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§ すべてはここから始まった。

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「……わかったよ」
「いいの? 良かった、助かる。この埋め合わせはするからさ」
「それで? いつ行けばいいの?」
「それがさ……急で悪いんだけど、今日これから来て欲しいんだよね」
「え? 今日これから? あっ」
「いてっ!」
「……ちょっとなに今の声? 誰かいるの?」
「あ! 違うっ! やっ……」

 お腹に回っていた俊輔の手に悪戯され、反射的に肘鉄をお見舞いしたら仕返しとばかりに耳朶に噛みつかれた。まずい、聞かれた、と、思ったときにはもう遅い。

「今の声なに? オトコ? お姉ちゃん、真昼間からなにやってんの? イヤラシイ」 
「いや、だから……違うって」
「ごまかさなくてもいいじゃない? へぇー、お姉ちゃんがねぇ」
「栞里ぃ!」
「ちょうどいいわ。彼氏連れてきて紹介してよ。ついでに荷物の片付けも手伝ってもらえると助かるしさ。いいでしょ? そのくらい」
「だから違うし、そんなこと急に言われたって……」
「なあに? 嫌なの?」
「いきなり無茶言わないでよ」
「……そんなに嫌なら別にいいわよ。お母さんに言いつけるから。このこと、お母さん聞いたらどうするかな? ふふふっ」
「ちょっと! それだけはやめて……」
「じゃ、決まりね。場所メールするわ。荷物は引越し屋が昼頃には運んでくるから、遅くとも二時までには来てね」

 通話の切れた携帯をベッドに放り投げ、身を捩って俊輔を突き飛ばした。

「しゅんすけっ! よくも……」

 腹立ち紛れに殴りかかろうとした腕を掴まれ、抱きしめられ身動きが取れない。力で抑えられてのキス攻撃を喰らえば、勝ち目があるわけも無く、悔しいが、出るのは甘い吐息ばかりだ。

「それで? なんだって?」
「彼氏と一緒に引越しの手伝いに来いだって」
「栞里、引っ越すんだ?」
「言ってなかったっけ? 結婚するのよあの子」
「ふーん。そーゆこと。ま、いいんじゃない? 行ってやれば」
「俊輔、あんた、行く気なの?」
「だって、どうせいずれは会わなきゃいけない相手だろ? 栞里だけじゃなくて、おじさんとおばさんにも話し通さなきゃなんないんだし」
「それ……本気?」
「じゃなかったら、なんだよ?」

 私の親に話を通すとは、何を意味するのか。こいつの考えていることがわからないのもさることながら、これから栞里と会うことすら突然過ぎて、私の思考が追いつかない。


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