恋と憂鬱 ─囚巡暦─

六菖十菊

文字の大きさ
上 下
21 / 43
腐草為蛍 カレタルクサホタルトナル 6/11-6/15

016

しおりを挟む
金曜日の夜から凌の部屋に泊まり日曜日の朝まで──ひたすら求めあった。
日曜日の午後を過ぎ、マンションへと帰ることにする。
凌は寂しそうにしていたけれどいい加減に疲れたし、ここ最近、家事を疎かにしている。
そんな生活感ある現実に戻らなければならないのに、
心はまた凌との時間を欲している。
──あんなに愛を感じるセックスを鈴音は知らない。

──明日、榊さんが出社してきた時にどうしたらいいのか考える時間が欲しかった。
送りたそうな凌を無理矢理押し留めてきた。
凌こそ寝ていないだろう。
ゆっくり眠って欲しい。

──きっと榊さんのことだ。

〈そう。これからは部下と上司としてお互い節度ある対応をしよう〉

そんな感じだろうか。
もしかしたら予想外に詰られるかも知れない。
自分の部下同士がくっつけばプライドが許さないこともあるだろう。
最悪、部署移動もあるかも知れないと覚悟しよう。
けれど──別れ話が拗れることはないだろう。
灰谷──凌は絶対に一緒に行くから1人で榊さんに会うなと言うけれど、そんな状態で別れ話をされたら私なら末代まで祟りそうだ。
もし別の女性を横に連れ別れ話なんてされたら鈴音なら一生モノのトラウマだ。
過保護なまでに想っていてくれる気持ちは嬉しいけれど、やっぱりソレは無い。

自宅マンション前に着くと携帯が鳴る。
心配した灰谷が確認の為に掛けてくれたのだろうと画面を覗くと──
【榊さん】

──あれほど待ち侘びた着信なのに、今は出るのが怖い。
出ようと──そう思うのに指が動かない。
と、着信音が途絶えた。
浅く息を吐き呼吸を整える。

「鈴音さん」

──その声に戦慄する。
鈴音の耳元で聞こえたその声は紛れもなく榊さんの声だ。
榊さんがすぐ後ろに立っていることをその声で理解する。
「鈴音さんに逢いたくて──マンションに来たら見かけたから電話したんだけど、電話に気づかなかった?」
……どこから見ていたのだろうか?
鈴音が携帯を握りしめて硬直していたのを見ていたらこんなに声が朗らかなことはないのだろう。

「──振り向いてくれないのは僕に怒っているからかい?」

「鈴音さん、こっちを向いて欲しい」

後ろから抱きしめられ頭頂部にキスをするように嗅がれる。その瞬間──抱きしめられていた腕の強さが増した。

「痛っ──榊さん──痛い」

「ごめん」

抱き締めていた腕を緩めてくれたと思った次の瞬間には腕を取り微笑みながら鈴音を見入る。

「話がしたいんだ──僕のマンションで話をしよう」

──なんだか──こんな微笑み方をする人だっただろうか?
もう少し暗い目をしていた気がするが、なんだか今は──憑物が落ちた様にスッキリしている。
それがなんだか怖いと感じてしまう自分は疾しいことがあるからだろうか?

「私も──話したいことがあるの」

こんな気持ちで別れ話をすることになるとは思ってなかった。
もっと苦しくて──哀しくて辛いと思ってた。
凌が鈴音を癒して救ってくれた。
榊さんを──課長を鈴音の思いの枠に閉じ込めるなんて
間違いだったと今は分かる。
苦手な事を──過去に何かあったかも知れない人の気持ちを捻じ曲げてまで、鈴音の欲を押し付けた傲慢さに今更ながら気づく。
最後に榊さんに今までの事を謝ろう。
そして、別れよう。

「車に乗って」

和歌子にもらった玩具と同じ車に乗り込む。
鈴音の好きなアーティストの曲が流れている。 
──そんなこと初めてだったのに鈴音はそれに気がつかなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【ヤンデレ鬼ごっこ実況中】

階段
恋愛
ヤンデレ彼氏の鬼ごっこしながら、 屋敷(監禁場所)から脱出しようとする話 _________________________________ 【登場人物】 ・アオイ 昨日初彼氏ができた。 初デートの後、そのまま監禁される。 面食い。 ・ヒナタ アオイの彼氏。 お金持ちでイケメン。 アオイを自身の屋敷に監禁する。 ・カイト 泥棒。 ヒナタの屋敷に盗みに入るが脱出できなくなる。 アオイに協力する。 _________________________________ 【あらすじ】 彼氏との初デートを楽しんだアオイ。 彼氏に家まで送ってもらっていると急に眠気に襲われる。 目覚めると知らないベッドに横たわっており、手足を縛られていた。 色々あってヒタナに監禁された事を知り、隙を見て拘束を解いて部屋の外へ出ることに成功する。 だがそこは人里離れた大きな屋敷の最上階だった。 ヒタナから逃げ切るためには、まずこの屋敷から脱出しなければならない。 果たしてアオイはヤンデレから逃げ切ることができるのか!? _________________________________ 7話くらいで終わらせます。 短いです。 途中でR15くらいになるかもしれませんがわからないです。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

プレパレーション

9minute
恋愛
何気ない日常がどれほど尊いものなのか。当たり前にある日々をどれだけ大切に、感謝をして生きていくのか、最後にならないと本当に分からないものである。 この作品はカクヨムにも掲載しています。

【R18完結】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

元カノと復縁する方法

なとみ
恋愛
「別れよっか」 同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。 会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。 自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。 表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!

ボロボロになった心

空宇海
恋愛
付き合ってそろそろ3年の彼氏が居る 彼氏は浮気して謝っての繰り返し もう、私の心が限界だった。 心がボロボロで もう、疲れたよ… 彼のためにって思ってやってきたのに… それが、彼を苦しめてた。 だからさよなら… 私はまた、懲りずに新しい恋をした ※初めから書きなおしました。

甘い誘惑

さつらぎ結雛
恋愛
幼馴染だった3人がある日突然イケナイ関係に… どんどん深まっていく。 こんなにも身近に甘い罠があったなんて あの日まで思いもしなかった。 3人の関係にライバルも続出。 どんどん甘い誘惑の罠にハマっていく胡桃。 一体この罠から抜け出せる事は出来るのか。 ※だいぶ性描写、R18、R15要素入ります。 自己責任でお願い致します。

処理中です...