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第三章 領地開発

第43話 予想外の奴隷

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「それではアンジェロ殿下。鍛冶師の奴隷を連れて参りますが……、その……、あの……、少々人格に問題がある男でして……」

 奴隷商人のベルントが、申し訳なさそうに話し出した。
 鍛冶師の奴隷は、犯罪奴隷だと言っていたが、人格にどんな問題があるのだろう?

 強面系とか?
 オラオラ系とか?

 ベルントの表情には、不安が窺える。
 ちょっと楽にしてあげた方が良いのかな。

「分かった。その辺りは会ってみてこちらで判断しよう。お前を不敬罪に問う事はせぬから安心せよ」

「ご配慮誠にありがとうございます。それでは連れて参ります」

 ベルントはホッとした様子で応接室から出て行くと、すぐに一人の男を連れて戻って来た。
 男は人族で細身、ボサボサの頭で目つきが悪い。
 部屋に入るなり小声で悪態をついた。

「ケッ! ガキじゃねえか!」

「これ! アンジェロ殿下に無礼だぞ!」

 いや、これダメだろう……。
 ベルントがせっかく探して来てくれたので、一応説明を聞いた。

 この態度の悪い男の罪状、つまり犯罪奴隷になった理由は婦女暴行だった。
 ますます好感度が下がった……、と言うより男に対する嫌悪感が増した。

 この男はお断りしよう。

「ベルント。折角用意して貰って悪いが、この男は遠慮しておこう」

「左様でございますか。ご不快な思いをさせてしまい大変申し訳ございません!」

 男はベルントに小突かれて部屋を出て行った。
 しばらくして、ベルントが戻って来て平身低頭している。

「ああ、ベルント、気にするな。鍛冶師は残念だったが……」

「本当に申し訳ございません! 鍛冶師と言えども、犯罪奴隷はダメでした……」

「うーん……。犯罪奴隷でも、心を入れ替えて真面目に働いてくれるなら受け入れても良かったのだが……」

「あの様子では、難しゅうございますね……」

「うむ。それに人族の鍛冶師だからな」

「やはりドワーフの鍛冶師がよろしいので?」

「そうだな。ドワーフの鍛冶師が必要だな」

 ドワーフと人族の鍛冶師では、レベルがかなり違う。

 鉄鉱石や銅鉱石から鉄や銅の塊を作れるのは、ドワーフの鍛冶師だけだ。
 二つ以上の金属を混ぜて合金を作る事が出来るのも、鉄剣や鉄鎧を作れるのもドワーフの鍛冶師だけだ。

 一方人族の鍛冶師は、メインテナンス系の鍛冶だ。
 剣を砥いだり、鎧の補修をしたりが仕事で、鉱石から金属を取り出したり、ゼロから鉄剣や鉄鎧を作る事は出来ない。

 もちろん人族の鍛冶師のメインテナンス仕事も大切な仕事だが、今アンジェロ領に必要なのはドワーフの鍛冶師だ。
 飛行機を作るのには、精密な金属部品の作成が欠かせないし、ウイスキー作りにも出番がある。

 仕方ない。
 鍛冶師を雇うのは宿題だ。

 奴隷商人のベルントとジョバンニが応接室の隅で、買い取り金額の交渉を始めた。
 今回買い取る奴隷は、農民家族が三人と木こり家族が四人の合計七人だ。

 以前ジョバンニから聞いた話だと、奴隷の相場は一人金貨二枚前後、日本円だと二百万円前後だという話だった。
 安くない買い物だ。

 おっ、交渉が終わったのかな?
 ジョバンニがこっちに来た。

「アンジェロ様、金額交渉が終わりました」

「いくらだったの?」

 ジョバンニからの報告だと合計額は金貨十五枚と銀貨四十枚、日本円だと一千五百四十万円だった。
 内訳は、こんな感じだ。


 農民 夫 金貨二枚と銀貨十枚《二百十万円》
 農民 妻 金貨二枚《二百万円》
 農民 女の子 金貨一枚《百万円》

 木こり 夫 金貨二枚と銀貨五十枚《二百五十万円》
 木こり 妻 金貨二枚《二百万円》
 木こり 息子 金貨二枚と銀貨八十枚《二百八十万円》
 木こり 娘 金貨三枚《三百万円》


「木こり家族が高いな」

「そうですね。夫が三十五才で息子が十八才と働き盛りで力がありますので、相場より高めです」

「なるほど。労働力として価値が高いという訳か」

「はい、そうです。それから娘はまだ十五才と若いですので。その……、若い娘は……」

「ああ、言わないで良い。わかるよ」

 そんなに可愛い娘さんじゃなかったけれど、それでも金貨三枚、日本円なら三百万円か。

「農民の女の子は安くないか? 金貨一枚だろ?」

「まだ五才ですので。これから病気で死ぬ可能性もありますし、大人になるまで食事を与えなくてはなりません。何より労働力になりませんので」

「ああ、それで安いのか……。わかった。その値段で良いよ。払ってあげて」

「かしこまりました」

 アイテムボックスから金貨と銀貨を取り出して、ジョバンニに渡す。
 ジョバンニから代金を受け取ったベルントが、満面の笑みで揉み手しながら寄って来た。

「アンジェロ殿下! お買い上げ誠にありがとうございます! 実はもう一人ぜひご覧頂きたい奴隷がおります! 非常に珍しく、貴重な奴隷でございます!」

 んん? なんだ?
 珍しい奴隷?

 ジョバンニを見たが首を振っている。
 どうもジョバンニも事前に聞いていなかったみたいだ。

「見るだけなら構わんが……」

「おお! ありがとうございます! きっとアンジェロ殿下のお気に召す事と存じます! 少々お待ちを!」

 ベルントはスキップして応接室から出て行った。
 しばらくしてベルントが女の子を一人連れて戻って来た。

 連れて来たのは飛び切り美形の女の子だ!
 透けるような白い肌に、サラサラの長い金髪、印象的な切れ長の瞳。
 白い薄いワンピース越しに体のラインが透けて見えるが、細身でスタイルも良い。

 特徴的なピンと尖った耳……って、あれ?

 尖った耳!?
 あれっ?
 あれれ?

「ちょっ! エルフじゃん!」

 思わず素で声が出てしまった。
 奴隷商人のベルントはニッコリと笑って嬉しそうに両手を広げて答えた。

「左様でございます! 今日のとっておき! エルフの奴隷でございます!」

 やばい!
 ベルントのヤツ何を考えているのだ!

「バカ野郎! エルフは奴隷にしないってのが、暗黙の了解だろうが!」

 エルフ族は同族意識が強い。
 エルフを迫害した者、奴隷にした者はエルフ族から復讐されると言われている。

 いわく、かつてエルフ族を迫害した王国があったが、王族は何者かに全て殺されてしまった。
 いわく、かつてエルフを奴隷にした領主がいたが、むごたらしい最後を遂げた。

 真偽の程はわからないが、エルフ族が密かに手を下したと言われている。
 少なくともこの大陸北西部、フリージア王国近辺の国では、エルフ族は奴隷にしない。エルフ族にいらぬちょっかいは出さないというのが不文律だ。 

 それに現実的な面でもエルフ族を敵に回すのは得策じゃない。

 魔道具はエルフ族だけが製造をしているのだ。
 エルフ族を敵に回せば貴重な魔道具が手に入りづらくなる。

 そんな理由でエルフ族自体は人口こそ少ないが、色々な影響力があるので、各国でそれなりに敬意を払われている。
 そのエルフを奴隷にするとか、正気の沙汰じゃない。

 俺が驚き固まっていると後ろで魔力が急速に盛り上がった。
 まずい! ルーナ先生だ!

「貴様! この下衆が! 死ね!」

 振り返るとゾッとするような怒りの表情をしたルーナ先生が右腕を振り下ろした。
 俺は魔法の発動を感知した。
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