上 下
53 / 358
第三章 領地開発

第53話 ドラゴニュートの尾

しおりを挟む
 ミスル国の首都レーベにやって来た。
 マイル川沿いの歴史ある町だ。
 建物は日干しレンガ造りで、あまり美しいとは言えない。

 だが、食べ物は美味い!
 香辛料や砂糖が安価なせいだろう。
 味付けがしっかりしている。

 ミスル国ラムセス国王への面会依頼は、すんなり通った。
 俺たちは宮殿に招かれ謁見の間に通された。
 国王との謁見なので、王子の俺、男爵のじい、ギルド長の黒丸師匠の三人だ。

 白い石造りの宮殿は美しく、間口が明け放されているので川から風が吹き抜けて涼しい。
 開放的な雰囲気は、南の異国に来たのだなと実感させられる。

 謁見の間はとにかく広い。
 体育館よりも広いな。サッカーが出来そうだ。
 その広い謁見の間に多種多様な種族、人種が詰めかけている。

 ライオン型の獣人や地球世界で言うアフリカ系の人族もいる。
 フリージア王国近辺では、見かけないな。

 さすが歴史ある大国だ。
 広い国土に多種多様な種族が住んでいるのだろう。

 俺たちは謁見の間に通されると、ど真ん中に立って待つように言われた。
 しばらくして、ミスル国王の来場が告げられる。

「太陽の子にして、この世界で唯一の偉大なる王! ラムセス七百七十七世陛下、ご入来!」

「すげえ……、七七七って……」

「ハッタリでございますよ」

 俺がボソリと呟くと、じいが直ぐに修正情報をくれた。
 なんだよ。権威付けの為に、盛っているのか!

「仲の悪いギガランド国が七七六世なら、ミスルが七七七世にする。するとギガランドは……」

「七七八世にすると……、二国で競り合った結果増えて行ったのか……」

 謁見の間の奥の白い幕がめくりあげられて、ミスル国王が入って来た。
 四十才位の人族で痩せぎすの男だ。

 白のゆったりした布を体に巻き付けて、黄金の腕輪や黄金の髪飾りを付けている。
 黄金づくりの豪奢な装飾品は、さすが大国! と思わせられる。

 だが、国王さんの貧相な口ヒゲがマイナスポイントだな。
 小物感を漂わせて、あれがすべてをぶち壊している。

「遠方よりよくぞいらした。ミスル国は貴殿を歓迎するぞ。余がラムセスじゃ」

 黄金の椅子に座るとミスル国王は、甲高い声で話しかけて来た。
 ちょっと嫌な感じを受けたが、礼法に則った挨拶を返す。

「突然の訪問にもかかわらずご尊顔を拝す機会を頂戴いたしました事を感謝いたします。フリージア王国第三王子アンジェロでございます」

「うむ。アンジェロ殿からの希望は書面で確認した。そちが買い取ったミスル国兵士の家族とエルハム・メネヒブクカウラの母親を連れ帰りたいとの事じゃな?」

「左様でございます」

「ふむ。ふむ。ふむ。どうしたものかのう。どうしたものかのう」

 な、なんだ?
 ミスル国王は、頭を左右に振って大袈裟に悩む芝居を始めたぞ。
 これって駆け引きなのかな?

「さ、些少ではございますが、もし必要であれば金貨のお支払いもいたしますが?」

「いや! 遠方からわざわざ来た異国の王子にそのような事ものう。無粋であろう。のう? のう? のう? のう?」

 何だろう?
 国王さんの周りの家臣に話を振っているよ。

 あ、これは『フリ』なのか?
 じゃあ、そろそろ話を振られた家臣が、条件を出してくるのかな?

 太ったハゲ頭の大臣らしき人が話し出した。

「国王陛下! ようございましょうか?」

「苦しゅうない! 申してみよ!」

「アンジェロ王子は、幼いながら冒険者としても卓抜した技量と豊富なご実績をお持ちと聞いております」

「ほう! 冒険者とな!」

「何でも『王国の牙』という無敵のパーティーを率いていらっしゃるとか」

「ほう! 『王国の牙』とな!」

 いや、これ絶対に事前打ち合わせをしていただろう。
 芝居がクサすぎるぞ。

「アンジェロ王子には、その冒険者としての力でもってミスル国にご貢献を頂き。その実績をもって国王陛下が願いをかなえると言うのはいかがでしょうか?」

「ほう! なるほど~。それは名案であるな!」

 つまり俺に何かして欲しいのね。
 魔物退治かな?

「私に出来る事なら微力を尽くしますが……。私はフリージア王国の王子ですので、貴国ミスルでは外国の王族になります。ですので、あまり派手な活動は如何なものかと……」

 戦争に参加させられてはたまらないので、やんわりと釘を刺す。すると大臣が、間髪入れずに代案を出してきた。

「なるほど。それでしたら『冒険者のアンジェロ』としてお引き受け下さいませんか? そうすれば後々外交問題にもなりません」

「ふむ! それは名案であるな!」

 まあ、そっちがそれで良いなら、俺の方は構わないけど。
 何をさせる気なのかによるな……。

「わかりました。冒険者のアンジェロ、『王国の牙』としてご相談を受けましょう。それで我々に何を?」

 ミスル国王と太った大臣が、目を見合わせてニヤリと笑った。
 太った大臣が大声で相談内容を告げた。

「砂竜を退治して頂きたい!」

「砂竜?」

 聞いたことがないな……。
 名前からして竜種だと思うけれど……。
 俺の後ろに控える黒丸師匠をチラリと見たが、黒丸師匠も知らない様子で首を振った。

「詳しい状況をご説明下さい」

「我が国南部にミスリル鉱山がございます。そのミスリル鉱山手前の砂漠地帯に砂竜が現れたのです。現在ミスリルの採掘作業が止まっており、非常に難儀をしています」

 砂漠に出る竜で砂竜か……。
 あ、背中の方でブワリとやる気を感じた。
 黒丸師匠がやる気になっているな。

「砂竜の詳しい情報はありますか?」

「三匹の砂竜が確認されておりますが、もっといるのではないかと睨んでいます」

「なるほど……」

 複数頭いると言う事は、ワイバーンなんかと同じ亜竜かもしれない。
 竜種は縄張り意識が強いから、複数頭現れる事は滅多にないのだ。
 だが、亜竜は複数頭で縄張りを維持する事がある。

 亜竜数匹なら、俺と黒丸師匠の二人でも討伐可能だろう。
 引き受けても良いかな……。

「アンジェロ殿への依頼は、この砂竜を討伐する事です。砂竜の素材と魔石は、我が国の所有といたします」

「え!?」

 それは……、ちょっとおかしいな。
 冒険者に討伐依頼を出した場合は、討伐した魔物の素材や魔石は冒険者の物になる。
 冒険者ギルドが定めたルールだ。
 知らないのかな?

「あの……、ご存知ないのかもしれませんが、討伐した魔物の素材や魔石は討伐した冒険者の所有物なのですが……」

「いや! それはいけません! 砂竜は我がミスル国領内に現れたのですから、所有権は当然我が国にございます」

「いや、冒険者ギルドではですね。そういうルールにはなってないのですよ。魔物素材は討伐した人間の物になるのですよ」

「いえいえ! アンジェロ王子、それはいけません! 砂竜の素材は我が国の物です!」

 太った大臣は強気だな。引く気が全くない。
 国王の方は半笑いで俺と大臣のやり取りを眺めているだけだ。

 どうやら二人は俺にタダ働きをさせたいらしい。
 砂竜を倒して貰って、素材や魔石も頂いて一石二鳥のつもりなのだろうな。

 うーん……。
 国王と大臣のやり口には腹が立つが、『ミスル国兵士の家族とエルハムさんの母親を連れ帰りたい』と頼み事をしているのはこっちだからな。

 その弱みに付け込んで来たか……。
 どうした物かな……。

「さあ! アンジェロ王子! お引き受け頂けますかな?」

 太った大臣が一層声を張って俺に詰め寄った。
 すると俺の背後から黒丸師匠が常にない冷たい声で話し出した。

「認められないのである」

「はっ!? 今なんと?」

「さっきから黙って聞いていれば何であるか! それがしは商業都市ザムザのギルドマスター黒丸である。『王国の牙』の前衛を務める者である」

「チッ! お名前は伺っております……」

 大臣は舌打ちして、黒丸師匠を睨みつけた。

「大臣殿は先ほど『冒険者のアンジェロ』に相談すると言ったのである。それならば、本件はミスルの冒険者ギルドを通し、冒険者ギルドのルールに則った処理をするのである」

「いえ、ですから! 砂竜の所有権は……」

「それがしは怒っているのであるよ!」

 黒丸師匠の底冷えする声が謁見の間に響いた。
 ここは灼熱のミスル国のはずだが、真冬の北国のように寒く感じる。
 黒丸師匠が『威圧』しているからだ。

 やばいぞ!
 本気で怒っている!

「オマエたちはわかっているのであるか? それがしたちは『王国の牙』であるよ。竜種を何匹殺したと? 数えきれない程討伐したのであるよ。それがしたちにとって竜退治など、ハエを落とすに等しいのであるよ!」

『威圧』が強くなる。
 謁見場にいる貴族や兵士が、バタバタと気を失って倒れだした。

「おわかりか? 『王国の牙』は、一人一人が竜を上回る力を有しているのである。オマエたちの目の前に立っているのは、竜を超えた者なのである! この宮殿を更地に変えるなど造作もない事なのである!」

 太った大臣は、腰を抜かしてへたり込んでしまった。
 黒丸師匠は止まらない。

「オマエたちはロクでなしである! 民をかえりみず戦争を続け! 殿しんがりを務め勇戦した貴族の娘を助けず! 自分たちの国に出た砂竜の討伐を自力で出来ず! さらにアンジェロ少年に砂竜を倒して、素材をよこせとタカリをかけたのである! このクズめ!」

 先ほどから謁見場の内外で人の倒れる音が連鎖している。
 もうこの場に立っていられる人は、余程精神力が強い人だけだ。

 一部の将軍や高官と思われる人物だけが、かろうじて立っている。
 彼らは膝をガクガク震わし顔面蒼白だが、黒丸師匠の殺人的な威圧を受けたのだ。立っているだけで褒めてあげたい。

「アンジェロ少年! もう良いのである! この国自体を潰して帰るのである!」

 いや~、ここまで怒った黒丸師匠を見るのも久しぶりだな。
 ミスル国については、奴隷商でエルハムさんの話を聞いた時から怒っていたからな。
 腹に据えかねたのだろう。

「まあ、黒丸師匠。それ位で矛を収めてください。俺も一応王子なので、外国を潰したりすると色々と面倒なので……」

 黒丸師匠をなだめて辺りを見回すと、意識のある人間は数えるほどしかいなかった。
 じいは立ったまま目をクワッと開いて失神していた。

「あー、えーと。ミスルの冒険者ギルド経由で依頼を出して下さい。ちゃんと砂竜は討伐するので。それではミスル国王陛下! これにて失礼をいたします!」

 黄金の玉座で失神し失禁しているミスル国王に深く一礼して俺たちは退出した。

「金がなければ、あの金ピカの椅子を売れば良いのである!」

 黒丸師匠の怒りは、しばらく収まらなかった。
 虎の尾ならぬドラゴニュートの尾を踏み抜いた太った大臣は、泡を吹いていたな。色々無事である事を祈る。
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺わかば
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

処理中です...