23 / 47
§ 誘惑 *
四
しおりを挟む
密着した素肌。直に感じる互いの温度が、これは現実だと教えてくれる。
亜弥の両頬を、克巳は大きな手で包み込んだ。言葉も無くどちらともなく唇を合わせれば、熱い舌を絡め合う。目を閉じ、互いの匂いをひとつに混ぜ合えば、唇から伝う水音だけが、脳裏に響く。
「夢、じゃない……よね?」
「ああ」
こんなに幸せな夜に、巡り会えるなんて。
離れ離れになって十年。恋い焦がれ、二度と会えない絶望に打ち拉がれ、薄らぐことのない胸の痛みに耐え続ける日々。諦め、忘れる努力だって積み重ねた。
そんな辛い時間も、いまこうしているだけで報われた気がする。
息を継ぐ隙間もないほどの深く長い口づけが、身体の奥に暖かな火を灯す。亜弥の心も満たされていく。
口腔を舐られ、搦め捕られた舌をきつく吸い上げられ。痛みは亜弥の頭の芯を痺れさせた。
明日なんて知らない。たとえ儚い夢だとしても、溺れていたい。
節くれ立った指に髪を梳かれ、亜弥はうっとりと目を細める。その指が耳朶をなぞれば、首筋がゾクゾクと粟立った。
首筋から肩、腕へと、産毛を撫でるように這う指が、亜弥の指を搦め捕り、腕を頭上へと導く。
絡めた指を解いた克巳の手のひらが、腕の裏側の柔肌を、ゆっくりと撫で下り脇へと戻せば、身体の奥に積もっていくもどかしさに身を捩る。甘く苦しい口づけからようやく解放された亜弥の吐息には、甘い呻きが混ざっていた。
「ん、はぁ……」
克巳の唇が首筋をたどり、胸元へと下りていく。脇から救うように包まれた膨らみは、克巳の手によって形を歪ませ、もう一方の膨らみには熱い舌が這う。
ビクビクと身体を震わせる亜弥は、与えられる刺激に耐えるばかり。ほんのりと頬を染めて唇を噛むその表情を確かめながら、克巳は頂の周囲を舐ったあと、それを口へと含ませた。
「ん、ん、んっ」
コリコリと歯で扱かれ、追い打ちをかけるように舌で転がされ、もう一方はといえば、感触を愉しむように揉みしだかれ、頂を摘まんだり引っ掻いたりと、無骨な指先に弄ばれている。
「こっちもかわいがってやらないとな」
亜弥がそ意味を理解するより先に、入れ替わりにもう一方の蕾が、きつく吸い上げられた。
「んあうっ」
嬌声を上げてしならせた背は克巳の腕に抱えられ、強い刺激から逃れたい亜弥の欲求に反して、胸元を克巳の口元へと押し付けた。
容赦なく立てられる歯に甚振られ舐られて、硬く痼った赤い実から全身へと甘い毒が染み込んでいく。
「いまも左が弱いんだな」
変わっていない、と、嗤われ、目を開いた亜弥の頬が、瞬時に紅く染まった。
「なっ……なんでそんなっ」
「好きな女のいいところを、忘れる男なんていないだろう?」
「……そんな、大昔の……こ、と」
「そう、こっちもだったな」
亜弥の言葉を遮るように、克巳の手は秘所へと伸びる。指先が薄い茂みをかき分けて秘裂を割り、内側へと沈み込んだ。
「あっ、やだそこっ! んっ……」
「もう濡れてる……で、ここをこうやって?」
溢れる蜜を纏わせた指先が、尖りの周囲を探る。時に強く、時に弱く。ぬるぬると撫で回され溜まっていく熱。広がる甘い痺れが、亜弥の脳を弛緩させる。
「足。閉じちゃだめだよ」
筋肉質な足が、亜弥の太腿に絡みつき、自由を奪った。
「気持ちいいんだろう? ちゃんと言ってごらん」
「あうっ!」
言わなきゃ許さない、とばかりに、耳朶を甘噛みされて亜弥は悲鳴を上げる。耳介を這い回り耳孔にまで入り込む舌。水音が、首を竦める亜弥の脳裏に響いた。
「あ、ん……みみ、ぃやぁ……だめ、気持ち、い、い……から、もう……」
「亜弥、ここをこうすると気持ちいいのを教えたのは誰だっけ。ちゃんと憶えてる?」
「んああっ!」」
会館で膨らんだ尖りから顔を出した芯を、爪の先で引っ掻かれた。突然襲いかかる焼け付くような感覚。亜弥の目の奥で、次々と小さな光が弾けて消える。
あの夜。未知への期待だけが先走る亜弥の身体は、克巳によって開かれた。
耳元で囁かれる艶めいた声。しっとりと密着する素肌の温もりは、亜弥の羞恥を剥ぎ取り、繊細な指で、柔らかな唇と熱い舌で、身体の隅々まで探られて、乱れることを教えられた。
その手に導かれて絶頂を知り、大好きな人に抱かれる痛みも悦びも味わった。
たった一晩だけだったけれど、克巳との初めての夜を忘れるなんて、亜弥にできるわけがない。
「う、ん……うぅっ」
「ちゃんと憶えてたな」
亜弥の肩に腕を回し、上体を包み込むように抱きしめた克巳が、亜弥の唇を塞ぎ口腔を貪る。逃げても追い詰められて搦め捕られる舌。混ざり合う唾液は
蜜のように甘い。
飲み込めずに口角から溢れ出たそれは、首筋を伝いシーツへと吸い込まれる。敏感になった亜弥の肌は、その僅かな感触にすら泡立ってしまう。
きつく舌を吸い上げられて、呼吸も奪われ苦しみにもがく。秘所へと沈み込んだ指先は、執拗なまでに亜弥を甘く責め立て、翻弄する。
すべてを委ねてしまった亜弥に唯一残されている自由は、喉の奥で呻くだけ。
「んっ、うううぅ」
それすらもほんの束の間。身体の芯から迫り上がってくる苦痛にも似た不可思議な感覚が止まらない。
極度に圧縮されたそれは、破裂した白い光。キラキラと輝きながら亜弥の全身を駆け巡り、身体ばかりではなく思考も感情までをも奪っていく。
全身を弛緩させて恍惚とした表情を浮かべる亜弥を、克巳は慈しむように抱き締めた。
「好きだ。亜弥。前もいまもずっと……好きだよ」
克巳の掠れ声が、亜弥の脳を溶かしていった。
亜弥の両頬を、克巳は大きな手で包み込んだ。言葉も無くどちらともなく唇を合わせれば、熱い舌を絡め合う。目を閉じ、互いの匂いをひとつに混ぜ合えば、唇から伝う水音だけが、脳裏に響く。
「夢、じゃない……よね?」
「ああ」
こんなに幸せな夜に、巡り会えるなんて。
離れ離れになって十年。恋い焦がれ、二度と会えない絶望に打ち拉がれ、薄らぐことのない胸の痛みに耐え続ける日々。諦め、忘れる努力だって積み重ねた。
そんな辛い時間も、いまこうしているだけで報われた気がする。
息を継ぐ隙間もないほどの深く長い口づけが、身体の奥に暖かな火を灯す。亜弥の心も満たされていく。
口腔を舐られ、搦め捕られた舌をきつく吸い上げられ。痛みは亜弥の頭の芯を痺れさせた。
明日なんて知らない。たとえ儚い夢だとしても、溺れていたい。
節くれ立った指に髪を梳かれ、亜弥はうっとりと目を細める。その指が耳朶をなぞれば、首筋がゾクゾクと粟立った。
首筋から肩、腕へと、産毛を撫でるように這う指が、亜弥の指を搦め捕り、腕を頭上へと導く。
絡めた指を解いた克巳の手のひらが、腕の裏側の柔肌を、ゆっくりと撫で下り脇へと戻せば、身体の奥に積もっていくもどかしさに身を捩る。甘く苦しい口づけからようやく解放された亜弥の吐息には、甘い呻きが混ざっていた。
「ん、はぁ……」
克巳の唇が首筋をたどり、胸元へと下りていく。脇から救うように包まれた膨らみは、克巳の手によって形を歪ませ、もう一方の膨らみには熱い舌が這う。
ビクビクと身体を震わせる亜弥は、与えられる刺激に耐えるばかり。ほんのりと頬を染めて唇を噛むその表情を確かめながら、克巳は頂の周囲を舐ったあと、それを口へと含ませた。
「ん、ん、んっ」
コリコリと歯で扱かれ、追い打ちをかけるように舌で転がされ、もう一方はといえば、感触を愉しむように揉みしだかれ、頂を摘まんだり引っ掻いたりと、無骨な指先に弄ばれている。
「こっちもかわいがってやらないとな」
亜弥がそ意味を理解するより先に、入れ替わりにもう一方の蕾が、きつく吸い上げられた。
「んあうっ」
嬌声を上げてしならせた背は克巳の腕に抱えられ、強い刺激から逃れたい亜弥の欲求に反して、胸元を克巳の口元へと押し付けた。
容赦なく立てられる歯に甚振られ舐られて、硬く痼った赤い実から全身へと甘い毒が染み込んでいく。
「いまも左が弱いんだな」
変わっていない、と、嗤われ、目を開いた亜弥の頬が、瞬時に紅く染まった。
「なっ……なんでそんなっ」
「好きな女のいいところを、忘れる男なんていないだろう?」
「……そんな、大昔の……こ、と」
「そう、こっちもだったな」
亜弥の言葉を遮るように、克巳の手は秘所へと伸びる。指先が薄い茂みをかき分けて秘裂を割り、内側へと沈み込んだ。
「あっ、やだそこっ! んっ……」
「もう濡れてる……で、ここをこうやって?」
溢れる蜜を纏わせた指先が、尖りの周囲を探る。時に強く、時に弱く。ぬるぬると撫で回され溜まっていく熱。広がる甘い痺れが、亜弥の脳を弛緩させる。
「足。閉じちゃだめだよ」
筋肉質な足が、亜弥の太腿に絡みつき、自由を奪った。
「気持ちいいんだろう? ちゃんと言ってごらん」
「あうっ!」
言わなきゃ許さない、とばかりに、耳朶を甘噛みされて亜弥は悲鳴を上げる。耳介を這い回り耳孔にまで入り込む舌。水音が、首を竦める亜弥の脳裏に響いた。
「あ、ん……みみ、ぃやぁ……だめ、気持ち、い、い……から、もう……」
「亜弥、ここをこうすると気持ちいいのを教えたのは誰だっけ。ちゃんと憶えてる?」
「んああっ!」」
会館で膨らんだ尖りから顔を出した芯を、爪の先で引っ掻かれた。突然襲いかかる焼け付くような感覚。亜弥の目の奥で、次々と小さな光が弾けて消える。
あの夜。未知への期待だけが先走る亜弥の身体は、克巳によって開かれた。
耳元で囁かれる艶めいた声。しっとりと密着する素肌の温もりは、亜弥の羞恥を剥ぎ取り、繊細な指で、柔らかな唇と熱い舌で、身体の隅々まで探られて、乱れることを教えられた。
その手に導かれて絶頂を知り、大好きな人に抱かれる痛みも悦びも味わった。
たった一晩だけだったけれど、克巳との初めての夜を忘れるなんて、亜弥にできるわけがない。
「う、ん……うぅっ」
「ちゃんと憶えてたな」
亜弥の肩に腕を回し、上体を包み込むように抱きしめた克巳が、亜弥の唇を塞ぎ口腔を貪る。逃げても追い詰められて搦め捕られる舌。混ざり合う唾液は
蜜のように甘い。
飲み込めずに口角から溢れ出たそれは、首筋を伝いシーツへと吸い込まれる。敏感になった亜弥の肌は、その僅かな感触にすら泡立ってしまう。
きつく舌を吸い上げられて、呼吸も奪われ苦しみにもがく。秘所へと沈み込んだ指先は、執拗なまでに亜弥を甘く責め立て、翻弄する。
すべてを委ねてしまった亜弥に唯一残されている自由は、喉の奥で呻くだけ。
「んっ、うううぅ」
それすらもほんの束の間。身体の芯から迫り上がってくる苦痛にも似た不可思議な感覚が止まらない。
極度に圧縮されたそれは、破裂した白い光。キラキラと輝きながら亜弥の全身を駆け巡り、身体ばかりではなく思考も感情までをも奪っていく。
全身を弛緩させて恍惚とした表情を浮かべる亜弥を、克巳は慈しむように抱き締めた。
「好きだ。亜弥。前もいまもずっと……好きだよ」
克巳の掠れ声が、亜弥の脳を溶かしていった。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説

忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
モース10
藤谷 郁
恋愛
慧一はモテるが、特定の女と長く続かない。
ある日、同じ会社に勤める地味な事務員三原峰子が、彼をネタに同人誌を作る『腐女子』だと知る。
慧一は興味津々で接近するが……
※表紙画像/【イラストAC】NORIMA様
※他サイトに投稿済み
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

赤貧令嬢の借金返済契約
夏菜しの
恋愛
大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。
いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。
クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。
王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。
彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。
それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。
赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる