上 下
24 / 358
第二章 流刑地への追放

第24話 盗賊になろう!

しおりを挟む
「盗賊!?」

 盗賊って言ってもさ……。
 奪う物は、この村にないだろう……。
 俺はジョバンニと交代して、村長さんから話を聞く事にした。

「えっと……、村長さん、この村から何か盗られたの?」

「いえ。何も盗られてはいないのですが、奴らは村の若い者を仲間に引き入れようとするのです」

 成程、『盗賊になろう!』とスカウトしに来るのか。
 それは領主の立場としても困るな。労働力が減るし、治安も良くない。

「それは問題ですね。若い人が盗賊になったら、村の働き手が減りますもんね」

「はい、そうです。若い者の中には、興味を持つ者もいて困っているのです」

 ふむ。領地の人間が非行に走るのは見逃せないな。
 それに領民の人気取りも必要だしな!

 新しい領主がバシッと盗賊を退治したとなれば、領民からの支持率アップになるだろう。
 うん。そうに違いない!

「わかった。盗賊はこちらで対応しましょう。それで、盗賊はどこにいるのですか?」

「一月ほど前に出かけて行きました。数か月すると帰ってきますので、しばらく戻って来ないと思いますが……」

「ああ、ずっといる訳じゃないのか……。それで盗賊たちは、こっちに来た時はどこにいるのかわかりますか?」

「場所はわかりませんが、いつも北の方へ向かっていきます」

「何人くらい? 歩き? 馬?」

「十人くらいです。いつも馬に乗っています」

「わかりました」

 北部王領の村を後にして、俺たちは一旦商業都市ザムザに転移していた。
 そろそろ昼時なので、昼食をとりながら黒丸師匠に相談することにした。

「……なるほど、盗賊退治であるか。アンジェロ少年が珍しくやる気を出しているのであるな。対魔物より、対人の方が好きなのであるか? 意外と血の気が多いのである!」

「変な解釈をしないで下さいよ! 俺は自分の領地に盗賊がいるのが嫌なだけですよ」

「なるほど。アンジェロ少年も、すっかり領主なのであるな。管理職の大変さを思い知ると良いのである。それがしもギルド長として、それは大変な思いをして……」

 ダメだ。黒丸師匠のボヤキが始まりそうだ。
 いつもギルドは放置して『王国の牙』で冒険しまくりなのに、どの口が言うかね。
 スキル『部下に丸投げ』を連発しているでしょうが。
 副ギルド長さんの髪の毛が最近薄くなってきたのを俺は知っているのだ!

 ボヤキが長くなってきたから、ここで話をぶった切る。

「黒丸師匠! ギルドに盗賊の情報は入って来てないですか?」

「うーん、そう言えば、北部の街道で小規模の盗賊が出るという話は、ちらほら聞いたのである。ただ、盗賊討伐依頼はどこの領主からも出ていないのであるな」

「そうですか。盗賊は十人と言っていたから、それですかね?」

「おそらくそうであるな。アンジェロ少年の領地にあるアジトは、いくつかあるアジトの一つであろうな。追手が掛かった時に逃げ込む隠れ家的なアジトと予想するのである」

「なるほど……。それで一回アジトから出ると、数か月戻って来ないのか」

 そうすると面倒だな。
 盗賊が北部王領のアジトにいれば、アジトを突き止めて急襲すれば事は終わるけど、いつアジトにいるかわからないからな。

「アンジェロ少年の領地にある盗賊のアジトを探して、近くで張り込むのが一つの手であるが……」

「何か月も待つ可能性がありますよね……」

 どうするか……よし!

「囮作戦でいきましょう!」

「囮?」
「囮?」
「囮?」
「囮?」

 俺はみんなに作戦を説明した。




 俺たちは商業都市ザムザに戻り、罠の準備をした。そして五日が経った。

 俺とジョバンニとじいは、商人風の服を着て、背負子を背負ってひたすら北部の街道を歩いている。
 盗賊をおびき出す為の囮役だ。
 ルーナ先生と黒丸師匠は、交代で上空から監視している。

「今度はどんな盗賊が出るかね~。美人の女盗賊とかだと嬉しいのだけど」

「それは嬉しいですね~。アンジェロ様は美人がお好きですね~」

「ジョバンニも好きでしょ?」

「まあ、それは男ですから!」

「アンジェロ様。残念ながら盗賊はむさくるしい男と相場が決まっております」

「じい、純真な子供の夢を壊すなよ」

「はて? 下心丸出しに感じたのは、わたくしの気のせいでありましょうか?」

「否定はしないよ」

 護衛のいない親子風の三人組商人、つまり俺とじいとジョバンニは、よほど盗賊にとって良い獲物なのだろう。
 この五日間で七回もの襲撃を受けた。

 片端から捕まえて、村に転移をして村長に顔を確認させたが全て別の盗賊だった。
 捕まえた盗賊は冒険者ギルド経由で、王宮に突き出しておいたが……。まったくフリージア王国の治安は、どうなっているのだろ?
 どうりで冒険者ギルドに護衛の依頼が途絶えない訳だ。

 この作戦を思いついた時は、名案だと思ったのだが、ホンボシになかなか当たらない。アジトで張り込みした方が良かったかな?
 盗賊さん、早く出てぇ~!

「あー、アンジェロ様。また、出ましたね」

「おー来た! 何人だ?」

「ちょうど十人ですな」

 ホンボシが来たか?
 街道横の森から水が染み出すように、男たちが現れた……。


 ドン! ガン! ゴン! ギン! カコン! ギタン! バタン! ベチャ! ボン! ベン!


 ……男たちは出てきた瞬間、上空で警戒していた黒丸師匠に殴られて失神した。
 はえーよ!

「黒丸師匠、早いですよ。もう少し見せ場を……」

「こんなザコ相手に見せ場もへったくれもないのであるな。サッサと縛り上げるのである!」

 こうして縛り上げた盗賊を連れて、転移魔法で北部王領の村へ移動する。この一連の流れは、もう八回目でほとんど作業だ。
 そして村長さんに盗賊たちを見せると……今度は、アタリだった!

「こいつらです! ありがとうございます! これで安心して暮らせます!」

「いやいや! 領主として当然の事をしたまでだ! ハハハハハ!」

 領主として初仕事を終えて俺は満足だ。
 小さな村とはいえ俺の領地だからな。
 この人たちは、俺の村人だからな。大事にしないとね。

「じゃあ、後は黒丸師匠よろしくお願いします」

「うむ。盗賊たちと騎士ゲーとやらの関係を聞き出せば良いのであるな?」

「はい。その上で王宮に突き出してください」

 まあ、これは俺たちの話し合いの中で出て来た予想なのだけれど、隣の村々の領主騎士ゲーも盗賊たちとグル、ないし通行料でも貰っていると思うのだ。

 騎士ゲーの領地から北部王領までは、あの狭い道しかない。
 あの道を十人の盗賊が何度も通行して、領主の騎士ゲーが知らない訳ないだろう。

「それと、騎士ゲーが勝手に北部王領で初夜権やらなんやらやっていたのは、じいが報告書を書いてくれ」

「承りました」

 じいの報告書と盗賊からの聞き出しを王宮に提出すれば、騎士ゲーには何らかの処罰が下るだろう。

 ルーナ先生は言う。

「そんな面倒な事をせずとも、騎士ゲーを斬り捨てれば良いだろう?」

「そうもいかないですよ。王子って立場がありますし、領主になったのですから。冒険者同士の揉め事みたいな対応は出来ないですよ」

「ふむ。面倒な事だ。私は料理がしたい。旨い物を食いたい」

「北部王領での本拠地はなるたけ早く決めますから、それまで待って下さい」

「承知した」

 王都を出て六日だ。
 隣の領主を追い払って、盗賊を捕まえてと揉め事続きだ。
 揉め事は、これで終わりにして欲しい。

 七日目の朝、村に行くと村人たちが言い争っていた。
 俺たちが近付くと村長が飛んで来た。

「領主様! 大変です! 若い者が出ていくと言っています!」
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

器用貧乏の意味を異世界人は知らないようで、家を追い出されちゃいました。

武雅
ファンタジー
この世界では8歳になると教会で女神からギフトを授かる。 人口約1000人程の田舎の村、そこでそこそこ裕福な家の3男として生まれたファインは8歳の誕生に教会でギフトを授かるも、授かったギフトは【器用貧乏】 前例の無いギフトに困惑する司祭や両親は貧乏と言う言葉が入っていることから、将来貧乏になったり、周りも貧乏にすると思い込み成人とみなされる15歳になったら家を、村を出て行くようファインに伝える。 そんな時、前世では本間勝彦と名乗り、上司と飲み入った帰り、駅の階段で足を滑らし転げ落ちて死亡した記憶がよみがえる。 そして15歳まであと7年、異世界で生きていくために冒険者となると決め、修行を続けやがて冒険者になる為村を出る。 様々な人と出会い、冒険し、転生した世界を器用貧乏なのに器用貧乏にならない様生きていく。 村を出て冒険者となったその先は…。 ※しばらくの間(2021年6月末頃まで)毎日投稿いたします。 よろしくお願いいたします。

転生獣医師、テイマースキルが覚醒したので戦わずしてモンスターを仲間にして世界平和を目指します

burazu
ファンタジー
子供の頃より動物が好きで動物に好かれる性質を持つ獣医師西田浩司は過労がたたり命を落とし異世界で新たにボールト王国クッキ領主の嫡男ニック・テリナンとして性を受ける。 ボールト王国は近隣諸国との緊張状態、そしてモンスターの脅威にさらされるがニックはテイマースキルが覚醒しモンスターの凶暴性を打ち消し難を逃れる。 モンスターの凶暴性を打ち消せるスキルを活かしつつ近隣諸国との緊張を緩和する為にニックはモンスターと人間両方の仲間と共に奮闘する。 この作品は小説家になろう、エブリスタ、カクヨム、ノベルアッププラスでも連載しています。

受験生でしたが転生したので異世界で念願の教師やります -B級教師はS級生徒に囲まれて努力の成果を見せつける-

haruhi8128
ファンタジー
受験を間近に控えた高3の正月。 過労により死んでしまった。 ところがある神様の手伝いがてら異世界に転生することに!? とある商人のもとに生まれ変わったライヤは受験生時代に培った勉強法と、粘り強さを武器に王国でも屈指の人物へと成長する。 前世からの夢であった教師となるという夢を叶えたライヤだったが、周りは貴族出身のエリートばかりで平民であるライヤは煙たがられる。 そんな中、学生時代に築いた唯一のつながり、王国第一王女アンに振り回される日々を送る。 貴族出身のエリートしかいないS級の教師に命じられ、その中に第3王女もいたのだが生徒には舐められるばかり。 平民で、特別な才能もないライヤに彼らの教師が務まるのか……!? 努力型主人公を書いて見たくて挑戦してみました! 前作の「戦力より戦略。」よりは文章も見やすく、内容も統一できているのかなと感じます。 是非今後の励みにしたいのでお気に入り登録や感想もお願いします! 話ごとのちょっとしたものでも構いませんので!

ガチャ転生!~異世界でFラン冒険者ですが、ガチャを引いてチートになります(アルファ版)

武蔵野純平
ファンタジー
「君は次の世界に転生する。その前にガチャを引いた方が良いよ」 ガチャを引けば特別なスキルカードが手に入ります。 しかし、ガチャに使うコインは、なんと主人公の寿命です。ガチャを引けば次の世界での寿命が短くなってしまいす。 寿命と引き換えにガチャを引くのか? 引かないのか? そして、異世界に転生した主人公は、地獄で引いたガチャで特殊なカードを貰っています。 しかし、そのカードの使い方がわからず、Fランクの冒険者として不遇の日々を送ります。 カードの使い方に気が付いた主人公は、冒険者として活躍を始めます。

処理中です...