34 / 160
知ることの代償
x 33
しおりを挟む
「嘘よ」
侑梨は否定した。微塵も疑えない。
「…本当だ」
絶対に嘘だと思う。だが櫂の辛そうな表情に嘘はない。
「…嘘よ。父が買収で苦しんでいた時、一番親身になって助けてくれてた貴方が殺したなんて…信じない!」
感情的になり声が大きくなる侑梨を静かに彼は見る。
「その買収される要因になったのは、当時芹沢企画が担当していた一大プロジェクトの情報流出からだ。
…俺が原因だった」
彼は続ける。
「当時、仕事が楽しくてしょうがなかった。沢城さんの仕事を見て、何がしたいのか、どう動いて欲しいか誰よりも手に取るように分かった。仕事も順調で業績は鰻登りだった。…俺の中では沢城さんは完璧だった。その彼に心酔されてる人がいた。…その人は沢城さんには無関心で彼を遠ざけていて…悔しくて、再び一緒に頑張ってほしくて沢城さんの凄さを知って欲しくて、その時のプロジェクト内容を話した。会社関係者だし問題はないと思った。けれど、その情報をマウロ社に売られた。沢城企画は信頼と当時の一大プロジェクトの損害を被った」
溜息の様に閉じられる。
「最初は知らなかったんだ。俺が流出源だなんて夢にも思わなかった。沢城さんは俺を責めなかった…寧ろ自分の所為だと。2人の関係性を見誤ったのは俺なのに…最後まで…死ぬくらいなら、俺を殺してくれればよかったのに…」
あぁ、そうなのか。父は仕事が大事だったけれど、櫂も大事だった。だから彼が気に病まないように最低ラインまででも持ち堪えようとして、駆けずり回るように奔走した。けど、ダメだった…。
…そんなにも櫂を守りたかった父が自殺なんてするだろうか?そうなればもっと気に病むことは明白だ。だが、当時の父は相当疲れていた。鬱状態になっていたのかもしれない…。
この事実を私はどう受け止めている?
自身に問い質す。
櫂が憎いか。未来を奪われたと思うか。
こんなにも苦しんで贖罪のように今も父の会社を継ごうとしている彼を。
やっぱり、愛しいとさえ感じてしまう。
私は父より好きな男性を選んだのだろうか?
わからない。けれど、これだけは言える。
きっと父も櫂を好きだっただろう。
…自分の中の過去の蟠りが溶ける気がした。
侑梨はソファに座る彼の前に膝をつき両手を優しく握りしめた。
「櫂…櫂さん。話してくれて…ありがとう。私は当時何もできなくて、父にも貴方にも何もしてあげられなかった。もし、今櫂さんが父の意思を継いでこの会社を立ち上げたのが重荷なら、父のことは…忘れていいから。貴方のこれからを生きて欲しい」
「これはもう俺の全てだ」
苦笑する。
「侑梨はさっき好きって言ってくれたけれど、やっぱり好きじゃないって…なった?」
さっきの私の言葉を使って問い質す。
「ならない」
好きよ。と心でいう。まだ言葉にするのは気恥ずかしかった。
「キスしていい?」
その艶っぽい顔で言わないで欲しい。
無言で頷くと、頭の天辺にキスをされた。
内心、これだけ?と思ってしまう。
と、おでこに。頬に。耳に。
そして唇に。
ぎゅっと抱きしめられ幸福で満たされる。
恥ずかしさで櫂の胸元に顔を埋める。
「その情報を漏らした人は今どうしているの?」
素朴な疑問だった。
「今どうしているのかは知らない」
櫂は瞳を伏せた。
侑梨は否定した。微塵も疑えない。
「…本当だ」
絶対に嘘だと思う。だが櫂の辛そうな表情に嘘はない。
「…嘘よ。父が買収で苦しんでいた時、一番親身になって助けてくれてた貴方が殺したなんて…信じない!」
感情的になり声が大きくなる侑梨を静かに彼は見る。
「その買収される要因になったのは、当時芹沢企画が担当していた一大プロジェクトの情報流出からだ。
…俺が原因だった」
彼は続ける。
「当時、仕事が楽しくてしょうがなかった。沢城さんの仕事を見て、何がしたいのか、どう動いて欲しいか誰よりも手に取るように分かった。仕事も順調で業績は鰻登りだった。…俺の中では沢城さんは完璧だった。その彼に心酔されてる人がいた。…その人は沢城さんには無関心で彼を遠ざけていて…悔しくて、再び一緒に頑張ってほしくて沢城さんの凄さを知って欲しくて、その時のプロジェクト内容を話した。会社関係者だし問題はないと思った。けれど、その情報をマウロ社に売られた。沢城企画は信頼と当時の一大プロジェクトの損害を被った」
溜息の様に閉じられる。
「最初は知らなかったんだ。俺が流出源だなんて夢にも思わなかった。沢城さんは俺を責めなかった…寧ろ自分の所為だと。2人の関係性を見誤ったのは俺なのに…最後まで…死ぬくらいなら、俺を殺してくれればよかったのに…」
あぁ、そうなのか。父は仕事が大事だったけれど、櫂も大事だった。だから彼が気に病まないように最低ラインまででも持ち堪えようとして、駆けずり回るように奔走した。けど、ダメだった…。
…そんなにも櫂を守りたかった父が自殺なんてするだろうか?そうなればもっと気に病むことは明白だ。だが、当時の父は相当疲れていた。鬱状態になっていたのかもしれない…。
この事実を私はどう受け止めている?
自身に問い質す。
櫂が憎いか。未来を奪われたと思うか。
こんなにも苦しんで贖罪のように今も父の会社を継ごうとしている彼を。
やっぱり、愛しいとさえ感じてしまう。
私は父より好きな男性を選んだのだろうか?
わからない。けれど、これだけは言える。
きっと父も櫂を好きだっただろう。
…自分の中の過去の蟠りが溶ける気がした。
侑梨はソファに座る彼の前に膝をつき両手を優しく握りしめた。
「櫂…櫂さん。話してくれて…ありがとう。私は当時何もできなくて、父にも貴方にも何もしてあげられなかった。もし、今櫂さんが父の意思を継いでこの会社を立ち上げたのが重荷なら、父のことは…忘れていいから。貴方のこれからを生きて欲しい」
「これはもう俺の全てだ」
苦笑する。
「侑梨はさっき好きって言ってくれたけれど、やっぱり好きじゃないって…なった?」
さっきの私の言葉を使って問い質す。
「ならない」
好きよ。と心でいう。まだ言葉にするのは気恥ずかしかった。
「キスしていい?」
その艶っぽい顔で言わないで欲しい。
無言で頷くと、頭の天辺にキスをされた。
内心、これだけ?と思ってしまう。
と、おでこに。頬に。耳に。
そして唇に。
ぎゅっと抱きしめられ幸福で満たされる。
恥ずかしさで櫂の胸元に顔を埋める。
「その情報を漏らした人は今どうしているの?」
素朴な疑問だった。
「今どうしているのかは知らない」
櫂は瞳を伏せた。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
元妃は多くを望まない
つくも茄子
恋愛
シャーロット・カールストン侯爵令嬢は、元上級妃。
このたび、めでたく(?)国王陛下の信頼厚い側近に下賜された。
花嫁は下賜された翌日に一人の侍女を伴って郵便局に赴いたのだ。理由はお世話になった人達にある書類を郵送するために。
その足で実家に出戻ったシャーロット。
実はこの下賜、王命でのものだった。
それもシャーロットを公の場で断罪したうえでの下賜。
断罪理由は「寵妃の悪質な嫌がらせ」だった。
シャーロットには全く覚えのないモノ。当然、これは冤罪。
私は、あなたたちに「誠意」を求めます。
誠意ある対応。
彼女が求めるのは微々たるもの。
果たしてその結果は如何に!?
どうせ去るなら爪痕を。
ぽんぽこ狸
恋愛
実家が没落してしまい、婚約者の屋敷で生活の面倒を見てもらっているエミーリエは、日の当たらない角部屋から義妹に当たる無邪気な少女ロッテを見つめていた。
彼女は婚約者エトヴィンの歳の離れた兄妹で、末っ子の彼女は家族から溺愛されていた。
ロッテが自信を持てるようにと、ロッテ以上の技術を持っているものをエミーリエは禁止されている。なので彼女が興味のない仕事だけに精を出す日々が続いている。
そしていつか結婚して自分が子供を持つ日を夢に見ていた。
跡継ぎを産むことが出来れば、自分もきっとこの家の一員として尊重してもらえる。そう考えていた。
しかし儚くその夢は崩れて、婚約破棄を言い渡され、愛人としてならばこの屋敷にいることだけは許してやるとエトヴィンに宣言されてしまう。
希望が持てなくなったエミーリエは、この場所を去ることを決意するが長年、いろいろなものを奪われてきたからにはその爪痕を残して去ろうと考えたのだった。
ヒロインではないので婚約解消を求めたら、逆に追われ監禁されました。
曼珠沙華
恋愛
「運命の人?そんなの君以外に誰がいるというの?」
きっかけは幼い頃の出来事だった。
ある豪雨の夜、窓の外を眺めていると目の前に雷が落ちた。
その光と音の刺激のせいなのか、ふと前世の記憶が蘇った。
あ、ここは前世の私がはまっていた乙女ゲームの世界。
そしてローズという自分の名前。
よりにもよって悪役令嬢に転生していた。
攻略対象たちと恋をできないのは残念だけど仕方がない。
婚約者であるウィリアムに婚約破棄される前に、自ら婚約解消を願い出た。
するとウィリアムだけでなく、護衛騎士ライリー、義弟ニコルまで様子がおかしくなり……?
幼馴染の婚約者に浮気された伯爵令嬢は、ずっと君が好きだったという王太子殿下と期間限定の婚約をする。
束原ミヤコ
恋愛
伯爵令嬢リーシャは結婚式を直前に控えたある日、婚約者である公爵家長男のクリストファーが、リーシャの友人のシルキーと浮気をしている場面に遭遇してしまう。
その場で浮気を糾弾したリーシャは、クリストファーから婚約の解消を告げられる。
悲しみにくれてやけになって酒場に駆け込んだリーシャは、男たちに絡まれてしまう。
酒場にいた仮面をつけた男性──黒騎士ゼスと呼ばれている有名な冒険者にリーシャは助けられる。
それからしばらくして、誰とも結婚しないで仕官先を探そうと奔走していたリーシャの元に、王家から手紙が届く。
それは、王太子殿下の侍女にならないかという誘いの手紙だった。
城に出向いたリーシャを出迎えてくれたのは、黒騎士ゼス。
黒騎士ゼスの正体は、王太子ゼフィラスであり、彼は言う。
一年前に街で見かけた時から、リーシャのことが好きだったのだと。
もう誰も好きにならないと決めたリーシャにゼフィラスは持ちかける。
「婚約者のふりをしてみないか。もしリーシャが一年以内に俺を好きにならなければ、諦める」と。
いつだって二番目。こんな自分とさよならします!
椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。
ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。
ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。
嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。
そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!?
小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。
いつも第一王女の姉が優先される日々。
そして、待ち受ける死。
――この運命、私は変えられるの?
※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。
隣人はクールな同期でした。
氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。
30歳を前にして
未婚で恋人もいないけれど。
マンションの隣に住む同期の男と
酒を酌み交わす日々。
心許すアイツとは
”同期以上、恋人未満―――”
1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され
恋敵の幼馴染には刃を向けられる。
広報部所属
●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳)
編集部所属 副編集長
●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳)
本当に好きな人は…誰?
己の気持ちに向き合う最後の恋。
“ただの恋愛物語”ってだけじゃない
命と、人との
向き合うという事。
現実に、なさそうな
だけどちょっとあり得るかもしれない
複雑に絡み合う人間模様を描いた
等身大のラブストーリー。
もうこれ以上、許さない
よつば猫
恋愛
記憶喪失になった、忘れられない元カレと再会。
でも彼にはもう婚約者がいて……
自分には、大事にしてくれるセフレがいた。
表紙はミカスケ様のフリーイラストをお借りしています。
【完結】悪役令嬢に転生したようです。アレして良いですか?【再録】
仲村 嘉高
恋愛
魔法と剣の世界に転生した私。
「嘘、私、王子の婚約者?」
しかも何かゲームの世界???
私の『宝物』と同じ世界???
平民のヒロインに甘い事を囁いて、公爵令嬢との婚約を破棄する王子?
なにその非常識な設定の世界。ゲームじゃないのよ?
それが認められる国、大丈夫なの?
この王子様、何を言っても聞く耳持ちゃしません。
こんなクソ王子、ざまぁして良いですよね?
性格も、口も、決して良いとは言えない社会人女性が乙女ゲームの世界に転生した。
乙女ゲーム?なにそれ美味しいの?そんな人が……
ご都合主義です。
転生もの、初挑戦した作品です。
温かい目で見守っていただければ幸いです。
本編97話・乙女ゲーム部15話
※R15は、ざまぁの為の保険です。
※他サイトでも公開してます。
※なろうに移行した作品ですが、R18指定され、非公開措置とされました(笑)
それに伴い、作品を引き下げる事にしたので、こちらに移行します。
昔の作品でかなり拙いですが、それでも宜しければお読みください。
※感想は、全て読ませていただきますが、なにしろ昔の作品ですので、基本返信はいたしませんので、ご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる