追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

武蔵野純平

文字の大きさ
上 下
85 / 358
第五章 メロビクス戦争

第85話 国王の反乱

しおりを挟む
 俺、じい、黒丸師匠は、アンジェロ隊の天幕に戻ってきた。

 天幕の周りは賑やかだ。
 ルーナ先生が料理をし、白狼族のサラが手伝い、その周りを獣人の少女二人がグルグルとはしゃぎ回っている。

 なんだがホンワカする光景だ。
 心が温かくなる。

「獣人の子は、元気ですね」

「うむ。ルーナになついているのである」

 黒丸師匠も目を細める。

 ルーナ先生は、一見すると冷たくてとっつきにくいが、実は面倒見が良くて優しい。
 子供に良くなつかれるのだ。
 白狼族のサラもルーナ先生になついている。

「アンジェロ様。あの子らは、いかがするおつもりでしょうか?」

 不機嫌だったじいが、いつもの口調に戻った。
 どうやら、じいも子供たちを見てほっこりしたらしい。

「ニアランド王国側が良いなら、うちで引き取ろうか?」

「……」

 じいが珍しくジトっとした目をする。
 何だろう?

「えっ!? じい、何?」

「引き取るのは構いませんが……お手つきは困ります」

 お手つき――つまり、『女に手を出す』、『夜のお相手をさせる』ということだ。
 じいは、なぜそんな発想をするのだろうか。

「お手つきって……、じい! 俺に幼女趣味はないぞ!」

「幼女趣味はなくとも、獣人趣味はおありでしょう? 以前、アンジェロ様は獣人の侍女を、いたく気に入っておいででした」

「フランの事? フランは結婚退職したぞ」

 俺が小さい頃に面倒を見てくれた豹族の侍女、フランの事を言っているらしい。
 フランは既に結婚退職している。
 今は、夫婦で王都に住んでいると聞く。

 フランは獣人の中でもかなり人化している方で、ネコミミで尻尾モフモフの美人さんだった。

 まあ、確かにお気に入りの侍女だったが……。
 よく抱っこしてもらったし、おっぱいも柔らかかったし。

 だが、何もないぞ!
 というより、子供だから、何か出来ようはずがない。

「白狼族のサラも気に入っておるでしょう」

 あー、サラも好きだ。
 三角の犬耳で、フサフサの尻尾も良い。
 あれ? 俺ケモナー?

「えーと、同世代だしなあ。族長の娘だから、仲良くした方が良いだろう?」

「そのうち娶りますな」

「そうだな……」

 そこは間違いないと思う。
 俺はサラが好きだし、政治的にも白狼族のサラを娶れば、獣人三族との絆が強まる。
 アンジェロ領は安泰だ。

 じいは、走り回る獣人の子供二人に再び目を向ける。

「あの姉妹は、おそらく豹族の支族でございましょう。豹族は美人が多い獣人一族ですからな。アンジェロ様のお手がつくのかと思うと、じいは心配でございます」

 ああ、フランと同じ豹族なのか。
 そりゃ美人になるだろう。

 豹族は、獣人の中でも人が多い一族だ。
 沢山の支族に分かれていて、大陸北西部以外にも住んでいる。

「いや、まー、そのー。俺は王子だから、子孫を残す為に、夜励むのも仕事のうちと心得ているぞ」

「それは構いませんが、獣人ばかり娶るとバランスが悪うございますからな。あの子たちは、ダメです。ハイエルフ殿を娶り、白狼族のサラを娶るなら、人族も娶ってくだされ」

「わかった……」

 獣人の少女二人を眺めて癒やされていたら、何かトンデモナイ方向に飛び火してしまった。

「晩ご飯が出来た。今日は、目玉焼きはんばく」

「それがしの大好物である!」

「目玉焼きは黄身がトロトロ」

「さすがルーナである!」

 今日の夕食は、黒丸師匠が好きな目玉焼きハンバーグだ。
 ルーナ先生も黒丸師匠が来たことを喜んでいるのだ。

「わあ! 美味しい!」
「おいちい! おいちい!」

 食事が始まると、豹族の子供二人が大喜びでハンバーグを頬張った。
 親を亡くした悲しい気持ちが、少しでも慰められたなら良かった。

 ここにいる間は、美味いものを食べさせてやろう。


 *


 フリージア王国国王レッドボット二世の天幕では、宰相エノー伯爵が国王に苦言を呈していた。

「陛下! ニアランドの副将アラルコン閣下に、なんということを!」

 宰相エノー伯爵は、異変を感じていた。
 これまで国王レッドボット二世は、自分の言うことは何でも聞いていた。
 いや、自分が国王に何も言わせないでいたのだ。

 自分の後ろ盾となる隣国ニアランド王国とニアランド王国から嫁いだ第一王妃からの圧力、そして第一王子派閥の貴族たちの声。

 国王レッドボット二世は、これらを恐れて自分の言いなりだった。

 ところが、今日は、自分が意図しない発言をニアランド王国の副将へ向けて放ったのだ。

 一体、何が起こっているのか?

 国王を詰問しながら、宰相エノー伯爵は嫌な予感を覚えていた。

 宰相エノー伯爵が、一通り話し終えたところで、国王レッドボット二世が口を開いた。

「エノーよ。そちは、どこの国の人間か?」

「は?」

 宰相エノー伯爵は、国王のいつになく重く厳しい声に驚く。
 間の抜けた返事に、国王が再度問う。

「その方は何者かと聞いておるのだ。フリージア王国の人間ではないのか?」

「何をおっしゃいますか! わたくしは、フリージア王国の宰相でございます!」

 宰相エノー伯爵は強い口調で言い返すが、国王は淡々と応じた。

「そうか。昼間の軍議の態度を見ていると、そうは思えなくてな……。ニアランドの人間ではないのか?」

「陛下……ご冗談を……」

「冗談で言っておるのではない。その方の忠誠心が、どちらを向いているのか、問うておるのだ!」

 宰相エノー伯爵の背筋に冷たい汗が流れた。

 国王は、いつもと違う。
 自分の嫌な予感が的中した。

 しかし、百戦錬磨の外交官でもある宰相エノー伯爵は、動揺を外に出さず、芝居がかった動作でひざまずき心にもない言葉を口にした。

「わたくしの忠誠心は、国王陛下とフリージア王国に捧げております」

「……これまでは、その方と第一王子ポポの意見を尊重してきた。しかし、今後は第二王子アルドギスルと第三王子アンジェロの意見も聞く。二人のそばに仕える者を呼べ」

「陛下!? 急にいかがなさいましたか!?」

「こたびの戦で、第二王子アルドギスルを支持する貴族たちが多いことがわかった。ならば、アルドギスルの意見を聞くのも重要であろう?」

「いや、しかし――」

「第三王子アンジェロも見事ではないか! 領地周辺の獣人族を従え、見たこともない空飛ぶ魔道具にのって参陣した! さらに今日の軍議での態度!」

「陛下! ニアランドの副将アラルコン閣下は、お怒りでしたぞ!」

「構う物か! わしは胸のすく思いだったぞ! あのアラルコンなる者は、我が国を属国か何かと勘違いしておる! けしからん!」

「陛下!」

「わしは息子たちに勇気をもらった。もう、隣国ニアランドの都合に振り回されんぞ! ニアランドが四の五の言うなら、妃をニアランドに送り返す」

「……」

 ニアランド王国出身の妃を送りかえせば、ニアランド王国と国交の断絶もあり得る。
 その事は国王レッドボット二世もわかっていた。

 宰相エノー伯爵は、レッドボット二世の思いの強さに危機感を強くした。

(これは早く手を打たねば! ポポ様の王位継承が危うい!)


 *


 ハジメ・マツバヤシは、上機嫌だった。

「ふーん。フリージア王国って、ドロドロしてるんだね」

「はっ……王子二人の派閥に分かれているそうです」

 ハジメ・マツバヤシは、フリージア王国宰相エノー伯爵から密書を受け取った。
 戦後の外交交渉への布石をフリージア王国側が打ってきたのだ。

 ハジメ・マツバヤシは、連絡継続と面談を了承したが、宰相エノー伯爵を信用したわけではなかったのだ。
 彼は護衛騎士たちに、フリージア王国の情報収集を指示した。

 護衛騎士たちは、手分けをして情報を集め、夜になりハジメ・マツバヤシの天幕に再集合し報告を行う。

 天幕の中では、オイルランプが灯りを放つのみで、護衛騎士たちはハジメ・マツバヤシの表情を見ることは出来なかった。

 だが、声のトーンで喜んでいることがわかる。
 それも、かなり。

 どうやら自分たちの報告は有用だったらしいと、護衛騎士たちは胸をなで下ろした。

「フリージア王国宰相のエノー伯爵は第一王子派閥で、ニアランド王国とのパイプが太いか……。外交上手なんだね」

「はい。フリージア王国の外交を一手に担っているそうです」

 ハジメ・マツバヤシは、とても愉快な気分だった。
 フリージア王国内での派閥争い。
 兄弟がいがみ合い、それぞれ貴族を引き連れて権力争いを行う。

 なんと醜い。
 なんと楽しい。

 いいぞ、もっとやれ!

 どうやったら、火に油を注ぐことが出来るだろうか?
 どうやったら、もっと憎しみあうだろうか?

 新しいおもちゃを見付けたハジメ・マツバヤシは、気持ちの悪い笑みを浮かべていた。
 天幕の中の暗さが、その人外な笑顔を隠していた。
しおりを挟む
感想 124

あなたにおすすめの小説

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか

片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生! 悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした… アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか? 痩せっぽっちの王女様奮闘記。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

処理中です...