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第二章 流刑地への追放

第18話 十才になり、王命を受ける

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 俺は、ルーナ先生、黒丸師匠と三人で冒険者パーティーを組み『王国の牙』として活動をしている。

 後宮にいると俺を王位につかせようとする貴族や商人が来てうるさいので、『王国の牙』として外に出ている方が気楽だ。
 じいには魔法の授業という事で納得してもらっている。

「魔法の授業? 魔法は実戦を通じて覚えねば身につかない。さあ、アンジェロ。そこの魔物たちを火魔法で黒焦げにしなさい」

 ルーナ先生の教え方はハードだ。
 俺は、ひたすら戦った。

 平原で、草原で、山で、丘で、湿原で、砂漠で、海で、川で、池で、空で、ダンジョンで!

 それはもう、ひたすら戦い続けた。
 戦いながら、ありとあらゆる魔法を仕込まれた。

 火魔法、水魔法、風魔法、土魔法、光魔法、闇魔法、回復魔法、解毒魔法、肉体強化魔法、探知魔法、転移魔法などなどだ。

 木魔法というのだけはダメだった。
 エルフ族しか使えない魔法らしい。

 まあ、そんな訳で魔力が豊富な俺が転移魔法を覚えたのだ。『王国の牙』の活動エリアは広がった。

 転移魔法で大陸北西側の都市を移動しまくり、東にダンジョンがあれば潜り、西でゴブリンが大量に溢れたと聞けば殲滅し、北でサーペントを狩り、南でリッチを浄化する。

 そんな毎日を過ごしている。
 泊りも多いし野営も多いが、俺のアイテムボックスのお陰で不便はない。


「アンジェロ少年は魔法使いであるから、剣の方は身を守る程度に使えればよろしかろう」

 魔法の習得と並行して、ドラゴニュートの黒丸師匠に剣術を教わり、ゴブリン、オーク、オーガ、オークキングと斬って斬って斬りまくった!

 黒丸師匠は一体何から身を守る事を想定しているのか。
 結構強敵とも剣で戦わされている。

 そして今日、とあるダンジョンの最下層でも剣の修行は続く。

「さあ! いよいよドラゴンと剣術勝負なのである! 行くのである! アンジェロ少年!」

「うおおおお!」


 ビン!!!!


「ぐおおお! 痛い!」

「ドラゴンのデコピン一発で倒れるとは情けないのである……」

「くっ……。雷魔法特盛!」


 どーーーーーーーん!


「魔法で倒してしまっては、修行にならないのである……」

「いやいや! 俺はまだ子供ですから! ドラゴンを剣で倒すとか無理ですから!」

「それでは身を守れないのである!」

「何から守るんだよ! そこ笑わない!」

 黒丸師匠は、俺がドラゴンを魔法で倒したことに文句を言い。
 ルーナ先生は、俺がドラゴンにデコピンで吹っ飛ばされた事を、腹を抱えて笑っている。

 この人達は、おかしい!

「フフフフ、アンジェロ。なかなか良いやられっぷりだったぞ。ドラゴンのデコピンはさぞ痛かったろう」

「魔法障壁がなかったら死んでいましたよ!」

「まあ、良いではないか。これでダンジョン制覇だ。じゃ、飲みに行くぞ」

 戦いが終わると必ず宴会だ。
 商業都市ザムザに転移魔法で戻り、近くの居酒屋でどんちゃん騒ぎをする。

「あの~ルーナ先生……。俺の修行にかこつけて、宴会をやりたいだけでは?」

「気のせいだ」

「いや……。その……。宴会の費用が毎度毎度、俺もちなのは?」

「気のせいだ」

「いや。周りにいる冒険者たちの分もおごるのは……」

「気のせいだ」

 この人たちは、やはりおかしい!

 いや、まあ、俺は王子って事で一番立場が上だから、俺が支払うのはダメではないのだが。
 子供で一滴も酒が飲めない俺が支払うのは、何か理不尽な気がする。

 それでも高ランク高収入の依頼を山ほどこなし、売却額の高いドラゴンとか大物をガンガン倒しているので、お金はドンドン貯まっているけどね。

 そんな日々を五才から十才になるまで送ったので、『王国の牙』とアンジェロの名前は大陸北西側で有名になった。
 俺のギルドランクはいつの間にか最高位のミスリルゴールドになり、魔法と剣も師匠二人から免許皆伝のお墨付きをもらう腕前になった。

 女神ズは全然顔を見せない。
 もう会う事もないのかと思うとちょっと寂しくもある。


 ――そして十才の春、俺は王宮に呼ばれた。

 父上からの呼び出しで、王から王子への公式な呼び出しだ。
 父上から公式に呼ばれるのは初めての事だ。

 正装をして守役のじいを伴い王宮へ向かう。
 王宮に着くと謁見の間に通された。

 謁見の間の中央壇上で、父上が玉座に座っている。
 下を向いて不機嫌というか、元気がないというか……。
 いつも橙木宮で俺と会う時の笑顔はない。

 一段下がった所に最近宰相になったエノー伯爵が立っている。
 外交が得意な貴族で、第一王子のポポ兄上の後ろ盾になっている人物だ。

 そして左右に分かれて沢山の貴族達が立っている。
 第一王子のポポ兄上も第二王子のアルドギスル兄上も取り巻きを連れて来ていた。

 何だ?
 何かあるな……。

 俺は何となく嫌な予感がした。
 後ろに付いて来ているじいを振り返ってみると、眉根を寄せている。
 じいも何か感じているらしい。

 おかしい……。

 事務的な事なら父上からの使いが後宮に来れば済む。
 プライベートな事、つまり王としてではなく、俺の父親としての話なら、後宮に父上が来て母上と一緒に話をするはずだ。

 俺は周りの様子を伺い、考えを巡らせながら謁見の間の中ほどに進む。

 王都の近くにドラゴンや強力な魔物が出て、その討伐依頼とか?
 いや、それならポポ兄上やアルドギスル兄上がいる必要がない。
 父上と俺と軍関係の貴族だけいれば事は済む。
 こんなに沢山貴族を集める理由がない。

 俺は謁見の間の中ほどで膝をつき、礼法に従い父上に挨拶をする。

「第三王子アンジェロ、お召しにより参上いたしました」

 宰相のエノー伯爵が、手に持った羊皮紙を読み上げ始めた。

「第三王子アンジェロ殿下に、王命を申し渡す!」

 謁見の間がシンと静まり返る。
 王命……?
 王命が下るなんて聞いてないぞ。

 俺は膝をついたまま頭を下げ、王命を聞く体制を取る。
 エノー伯爵は厳かなく口調で続ける。

「第三王子アンジェロは、北部王領に赴き。当地を治めよ。北部王領は第三王子アンジェロの所領とする」

 は!?
 一体何の事だろう?

 事前に何の連絡も相談もなかった。
 じいは知っているのか?
 いや、知っていたら俺に一言あるはずだ。

 エノー伯爵が俺の目の前に立ち、王命が書かれた羊皮紙を俺に差し出す。
 俺は恭しく羊皮紙を受け取り、返事をする。

「王命、つつしんでお受けいたします」

 俺が羊皮紙を受け取ると父上が不機嫌そうにつぶいた。

「以上である。解散」

 父上が退出すると謁見の間がざわつき始めた。
 貴族達のささやきあう声が聞こえる。

「北部王領?」
「そんな所あったか?」
「いや……記憶にないが……」

 そうだ。俺も北部王領なんて場所は記憶にない。
『王国の牙』として、あちこちで活動したので王国内の主だった街や地方は知っている。

 だが北部王領?
 そもそも北の方に王家の領地なんてあったろうか?

 俺に下った王命によれば、その北部王領が俺の領地になるので、俺が行って治めて来いと言う事だ。

 それも突然に。
 一体どうなっているのだ?
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