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第五章 メロビクス戦争

第77話 抜け駆け禁止

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 俺は落下しながら考える。

 これって異世界初の空挺降下作戦になるのかな?

 そういえば、陸上自衛隊にも空挺部隊があった。
 なんでも訓練中にパラシュートが開かないで、地面に激突した隊員がいたらしい。
 ところが何事もなかったように、そのまま訓練を続けたそうだ。

 それ、パラシュートいらないよね?
 どれだけ鍛えたら、そんな事が出来るのだろう。

(おっと! 地面が近づいてきた!)

 飛行魔法を発動して、減速する。

 白い天幕のすぐ近くに降り立ったが、警備の兵士は見当たらない。
 辺りは騒ぎになっていた。

「オイ! 煙が上がっているぞ!」
「誰か敵を見たか?」
「騎馬隊の突撃らしい!」
「隠密部隊の奇襲と聞いたぞ!」

 デマも広がって、メロビクス王大国軍の混乱に拍車がかかっている。
 俺はそっと食料集積場所の大きな天幕の中に入る。

(誰もいないな……)

 目の前には大量の食料が山積みになっている。

 樽はワインか。
 これは蒸留してクイックにしよう。
 持って帰れば、エルハムさんが喜ぶ。

 この木箱は……卵、こっちの木箱はチーズにバターか。
 これはルーナ先生だな。
 料理作りがはかどる。

 袋は小麦だろう。
 ジョバンニが喜ぶ。
 獣人三族にも分けてやろう。

 天幕の中の食料を全てアイテムボックスに収納し、俺は転移魔法で自分のテントに戻った。
 外に出るとグースが空から戻ってきた。

 白狼族のサラがグースから飛び降り駆け寄ってきた。

「オイ! アンジェロ! どうだった?」

「成功だよ。大天幕一つ分の食料が手に入った」

「そうか!」

「サラの攻撃も成功したね! 見ていたよ。お見事!」

「おう!」

 サラがニパッと笑った。
 一人一人に声をかけていく、初出撃の成功に皆喜び、特にリス族は誇らしげに胸を反らせた。

「ルーナ先生。卵とチーズ、それにバターが手に入りました」

「素晴らしい戦果。お昼はチーズオムレツにする」

 ルーナ先生は、いつものジト目だが、頭を左右に揺らしている。
 喜んでいるな。

 しばらくワイワイやっていると、伝令がやってきた。

「アンジェロ殿下は、いらっしゃいますか? 軍議にご出席下さい!」

 また軍議か。
 昨日もやっただろう。

 とは言え、行かないわけにもいかない。

 ルーナ先生は、昼食の支度に忙しい。
 リス族のパイロットとキューは、グースの整備だ。

 じいをお供に、サラとボイチェフを護衛として連れて軍議に向かった。
 道すがら、じいとグースについて話す。

「じい。グースは実戦で使えそうだね」

「左様でございますな。魔法攻撃は、他の魔法使いでも通用するでしょう」

「うんうん」

「しかし、サラ、ボイチェフ、キューの油壺を使って火をつける攻撃は、危なっかしいですな」

「うーん、敵と近いよね」

「敵がグースの攻撃に慣れてきたら、弓隊や魔法使いで反撃するでしょう」

「グースは防御力が弱いから……課題だな」

 異世界飛行機グースは、エルフの魔道具を使ってコクピット周りに魔法障壁を展開している。
 しかし、風を受ける翼やプロペラはむき出しだ。
 翼はワイバーン素材なので、多少の攻撃は大丈夫だが、プロペラは木製なのだ。
 ここに攻撃を受けるとまずい。

 かといってプロペラを金属製にすると、重量が増加してしまい飛行に悪い影響が出る。
 うーん……。
 機体の改良よりも、機体運用――つまり敵に近接しないように、グースを使っていくしかない。

 軍議が開かれる大天幕に到着した。
 中に入ると既にずらっと貴族たちが席に着いている。

「お待たせして申し訳ございません。第三王子アンジェロで――」

「アンジェロ! 貴様! 何をやっておるか!」

 遅参をわびようとしたら、いきなりポポ兄上に怒鳴られた。
 まだ席にも着いていない。立ったままだ。

「一体何のことでしょう?」

「オマエのヘンテコな魔道具が空を飛んだ後、敵陣に火の手が上がったというぞ!」

「ええ。敵陣を攻撃してきましたが、何か?」

 俺は平然と答えたが、ポポ兄上は額に青筋を浮かべ一層怒りだした。

「何かではない! 貴様! 勝手に戦端を開いたな!」

「後方の食料を焼いてきただけですよ。ポポ兄上が『アンジェロは好きにいたせ』とおっしゃったので、好きに行動したのですが――」

「うるさい! うるさい!」

 ポポ兄上がヒステリーを起こし、辺り構わず怒鳴り散らし始めた。
 わがままそうな人だなとは思っていたけれど、癇癪持ちなのか……。
 これでは軍議にも、話し合いにもならない。

 仕方ないので、俺はポポ兄上を無視して、持論を展開してみる事にした。

「敵の食料を減らせば、敵は飢える。体力と士気を落とす。正面から戦うだけが、戦ではないと私は思うが、諸将の考えや如何に?」

 俺の問いに、あまり好意的な反応は得られなかった。
 幾人かは意外そうな顔をしているが、ほとんどの人は口をへの字に曲げ眉間にしわを寄せている。

 やはり理解されないのか。
 戦場で騎士らしく戦う――そんな価値観が根強いのだろう。
 補給を圧迫する戦術は、この異世界では早すぎるのかもしれない。

 先駆者は理解されないのだ。

 ポポ兄上は、俺が食料を狙って攻撃したと聞いて、さらに俺を非難する。

「貴様! そのような卑怯な真似を!」

「卑怯でも何でも、勝てばよろしい。敵は大国メロビクスです」

「それが、どうした! 我らは二カ国の連合軍だぞ! 戦力は互角だ!」

「敵の主力は強力な重装騎兵で、戦場は騎兵に有利な平原です。さらに、味方は連合軍とおっしゃいますが、連携はとれているのでしょうか? とれていないでしょう? 合同の軍議も開いてないですよね?」

「やかましい! 初陣の素人は黙っていろ!」

「素人目に見ても味方が不利! ならば手段を選ばず、美しくなかろうとも勝ちをつかみに行くべきだ、と申し上げているのです! あれ!? そういえば……ポポ兄上だって初陣でしょう!?」

「うるさーい! この平民腹が! むさ苦しい獣人など連れてくるな!」

「兄上! 母を侮辱するのは、お止め下さい! それに、この二人は族長の娘と息子です。私とは協力関係にあります。協力者には相応の礼があって、しかるべきでしょう!」

「死ねー!」

 ポポ兄上が発狂した。
 手元のカップを俺に投げつけ、隣にすわっていた者が慌てて止める。

 投げつけられたカップは、白狼族のサラが軽々とキャッチした。
 俺の前に素早く回り込んだのだ。

 サラもポポ兄上の言いようには腹が立ったのだろう。カップを投げ返そうとするのを止めた。

 まったく軍議の場で物を投げつけるとは……。

 だが、ポポ兄上とやり合って良かった事もある。
 あちこちで議論が活発になったのだ。

「確かに平原では騎馬の方が有利だ……」
「とは言え、ここで踏ん張らねば、同盟相手のニアランド王国が滅びかねない」
「いや、だからと言って、卑怯な手は――」
「別に良いのではないか?」
「やれやれ。貴族としての矜持を持たぬか。田舎者はこれだから――」
「貴様!」

 議論が熱くなってきたところで、宰相エノー伯爵が、手を叩いて場をしずめた。

「皆が好き勝手に発言しては困ります。この軍議は、先ほど敵陣に上がった火と煙の正体を確認する事です。アンジェロ殿下が抜け駆けされたと確認が取れました」

 抜け駆けか……。
 まあ、確かに、そうなるよな。
 悪いとは思っていないが。

 エノー伯爵は続ける。

「現在、我が軍の体制は、整っていません。まだ、到着をしていない諸侯もいます。全面対決は今少し後に……。ですので、各々方、抜け駆けはお控え下さるようお願いします。では、これにて解散!」

 釘をさされて、解散となった。
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