女王の後宮

六菖十菊

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「秘術が御座います──如何いたしましょう陛下」

小さい背を更に丸めた老人が枯れた声で問う。

「その秘術、私では無理なのか?」

王は椅子に身体を預けるように─けど豪華絢爛で厳かな椅子はまるで棺のようだと老人は思う。

「陛下の御身は六十歳。その秘術を用いても召喚できる御方も同じ歳に御座います。また、その為には陛下には死人しびとになって頂くことになります。同じ世界に同じ人物は存在できませんゆえ

「私の命はもう長くない──が、この国に王家の血が絶える事はあってはならない。王家の血が途絶えれば神々との契約は破棄されこの地は加護を失う──なのにそれを知らぬ阿呆あほうは──唯一の私の娘を殺した。子を孕む為──この国の未来の為に後宮を充てがい娘に─けど鏡花に男を与え続けた。誰の子でもよい。王家の──鏡花の子ならばと。それを孕んだと知った日に殺めるとは!」

神々の加護のある王家の話は神話に多くあるが、実際は己を特別だと思いたい傲慢なモノが作り上げた出鱈目だ。
笑いが出る─けど加護など本気で信じているのか。
愚かな王は本気で信じているのだろう。
王家自分は特別だと本気で思っている阿呆なのだから。
その妄言もうげんの為に王家の存続の為に──早く子を成せと娘の為に後宮を作った。
娘を子供を産む道具としか見ていない。

白家はくけは王家への貢献度が高く従順でありながら鏡花様の後宮に招かれることは御座いませんでした。もし──鏡花様が身籠られた御子が黒家こくけの血筋なら黒家の者が王配となり更に白家は不遇の境遇を迫られるのですから。王よ──何故、白家の者を女王の後宮に入れなかったのですか?」

鏡花を殺した犯人は白家だと決め付けて話すが王は関知しない。
死んだ娘には──もう己の役に立たない娘を殺した相手が誰かなんてまうどうでもいいのだろう。

「あの者共は眼の色や肌の色さえ薄く──あの血が王家に混ざれば王家の血が汚れるわ!」

孕ませれば誰でも良いと言ったその口で、己の言葉を否定する。
なんと愚かと思うけれど口にしない。

「如何いたします?鏡花様がお亡くなりになったのを知る者はごく僅か。今なら秘術を使うことが出来ます」

「その秘術で呼び出す者は王家の──この月下国げっかこくの血を持つ者なのか?」

「この世には──特別な存在にはなんらかの問題発生を想定して複製を別の世界に置いてあるのです。鏡花様はこの月下国の最後の女王。複製は必ずどこかの世界にあります」

「それはこの世界の鏡花も同じなのかと聞いている」

「劣悪な環境に置かれていれば表面上の性格や外見に違う部分があるかもしれませんがが些末なこと──魂も存在も元は同じ。神々の加護は問題ありません」

加護などないのだから問題などある筈がない。
考えるまでもなく王は鏡花の召喚を命ずるだろう。
そうしなければ鏡花は最後の女王となり王家はついえる。

「鏡花を呼び出せ」

この言葉をどれだけ望んだだろう。

──その為には王女の暗殺を命じたのだ。
秘術を使ってみたいが為に──
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