女王の後宮

淵源

020

「今宵の伽はどちらに」

その問いに鏡花は答える。

「白夜を」

あれから数日、この問答を繰り返している。

「陛下──」

明澄が諫める。
明澄は分かっている。
鏡花が白夜に抱かれていないことを。
ただ一緒に眠っているだけのことを。

「もう少しだけ……明澄──お願い──」

自分の心が解れていっているのが分かる。
遠くない未来、白夜に抱かれても大丈夫だと──
抱いて欲しいと思える自分がいる。

溜め息を大きく吐く明澄は鏡花の我儘を許してくれたようだ。
ありがとうと心の中で呟く。

「──それと黒雨様のことですが──伽を白夜様に一任するのであれば、任を解きお側から離した方が良いと思います」

──黒雨を手離す。
それは鏡花にとっても願いだ。
彼を解放してあげたい。
けれどやはり手を離すのは寂しさが募る。
彼は──鏡花の側を離れたいなんて口が裂けても言えないだろう。
伽を黒雨から白夜に変えた初日は心配してくれたのか何か言いたそうな顔をしていたが、今ではもう何も言わず自室に帰って行く。
漸くぶりにゆっくり眠れると安堵しているのだろう。

「わかったわ──黒雨には私から言うから、もう少し待って」

その時に今までの感謝と、二年前のあの日の事はもう無効だと──お互いに忘れてしまおうと言おう。

「──陛下。女の嫉妬は女に。男の嫉妬も女に行きます。お早めの行動を」

「？　分かったわ」

早めに──か。
最近特に黒雨は仰々しくなって、少し話しにくい。

けれど──黒雨になにか贈り物を渡そう。
ありがとうの気持ちを伝えたいから。