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第九章 グンマー連合王国

第203話 峠の釜めし、だるま弁当――六次産業化

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 シメイ伯爵領を、どう開発するか?

 俺が最初に思いついたのは、道路整備だ。

 シメイ伯爵領は、商業都市ザムザとメロビクス南部を結ぶシメイ街道が通っている。
 シメイ街道を拡幅して、人の通行を増やし、商業を活発化させるのはどうだろうか?

 単純な方法だが、領都カイタックには、それなりの規模の市場があるし、シメイ伯爵領の立地が良いのだから地味に効きそうだ。

 俺は道路状況を確認すべく、リス族のパイロットに道沿いに飛行するように指示を出した。
 俺たちを乗せたブラックホークは、商業都市ザムザ方面へ飛ぶ。

 シメイ街道は、村から村へと山間を縫うように進む。
 そして、シメイ伯爵領の出口付近で、山から平地へと下る。
 この辺りは、日光のいろは坂並みのつづら折りだ。

 道は、舗装していない土の道だが、それなりに良く出来ている。
 馬車が一台通れる程度の道幅なのだが、すれ違い出来る場所が設けられているのだ。

「あの馬車は、魔物のバトルホースが引いているのであるか?」

 黒丸師匠が指さす先に一台の馬車がいた。
 大型の馬が上り坂を、苦も無く馬車を引いて登っている。

「そうだ。バトルホースをテイムして、馬車馬代わりに使役している。シメイ街道は、上り下りが多いからな。力のあるバトルホースじゃないと務まらないのさ」

「なるほどなのである」

 バトルホースの馬車は、ケッテンクラートに負けないくらいパワフルだ。
 仮に、このつづら折りを自動車で上ったとして、バトルホース以上のスピードが出せるだろうか?

 傾斜はキツいし、カーブも多いから、自動車でも大してスピードを出せそうにない。

 それに、道路を拡幅出来るのかと言われると、つづら折りの場所はキツイ。
 斜面をこれ以上削りとるのが難しいのだ。

 シメイ伯爵領の反対側、メロビクス側の道路も見てみたが、同じだ。

「うーん……。道路整備で経済活性化は無理か……」

 いきなりアイデアが頓挫してしまった。

 リス族のパイロットには、適当に領地上空を飛ぶように指示して、あたりを観察する。
 山と森に囲まれた領地で、北側には高い山、領地全体が南向きの傾斜地……。

 さらに、フリージアでも南側にある土地で、気候が温暖だ。
 あちこちに川や沢があるので、水量も豊富。

 山間部ではあるけれど、農業に適している要素もある。

 シメイ伯爵領の農業は、どうなっているのだろう?

「シメイ伯爵。領地の農業事情について説明して」

「農業ですか? 見ての通り数少ない平地を耕しています。小麦と野菜ですね」

「足りているのか?」

「うーん……。主食が魔物の肉と山菜って土地柄ですからね」

「いや! おかしいだろう! パンが主食じゃないのか!?」

 やはりシメイ伯爵領は、イロイロおかしい!
 オークを豚肉呼ばわりだし、馬車を魔物が引いているし。

「まあ、でも、あれですよ。小麦が足りなくなったら、商業都市ザムザとメロビクスから買えば良いので、農地が小さくてもそれほど困らないですよ」

 なるほどね。
 東には、大陸公路の一大拠点商業都市ザムザ。
 西には、穀倉地帯のメロビクス。
 東西から食糧供給できるのか。

 恵まれた環境だから、あまりガツガツと領地開発しなくても、『やれちゃう』のだろうな。

 ヨシッ!
 アイデア出すか!

 シメイ伯爵領についてまとめてみると……。

 ・大都市にアクセスの良い立地。
 ・日照良く、水量豊富だが、山間部の為、農地は少ない。

 ふむ……。
 まともに農業しても、近隣のメロビクス地域と競合し、負けてしまう。

 ならば、商品まで加工する六次産業にしては、どうだろうか?
 それなら、他地域とすみ分けが出来る。

 俺は考えをまとめてシメイ伯爵に説明を始めた。

「シメイ伯爵。まず、棚田を作ろう!」

「棚田……ですか? それは、どんな?」

「山間部でも出来る稲作方法。こういった山地でも、米を作れるよ」

「米……? ああ! 東の国で食べる小麦みたいな作物ですね」

「そう。棚田は美味しいお米が出来るらしい。棚田で米を作って、弁当に加工して旅人に売りなよ。峠の釜めしとか、だるま弁当とか」

 俺はシメイ伯爵に、どんな流れかを説明した。

 棚田を南側斜面に作る。
 ↓
 美味しいお米が出来る。(一次産業)
 ↓
 お弁当に加工する。(二次産業)
 峠の釜めしを作る。
 だるま弁当を作る。
 ↓
 シメイ街道の村々で旅人に販売する。(三次産業)
 ↓
 名物完成!
 収入増!

 この生産、加工、販売まで、一気通貫で手掛ける方法を、六次産業というのだ。

 『農業生産(一次)+商品加工(二次)+販売(三次)=六次』

 単なる農産品に付加価値がつくので、上手く行けば収入が増える。
 いわゆる高付加価値ってヤツだ。

 山間部の農業が、平野部の農業に『量』で勝つのは難しい。
 それならば、『質』で勝負させよう。

 俺は名案だと思ったのだが、シメイ伯爵が疑わしそうに質問する。

「そんなに上手く行きますかね……?」

「米の作り方は、ある程度指導できる。第二騎士団が入植する地域でも米作りをする予定だよ」

「えっ!? そうなんですか!?」

 米自体は、ジョバンニが商業都市ザムザで入手してくれる。
 米の栽培方法は、ハジメマツバヤシが持っていた農業本に詳しく載っていた。
 俺が翻訳して配布すれば、なんとかなるだろう。

「水田はね。連作障害がないし、水を貯めておけるから保水力が上がるよ」

「何か難しいですね……」

「えーと……。米を作り続けても収穫量が落ちない。水田に水を貯めておけるから、水不足などの渇水対策にもなる」

「なるほど! 凄いじゃないですか!」

「そう。それで、棚田はね。平地で作るより効率は落ちるけれど、お米自体の味は美味しくなるらしいよ」

「へー! 王様、詳しいですね?」

「勉強したんだよ」

 ハジメマツバヤシが持っていた本で。
 米が食べたいから必死で読んだよ。

 第二騎士団が入植する青狼族、赤獅子族の旧テリトリーは、平地だ。
 ここを一大水田地帯にして、効率良く米を作らせる。
 米の供給地帯として、機能させる予定だ。

 シメイ伯爵領は、棚田なので効率自体は第二騎士団より落ちる。
 その為、名物弁当に加工して売るのだ。


 ・小麦供給地帯:旧メロビクス王大国

 ・米供給地帯:第二騎士団入植地帯

 ・商品販売地帯(峠の釜めし、だるま弁当):シメイ伯爵領


 こうすれば、すみ分け出来るだろう。

「領地の南側を見ようか」

 今度は領地の南側を飛んでもらう。
 南側は道がないが、日当たりが良い斜面になっている。

「この辺りを棚田にすると良い」

「王様、道がないですよ」

「道を作ろう。領都カイタックから、第二騎士団が入植する領域に道を通そう。それで、切り倒した木材を運んでくれ。新しい入植地だから木材需要がかなりある」

「おっ! それも、良さそうですね」

 シメイ伯爵も乗り気になってきた。
 俺は支援を約束し、キャランフィールドへ戻った。

 しかし、俺の直轄地は、俺が領地経営をするから良いとして、他の貴族領地は多少なりともテコ入れが必要かもしれないと思うのであった。
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