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大渦
031
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──気がつけば──牢にいた。
「これほど白い人間は白家の一族にも見たことが無い」
いかにも老獪な男がこちらに向けて何か喋るが言葉が分からない。
相手もこちらの言葉を理解できないようだった。
「王女の方は言葉を理解し会話が成立したが、この男は言葉を解さぬ。この国にこの男と同じ魂が居らぬからか?──面倒じゃな」
日本語でも中国語でも英語でも、ましてフィンランド語でもない。
ここはどこで、なぜ僕は牢に入れられている?
あの女の子はどこへ行ったのだろう。
大丈夫だろうか?
「王女と遊ぶのに面白い玩具かと思ったが面倒じゃな。知らぬ言葉で会話されても面白ぅないからの」
悪態をついているのは分かる。
その老人は虫けらを見るように僕を見ている。
「街の外れに置いてこようか。珍しき白き男として愛好家に売り渡すも良いかもしれぬ。言葉も解せず金も縁も所縁もない地でどんな人生を歩むのか楽しみよ」
──あの日から──僕が白家に拾われ白夜と名乗るまでどれくらいの月日が流れたのだろう。
優しい人もいた。
あの人達がいなければ僕は生きていなかった。
けれど──白人差別と身元不明の怪しい男への風当たりは酷いものだった。
言葉を覚えて知識で白家に貢献出来る様になった頃、女王を描いた絵画を見た。
──あの女の子だった。
彼女もこの世界に来ている──
〈傲慢で気位が高く女王の後宮で男を侍らせている〉
それが市井での女王の評価だ。
恐らく──彼女の物語に僕は巻き込まれた。
この世界で女王として君臨している彼女の絵姿を何度この目に焼きつけたか。
あの時に──彼女の腕を掴まなければ──その手を離してしまえば僕はこんな世界に来なくてもよかったかもしれない──
そんなある日、白家当主に呼び出された。
「女王の後宮に行ってみないかい?」
「──なぜ僕が?僕は本当の白家の人間でもないし地位が高い訳でもない。白家として王配を手に入れたいのなら僕では無い筈だ」
「王配を手に入れるためには──御子が必要なんだよ」
政略結婚など皆無に近い環境にいた自分には正直この手の内容は辟易する。
「今や女王は黒家の男一人を寵愛し後宮は機能していない──と言うのが表向きの理由だけど本当は女王の後宮に今、男性はいない」
「いない?現に黒家の黒雨が毎夜、閨に呼ばれていると聞きますよ。一人だけを愛するのならそれも良いと思いますが」
「黒雨は恐らくダミーだよ。彼は女王を護る騎士だね──だから御子が出来ない」
「それなら女王は後宮を望んでいないということだ。僕の出番は尚更にないよ」
「数年前まで女王は──王女殿下時代の後宮は盛んに多くの男性と関係を結んでいたけれど御子に恵まれなかった──女王は妊娠しにくいお身体だと私は思っている」
「そうであっても僕にどんな関係があるんだ⁈」
「君は知らないだろうけれど本当に女王と前王女はそっくりなんだよ」
「……」
「あんなに精巧な偽物を私は知らない──白夜。君はあの女王と同じ世界の人間だね?」
否定を無意味だと思わせる確信の表情だ。
表に出してい情報もあるのだろう。
そうでなければ荒唐無稽なこんな話に辿りつけるとは思えない。
情報で戦う白家に否定は無意味だ。
「女王が本当に黒雨を愛しているのなら別の方法があるけれど──女王の不妊は前からだ。そうなれば──同じ世界の君はどうだろうと思ってね」
「偽りの女王と知っているのに罷免しないと?」
「偽物も本物も私には些末な──否──私は彼女に女王としてこの国を治めてもらいたいな。その為には──彼女が望まなくても御子が必要だよ。世継ぎがいなければ国が乱れる。彼女の御代は壮絶なものとなる」
「彼女を女王に望むのは──彼女なら御し易いからですか?」
僕の苛立ちを見抜くように微笑む。
「彼女はこの月下国の女王に相応しくない人だ」
その答えに何故だか苛立つ。
「──この腐敗した月下国の女王にはね。御し易いだって?ある意味そうだな……彼女なら──白家を御し易い。他の王族には愛想が尽きたところがあるからね。このまま他の王が立つのなら白家は従わない可能性もある」
白家当主がここまで女王を推すとは思わなかった。
彼もこの世界を──この国を倦厭している。
「彼女と僕をこの国の王とするのは月下国に対するクーデターだ。許されることではない」
二人ともこの国とは関係のない二人だ。
国民の知らないうちに王族が他国どころか違う世界の人間に取って代わられているなんて異常だ。
「この国の事を考えたような発言だけれど君は実際はこの国はどうでもいいんだろう?だから責任と役割を持ちたくないだけだ」
返す言葉がない。
「その通りだよ。知っているのに僕を後宮に入れようと考えるのは遂に耄碌したのかい?」
まだ若き当主に当てつける。
「君と女王は同じ世界の人間だけあって価値観が似ている。その価値はこの国にとって非常に稀有で──光だ。白家にとっても──この国にとっても。それを国の為に使うも使わないも君たちの自由だ。けれど見てみたいのが本音だけれどね」
「当主から見た女王は光に……思えるのですか?」
噂では傲慢な女王と言われる彼女が。
「──君にはどう映るかな。君が嫌ならこの話は別の白家の者に委ねるよ。どちらにしても白家は王家との結びつきを──今の女王の王配が欲しい。私はこの迫害の歴史に終止符と新たな可能性を模索したいからね。出来るだけ相性の良さそうな──精の強そうな男を選ぶよ」
──僕は女王に良い感情を持っていない。
僕が後宮に行くことは白家の為にはならない。
だから別の者が行くのがいいだろう。
この世界に来て二年。
女王として暮らしてきた彼女に苛立っていた。
──この目で本当の彼女を見てみたい。
「僕がいくよ──僕を女王の後宮へ」
自分をこの世界に巻き込んだ彼女の生き様を見てみたかった。
「これほど白い人間は白家の一族にも見たことが無い」
いかにも老獪な男がこちらに向けて何か喋るが言葉が分からない。
相手もこちらの言葉を理解できないようだった。
「王女の方は言葉を理解し会話が成立したが、この男は言葉を解さぬ。この国にこの男と同じ魂が居らぬからか?──面倒じゃな」
日本語でも中国語でも英語でも、ましてフィンランド語でもない。
ここはどこで、なぜ僕は牢に入れられている?
あの女の子はどこへ行ったのだろう。
大丈夫だろうか?
「王女と遊ぶのに面白い玩具かと思ったが面倒じゃな。知らぬ言葉で会話されても面白ぅないからの」
悪態をついているのは分かる。
その老人は虫けらを見るように僕を見ている。
「街の外れに置いてこようか。珍しき白き男として愛好家に売り渡すも良いかもしれぬ。言葉も解せず金も縁も所縁もない地でどんな人生を歩むのか楽しみよ」
──あの日から──僕が白家に拾われ白夜と名乗るまでどれくらいの月日が流れたのだろう。
優しい人もいた。
あの人達がいなければ僕は生きていなかった。
けれど──白人差別と身元不明の怪しい男への風当たりは酷いものだった。
言葉を覚えて知識で白家に貢献出来る様になった頃、女王を描いた絵画を見た。
──あの女の子だった。
彼女もこの世界に来ている──
〈傲慢で気位が高く女王の後宮で男を侍らせている〉
それが市井での女王の評価だ。
恐らく──彼女の物語に僕は巻き込まれた。
この世界で女王として君臨している彼女の絵姿を何度この目に焼きつけたか。
あの時に──彼女の腕を掴まなければ──その手を離してしまえば僕はこんな世界に来なくてもよかったかもしれない──
そんなある日、白家当主に呼び出された。
「女王の後宮に行ってみないかい?」
「──なぜ僕が?僕は本当の白家の人間でもないし地位が高い訳でもない。白家として王配を手に入れたいのなら僕では無い筈だ」
「王配を手に入れるためには──御子が必要なんだよ」
政略結婚など皆無に近い環境にいた自分には正直この手の内容は辟易する。
「今や女王は黒家の男一人を寵愛し後宮は機能していない──と言うのが表向きの理由だけど本当は女王の後宮に今、男性はいない」
「いない?現に黒家の黒雨が毎夜、閨に呼ばれていると聞きますよ。一人だけを愛するのならそれも良いと思いますが」
「黒雨は恐らくダミーだよ。彼は女王を護る騎士だね──だから御子が出来ない」
「それなら女王は後宮を望んでいないということだ。僕の出番は尚更にないよ」
「数年前まで女王は──王女殿下時代の後宮は盛んに多くの男性と関係を結んでいたけれど御子に恵まれなかった──女王は妊娠しにくいお身体だと私は思っている」
「そうであっても僕にどんな関係があるんだ⁈」
「君は知らないだろうけれど本当に女王と前王女はそっくりなんだよ」
「……」
「あんなに精巧な偽物を私は知らない──白夜。君はあの女王と同じ世界の人間だね?」
否定を無意味だと思わせる確信の表情だ。
表に出してい情報もあるのだろう。
そうでなければ荒唐無稽なこんな話に辿りつけるとは思えない。
情報で戦う白家に否定は無意味だ。
「女王が本当に黒雨を愛しているのなら別の方法があるけれど──女王の不妊は前からだ。そうなれば──同じ世界の君はどうだろうと思ってね」
「偽りの女王と知っているのに罷免しないと?」
「偽物も本物も私には些末な──否──私は彼女に女王としてこの国を治めてもらいたいな。その為には──彼女が望まなくても御子が必要だよ。世継ぎがいなければ国が乱れる。彼女の御代は壮絶なものとなる」
「彼女を女王に望むのは──彼女なら御し易いからですか?」
僕の苛立ちを見抜くように微笑む。
「彼女はこの月下国の女王に相応しくない人だ」
その答えに何故だか苛立つ。
「──この腐敗した月下国の女王にはね。御し易いだって?ある意味そうだな……彼女なら──白家を御し易い。他の王族には愛想が尽きたところがあるからね。このまま他の王が立つのなら白家は従わない可能性もある」
白家当主がここまで女王を推すとは思わなかった。
彼もこの世界を──この国を倦厭している。
「彼女と僕をこの国の王とするのは月下国に対するクーデターだ。許されることではない」
二人ともこの国とは関係のない二人だ。
国民の知らないうちに王族が他国どころか違う世界の人間に取って代わられているなんて異常だ。
「この国の事を考えたような発言だけれど君は実際はこの国はどうでもいいんだろう?だから責任と役割を持ちたくないだけだ」
返す言葉がない。
「その通りだよ。知っているのに僕を後宮に入れようと考えるのは遂に耄碌したのかい?」
まだ若き当主に当てつける。
「君と女王は同じ世界の人間だけあって価値観が似ている。その価値はこの国にとって非常に稀有で──光だ。白家にとっても──この国にとっても。それを国の為に使うも使わないも君たちの自由だ。けれど見てみたいのが本音だけれどね」
「当主から見た女王は光に……思えるのですか?」
噂では傲慢な女王と言われる彼女が。
「──君にはどう映るかな。君が嫌ならこの話は別の白家の者に委ねるよ。どちらにしても白家は王家との結びつきを──今の女王の王配が欲しい。私はこの迫害の歴史に終止符と新たな可能性を模索したいからね。出来るだけ相性の良さそうな──精の強そうな男を選ぶよ」
──僕は女王に良い感情を持っていない。
僕が後宮に行くことは白家の為にはならない。
だから別の者が行くのがいいだろう。
この世界に来て二年。
女王として暮らしてきた彼女に苛立っていた。
──この目で本当の彼女を見てみたい。
「僕がいくよ──僕を女王の後宮へ」
自分をこの世界に巻き込んだ彼女の生き様を見てみたかった。
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