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第九章 グンマー連合王国

第242話 独立運動を後押しするか?

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 サーベルタイガー・テイマーのイネスが、俺に話があるという。
 すぐにルーナ先生が俺を紹介し、執務室でイネスの話を聞くことになった。

「それで、話とは? 故郷のことで相談があると言っていたが?」

 初対面のイネスが相手なので、俺は少しかための雰囲気で話し出した。
 イネスは妖艶に微笑みながら、ゆっくりと返事をする。

「私の故郷を、グンマー連合王国に加入させて欲しいの……」

「イネスの故郷を?」

「そう。グンマー連合王国は、王国の集合体でしょう? なら、新たな参加国があっても良いでしょう?」

「……」

 頭の中で警報が鳴った。
 これは、ちょっとややこしそうな話だ。

 確かにグンマー連合王国は、複数の国が連合しているが、戦勝国のフリージア王国が主体になっている。

 そこに違う国が加入したらどうなるのか?
 想像がつかない。

 上手く行けば、経済規模が拡大するだろうが……、混乱するリスクもある。

 俺は、注意深く言葉を選んだ。

「君の故郷の名は?」

「カタロニア……」

「カタロニア? マドロス王国のカタロニア地方のことか?」

「カタロニアは、カタロニアよ……。マドロス王国ではないの」

 イネスの言葉に力がこもった。
 怒りか?
 じっと顔を見ると、眉根を寄せている。

 どうやら込み入った事情があるようだが……。

 同席している黒丸師匠が、ポンと手を叩いた。

「なるほど……! カタロニア公国のことであるか!」

「カタロニア公国?」

 俺は黒丸師匠に聞き返した。
 聞いたことがない国の名だ。

「二百年前に滅んだ国であるな。マドロス王国に吸収されたのである」

「へえ、カタロニア地方は、独立国だったのですか!」

 それは初めて知った。

 マドロス王国は、グンマー連合王国の西にある国だ。
 北メロビクス王国、南メロビクス王国と国境を接している。
 海運、農業が盛んな国で、兵も強いと聞く。

 そして、カタロニア地方は、マドロス王国の南にある。
 フォーワ辺境伯が総督を務める南メロビクス王国のお隣だ。

 黒丸師匠の話をイネスが引き継いだ。

「そうよ……。私たちカタロニア人……。マドロス人ではないわ……」

 イネスの話に寄れば、カタロニア地方は独立運動が盛んなのだとか。
 ただし、全員が独立賛成派というわけでもないらしい。

『マドロス王国に属していた方が、軍事、経済両面でメリットが大きいのでは?』

 と、考えるマドロス残留派もいるそうだ。

 カタロニア人は、マドロス王国にひどく扱われている訳ではないらしい。
 マドロス人の支配は緩やかなのだな。

 イネスの話を聞いた限りでは、カタロニア人は感情面で独立を望んでいるようだ。
 マドロス王国にいると、カタロニア人はどうしても少数派になってしまう。
 多数派のマドロス人中心に、国が動くのが面白くないらしい。

『私たちはマドロス人じゃない! カタロニア人だ!』

 そんな強烈なアイデンティティーを、イネスの言葉から感じた。

「それで、イネスは、どんな立場なのだ?」

「私は、旧カタロニア公国の支配者の血をひいているらしいわ」

「らしい?」

「これを……」

 イネスが、腰に下げた短剣を見せてくれた。
 立派なこしらえで、所々金があしらわれている。

 ルーナ先生が、イネスから短剣を受け取った。

「ここにカタロニア大公の紋章がある」

「大公? カタロニアは大公が治めていたのですか?」

「そう。この短剣は本物。カタロニア大公家伝来の品」

「じゃあイネスは、イネス・カタロニア?」

「かもしれない」

 俺、ルーナ先生、黒丸師匠の視線が、イネスに注がれた。
 イネスは俺たち三人の視線を笑顔で受け流した。

「さて……なにせ二百年も前のことだからね……。私が物心ついた時は、既に父は死んでいたしねえ。母が死ぬ間際に、この短剣をくれたのさ。カタロニア大公の血を引いているとさ……」

「それで独立運動に身を投じた?」

「まあね……。マドロス人も悪いヤツらじゃないけど……。私たちは、カタロニア人なのさ……」

 イネスの目に力がこもった。
 本気度は、高そうだ。

「ねえ、アンジェロ陛下。力を貸してくれない? カタロニアがマドロス王国から独立して、グンマー連合王国に加入する。悪い話じゃないだろう?」

「少し考えさせてくれ……」

 俺は、イネスの要望を保留した。
 じいやフォーワ辺境伯とも相談が必要だ。
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