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第一章 王子への転生と冒険者修行

第16話 ドラゴン売却

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 俺たち『王国の牙』が仕留めたウインドドラゴンとワイバーン十五匹は、即日解体されて冒険者ギルド経由で商業ギルドに売却された。
 商業ギルドでセリにかけられ商人たちの手に渡るそうだ。

「ドラゴンは鱗、爪、翼、肉、骨、血、魔石と全て利用価値があるのである」

 黒丸さんは上機嫌だ。
 ギルド長として冒険者ギルドの討伐実績にもなるし、久しぶりの対ドラゴン戦が非常に楽しかったそうだ。

 ウインドドラゴンと剣でガチガチ打ち合っていたからな……。
 この人も大概に常識外の存在だと思う。
 ドラゴニュート恐るべし。

「血は何に使うのですか?」

「回復薬や薬の原料になるのである。ドラゴン由来の薬は効き目が高いので、高額で取引されるのであるよ」

 なんとドラゴンは金貨八十枚!
 日本円にして八千万円になった!
 俺が驚いている様子を見て黒丸さんがあおって来た。

「今回のウインドドラゴンは、若い竜だったので格付けとしては中の下であるな。普通は金貨百枚を越えるのである。どうであるか? またドラゴンと戦う気になったであるか?」

 ドラゴン一体で一億円を超えるのか!
 それだけドラゴンを倒すのは偉業でもあるし、危険度も高いって事だろう。

「確かに実入りはデカいですけど。それだけリスクも高いって事でしょう?」

「リスクのない人生は退屈なのである。危険と隣り合わせの人生はエキサイティングである!」

「俺はノーリスクで平凡な人生で満足ですよ」

 ワイバーンは一体金貨十枚。
 十五体で金貨百五十枚になった。

 日本円換算なら一体一千万円。
 十五体で一億五千万円だ。

 ドラゴンと比べると安く感じるけど、それでも一体で一千万円越えってのは凄い。
 ここまでが素材売却で得られた額だ。

 これに加えて、ワイバーンの群れ討伐依頼の報酬が金貨十五枚で一千五百万円。
 ワイバーンの数が増えたのとドラゴンが出たので金貨三十枚、三千万円が報酬に追加された。

 王国の牙が初陣で稼いだ金額は、合計で金貨二百七十五枚、日本円にして二億七千五百万円になる。

 一人頭約金貨九十枚、約九千万円だ!
 飛行機開発費用の為に貯金しておこう。

「冒険者ギルドの取り分一割と国へ支払う税金一割は差し引き済みなのである」

 冒険者ギルドは、しっかりしているんだな。
 ちゃんと取るモノは取っているんだ。


 それから今回のウインドドラゴンとワイバーンの群れを討伐した功績で、俺の冒険者ギルドのランクは上から二番目のミスリル級に上がった。
 シルバー級からの二階級特進だ。

「アンジェロ少年にはこれを進呈するのである」

 ギルドカードと一緒に小さな竜をかたどった鉄のバッジが、黒丸さんから手渡された。

「このバッジは?」

「ドラゴンスレイヤー徽章きしょうであるな。ドラゴンを倒した者に与えられるのである。公式の場でつけると一目置かれるのである」

「金とかじゃなくて鉄製なのですね」

「その徽章自体は銀貨一枚の価値もないのである。大切なのは金銭価値ではなく、竜を倒した強者の誇りなのである。アンジェロ少年もドラゴンスレイヤーとして誇りを持って欲しいのである!」

 黒丸さんは胸を張って答え、口振りからも誇らしさが溢れていた。

「わかりました! この徽章に恥ずかしくない振る舞いをします!」

「それで、次の討伐であるが……」

「また別の機会に相談しましょう」

 危ない!
 またとんでもない依頼をやらされるところだった。


 黒丸さんに別れを告げて、俺とルーナ先生は夕方後宮に帰って来た。
 帰りも飛行魔法で飛んで帰って来たのだが、スピード勝負でルーナ先生には勝てなかった。

 俺の取り分で分けておいて貰ったドラゴンの肉とワイバーンの肉を後宮で配ったら大好評だ。
 驚く事に第一王妃の白夜宮と第二王妃の黒耀宮からお礼が届いた。

 じいに聞いたところ、王族であってもドラゴンの肉はなかなか手に入らないそうだ。
 ドラゴンの肉は牛肉の赤身に近い味で、ワイバーンは鶏肉に近い味だった。両方ともステーキにして美味しくいただきました。

 いや食べてみるものだね。
 見た目はグロイから思い出したくないけど。

 そして、俺は胸を張ってドラゴン討伐をみんなに報告した。

 母様は狂喜した。

「やっぱり私の息子は魔法の天才だわ! ドラゴンを魔法一発で仕留めるなんて!」

 父上は安堵した。

「おお! アンジェロ! 良くやった! 商業都市ザムザは重要拠点であるからな! 近くにワイバーンとドラゴンがいたとは……。討伐してくれて本当に助かった」

 じいは呆れかえった。

「魔法の訓練では、なかったのですか? 勝ったから良いものの万一を考えて、今後ドラゴンと戦うのはご自重下さい」

 ですよねー。
 俺もそう思うんですよー。

 けどねー。
 やれ! っていう人がいるんですよー。
 ルーナ先生をチラッと見たが、目をそらされてしまった。

 ルーナ先生は本人の希望もあって、俺個人に魔法の教師として雇われる形になった。

「その方が色々と自由に行動できる」

 これは俺も理解が出来るので、先生の希望を受け入れたのだ。
 王宮との調整は、じいに丸投げしたが。

「報酬は不要だ。金銭目的でアンジェロを弟子にしたのではない」

「ルーナ先生のおっしゃりようは嬉しいですが、タダという訳には……」

「では、アンジェロの知っている異世界の料理をもっと教えろ」

「わかりました。最初は……、ハンバーグなんかどうでしょうか?」

「はんばぐ……」

 ルーナ先生の目がキラリと光った。
 やはり先生は胃袋をベースに考えて、俺を弟子にしたらしい。
 この世界の食材で再現できそうな料理を考えなくちゃ。


 *


 フリージア王国の王宮で国王レッドボット三世は一人悩んでいた。
 彼の悩みは後継者だ。

 フリージア王国は、基本的に長子相続のお国柄である。
 だが色々な要因で長子以外が相続する事もあった。

 彼には三人の息子がいるが、一長一短で決めかねている。

 第一王子のポポ王子を後継者とした場合は、外交上のメリットが大きい。
 第一王妃は隣国ニアランド王国の王族の出なので、第一王子のポポはフリージア王国人であり、ニアランド王国人でもある。

 隣国ニアランド王国とは、歴史上何度も戦い犬猿の仲であった。
 しかし、婚姻を結んだことで現在は同盟国となり、両国の関係は改善している。

 隣国ニアランド王国の血を引くポポ王子が王位を継げば、同盟関係は将来にわたって安泰である。
 加えて外交を担当する貴族やニアランド商人の支持もある。

「デメリットは、ポポの性格だ……」

 レッドボット王は、深くため息をつく。
 ポポ王子は粗暴にして短慮、それが王国内での評判だ。
 父親のレッドボット王の目から見ても、王の器ではない。

「では、第二王子のアルドギスルにするか?」

 レッドボット王は思索を進める。
 アルドギスル王子の母親である第二王妃は国内有力貴族の娘だ。
 内政を担当する貴族や国内商人の支持が多い。

「国内を安定させるならアルドギスルか……。だが……」

 第二王子のアルドギスルは、凡庸であり、気弱な性格であった。
 気弱な王は、部下の専横を許してしまう。
 レッドボット王自身がそうであったように。

「短期的には国内が安定はするであろうが、王家の力が更に弱くなる……」

 長期的には王家の力が今より弱まれば、謀反を起こす貴族も出てくるであろう。
 その未来予想はレッドボット王を不安にさせた。

「では、第三王子のアンジェロであろうか……」

 レッドボット王は、末息子のアンジェロを好ましく思っていた。
 色々と騒動を起こすが、性格は素直で年に似合わぬ気遣いも出来る。

 何と言っても強力な魔法を使えるのが、国王候補として魅力だ。

 この異世界で魔法使いは、強力な兵器になり得る存在である。
 範囲攻撃の火魔法一発は、この異世界の人々にとってミサイルと同等の脅威だ。

 国の防衛、軍の戦力の観点から、アンジェロは三人の王子の中で抜きん出た存在と言える。
 最近、軍関係の貴族の中には、『アンジェロ王子を、次の王へ』と言う声もちらほらと出てきている。

「まさかドラゴンまで、一撃で倒すとは……」

 レッドボット王の顔がほころぶ。
 自分の息子の手柄を喜ぶ父親の顔である。

「だが、アンジェロには後ろ盾がない……」

 第一王子は、隣国ニアランド王国と外交族の貴族とニアランド商人が支持母体となる。
 第二王子は、内政族の貴族と国内商人が支持母体となる。
 しかし、第三王子のアンジェロには支持母体がない。

 アンジェロの母親は平民の中程度の商人の家の出身だ。
 政治的な影響力はない。

 もしアンジェロが王位につけば、第一王子と第二王子の支持母体が黙っていない。
 フリージア王国は分裂し、王位をめぐって内戦になるかもしれない。

「困ったのう……」

 結局レッドボット王は、自分で後継者を決定する事が出来なかった。
 その事が後々フリージア王国の騒乱の種となるのであった。
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