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相対良知の果実

138_夫人_

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雛壇の人形を前に貝合わせの貝に触れる。
貝に塗られた金箔の黄金の輝きが美しい。
幼い頃から何度となく手にしているこの貝に
何度も見惚れる。
「君の女雛は相変わらず右なのだね」
座っていた向きを変え、向き直す。
菖蒲邸に来るとは珍しい。
「日本古来から左は右より格が高いの。
国際儀礼がどうであろうと、わたくしの雛はこれが正しい姿」
「君の雛人形は本来は関東雛だから女雛は左なのに…お父上が見たら嘆かれるよ」
「良いのです」
わたくしの前に座り、わたくしの貝に触れる。
貝を合わそうとするが合わせられない。
「何度見ても分からないな」
畳の上に静かに置く。
「それで良いのです。答えの分かる遊びほどつまらないものはないわ」
「……けれど君は分かるのに、この貝を手離さないね」
「この貝はわたくしにとって回合かいあわせ。過去も未来も変えることの出来ないことへの戒め」
「人はそれを定めごと、宿命という。それを破ればどうなるんだ?」
「破れるということは、やぶれるということ。
傷つき壊れるということ。物事が成り立たないこと」
「──君はそれを私の為にしている」
「良いのです」
ただ、結果は分かっている。
傷つき、壊れ、成り立たない。
それでも──想いと結果が結びつかないとしても
人は尽力したことに意味を見いだせることもある。
「片付けますわ。帰りましょう」

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