女王の後宮

六菖十菊

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脅迫

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どんなに悔やんでも過去の行いは消せない。
それを知っていたのに──同じ──更に酷い行いをした。
その結果がこれだ。
愛した女の願いは死だけとなった。

──いつから勘違いしていた?

強く、誰よりも聡明で優しい心根の美しい女王だと。

本当は酷く弱く、泣き叫ぶしかできない娘だったのに。
それを知っていたのに──誰よりも知っていたのに‼︎
我慢して、我慢して、耐えていたのに。
その糸を切ったのは──俺だ。
悪夢にうなされ──泣いていたのを知っていたのに。
夜の闇の中、怯えながら肩を震わせていたのを何度も見ていたのに。
男が怖いのに後宮を充てがわれ、男ばかりの政を捌き、味方もいない、文化も違う地で、唯一側に置けるのが自分を犯した男だけの可哀想な娘だったのに──ずっと張り詰めて生きていたのを知っていたのに‼︎

俺が死ねば救われるだろうか?
愛する男が傍にいれば救われないだろうか?
そんな願いを一心に求めるけれど犯した男を抱きしめて死を願う姿はもう正常ではない。
壊してしまった──死ぬほど愛する人を。
殺してと願うほどに──壊してしまった。
──どうしたらいいのかさえ分からない。
掛ける言葉もない。

殺したくない。

それが彼女の本望だろうと。

「この世界でも──幸せになれるかもって──馬鹿だった──ここは地獄なのに」

──この方を殺させない──

例えこの地が彼女の地獄だろうと天国を望んでも地獄この地に留まらせたい──
その為には更なる地獄に堕とすしか術を知らない。
──這い上がれない地獄に。
天国など望まぬ地に。
抜け出すなど考えられない地獄に。
──握った拳から血が滴る。
奥歯が砕けそうだ。

「もし──貴方が死を望むのであれば──貴方が死ねば──白夜を殺します」

彼女の瞳が揺れる。
何も映さなかった瞳が──揺れた。

「簡単には死なせない。両足の腱を切り逃げられないようにし、貴方のお気に入りの琥珀色の瞳を抉り出して貴方に献上しましょう。そして──」

「やめて‼︎ ──もうやめて」

俺を抱きしめていた腕が拒絶する。

「もう死にたいなんて言わないから──やめて──」

呆然とする彼女を置いて足早に部屋を出る。
今の状態ですぐに死ぬことは出来ないだろう。
──俺が側にいても彼女は救えない。
彼女を救えるのは──

駆け出し向かう先は後宮の一画。
そこはもう一人の男しか住んでいない。
扉を一心不乱に叩く。
この情けない姿を一番見せたくない相手だった。
けれど今はどうでもいい。
彼にしか彼女は救えないと思った。
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