追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

武蔵野純平

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第八章 メロビクス戦争2

第180話 あなたに、死を与える者です

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 王宮に入るとギュイーズ侯爵とフォーワ辺境伯が先頭に立った。
 二人を先頭に、俺たちは王宮の奥へと進む。

「私はギュイーズ侯爵だ! 抵抗をするな! 投降すれば、罰せられぬ!」

「フォーワ辺境伯である! 抵抗は無用! 武器を置け!」

 二人は、抵抗しようとするメロビクス王大国兵士に、大声で呼びかけている。
 侯爵と辺境伯、上級貴族二人の呼びかけに、兵士たちは大人しく武器を置いた。

 難しいのは騎士、つまり貴族たちだ。
 メロビクス王大国を背負ってきた自負もあるのだろう。
 投降してくれない者もいる。

 ギュイーズ侯爵の呼びかけに、一人の騎士が激発した。

「おのれ! 裏切り者め!」

「止せ! もう、勝負はついている! 無益な争いをするな!」

「おためごかしを! 死ねい!」

 剣を抜いてギュイーズ侯爵に迫るが、こちらは数が多い。
 騎士はあっという間に包囲され、ボコボコにされ、縄で縛られた。

 こうして軽微な抵抗はあったが、問題なく『謁見の間』にたどり着いた。

 謁見の間に踏み込む。
 同時に、俺は息をのんだ。

 なんと豪奢で美しいのか!

「こりゃすげえな……」

 隣でシメイ伯爵が、感嘆する。

 音楽ホールのように広々とした部屋で、調度品は上品……。
 部屋の隅に並ぶ椅子や机は、ロココ調に似た様式で作られていて、足がクリンとカーブを描く。

 金、銀、宝石、シルクが、室内装飾に惜しみなく使われ、天井には神々を称える天井画が描かれていた。

「むう……さすがは大国……」

 俺の後ろに控えるじいも、思わずうなり声を上げる。

 そんな美麗な謁見の間の奥が一団高くなり、ぽつんと一人で椅子に座る人物がいた。
 その人は、美しい部屋に似つかわしくない、痩せこけ、くたびれた老人だった。

「国王……キルデベルト八世……?」

 俺は、その人物がメロビクス王大国国王かどうか、確信が持てなかった。
 ギュイーズ侯爵の方をチラリと見ると、無言でうなずいた。

 俺は一歩進み出て、メロビクス王大国国王に向かって名乗りを上げた。

「キルデベルト八世陛下。フリージア王国第三王子アンジェロです」

「ハッ……!」

 国王は、ビクリと肩を震わせ怖々と俺の方を見ている。

(こんなモノか……)

 俺は激しく落胆した。

 大国メロビクス!
 大陸の雄メロビクス王大国!
 文化の中心、大陸北西部の中心メロビクス王大国!

 その強大な国のリーダーが、こんな『じいさん』だったとは……。

 もっと、強い敵であって欲しかった。
 もっと、尊大であって欲しかった。

 だが、目の前には、怯えた老人が一人いるだけだ。
 俺はどこかで敵を過大評価し、美化していたのだろう。

 大国の最後とは、案外寂しいモノなのかもしれない。

 俺は気を取り直して、メロビクス国王に向き直る。
 俺の後ろには、ルーナ先生と黒丸師匠がピタリとついて、万一に備えて警戒を欠かさない。

 フリージア王国の諸将、そしてギュイーズ侯爵をはじめとするメロビクス王大国の諸将も、じっと成り行きを見守っている。

 俺は腹に力を入れて、低い声で、子供と侮られないように堂々と宣告した。

「メロビクス王大国国王キルデベルト八世陛下。あなたには、罪を償っていただく」

 国王は、ゆっくりと顔を上げ、『わからない』といった風に首を横に倒した。

「罪だと? 一体何の事だ?」

「あなたの行いです。あなたには……死んでいただく!」

「死! 死……。死か!」

 俺が死を宣告すると、国王は呼吸を荒げ憎悪に満ちた目で俺をにらみだした。

「フリージアの小僧! 汚らわしい平民の血をひく偽物の王族が、何を言うか! 歴史ある我が国を奪い! この玉座を汚すつもりか!」

「何とでも、お好きに申されよ。お覚悟を!」

「ふざけるな! ワシに何の罪があると言うのか! 小国が大国に従うのは必然! 我らはメロビクス王大国! 世界に冠たる輝かしい文化を誇る大国ぞ! ひかえよ! 小僧!」

「状況をご理解いただけないようで残念です」

「うるさい! フリージアを呑み込まんとして何が悪い! 戦を仕掛けて何が悪い!」

「一連の戦でどれだけの将兵が命を落としたと……。少しは、哀悼の意でも口にしてみては?」

「平民の兵士がいくら死のうが、知った事ではない。そんな事で罪に問われるなど、おかしいではないか!」

 最後の最後で、醜く騒ぎ立てるか……。
 この人にとっては血筋や血統……、そういったご立派なモノが大切なのだろう。

 世界が違うと価値観が違うのはわかっているが……。
 この人にとって他人の命など、部屋に舞うチリよりどうでも良い存在なのだろう。

 何か急に、この豪奢な部屋が、白々しく感じられてきた。
 安物の映画で見た撮影セットのように、そこに実体を感じられないのは何故だろう。



 ――ああ、早く終わらせてしまおう。



「キルデベルト八世陛下。あなたは勘違いをしている」

「勘違いだと?」

「ええ。メロビクス王大国が、どこに戦争を仕掛けようと、それは貴国の自由だ。国王としての裁量、国王として判断した結果でしょう。その事に罪を問うのではありません」

「なに……?」

 国王は、意外そうな顔をした。

 そう、俺は戦争犯罪人として、国王を裁くつもりはない。
 そんな立派な死に方は……させてやるものか!

「ミオ! 前へ!」

「……」

 ハジメ・マツバヤシに仕えていた女魔法使いミオが、後ろから進み出た。

「キルデベルト八世陛下。あなたに、死を与える者です」
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