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016 弦

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「怜──」

譫言を呟く彼女を冷ややかに見てしまう。
怜の携帯を開く。
暗証番号なんてすぐに解析できた。
開いた携帯には友人達とのLINEやバイトのスケジュールなどで大した内容はない。
写真はそんなに撮るタイプではなかったのか少ない。
それでも──彼女の──雫の写真だけは収められている。

──実際、怜がそれほど脅威な相手な訳ではない。
彼は自分の気持ちを隠すので精一杯だし、幸せな家庭を壊したくない気持ちも強い。

けれど──雫が──怜を一番大切にしていた。

雫は雫が思っている以上に怜が好きだ。
気づいていないだけだ。
彼女は自分の心に疎い。
だから涼太とも付き合えた。
怜は言わば被害者だ。
そりゃあ、あれだけ雫に好かれれば怜も雫を好きになるだろう。
成長するにつれ雫と距離を置いた怜だけれど──もう遅かった。
姉に見えず、姉以外愛せず、地獄のようだったろう。

その雫が怜の気持ちを知ったらどうなる?
拒めない──どころか受け入れるだろう。

だから──涼太と付き合うように仕組んだ。
怜に隙を与えないように、
離れていくように──
雫が怜のことを考えさせないように──

怜を雫から完全に離す為に長期戦で考えていた計画は
怜の死で終わった。

こんな形で怜がいなくなるとは思わなかったけれど、
正直助かった。

いい加減、自分の仕組んだ涼太と付き合う雫にも嫉妬していた状態でかなりヤバかったしね。

反魂香のキーワードが出たときに、すぐに怜だと思ったし、最悪の場合を考えて怜のアパートに行った際に探した。人の隠し場所や置く場所なんて大抵皆んな一緒だ。すぐに場所は特定したからリュックに入れて隠し持っていたけれど、夫人の話を聞いてこれは存在してはいけないモノだと分かった。
──もし雫が家族を──怜を蘇らせると言ったら?
涼太と子作りも厳しいけれど、最悪なのは怜と子作りなんて始めたら──捨てたかったけれど、呪具の類は不用意に捨てても無駄なことも多いと聞く。
あの女──夫人なら──どうにかするだろう。
僕たちの為に動くとも思えない。
あれは眺める者の瞳だ。

雫と身体を重ねて2週間になる。
──まだまだ全然足りないよ。

まぁもう──怜はいない。
ゆっくり雫に僕を刻めばいい。
怜なんて忘れて僕だけを見るように。

取り敢えず──他の男の夢を見ているのは許せないな。
起きたら──否、今すぐその夢から目覚めてもらおう。
雫の側にいるのは僕なのだから。
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