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第五章 メロビクス戦争
第78話 理解者
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「アンジェロ殿下にお目にかかりたい」
自分たちの天幕に戻り、昼食をとろうとしていると人が訪ねて来た。
四十才前後の男性が三人だ。
三人の中の一人、痩せ型でメガネをかけ黒い軍服をきっちり着込んだ男が言葉を続ける。
「先ほどの軍議におけるアンジェロ殿下のご発言に、大変感銘を受けました」
おおっ!
理解者!
「アンジェロ。三人に食事を振る舞う」
「ルーナ先生、お願いします」
ルーナ先生がジト目で三人を見る。
「ルーナ・ブラケット殿ですな? 高名な魔法使いとしてお名前は伺っております」
「貴官は?」
「第二騎士団副官のポニャトフスキ騎士爵。こちらは第二騎士団長ローデンバッハ男爵。そしてシメイ伯爵です」
「おまえたちは、運が良い。今日はチーズオムレツ」
「はて? ちー……おむれ……」
「チーズオムレツ。私とアンジェロが開発した料理。ふわふわで美味しい」
「それは美味しそうだ。ご馳走になりましょう」
三人と昼食を一緒にする事になった。
俺としても味方を増やしておきたいし、促成蒸留酒クイックの取引先開拓にもなる。
三人の訪問は歓迎だ。
ただ、三人とは面識がない。
ルーナ先生が三人の相手をしている間に、じいに三人の情報を聞く。
「じい。あの三人を知っているか?」
「はい。お三方とも戦で頼りになる御仁ですな」
「ほう」
じいが、『頼りになる』と太鼓判を押す人物が、三人も俺と話しに来てくれたのか。
不快な軍議だったが、出席して良かった。
「第二騎士団は、実戦経験が豊富な実力派の騎士団です」
「第二だよな? 実力も二番目じゃないのか?」
「いえ。実力があるのは第二騎士団です。第一騎士団は、儀仗隊……。名門師弟のコネ入団が多いお飾り騎士団ですじゃ」
「それはあまり好きになれないね」
「第二騎士団は、魔物狩りから盗賊討伐まで実働の多い騎士団です。平民出身者も多く実力主義を貫いております」
「へえ、なるほど……」
実働が多く実力主義――それなら俺が軍議で話した事、『手段を選ばず勝つ』に賛成してもおかしくない。『貴族らしい美しい戦い』には、こだわらなさそうだ。
第二騎士団長ローデンバッハ男爵は、パッと見は地味な四十男だが、バランスのとれた肉体と落ち着いた雰囲気に好感が持てる。
副官のポニャトフスキ騎士爵は、参謀タイプかな。
頭がきれそうだ。
「じい。シメイ伯爵は?」
「フリージア王国南西部の有力者です」
「領地貴族か」
「はい。南西部は森林が多く、魔物が頻繁に発生する地域で、強者を輩出する土地柄ですじゃ」
俺はフリージア王国の地図を思い浮かべる。
「南西部……地図で言うと、商業都市ザムザの左下あたり?」
「そうです。精強な兵士を率い、地元では南部騎士団と呼ばれています」
「南部騎士団ね」
俗称とは言え騎士団と呼ばれているのだ。
強いのだろう。
シメイ伯爵の領地は、アンジェロ領からは遠い。
アンジェロ領は、フリージア王国の北辺。
シメイ伯爵領は、フリージア王国の南西。
陸路での交流は難しい。
しかし、グースを使って空路でなら交流可能だ。
中央軍と地方の有力者。
このご縁は大事にしよう。
「アンジェロ。食事が出来た」
「ありがとうございます」
アイテムボックスに入れてあった四角いテーブルを出す。
あちらの人数にあわせて、俺、じい、ルーナ先生の三人がお相手する事にした。
食事は和やかに進んだ。
ルーナ先生が作ったチーズオムレツは絶品で、三人からも賞賛を受けた。
俺は聞き役に徹して、話題を振って三人に話しをさせる事に集中した。
騎士団の二人、ローデンバッハ男爵とポニャトフスキ騎士爵は、メロビクス王大国軍の侵攻に強い危機感を持っている。
副官のポニャトフスキ騎士爵が語る。
「大陸北西部は、政治的に安定していました。もちろん貴族同士の小競り合いはありましたが、大きな戦争は起きず平和が続いていたのです。それが突然メロビクス王大国軍の侵攻です……第二騎士団の中では、困惑する声がかなり出ています」
「メロビクス王大国軍の動きを、どう考えますか?」
「メロビクス王大国は、大国と名乗っている事からわかるように、大国意識の強い国です。領土欲をむき出しにしたのでしょう」
「ローデンバッハ男爵は?」
「いや……参りました。ニアランド王国とメロビクス王大国の間で、大きな摩擦はなかったはずです。我らフリージア王国とも平和にやってきた。それにもかかわらず突然の侵攻……。メロビクスは大国ですので、空恐ろしいです」
俺はじいと相談して、俺たちの持っている情報を明かす事にした。
じいが落ち着いた口調で情報提供を始めた。
「我々アンジェロ隊が持っている情報をお伝えいたしましょう。メロビクス王大国では、農業生産が上がり軍備の増強が行われておりました。具体的には鉄鋼石を購入し、軍の装備を一新したのですじゃ」
副官のポニャトフスキ騎士爵が、代表して答える。
「ほう。すると兵力以上に力があると考えなければなりませんね」
「左様ですな。それから今回の出兵は、王直轄軍だけです。当初、諸侯の出兵も検討されたそうですが、反対意見が出た為、直轄軍だけで侵攻して来たのです」
「すると敵に増援はありませんか?」
「恐らく」
じいの話しが一段落したところで、俺が第二騎士団の二人に要請した。
「この情報を諸将に伝えて欲しい」
「なぜ? アンジェロ殿下が軍議でお話しになればよろしいでしょう?」
「私が軍議で話したとしても、ポポ兄上が色々文句を言うだけです」
俺が苦笑交じりに告げると、ポニャトフスキ騎士爵もローデンバッハ男爵も納得をした。
「しかし……失礼ながらアンジェロ王子は、北部に追放同然で追い出されたはず……。これほどの情報を、どのようにして?」
「じいの手配です」
「ほう……コーゼン男爵の……」
「お金はかかりましたけどね。しかし、情報には変えられません」
「その年で情報の価値をお知りとは……。先ほどの軍議でのご発言といい、感服いたしました!」
ポニャトフスキ騎士爵とローデンバッハ男爵は、感心しきりだ。
俺は気になる事を質問してみた。
「メロビクス王大国軍は、どう動くと思う?」
食料の少ないメロビクス王大国軍は、すぐに攻めてくると俺は予想している。
軍事の専門家は、どう予想するだろう?
俺は判断に必要な情報を付け加えた。
「メロビクス王大国軍の食料集積所は三カ所あった。朝一のアンジェロ隊の攻撃で、三カ所の食料はパアになった」
ポニャトフスキ騎士爵が、すかさず質問を返す。
「すると敵に残る食料は、兵が手持ちの食料、従軍商人が持つ食料、アイテムボックス持ちの兵士や騎士が保管している食料ですな?」
「そうだ」
「するともって数日ですな……」
最初にローデンバッハ男爵が予想を口にした。
「私が敵の指揮官だったら、速攻をしかけます。先ほどの軍議でアンジェロ殿下がおっしゃった通り、兵数は互角ですが地形は敵に有利です。時間が経てば経つほど、食糧不足で敵は弱体化しますから、早仕掛けが吉でしょう。」
「なるほど。ポニャトフスキ騎士爵の予想は?」
ポニャトフスキ騎士爵が、顎に手を当てて考える。
「私は食料調達を行うと思います」
「食料調達?」
「略奪と後方からの輸送です」
俺はポニャトフスキ騎士爵の発した嫌な言葉『略奪』に眉をひそめた。
自分たちの天幕に戻り、昼食をとろうとしていると人が訪ねて来た。
四十才前後の男性が三人だ。
三人の中の一人、痩せ型でメガネをかけ黒い軍服をきっちり着込んだ男が言葉を続ける。
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「ルーナ先生、お願いします」
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「第二騎士団副官のポニャトフスキ騎士爵。こちらは第二騎士団長ローデンバッハ男爵。そしてシメイ伯爵です」
「おまえたちは、運が良い。今日はチーズオムレツ」
「はて? ちー……おむれ……」
「チーズオムレツ。私とアンジェロが開発した料理。ふわふわで美味しい」
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俺としても味方を増やしておきたいし、促成蒸留酒クイックの取引先開拓にもなる。
三人の訪問は歓迎だ。
ただ、三人とは面識がない。
ルーナ先生が三人の相手をしている間に、じいに三人の情報を聞く。
「じい。あの三人を知っているか?」
「はい。お三方とも戦で頼りになる御仁ですな」
「ほう」
じいが、『頼りになる』と太鼓判を押す人物が、三人も俺と話しに来てくれたのか。
不快な軍議だったが、出席して良かった。
「第二騎士団は、実戦経験が豊富な実力派の騎士団です」
「第二だよな? 実力も二番目じゃないのか?」
「いえ。実力があるのは第二騎士団です。第一騎士団は、儀仗隊……。名門師弟のコネ入団が多いお飾り騎士団ですじゃ」
「それはあまり好きになれないね」
「第二騎士団は、魔物狩りから盗賊討伐まで実働の多い騎士団です。平民出身者も多く実力主義を貫いております」
「へえ、なるほど……」
実働が多く実力主義――それなら俺が軍議で話した事、『手段を選ばず勝つ』に賛成してもおかしくない。『貴族らしい美しい戦い』には、こだわらなさそうだ。
第二騎士団長ローデンバッハ男爵は、パッと見は地味な四十男だが、バランスのとれた肉体と落ち着いた雰囲気に好感が持てる。
副官のポニャトフスキ騎士爵は、参謀タイプかな。
頭がきれそうだ。
「じい。シメイ伯爵は?」
「フリージア王国南西部の有力者です」
「領地貴族か」
「はい。南西部は森林が多く、魔物が頻繁に発生する地域で、強者を輩出する土地柄ですじゃ」
俺はフリージア王国の地図を思い浮かべる。
「南西部……地図で言うと、商業都市ザムザの左下あたり?」
「そうです。精強な兵士を率い、地元では南部騎士団と呼ばれています」
「南部騎士団ね」
俗称とは言え騎士団と呼ばれているのだ。
強いのだろう。
シメイ伯爵の領地は、アンジェロ領からは遠い。
アンジェロ領は、フリージア王国の北辺。
シメイ伯爵領は、フリージア王国の南西。
陸路での交流は難しい。
しかし、グースを使って空路でなら交流可能だ。
中央軍と地方の有力者。
このご縁は大事にしよう。
「アンジェロ。食事が出来た」
「ありがとうございます」
アイテムボックスに入れてあった四角いテーブルを出す。
あちらの人数にあわせて、俺、じい、ルーナ先生の三人がお相手する事にした。
食事は和やかに進んだ。
ルーナ先生が作ったチーズオムレツは絶品で、三人からも賞賛を受けた。
俺は聞き役に徹して、話題を振って三人に話しをさせる事に集中した。
騎士団の二人、ローデンバッハ男爵とポニャトフスキ騎士爵は、メロビクス王大国軍の侵攻に強い危機感を持っている。
副官のポニャトフスキ騎士爵が語る。
「大陸北西部は、政治的に安定していました。もちろん貴族同士の小競り合いはありましたが、大きな戦争は起きず平和が続いていたのです。それが突然メロビクス王大国軍の侵攻です……第二騎士団の中では、困惑する声がかなり出ています」
「メロビクス王大国軍の動きを、どう考えますか?」
「メロビクス王大国は、大国と名乗っている事からわかるように、大国意識の強い国です。領土欲をむき出しにしたのでしょう」
「ローデンバッハ男爵は?」
「いや……参りました。ニアランド王国とメロビクス王大国の間で、大きな摩擦はなかったはずです。我らフリージア王国とも平和にやってきた。それにもかかわらず突然の侵攻……。メロビクスは大国ですので、空恐ろしいです」
俺はじいと相談して、俺たちの持っている情報を明かす事にした。
じいが落ち着いた口調で情報提供を始めた。
「我々アンジェロ隊が持っている情報をお伝えいたしましょう。メロビクス王大国では、農業生産が上がり軍備の増強が行われておりました。具体的には鉄鋼石を購入し、軍の装備を一新したのですじゃ」
副官のポニャトフスキ騎士爵が、代表して答える。
「ほう。すると兵力以上に力があると考えなければなりませんね」
「左様ですな。それから今回の出兵は、王直轄軍だけです。当初、諸侯の出兵も検討されたそうですが、反対意見が出た為、直轄軍だけで侵攻して来たのです」
「すると敵に増援はありませんか?」
「恐らく」
じいの話しが一段落したところで、俺が第二騎士団の二人に要請した。
「この情報を諸将に伝えて欲しい」
「なぜ? アンジェロ殿下が軍議でお話しになればよろしいでしょう?」
「私が軍議で話したとしても、ポポ兄上が色々文句を言うだけです」
俺が苦笑交じりに告げると、ポニャトフスキ騎士爵もローデンバッハ男爵も納得をした。
「しかし……失礼ながらアンジェロ王子は、北部に追放同然で追い出されたはず……。これほどの情報を、どのようにして?」
「じいの手配です」
「ほう……コーゼン男爵の……」
「お金はかかりましたけどね。しかし、情報には変えられません」
「その年で情報の価値をお知りとは……。先ほどの軍議でのご発言といい、感服いたしました!」
ポニャトフスキ騎士爵とローデンバッハ男爵は、感心しきりだ。
俺は気になる事を質問してみた。
「メロビクス王大国軍は、どう動くと思う?」
食料の少ないメロビクス王大国軍は、すぐに攻めてくると俺は予想している。
軍事の専門家は、どう予想するだろう?
俺は判断に必要な情報を付け加えた。
「メロビクス王大国軍の食料集積所は三カ所あった。朝一のアンジェロ隊の攻撃で、三カ所の食料はパアになった」
ポニャトフスキ騎士爵が、すかさず質問を返す。
「すると敵に残る食料は、兵が手持ちの食料、従軍商人が持つ食料、アイテムボックス持ちの兵士や騎士が保管している食料ですな?」
「そうだ」
「するともって数日ですな……」
最初にローデンバッハ男爵が予想を口にした。
「私が敵の指揮官だったら、速攻をしかけます。先ほどの軍議でアンジェロ殿下がおっしゃった通り、兵数は互角ですが地形は敵に有利です。時間が経てば経つほど、食糧不足で敵は弱体化しますから、早仕掛けが吉でしょう。」
「なるほど。ポニャトフスキ騎士爵の予想は?」
ポニャトフスキ騎士爵が、顎に手を当てて考える。
「私は食料調達を行うと思います」
「食料調達?」
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