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咫尺天涯 【近くても遠く感じること】

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──と、奏多さんのケータイ番号知らない‼︎
直ぐに引き返し青のケータイを貸してと訴えれば何がなんだか分からない青は混乱中でも素直に貸してくれた。
本当にごめん。青。

電話を掛けながらエレベーターに乗り込む。
出てよ。
奏多さん──電話に出て‼︎ 
コール音が続きエレベーターは一階まで着いてしまった。
ホテルを出てどちらに向えばいいのか。
あの本来の未来の通り右に向えばいいのか。
と──コール音が止まった。

『──青?どうしたの?』

その声が──奏多さんだと分かった。
当たり前だ。
奏多さんに掛けているのだから。
でも──生きている──奏多さんが生きている──

『青?』

声が大人びてる──なんて思っちゃう。
この奏多さんが本当なのに。

『──違うよ。青じゃない──緋和だよ。奏多さん』

『緋和ちゃん?』

『違う‼︎──〈緋和〉だよ』

『──緋和?』

時間がない。

『奏多さん今どこ⁉︎ 私も青も生きてる‼︎ 奏多さんが死ななくてもはココにいる‼︎ だから死なないで‼︎ 緋和に会いに来て‼︎ 』

走りホテルを飛び出す。
奏多さんが私達を助けて死ぬ運命だったあの場所へと全力で走る。
息が上がり苦しい。
真夏の室外温は38度を超えていそうだ。
汗が一気に吹き出し緋色のワンピースが身体に張り付く。
でもそんなの今はどうでもいいの。
早く──早く奏多さんに逢いたい‼︎

「‼︎」

──急に誰かに腕を掴まれ身体が反動で回転する。
そのまま腕を掴んだ相手の身体に体当たりしてしまう。

「ごめんなさ──」

急いでいるので相手も見ず謝罪してしまうけれど、今は──少しでも早く先に進みたい‼︎

「緋和‼︎ 」

──その声に──漸く──意識を掴まれた左手に持っていく。
視線を上げ仰ぎみれば汗だくの白いシャツ姿の──奏多さん。
──奏多さんだ──

「──逢えた」

もっと──気の利いた言葉を言えたらどんなに素敵だったのかもしれないけれどこんな陳腐な言葉しか出ない。
見たらわかるじゃん。
もう会ってるんだから。
でも──でも……

「もう──会えないかと思った──馬鹿奏多‼︎ 死ぬ為に──この日の為に20年生きて来たなんて──馬鹿すぎるよ奏多さん‼︎ 」

奏多さんのシャツを握りしめ振り回すから──きっと奏多さんは困ってる。
でも離してやんない。

「緋和──僕の知ってる緋和?」

未だに半信半疑の感情で問いかけてくるので意地悪を言いたくなる。

「死ぬつもりなのに何度も私の中で出するなんて責任感がなさ過ぎ!もし──赤ちゃん出来てたら責任とってよ。20年前だからって責任逃れは出来ないからね‼︎ 」

周りの通行人が──えっ?という顔で此方を見る。
20年前にエッチして今、子供が出来たら責任取れなんて意味が分からなすぎるだろう。
しかも何歳だ。私。
でも──奏多さんにだけ伝わればいいの。
それに周りから奇異な目で見られて困ればいい。
些細な仕返しだ。
それに……本当に責任とって欲しいし。

「女の子は怖いね。20年前の不貞を今更問い質すの?」

奏多さんが無責任男の発言をする。
──嬉しい。
記憶が共有できることが嬉しい──私がそばにいるのに私にはその記憶がない。
きっと奏多さんはずっと寂しかった筈だ。
私がいるのにそれは【私】ではない。
でも、その言葉は許せないよ。奏多さん。

「緋和には今日のことなの‼︎ 数時間前に奏多さんにがっつりと処女を奪われて──今も──身体痛いし……」

なんだか……恥ずかしくなってきた……
足を無意識に閉じてしまう。
目の前の奏多さんは大人で──18歳の奏多さんじゃない。

「どこが痛いの?」

絶対に分かって言ってる!
だって少し顔が綻んでる!
アソコが痛い──なんて言いたくない‼︎

「心が痛いの!奏多さんともう逢えないなんて──知らなくて──あの短い間かもしれないけれど──もう生きた心地しなかった‼︎ ──怖くて──未来なんていらない──って思った」

本当に──そう思った。
怖くて──未来は真っ黒な沼のように思えた。

「ごめん」

謝らないで──奏多さんの所為じゃない。
私が我儘を言った結果だ。
その我儘を叶える為だけに20年生きてくれた。
一夏の恋の為に──私の為に──長い月日を歩んでくれた。

「ヤダ。許さないんだから──だからずっと───っ」

「緋和?」

奏多さんが瞳を覗かせれば、18歳の奏多さんではなく38歳の奏多さんだ。

「まだ──私を好き?」

あれから20年──気持ちが変わるのに十分な時間だ。
──妻も子供もいるこの人の価値観も想いも絶対に変わっている筈だ。
不安な気持ちを一掃する言葉をくれないだろうか?
大丈夫。
20年、今日を待ってくれてた人だ。
大丈夫。

「よく分からないよ」

「⁈」

「だってそうだろう?」

何がそうなの⁈

「僕は──君に逢えないまま死ぬと思っていたからずっと君への恋心を殺して生きてきたんだ。死なないのなら──君と生きられるのなら記憶のない幼気な君にさえ愛を囁いて僕のモノにしたよ」

「──幼い私にさえ恋をした?」

「ムカついていた」

「⁉︎」

「だってそうだろう?」

何がそうなの⁈
てか、幼い頃から何度か責められている気分になったアレは思い過ごしではなく本当に苛つかれていたんだと知ってしまう。

「──好きなことも伝えられず──僕のこと〈おじちゃん〉って呼んだんだよ」

──今考えると、それはナイ。
反対に私が奏多さんに〈おばちゃん〉って呼ばれたら数週間は泣き腫らしそうだ。
でも!でも‼︎

「細かいことはいいの‼︎ ……後で聞くから。だから──私を好きって事でいいんだよね?」

頷いて。
それだけで話は未来へと進めるから。

「………」

なんで無表情なの⁈
返事してよ。
笑ってよ。
──キスしてよ。

「──もういい」

むくれ、いじけてみても奏多さんは表情を変えない。
──なんだか泣けてくる。
涙を見せたくなくて奏多さんに背を向ける。
多分──奏多さんは揶揄っているつもりなんだろうけど、ここはストレートに言って欲しいの!
緋和は恋に夢見る16歳なの‼︎

「僕は──38歳のおっさんだけどいいの?」

そんな小さな声が聞こえてくるから思わず振り向いてしまう。

「結婚して──子どももいる」

──うん。
私がそれを望んだから。
それなのに──それを引き目に見るの?
バカだなぁ。
変わってない。
私の好きな奏多さんだ。

「──もし──奏多さんが莉緒さんと離婚したくないって──言うのなら──今度は私が我慢する──奏多さんの家庭を壊さないように頑張るから傍にいさせて……ホシイデス」

思えば20年拘束し、今度はロリコン疑惑まで背負わないといけないなんて奏多さんの人生ボロボロだ。

「なんでそうなるの?緋和は僕のお嫁さんになりたくはない?」

「なりたいに決まってるでしょ‼︎ でも‼︎ 奏多さんの負担ばかり増えるんなら緋和が我慢す──」

抱きしめられて呼吸が止まる。
それほどに強く抱きしめられる。

「なら、結婚して。──すぐは無理だけど。結婚して緋和」

「──緋和は奏多さんみたいに我慢強くないから──20年は待てないよ?」

二人で微笑む。

「僕ももう待てないよ。逢いたかった──緋和」

「──ただいま」

そう言って頬にキスをすれば奏多さんが足りない時いうふうに瞳で責める。
でも、私だって足りないし……して欲しいの。
瞳でそう返せば色っぽい瞳で見返される。
なんだか──その瞳だけで抱かれている気持ちになる。

「緋和──」

そう──奏多さんが身体を屈めてキスをしようとするから、私は必死に声を上げた。

「待って‼︎」

──つい……声をあげた。
奏多さんが不服そうに此方を見ている。
なんで待ってなんて言ったのか自分でも訳わかんない。
なんだか無性に恥ずかしかっただけで意味なんてないんだと思う。

「いいよ。20年待ったし──で、後、どれくらい待てば緋和さんにキスしていいのですか?」

奏多さんがヤクザれてる。
──んだけど……なんか可愛いからもうちょっと焦らしてみようかな?

「あと1年後かな?」

そう言ってベロを出してべーとする。
ふふん!

「そのべー可愛いね。もう一回して?」

そう来たか⁈
そう思いながらも可愛いと言われれば満更でもないかな。
ちょっと可愛らしさを意識してもう一度ベロを出す。

「べー……ん!──っぁ──」

緋和の頭に手を添えて奏多さんが引き寄せる。
その出したベロに奏多さんのベロが絡まって一瞬のうちに固まってしまう。
無意識に引っ込めたベロが奏多さんのベロまで引き寄せたようになり唇が重なる。
──唇よりも先にベロから触れるって──おかしくない?
なんて──もう──考えられない。
気持ちよくて──蕩けてしまう。

「……はっ…」

離れた唇に寂しさと安堵が綯交ぜになる。

「──バカ!奏多さんのバカ‼︎ 」

恥ずかしさに詰れば奏多さんは飄々としている。

「てっきり舌だすからキスして欲しいのかと思ったよ」

「そんなつもりのべーじゃないもん!」

「──なら──もう子どもじゃないんだから他の男の前であんな事したらダメだよ?」

──確かに──よくしてた。
青にも。
えっ?べーってそんな破廉恥な行為だったのだろうか?
それとも奏多さんが変態なだけなのだろうか?
分かんなくなる。
でも──

「もう──奏多さんにしかしないよ」

すると優しくキスをくれた。



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