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知らず絡繰る
x55_櫂_
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──夫人は俺に何をさせたい?
「侑梨とは恋人関係だ。貴方に助力を求める必要はありませんが」
「けれど、貴方達は未だに清らかな付き合いよね」
震えた侑梨を思い出す。
「柵もある」
澤城さんの苦悩の表情が浮かぶ。
「わたくしがジーノに手を貸せば、貴方の会社は今度こそ闇の中」
確かにそうだ。だが、
「貴方は今までギリギリそこまではしなかった。マウロを飼い殺し自分に従順なペットでいてもらう為だ」
夫人の笑みが消えた。
「だが、マウロは貴方が思うより経営者として一流だ。
このままでは近い未来ペットに逃げられてしまう。そこで犬同士戦わせて気をそらせればいい。だが、俺ではすぐにマウロに噛み殺される。それでは困る。だから俺に手を貸すと?」
胡座をかき髪をかきあげる。
自分で言って少し凹む。
今の規模でマウロには敵わない。
だが──マウロから夫人が離れれば──
夫人は畳の目でも数えているかの様にこちらを見ない。
「俺の為に手を貸すのではなく、そうしなければならないのは貴方の方だ」
「……そうね」
夫人は肯定する。
「今までは、そうね」
愉しそうな笑みを浮かべる。
「彼とわたくしは…わたくしが37歳、彼が23歳の時に出会ったの。今の貴方達も同じくらいの年齢ね。それから15年彼と愉しんだ。彼はいつも私を愉しませてくれた。母親は死に父親は自分の財産にしか興味がなく食い潰す。兄には厭われそれでも立場を全うしている。今や彼の経営無くしてはマウロ家は成り立たない。それでも存在を軽んじられ男娼の様に生きてきたプライドの高い人。もう少しだけ野心的であれば生きやすかったでしょうに……わたくしは彼の苦しむ姿が愛おしいの」
ゾクリとする。この女は間違いなく狂っている。
「──そして見つけた。最高の苦しみを作れる原石を」
巻き込むな!その名を口にするな!
心の中で叫ぶが夫人は櫂の願いを裏切る。
「侑梨さんはまるで黒曜石。まだ原石だけれど、きっと砥げば鋭い凶器となり彼を苦しめる。楽しみだわ」
「……貴方のその狂気に7年前囚われ死んだ人がいる。それでも繰り返すのか?」
微笑む夫人には何も届かない。
「わたくし、妄想が大好きなの。侑梨さんはあの頃のジーノと同い年、今から長い歳月をかけて私が育てたらどんな女性に育つのかしら?わたくしのように育つかしら?それとも凛子さんの様に?」
「あぁ──彼女はとてもわたくし好みだわ」
勘弁してくれ〈苦しむ姿が愛おしい〉と発したその口で侑梨を好むという。
「それと櫂さん。貴方も好きよ」
「侑梨とは恋人関係だ。貴方に助力を求める必要はありませんが」
「けれど、貴方達は未だに清らかな付き合いよね」
震えた侑梨を思い出す。
「柵もある」
澤城さんの苦悩の表情が浮かぶ。
「わたくしがジーノに手を貸せば、貴方の会社は今度こそ闇の中」
確かにそうだ。だが、
「貴方は今までギリギリそこまではしなかった。マウロを飼い殺し自分に従順なペットでいてもらう為だ」
夫人の笑みが消えた。
「だが、マウロは貴方が思うより経営者として一流だ。
このままでは近い未来ペットに逃げられてしまう。そこで犬同士戦わせて気をそらせればいい。だが、俺ではすぐにマウロに噛み殺される。それでは困る。だから俺に手を貸すと?」
胡座をかき髪をかきあげる。
自分で言って少し凹む。
今の規模でマウロには敵わない。
だが──マウロから夫人が離れれば──
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「俺の為に手を貸すのではなく、そうしなければならないのは貴方の方だ」
「……そうね」
夫人は肯定する。
「今までは、そうね」
愉しそうな笑みを浮かべる。
「彼とわたくしは…わたくしが37歳、彼が23歳の時に出会ったの。今の貴方達も同じくらいの年齢ね。それから15年彼と愉しんだ。彼はいつも私を愉しませてくれた。母親は死に父親は自分の財産にしか興味がなく食い潰す。兄には厭われそれでも立場を全うしている。今や彼の経営無くしてはマウロ家は成り立たない。それでも存在を軽んじられ男娼の様に生きてきたプライドの高い人。もう少しだけ野心的であれば生きやすかったでしょうに……わたくしは彼の苦しむ姿が愛おしいの」
ゾクリとする。この女は間違いなく狂っている。
「──そして見つけた。最高の苦しみを作れる原石を」
巻き込むな!その名を口にするな!
心の中で叫ぶが夫人は櫂の願いを裏切る。
「侑梨さんはまるで黒曜石。まだ原石だけれど、きっと砥げば鋭い凶器となり彼を苦しめる。楽しみだわ」
「……貴方のその狂気に7年前囚われ死んだ人がいる。それでも繰り返すのか?」
微笑む夫人には何も届かない。
「わたくし、妄想が大好きなの。侑梨さんはあの頃のジーノと同い年、今から長い歳月をかけて私が育てたらどんな女性に育つのかしら?わたくしのように育つかしら?それとも凛子さんの様に?」
「あぁ──彼女はとてもわたくし好みだわ」
勘弁してくれ〈苦しむ姿が愛おしい〉と発したその口で侑梨を好むという。
「それと櫂さん。貴方も好きよ」
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