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第九章 グンマー連合王国

第213話 狐族の族長は、名前が欲しい!

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「えっ!? 名前が欲しいッスか?」

 夕方になり、異世界飛行機グースで見回りに出たリス族のミーノと狐族の族長が、ウーラの町に帰還した。

 リス族のミーノは、すぐに隊長の女戦士『無双のブンゴ』に報告を行った。

 報告の内容は、もちろん『狐族には名前がなく、臭いのする部位で呼び合う』ことである。
 もはや馬賊のことは、二の次であった。

 リス族のミーノから報告を受けたブンゴは、報告内容の意外さに驚き、戸惑った。

「それで、狐さんは、名前が欲しいと……。私が命名するんスか?」

「ブンゴ隊長が名前を付けないと、アシクサだとか、シリーだとか、困った名前になりますよ!」

「そう言われてもッスねえ……」

「ブンゴ隊長は、良いんですか? 中には、チンコクサ夫さんとか、とんでもない名前の狐族が現れますよ! 『オイ! チンコクサ夫!』とか呼べますか?」

「それは、乙女のピンチッス!」

 無双のブンゴでも、乙女の恥じらいはあるのだ。
 ブンゴは、命名の必要性を強く感じた。

「わかったッス! 狐さんと話してみるッスよ!」

 ブンゴは狐族の族長を探した。
 狐族の族長は、ウーラの町外れで、地面に何か書きながらブツクサと一人つぶやいていた。

「ううむ……、アシクッサ……、シリクッサ……、何かが違う……」

 ブンゴは、狐族族長のつぶやきを聞いて、『早急な対処』が必要だと悟った。

(いや~、そんな臭そうな名前……乙女が口に出来ないッス!)

 狐族族長は、ブンゴに気が付き立ち上がった。

「ブンゴ殿! 相談にのってくれませんか?」

「ああ、名前ッスね? リス族のミーノから聞いたッス」

「でしたら話が早い! 何か良い名前はございませんか?」

「そうっスね~。狐さんは族長だから、『ゾッキー』とかどうッスか?」

「……」

「えっ!? ダメッスか!?」

 狐族の族長は、難しい顔で黙り込んだ。
 ブンゴのネーミングセンスも大概である。

 このままでは、『ナニクサネーム』になってしまう。
 それは、回避したい。

 ブンゴは何とかまともな名前を付けようと悩んだ。

「うーん……。狐さんは、どんな名前が良いんスか?」

「それが……、狐族には名前という文化がありません。どんな名前があるのか、わからないのです」

 狐族族長の言葉に、ブンゴは驚いた。
 文化が違うと、ここまで認識に差があるのかと。

 ブンゴは気を取り直して、人族の名前について説明を始めた。

「人族の女の子は、花の名前をつけたりするッスよ」

「花の名前ですか? では、ブンゴ殿も?」

「そうッス。ブンゴは、紫色の花の名前ッス」

「女性らしく可憐ですな!」

「いやいや、そうッスね~。もっと褒めて欲しいッス!」

 可憐と言われて、ブンゴは上機嫌だ。
 しかし、狐族の族長は男性である。
 花の名前は、似つかわしくない。

「男だと……。例えば、ニコラスは、古い言葉で勝者って意味ッスね。アンドレアスは、勇敢って意味ッスね」

「ふむ……戦いに関係する名前ですな」

「ああ! そういえば、戦闘に関係する名前は多いッスね! アンドレアスとか、族長っぽくて良いんじゃないッスか?」

「うーん……。あまり音の響きが……」

「好みじゃないッスか?」

「狐族には発音しづらいです。アーンジョレイヤス……」

「あ~言いづらそうッスね。これはボツで」

 どうやら口の形が、人族とは違うので発音がしづらいらしい。

 ブンゴは困ってしまった。
 大人に名前を付けるのは、なかなか難しい。

 しかし、名前は一生使う物。
 気に入らない名前を付けるわけにはいかない。

 ブンゴは、攻め方を変えた。

「狐さんが、これまで聞いた名前で好きな名前はないッスか?」

「オオミーヤとサイターマが良いですね!」

「あー!」

 ブンゴに救いの光が差し込んだ。

 偉大なる街オオミーヤ!
 栄えある王領サイターマ!

 ブンゴは、神の恩寵を感じたのであった。

「それはね。王様がつけた名前ッス」

「そうなのですか! いや、音の響きがとても良いと思いまして、何かこの世の物とは思えない心地よさです。オオミーヤとは、どんな意味なのでしょうか?」

「さあ……」

「ご存じない? では、サイターマは?」

「さあ……」

 ブンゴは、この異世界の人である。
 ゆえに、地球世界日本にある埼玉県や大宮のことは知らない。

「ご存じでなければ良いのです。きっと大草原とか、雄大な意味なのでしょう」

「あー、多分そうッスね~」

 ブンゴは適当に相づちを打ち、狐族の族長に提案を行った。

「じゃあ、アンジェロ様にお願いしてみたらどうッスか?」

「おお! ぜひ!」

「じゃあ、私が手紙を書くッスよ。オオミーヤに毎日グースの定期便が来ているので、手紙を届けて貰うッス」

「どんな名前か楽しみです!」

「そうッスね~」

 ブンゴは、アンジェロにネーミングを丸投げした。
 面倒なことは、出来る人にやってもらうに限る。
 ブンゴは肩の荷が降りホッとした。

 そして、ブンゴからの手紙を受け取ったアンジェロは頭を抱えるのだった。


 *


 ――三日後。

 アンジェロからの返事が、ウーラの町に届いた。
 早速、ブンゴは狐族の族長に伝えることにした。

「狐さん! 王様から返事が来たッス!」

「おおっ! 私の名前が!?」

「来たッスよ~。狐さんの名前は……」

 ブンゴはアンジェロからの手紙を開いた。
 狐族の族長の喉が、ゴクリと鳴る。

「名前は……オシャマンベ!」

 アンジェロは、狐族の族長に『オシャマンベ』という名を授けた。

 狐と言えば、北海道。
 北海道……オシャマンベ!
 ただ、それだけの理由である。

 だが、この異世界人にとって、『オシャマンベ』は、新鮮な響きを持っていた。
 狐族の族長は、一発でこの名を気に入った。

「オシャマンベ! 素晴らしい! 何という詩的な響き! 異国情調溢れた語感! さすがは、アンジェロ陛下!」

 こうして狐族の族長は、オシャマンベと名乗ることになった。
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