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「飲み過ぎだそ朱音」
榮吾くんの忠告に全然酔ってないし!と返事をする朱音ちゃんは絶対に酔っている。
酔ってないという人は大抵酔っている。
そう思うようになったしまった。
「檜垣、タクシーじゃあ心配だし朱音さんを送ってってあげなよ」
榮吾くんは今日は車だしそうして貰えるとありがたい。
このままだと朱音ちゃんはタクシーの中で寝てしまい起きないかもしれない。
「榮吾くん、朱音ちゃんをお願いしていい?」
私も一緒に朱音ちゃんを送り届けたらいいのかもしれないけれど、後片付けをしたい。
陽ちゃんも体調が良くないのにこのままの散らかし状態は酷だ。
かと言って明日も仕事の榮吾くんを片付けが終わるまで待たせるのも気が引ける。
朱音ちゃんは実家住まいだからご家族さんが介抱してくれるだろう。
「いいけど──このままここで寝かせてやった方がいいんじゃないか?」
それもそうなのだけど、陽ちゃんは体調が悪そうなのでできればゆっくりさせてあげたい。
「僕はどっちでもいいよ」
陽ちゃんも榮吾くんも私を見る。
朱音ちゃんは睡魔と戦っている状態だ。
「じゃあ──榮吾くん、送っていってくれる?」
「緑子も一緒に帰るだろ?」
と、キッチンの方からコンコンも乾いた咳が聞こえる。
目線を向ければ陽ちゃんが薬を飲んでいる。
「私はお片付けしてから帰るよ」
「待つし、一緒にしようぜ」
相変わらず榮吾くんは優しいなぁ。
「ありがとう。でも、朱音ちゃんのご実家に送るのにあまりに遅い時間は失礼だから、先に送ってあげて」
いくら昔馴染みの榮吾くんだとしても午前様は流石に親御さんは良く思わないかもしれない。
陽ちゃんもアルコールを飲んでいないといえど体調が悪いし私はタクシーで帰ればいい。
普段はそうしているのだから。
──ただ──問題は酔っている朱音ちゃんと朱音ちゃんを好きだった榮吾くんを2人きりにするのは──考えすぎだろうか?
【朱音ちゃんをちゃんと家まで送り届けてね】なんて念を押すなんて失礼だ。
今までならそんな事、考えた事も無かったのに……分からなくて思わず陽ちゃんを見れば、私の気持ちが伝わったのか陽ちゃんが一言添えてくれる。
「緑子さん。時間も時間だし、朱音さんのご両親に連絡いれておいたら?」
「そうだね。朱音ちゃんのお母さんにメールをしておくよ」
ソファで眠っている朱音ちゃんを起こし、コートを着るように促せば閉じられていた瞼がゆっくりと開く。
「緑子だぁー」
そう満面の笑みで微笑まれれば嬉しくなる。
「そうだよ、朱音ちゃん。ちゃんとコート着て。外は寒いから」
「緑子──‼︎大好き‼︎」
そう抱きついてくれる朱音ちゃんに私も抱きつく。
普段も抱擁をしてくれるけれど、こんな甘々なのは久しぶりだ。
酔って上機嫌なのだろう。
「私も大好きだよ、朱音ちゃん」
そう朱音ちゃんの抱擁に返せば唇に──キスを返される。
「!」
柔らかな唇がゆっくりと離れて──微笑まれる。
「しあわせー」
そう言って虚だった瞳は瞼が閉じ眠ってしまう。
私の腕の中で気持ちよさそうに眠っている朱音ちゃんを──どうすればいいのか。
榮吾くんと陽ちゃんに助けを求めたいけれど……なんだか声を掛けづらい。
「随分と朱音さんは酔っ払ってるね。檜垣、朱音さんをよろしくね」
陽ちゃんが朱音ちゃんをお姫様抱っこする。
初めてお姫様抱っこというものを現実で見た。
陽ちゃんも朱音ちゃんも美男美女なのでまるで物語の主役のように素敵だ。
「あ、私が荷物持つね」
「緑子さんはここにいて。鍵かけるのも開けるのもメンドーだし檜垣が持てるから」
「……わかった」
「じゃあ緑子、またな」
榮吾くんにまたねと手を振る。
──扉が閉まり一瞬にして静けさが訪れる。
まるで一人取り残された気分だ。
「──お片付けしよう」
テーブルの上を片付けて、残り物を整理して洗い物を始める。
お湯の流れる音を聞きながら──実感する。
朱音ちゃんが私を好きだと聞いて知っているつもりだった。
正直なところ、嬉しいなと……思っていた。
でも──その意味をわかっていなかった。
あのキスが私を暴いてしまう。
私は──朱音ちゃんを恋愛対象としては見れない。
「ただいま」
リビングの扉が静かに開く。
「ありがとう、陽ちゃん」
食器乾燥機に押し込みグラスは布巾で拭けばいい。
「陽ちゃん体調大丈夫?私、何か作って帰るから朝ごはん食べるんだよ!ちゃんとね!」
強めに言わないと陽ちゃんは本当にご飯を食べないから困ってしまう。
悩み事があっても風邪をひいても食べれちゃう私とは正反対だよ。
お粥は絶対に食べてくれないだろうから……
「僕、言ったよね?」
「?」
なにを──
「もし──誰かに心と身体──どちらかでも許したら──もう容赦出来ないからって言ったよね?」
言った気がするけれど……そんな感覚は自分の中にはないので戸惑ってしまう。
「あれは──朱音ちゃんは酔ってて」
朱音ちゃんとのキスの事を言っているんだと分かり弁解したいのだけれどどう言えばいいのか。
「酔っていたら貴方になにをしてもいいのなら僕は永遠に酒に溺れているよ」
確かに陽ちゃんの理屈は分かる。
けれど──私はこの関係を壊したい訳じゃあない。
寧ろ壊そうとしてくるのは貴方達なのになぜ私が責められなきゃならないのか。
「ごめんなさい。でも誰よりも私が1番この友情を壊したくないと思っているのは知っているでしょう⁈」
少しの苛立ちをぶつけてしまう。
陽ちゃんは体調が悪いのに……
「もう少しお片付けしたら勝手に帰るから──陽ちゃんは寝てていいよ」
陽ちゃんは朱音ちゃんと榮吾くんのも不仲を取り持つ為に体調が悪いのを隠してでも付き合ってくれたのに綺麗に隠せる言葉が出てこない。
このまま話せば──言いたくないことや知りたくない事も知ってしまいそうだ。
陽ちゃんには悪いけれどさっさと帰ろう。
「朱音さんに抱きしめられて、キスをされてどうだった?」
──言いたくない。
「僕は今まで──朱音さんが貴方に愛を告げる日が怖かったんだ。そなん日が来れば貴方は朱音さんを選ぶかもしれないって。──でも、朱音さんが貴方への恋心をひた隠しにしていた理由がわかったよ」
やめて。
「恋に疎い貴方でも気づいたんでしょう?朱音さんを──女性を恋愛対象として見れないって」
「そんなことない──まだ実感がないだけよ」
「自分自身でも気がついた筈だよ」
朱音ちゃんに抱きしめられても──キスをされても嬉しいのだけれど違うと思った。
あの時と──違うと思った。
「檜垣となにがあったの?」
陽ちゃんはなんでも知ってるみたいに言い当てる。
まるで私の知らない私も知っているみたいだ。
「なにもないよ」
それでも隠しておきたい事もあるってわかってよ!
「緑子さんは檜垣と朱音さんを比べてだんでしょう?それで──気づいた。檜垣の時と朱音さんの時の自分の心の違いに」
朱音ちゃんとのキスは──嫌じゃない。
けれど榮吾くんとのキスは──ドキドキした。
「帰る」
陽ちゃんに全て見透かされるのは困る。
私が取り繕った言葉なんてきっと陽ちゃんは見透かすのだろう。
なら、何も言わずに去ったほうがいい。
コートとカバンを取ろうとするより先に陽ちゃんの指が私の腕に纏わり付く。
キッチンから抜けでれない。
「陽ちゃんも今日は体調が良くないんだから寝ていた方がいいよ」
「嘘だよ」
嘘?なんでそんな嘘をつくのか。
全くもって陽ちゃんがわからない。
それにお薬も飲んでいたのを見たのに。
「あっ、あれビタミンだよ」
細かい素振りまで入れてくるんで流石にちょっとイラッとする。
「体調悪くないの?なんでそんな嘘つくの?」
「緑子さんが僕に嘘をつくからだよ」
「私が?嘘なんて──」
「檜垣となにもなかったって──本当に?」
「──嘘をついてごめんなさい」
でも私の嘘は言いたくないからの嘘だ。
陽ちゃんの嘘はよく分からない。
体調不良でお酒を飲まないって嘘に意味はあるのだろうか。
「で?」
私の嘘を晒せと訴えてくる。
陽ちゃんは私を好きなんだよね?
なら私と榮吾くんがキスをしたと知ればいい気はしない。
言いたくない。
「朱音さんがいる前で聞いてもよかったんだよ?それをしなかった僕に感謝して欲しいくらいだ」
朱音ちゃんには……知られたくない。
「先日──榮吾くんとご飯を食べに行って……キス…」
されたの、というのか。
したの、というのか悩む。
言葉の使い方によって印象がだいぶ違う気がする。
「キスされたの?」
そう言われると榮吾くんだけが悪い印象になってしまう。
「私が悪いの!私が……榮吾くんに大好きって言っちゃったから」
幼馴染の関係としてのつもりだった。
朱音ちゃんに勘違いする言葉を使うなと言われていたのに心のままに言葉に出してしまった。
「檜垣を大好き──なの?なら僕は?」
陽ちゃんの事も大好きだけれど、今は言葉にしたらいけない気がする。
「榮吾くんと一緒だよ」
「一緒?一緒ってなに?」
「大切な友人だよ」
「緑子さんは友人とキスをするの?」
「あれは──!お互い酔ってて……」
「それを反省して二人とも今日はアルコールを飲まなかったって?」
わかってくれたことにホッとする。
「そう。榮吾くんも私もそんなつもりはなかったの。あれは間違いというか、お酒の所為で──」
「そうなんだ」
そう微笑む陽ちゃんの目が笑ってない。
「こんなこと──もう絶対にないから……」
そう言い訳をする私に陽ちゃんが近づく。
今の陽ちゃんは怖い。
お願いだから近づかないで欲しい。
そう願うのに陽ちゃんは近づき私をゆっくりと──まるで逃さないように腕の中に閉じ込める。
「陽ちゃん?」
「大丈夫だよ。僕は檜垣や朱音さんのように酔ってないから」
微塵も大丈夫だと思えない。
陽ちゃんがお酒を飲まなかった理由を今、わかってしまった。
榮吾くんの忠告に全然酔ってないし!と返事をする朱音ちゃんは絶対に酔っている。
酔ってないという人は大抵酔っている。
そう思うようになったしまった。
「檜垣、タクシーじゃあ心配だし朱音さんを送ってってあげなよ」
榮吾くんは今日は車だしそうして貰えるとありがたい。
このままだと朱音ちゃんはタクシーの中で寝てしまい起きないかもしれない。
「榮吾くん、朱音ちゃんをお願いしていい?」
私も一緒に朱音ちゃんを送り届けたらいいのかもしれないけれど、後片付けをしたい。
陽ちゃんも体調が良くないのにこのままの散らかし状態は酷だ。
かと言って明日も仕事の榮吾くんを片付けが終わるまで待たせるのも気が引ける。
朱音ちゃんは実家住まいだからご家族さんが介抱してくれるだろう。
「いいけど──このままここで寝かせてやった方がいいんじゃないか?」
それもそうなのだけど、陽ちゃんは体調が悪そうなのでできればゆっくりさせてあげたい。
「僕はどっちでもいいよ」
陽ちゃんも榮吾くんも私を見る。
朱音ちゃんは睡魔と戦っている状態だ。
「じゃあ──榮吾くん、送っていってくれる?」
「緑子も一緒に帰るだろ?」
と、キッチンの方からコンコンも乾いた咳が聞こえる。
目線を向ければ陽ちゃんが薬を飲んでいる。
「私はお片付けしてから帰るよ」
「待つし、一緒にしようぜ」
相変わらず榮吾くんは優しいなぁ。
「ありがとう。でも、朱音ちゃんのご実家に送るのにあまりに遅い時間は失礼だから、先に送ってあげて」
いくら昔馴染みの榮吾くんだとしても午前様は流石に親御さんは良く思わないかもしれない。
陽ちゃんもアルコールを飲んでいないといえど体調が悪いし私はタクシーで帰ればいい。
普段はそうしているのだから。
──ただ──問題は酔っている朱音ちゃんと朱音ちゃんを好きだった榮吾くんを2人きりにするのは──考えすぎだろうか?
【朱音ちゃんをちゃんと家まで送り届けてね】なんて念を押すなんて失礼だ。
今までならそんな事、考えた事も無かったのに……分からなくて思わず陽ちゃんを見れば、私の気持ちが伝わったのか陽ちゃんが一言添えてくれる。
「緑子さん。時間も時間だし、朱音さんのご両親に連絡いれておいたら?」
「そうだね。朱音ちゃんのお母さんにメールをしておくよ」
ソファで眠っている朱音ちゃんを起こし、コートを着るように促せば閉じられていた瞼がゆっくりと開く。
「緑子だぁー」
そう満面の笑みで微笑まれれば嬉しくなる。
「そうだよ、朱音ちゃん。ちゃんとコート着て。外は寒いから」
「緑子──‼︎大好き‼︎」
そう抱きついてくれる朱音ちゃんに私も抱きつく。
普段も抱擁をしてくれるけれど、こんな甘々なのは久しぶりだ。
酔って上機嫌なのだろう。
「私も大好きだよ、朱音ちゃん」
そう朱音ちゃんの抱擁に返せば唇に──キスを返される。
「!」
柔らかな唇がゆっくりと離れて──微笑まれる。
「しあわせー」
そう言って虚だった瞳は瞼が閉じ眠ってしまう。
私の腕の中で気持ちよさそうに眠っている朱音ちゃんを──どうすればいいのか。
榮吾くんと陽ちゃんに助けを求めたいけれど……なんだか声を掛けづらい。
「随分と朱音さんは酔っ払ってるね。檜垣、朱音さんをよろしくね」
陽ちゃんが朱音ちゃんをお姫様抱っこする。
初めてお姫様抱っこというものを現実で見た。
陽ちゃんも朱音ちゃんも美男美女なのでまるで物語の主役のように素敵だ。
「あ、私が荷物持つね」
「緑子さんはここにいて。鍵かけるのも開けるのもメンドーだし檜垣が持てるから」
「……わかった」
「じゃあ緑子、またな」
榮吾くんにまたねと手を振る。
──扉が閉まり一瞬にして静けさが訪れる。
まるで一人取り残された気分だ。
「──お片付けしよう」
テーブルの上を片付けて、残り物を整理して洗い物を始める。
お湯の流れる音を聞きながら──実感する。
朱音ちゃんが私を好きだと聞いて知っているつもりだった。
正直なところ、嬉しいなと……思っていた。
でも──その意味をわかっていなかった。
あのキスが私を暴いてしまう。
私は──朱音ちゃんを恋愛対象としては見れない。
「ただいま」
リビングの扉が静かに開く。
「ありがとう、陽ちゃん」
食器乾燥機に押し込みグラスは布巾で拭けばいい。
「陽ちゃん体調大丈夫?私、何か作って帰るから朝ごはん食べるんだよ!ちゃんとね!」
強めに言わないと陽ちゃんは本当にご飯を食べないから困ってしまう。
悩み事があっても風邪をひいても食べれちゃう私とは正反対だよ。
お粥は絶対に食べてくれないだろうから……
「僕、言ったよね?」
「?」
なにを──
「もし──誰かに心と身体──どちらかでも許したら──もう容赦出来ないからって言ったよね?」
言った気がするけれど……そんな感覚は自分の中にはないので戸惑ってしまう。
「あれは──朱音ちゃんは酔ってて」
朱音ちゃんとのキスの事を言っているんだと分かり弁解したいのだけれどどう言えばいいのか。
「酔っていたら貴方になにをしてもいいのなら僕は永遠に酒に溺れているよ」
確かに陽ちゃんの理屈は分かる。
けれど──私はこの関係を壊したい訳じゃあない。
寧ろ壊そうとしてくるのは貴方達なのになぜ私が責められなきゃならないのか。
「ごめんなさい。でも誰よりも私が1番この友情を壊したくないと思っているのは知っているでしょう⁈」
少しの苛立ちをぶつけてしまう。
陽ちゃんは体調が悪いのに……
「もう少しお片付けしたら勝手に帰るから──陽ちゃんは寝てていいよ」
陽ちゃんは朱音ちゃんと榮吾くんのも不仲を取り持つ為に体調が悪いのを隠してでも付き合ってくれたのに綺麗に隠せる言葉が出てこない。
このまま話せば──言いたくないことや知りたくない事も知ってしまいそうだ。
陽ちゃんには悪いけれどさっさと帰ろう。
「朱音さんに抱きしめられて、キスをされてどうだった?」
──言いたくない。
「僕は今まで──朱音さんが貴方に愛を告げる日が怖かったんだ。そなん日が来れば貴方は朱音さんを選ぶかもしれないって。──でも、朱音さんが貴方への恋心をひた隠しにしていた理由がわかったよ」
やめて。
「恋に疎い貴方でも気づいたんでしょう?朱音さんを──女性を恋愛対象として見れないって」
「そんなことない──まだ実感がないだけよ」
「自分自身でも気がついた筈だよ」
朱音ちゃんに抱きしめられても──キスをされても嬉しいのだけれど違うと思った。
あの時と──違うと思った。
「檜垣となにがあったの?」
陽ちゃんはなんでも知ってるみたいに言い当てる。
まるで私の知らない私も知っているみたいだ。
「なにもないよ」
それでも隠しておきたい事もあるってわかってよ!
「緑子さんは檜垣と朱音さんを比べてだんでしょう?それで──気づいた。檜垣の時と朱音さんの時の自分の心の違いに」
朱音ちゃんとのキスは──嫌じゃない。
けれど榮吾くんとのキスは──ドキドキした。
「帰る」
陽ちゃんに全て見透かされるのは困る。
私が取り繕った言葉なんてきっと陽ちゃんは見透かすのだろう。
なら、何も言わずに去ったほうがいい。
コートとカバンを取ろうとするより先に陽ちゃんの指が私の腕に纏わり付く。
キッチンから抜けでれない。
「陽ちゃんも今日は体調が良くないんだから寝ていた方がいいよ」
「嘘だよ」
嘘?なんでそんな嘘をつくのか。
全くもって陽ちゃんがわからない。
それにお薬も飲んでいたのを見たのに。
「あっ、あれビタミンだよ」
細かい素振りまで入れてくるんで流石にちょっとイラッとする。
「体調悪くないの?なんでそんな嘘つくの?」
「緑子さんが僕に嘘をつくからだよ」
「私が?嘘なんて──」
「檜垣となにもなかったって──本当に?」
「──嘘をついてごめんなさい」
でも私の嘘は言いたくないからの嘘だ。
陽ちゃんの嘘はよく分からない。
体調不良でお酒を飲まないって嘘に意味はあるのだろうか。
「で?」
私の嘘を晒せと訴えてくる。
陽ちゃんは私を好きなんだよね?
なら私と榮吾くんがキスをしたと知ればいい気はしない。
言いたくない。
「朱音さんがいる前で聞いてもよかったんだよ?それをしなかった僕に感謝して欲しいくらいだ」
朱音ちゃんには……知られたくない。
「先日──榮吾くんとご飯を食べに行って……キス…」
されたの、というのか。
したの、というのか悩む。
言葉の使い方によって印象がだいぶ違う気がする。
「キスされたの?」
そう言われると榮吾くんだけが悪い印象になってしまう。
「私が悪いの!私が……榮吾くんに大好きって言っちゃったから」
幼馴染の関係としてのつもりだった。
朱音ちゃんに勘違いする言葉を使うなと言われていたのに心のままに言葉に出してしまった。
「檜垣を大好き──なの?なら僕は?」
陽ちゃんの事も大好きだけれど、今は言葉にしたらいけない気がする。
「榮吾くんと一緒だよ」
「一緒?一緒ってなに?」
「大切な友人だよ」
「緑子さんは友人とキスをするの?」
「あれは──!お互い酔ってて……」
「それを反省して二人とも今日はアルコールを飲まなかったって?」
わかってくれたことにホッとする。
「そう。榮吾くんも私もそんなつもりはなかったの。あれは間違いというか、お酒の所為で──」
「そうなんだ」
そう微笑む陽ちゃんの目が笑ってない。
「こんなこと──もう絶対にないから……」
そう言い訳をする私に陽ちゃんが近づく。
今の陽ちゃんは怖い。
お願いだから近づかないで欲しい。
そう願うのに陽ちゃんは近づき私をゆっくりと──まるで逃さないように腕の中に閉じ込める。
「陽ちゃん?」
「大丈夫だよ。僕は檜垣や朱音さんのように酔ってないから」
微塵も大丈夫だと思えない。
陽ちゃんがお酒を飲まなかった理由を今、わかってしまった。
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