うとなると、ソ連の民衆全体を敵に回すことになります」
「ふむ。一国、皆殺しはキツイ」
正直、やりたくないな。
共産主義の善し悪しはおいておくとして、現在の旧ミスル王国――ソ連は、共産主義革命組織が民衆を煽動して革命を起こした。
ミスル王やミスル貴族は千年戦争を行い、民衆に安くない税を課してきた。
良い政治だったとは、言えない。
今、こちらからソ連に攻め込めば、ソ連の民衆はグンマー連合王国をどう思うか?
たぶん、ミスル王やミスル貴族が行った政治に戻そうとする勢力と見なすだろう。
つまり、人民の敵。
ソ連の民衆全てを敵に回すことになりかねない。
ルーナ先生に俺の推測を話すと、ゲラゲラ笑い出した。
「人民の敵アンジェロ! 民衆の敵アンジェロ! ソビエットの敵アンジェロ!」
「笑い事じゃないですよ~」
俺も苦笑いだ。
とにかく、ソ連との戦いはやっかいなことになりそうだ。
単なる武力のぶつかり合いではなく、俺の政治力も試されそうだ。
「ソビエット! ソビエット!」
「ルーナ先生! うるさいですよ!」
16
お気に入りに追加
4,058
あなたにおすすめの小説
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)
こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位!
死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。
閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話
2作目になります。
まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。
「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」
異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました
ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが……
なろう、カクヨムでも投稿しています。
野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
転生したら妖精や精霊を統べる「妖精霊神王」だったが、暇なので幼女になって旅に出ます‼︎
月華
ファンタジー
21歳、普通の会社員として過ごしていた「狐風 空音」(こふう そらね)は、暴走したトラックにひかれそうになっていた子供を庇い死亡した。 次に目を覚ますとものすごい美形の男性がこちらを見、微笑んでいた。「初めまして、空音。 私はギレンフイート。全ての神々の王だ。 君の魂はとても綺麗なんだ。もし…君が良いなら、私の娘として生まれ変わってくれないだろうか?」えっ⁉︎この人の娘⁉︎ なんか楽しそう。優しそうだし…よしっ!「神様が良いなら私を娘として生まれ変わらせてください。」「‼︎! ほんとっ!やった‼︎ ありがとう。これから宜しくね。私の愛娘、ソルフイー。」ソルフィーって何だろう? あれ? なんか眠たくなってきた…? 「安心してお眠り。次に目を覚ますと、もう私の娘だからね。」「は、い…」
数年後…無事に父様(神様)の娘として転生した私。今の名前は「ソルフイー」。家族や他の神々に溺愛されたりして、平和に暮らしてたんだけど…今悩みがあります!それは…暇!暇なの‼︎ 暇すぎて辛い…………………という訳で下界に降りて幼女になって冒険しに行きます‼︎!
これはチートな幼女になったソルフイーが下界で色々とやらかしながらも、周りに溺愛されたりして楽しく歩んでいく物語。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お久しぶりです。月華です。初めての長編となります!誤字があったり色々と間違えたりするかもしれませんがよろしくお願いします。 1週間ずつ更新していけたらなと思っています!
神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる