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家族旅行
009
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「お母さん、マッサージしてあげるよ」
部屋に戻ると布団が敷かれている。
三つある布団の真ん中を母が選び、入り口側を海都が、奥を私が選ぶ。
「プロの整体師にして貰えるなんてお母さん嬉しいわぁ」
プロと言っても国家資格を持っているわけではない。
民間資格だけれど中々、指名してくれるお客様もいて嬉しくなる。
母の身体の肩から肩甲骨にかけてトリガーポイントがある。
丁寧に凝りほぐし流していく。
母は今、介護施設で働いている。
私も海都も社会人になり、以前ほど頑張らなくて良くなったとはいえ私たちがいつかは家を出て行くと、一人で生活していく為に頑張ろうとしている。
母は器用な人間ではない。
特殊な資格が取るのは難しいだろう。
それに細くて体力もない。
それでも精一杯頑張っている。
──父の葬儀の際の言葉が耳にこびりついて離れない。
私は小学五年生だった。
父はスキルス性の胃がんで発見された時はもう手遅れだった。
発覚から数ヶ月で亡くなった父を、父の両親は受け入れられず母を罵倒した。
〈貴方がちゃんとみてあげてないから!晃を愛していればこんな事になる前に気づけたはずよ‼︎ 貴方が悪いのよ!〉
祖母は愛した子を先に逝かせた後悔を母に──誰かの所為にしたかったのだろう。
あの時の母の泣き顔と土下座をするように崩れ落ちる姿を何度も夢に見る。
その夢には続きがあり──父の葬儀ではなく、私が海都を好きなことを知られてしまったというシチュエーションでその光景が再現される。
泣き崩れる母を成す術なく眺めている夢だ。
──あんな日は来てはいけない。
絶対に。
整体が終わる頃には母は寝てしまった。
気持ちいいのもあったのかもしれないけれど、やはり疲れているのかもしれない。
横で寝転ぶ海都にも目が行く。
「海都もマッサージしてあげるよ」
「──いいよ」
「料理人は身体が資本でしょう?お姉ちゃん上手だから」
「いいって」
「今日も長距離運転したしちょっとだけでも──」
海都に近寄り身体に触れようとした瞬間──素早く起き上がり拒絶の表情を示す。
「──俺、もう一回温泉行こうと思ってるからいいよ」
そのまま立ち上がり部屋を出て行く。
──私の邪な感情を感じ取ったのだろうか。
触れられるのは困るけど──触れたい。
そう思ってしまった心を見透かし気持ち悪がられたのかもしれない。
ダメだなぁ……私。
携帯が鳴りメール受信を伝える。
ハルからだ。
画像付きで開けば情事の後に裸で眠る自分の姿だ。
身体はシーツで隠れているけれど肩が出ていて裸なのは一目瞭然だ。
〈ハル!いつ撮ったの?悪趣味よ。止めて〉
そう返信したら返事が返ってくる。
〈海都の横で眠るの?海都の眺める湖都子の寝顔はただの寝顔だけど、僕が見ている寝顔は果てた湖都子の寝顔だからね〉
それはハルがねちこいからだ。
何度イッても離してくれない。
もう意識を失わないと死にそうになる。
もうどう返信したらいいのか分からない。
このまま既読無視でもいいだろうか?
けれど──返信しないときっとハルは不安なのだろう──
海都と私に家族以上の関係は一切ないのに。
〈盗撮されるので今度から泊まらないで帰るようにします 湖都子〉
もうハルとは泊まらないと冷たい返信を返す。
〈呼べばどこにでも迎えにいくから〉
急にメールの温度が真剣なものになる。
心配であんなメールを送ってきたのだろう。
心配させている──
可愛いハル。
愛しいハル。
不安にさせている。
心配させている。
ハルと別れたいと何度も思う。
ハルに捨てられたらどうしょうと何度も思う。
きっと私はハルに依存している。
きっと恋じゃない。
なのに彼は私を愛してくれる。
その重さが──苦しい。
けれどその重さが無ければ私は家庭を壊していたかもしれない。
ハルという足枷は重く苦しいけれど、外せば私は堕ちていくだろう。
母と海都を巻き添えにして──
〈明日夕方には帰るから夜に会おう。仕事大丈夫?〉
既読がすぐに付く。
〈今すぐに会いたいくらい──好きだよ〉
ハルの言葉に──なんだか泣きたくなった。
部屋に戻ると布団が敷かれている。
三つある布団の真ん中を母が選び、入り口側を海都が、奥を私が選ぶ。
「プロの整体師にして貰えるなんてお母さん嬉しいわぁ」
プロと言っても国家資格を持っているわけではない。
民間資格だけれど中々、指名してくれるお客様もいて嬉しくなる。
母の身体の肩から肩甲骨にかけてトリガーポイントがある。
丁寧に凝りほぐし流していく。
母は今、介護施設で働いている。
私も海都も社会人になり、以前ほど頑張らなくて良くなったとはいえ私たちがいつかは家を出て行くと、一人で生活していく為に頑張ろうとしている。
母は器用な人間ではない。
特殊な資格が取るのは難しいだろう。
それに細くて体力もない。
それでも精一杯頑張っている。
──父の葬儀の際の言葉が耳にこびりついて離れない。
私は小学五年生だった。
父はスキルス性の胃がんで発見された時はもう手遅れだった。
発覚から数ヶ月で亡くなった父を、父の両親は受け入れられず母を罵倒した。
〈貴方がちゃんとみてあげてないから!晃を愛していればこんな事になる前に気づけたはずよ‼︎ 貴方が悪いのよ!〉
祖母は愛した子を先に逝かせた後悔を母に──誰かの所為にしたかったのだろう。
あの時の母の泣き顔と土下座をするように崩れ落ちる姿を何度も夢に見る。
その夢には続きがあり──父の葬儀ではなく、私が海都を好きなことを知られてしまったというシチュエーションでその光景が再現される。
泣き崩れる母を成す術なく眺めている夢だ。
──あんな日は来てはいけない。
絶対に。
整体が終わる頃には母は寝てしまった。
気持ちいいのもあったのかもしれないけれど、やはり疲れているのかもしれない。
横で寝転ぶ海都にも目が行く。
「海都もマッサージしてあげるよ」
「──いいよ」
「料理人は身体が資本でしょう?お姉ちゃん上手だから」
「いいって」
「今日も長距離運転したしちょっとだけでも──」
海都に近寄り身体に触れようとした瞬間──素早く起き上がり拒絶の表情を示す。
「──俺、もう一回温泉行こうと思ってるからいいよ」
そのまま立ち上がり部屋を出て行く。
──私の邪な感情を感じ取ったのだろうか。
触れられるのは困るけど──触れたい。
そう思ってしまった心を見透かし気持ち悪がられたのかもしれない。
ダメだなぁ……私。
携帯が鳴りメール受信を伝える。
ハルからだ。
画像付きで開けば情事の後に裸で眠る自分の姿だ。
身体はシーツで隠れているけれど肩が出ていて裸なのは一目瞭然だ。
〈ハル!いつ撮ったの?悪趣味よ。止めて〉
そう返信したら返事が返ってくる。
〈海都の横で眠るの?海都の眺める湖都子の寝顔はただの寝顔だけど、僕が見ている寝顔は果てた湖都子の寝顔だからね〉
それはハルがねちこいからだ。
何度イッても離してくれない。
もう意識を失わないと死にそうになる。
もうどう返信したらいいのか分からない。
このまま既読無視でもいいだろうか?
けれど──返信しないときっとハルは不安なのだろう──
海都と私に家族以上の関係は一切ないのに。
〈盗撮されるので今度から泊まらないで帰るようにします 湖都子〉
もうハルとは泊まらないと冷たい返信を返す。
〈呼べばどこにでも迎えにいくから〉
急にメールの温度が真剣なものになる。
心配であんなメールを送ってきたのだろう。
心配させている──
可愛いハル。
愛しいハル。
不安にさせている。
心配させている。
ハルと別れたいと何度も思う。
ハルに捨てられたらどうしょうと何度も思う。
きっと私はハルに依存している。
きっと恋じゃない。
なのに彼は私を愛してくれる。
その重さが──苦しい。
けれどその重さが無ければ私は家庭を壊していたかもしれない。
ハルという足枷は重く苦しいけれど、外せば私は堕ちていくだろう。
母と海都を巻き添えにして──
〈明日夕方には帰るから夜に会おう。仕事大丈夫?〉
既読がすぐに付く。
〈今すぐに会いたいくらい──好きだよ〉
ハルの言葉に──なんだか泣きたくなった。
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