追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

武蔵野純平

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第八章 メロビクス戦争2

第165話 グンマー・テイマーになったルーナ

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「アンジェロ少年! いるであるか?」

「黒丸師匠ー! ここでーす!」

 俺は王都の西にある魔の森で、メロビクス王大国軍を罠にはめる作業をしていた。
 すると、黒丸師匠が、俺を探しに空を飛んで来た。

 暗くなってきたし、そろそろ晩ご飯かな?

「ルーナからである! メロビクス王大国軍が動き出したのである!」

「脱出ですか!」

 敵に動きがあると、ルーナ先生から報告が入った。

 王宮に閉じ込めたメロビクス王大国軍もバカじゃない。
 食料がなく、友軍が来援しないとなれば、当然脱出をする。

 脱出作戦は行われると予想していたが、思ったより早かった。
 俺たちは、二、三日後と予想していたが、どうやら敵軍の主将は決断が早いようだ。

「アンジェロ少年。打ち合わせ通りであるか?」

「はい。王都からあえて脱出させます」

 王宮や市街地の被害を軽減する為に、王都からメロビクス王大国軍をあえて脱出させることにした。

 そして、ここ魔の森で仕留める……。

 メロビクス王大国軍が通った魔の森の間道は、既にわかっている。
 情報部のエーベルバッハ男爵から、情報提供があったのだ。

 入り口は、木が密集して分かりづらいが、人が通れる道があった。

「眠気は大丈夫であるか?」

「なんとか! これが終わったらゆっくり寝ますよ」

 今日は、午前中に軽く仮眠をとって、午後から魔の森で準備をしていた。

 準備していたのは、またも壁だ。
 土魔法で魔の森の間道近くに、四メートルほどの壁を作っておいた。

 メロビクス王大国側の魔の森出口は、既に我が軍が抑えてある。
 間道を逃げても、魔の森を逃げても、敵兵は我が軍の前に誘導されるのだ。

 そこで武装解除するか……。
 それとも、殲滅するか……。

 メロビクス王大国軍の出方次第だ。

 黒丸師匠が、ニヤリと笑う。

「アンジェロ少年は、こういう悪い事の準備には抜かりないのである」

 俺もニヤリと笑って、言葉を返す。

「黒丸師匠に言われたくないです」

 本当に、ルーナ先生と黒丸師匠は、こういうイタズラが大好きだ。
 今日も一日中、二人で交代しながら降伏勧告を行っていた。

「心理作戦は、下ごしらえがキモなのである」

「心理作戦という名の『イタズラ』や『嫌がらせ』ですけどね」

 俺は肩をすくめ、おどけてみせた。

「「「グアアアア!」」」

 俺のすぐ横で、大木につながれた三匹のグンマークロコダイルが鳴き声をあげた。
 この三匹は、シメイ伯爵領でルーナ先生が捕まえてきたのだ。

 このクソ忙しいときに、ワザワザ転移させられた。

「グンマークロコダイルたちも、やる気である!」

「これ……本当に大丈夫ですか? 昨日のヤツより大きいですよ……」

 そうなのだ。
 昨日、ルーナ先生が振り回していたグンマークロコダイルは、二メートル級だった。

 ところが、今日ルーナ先生が捕まえてきた三匹は、いずれも四メートル級。
 グンマークロコダイルじゃなくて、もう、亜竜と呼んでも良い迫力だ。

「ルーナ先生は、テイム出来るようになったと言っていましたが……。これ、テイム出来るモノでしょうか?」

「「「グアアアア!」」」

 グンマークロコダイルが、三匹揃って俺に吠える。
 俺が魔法を発動すれば、一発で倒せるけれど、それでもちょっと怖い。

「ルーナは、グンマー・テイマーになったのである!」

「……変な二つ名をつけるのは止めましょう」

 俺たちは、メロビクス王大国軍の脱出に備える為、王宮近くへ戻った。


 *


 一方、王宮に閉じ込められたメロビクス王大国軍は、脱出の準備が整っていた。
 彼らも、上空から監視されていることは、既に気が付いていた。

 そこで、策を立て、王宮を囲む壁の東西南北四カ所に、等しく兵士を配置していた。

 副官が宰相ミトラルに作戦開始を告げる。

「宰相閣下! それでは、脱出作戦を開始いたします!」

「うむ、始めよ」

 副官の合図で、伝令が四方へ散った。

 王宮を囲う石壁の内側、東西南北の四カ所でほぼ同時に鎚やノミで、石壁を削る音が聞こえ始めた。

 兵士たちは交代しながら目の前の石壁を削る。

「人一人が這い出る隙間があれば良い!」
「手が痺れるから、無理をするな!」
「交代する人員はいるのだ!」

 指揮官たちは兵を鼓舞する。

『魔法がダメなら物理で、どうだ?』

 メロビクス王大国軍の努力は結ばれるかにみえた。
 だが……。

「ああ! チクショウ! 穴を魔法でふさぎやがった!」

 上空で監視をしている異世界飛行機グースが、メロビクス王大国軍の位置をエルフたちに教えていた。

 エルフたちは、魔道具士であるが、初級の土魔法が使える者もいる。
 グースから教えられた場所で石壁に耳をつければ、石を削る音がする。

 エルフたちが、音のする方向へ向けて土魔法を発動した為、開けられた穴はすぐにふさがれたのだ。

「あきらめるな!」
「時間は、まだある!」
「我慢比べだ! 一晩中、掘ってやれ!」

 メロビクス王大国軍は、兵をこまめに交代し、士官が兵を励ます。
 そして、穴を掘り出すと、魔法で穴がふさがれる。

 その様子は、メロビクス王大国軍の伝令がすぐに副官に伝えた。

 この一見すると無駄にみえる穴掘り作業は、メロビクス王大国軍の欺瞞工作、囮である。

 伝令からの報せを聞いて、副官はニヤリと笑った。

「宰相閣下。敵は、穴掘りに注意を向けています」

「計画通りだな!」

「はい……。それでは、一気に行きます!」

「ヨシッ! やれ!」

 建物に隠れていた百人の魔法使いが、一斉に駆け出す。

 目標は西門近くの石壁。
 穴を開ければ、魔の森まで逃げやすい場所が狙いだ。

 兵士たちが、穴を掘る場所から、少し離れた場所で魔法使いたちが、三人並んで次々に魔法を発動する。

「砂化!」
「砂化!」
「砂化!」

 魔法使いが土魔法『砂化』を発動すると、石壁内に埋め込まれた魔石が反応して淡い光が漏れる。

 魔法使いは、自分の魔力が切れるまで連続して『砂化』を発動し、次々にレジストされる。

「もう、魔力がない!」
「交代だ!」
「頼む!」

 前列が終わると、次の魔法使いが石壁に手をつき『砂化』の魔法を発動する。

 こうして魔法使いが交代し連続して魔法を石壁に撃ち込むことで、石壁に埋め込まれた魔石があっという間に減ってしまった。

 そしてついに――。

「空いたぞ!」
「脱出だ!」
「急げ!」

 人が三人並んで出られる程度の、横幅三メートル、高さ三メートル程度の穴が石壁に出現した。
 石壁のごく一部を砂化することに成功したのだ。

 開けられた穴に、メロビクス王大国軍精鋭部隊が突撃した。
 防壁外部に出た精鋭部隊は、壁際で魔法を発動するフリージア王国軍のエルフたちを発見した。

「蹴散らせ!」
「エルフだ! 魔法が来るぞ!」
「ミスリルの盾を前に出せ!」

 フリージア王国軍のエルフたちは、ファイヤーボールなどの属性魔法で応戦したが、ミスリルの盾に弾かれてしまう。

「おお! 相手は数が多いな! 接近戦はこちらに不利……。ここは撤退だ!」

 フリージア王国軍エルフ部隊のラッキー・ギャンブルは、即座に撤退を指示した。

『敵が石壁を破ったら撤退』

 アンジェロが事前に指示した通りだった。

 空からブラックホークが舞い降り、次々とエルフを収容して空に舞い上がる。

「クソッ! エルフに逃げられた!」
「逃げた敵に! 構うな! 脱出口を確保せよ!」

 精鋭部隊は脱出口を守り、壁の内部から次々にメロビクス王大国軍兵士が逃げ出してきた。

「お先に!」
「ご武運を!」
「おう! おまえらもな!」

 挨拶を交し、王都の市街地へと消えるメロビクス兵たち。
 目指すは母国メロビクス。
 そこへ通じる魔の森にある間道である。

 結局、メロビクス王大国軍は、西側の石壁に五カ所の脱出口を作る事に成功した。
 東西南北に分かれていた兵士は、西側に集合し五カ所の脱出口から外に出た。

 王都の市街地を駆け抜け、魔の森に向かう。

「やった!」
「魔の森だ!」
「あの道を進めば、故郷に帰れるぞ!」

 兵士たちは、口々に喜び叫んだ。

 ――魔の森の中に、ルーナ・ブラケットたちが待ち構えているとも知らずに。
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