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§ 魯肉飯

任務の二

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 さて、課せられたミッションは、ふたつあった。

 ひとつは、月老納得の『魯肉飯』を自作すること。

 林媽媽の店でいつでも食べられるのに、なんでわざわざ、とうっかり口にしてしまい、弟子(仮)のくせに師父に口答えするのか生意気だと叱られた。

 わたしは台北に来てから、まったく自炊をしていない。だが、日本にいるときはそれなりに料理はしていたのだ。
 魯肉飯。いいでしょう。ちゃっちゃと作ってこの林美鈴さまの腕前を思い知らせてやろうじゃありませんか。

 もうひとつは、林媽媽に『嫁』として受け入れられること。

 なぜにわざわざ『嫁』なのか。理由はさっぱりわからないが、また叱られるのも嫌なので、ここは黙っておく。

 突拍子も無いことをさせられるのではないかと、内心身構えていたのだが、意外と簡単で、なんだか拍子抜けだ。
 なにはともあれ、林媽媽はわたしを娘のようにかわいがってくれている。だから、このミッションもまず大丈夫。簡単にクリアできると思う。

「ミッションを遂行する足しに、これを授けてやるとしよう」

 月老が上に向けて開いた掌から、紅く光る石が浮かび上がる。
 空中を移動してきたそれが、細い紐状に姿を変えたかと思うと、しゅるしゅるとわたしとカイくんの手首に巻きついたから驚いた。

 すごい。どんな手品?

「あの……なんですか? これ」
「縁結びの紅線だ」
「縁結びの?」
「紅線?」
「そうだ。これがあれば、一定期間天空碧の効力を抑えられる。どうだ? 違いがわかるか?」

 違いと言われても——。

「……あ?」

 そう言われてみれば、さっきまであった気怠さが消え、体が軽くなっている気がする。それだけではない。なにかが、体のなかから湧き出るような……これがこの紅線の作用?

「阿海、おまえもだ。これで魂が安定し、少しの間なら小鈴から離れることもできるだろう」

 隣に座っているカイくんに目を向けると、驚いたような顔をして両手を開いたり閉じたりしていた。わたし同様、カイくんにも変化があるようだ。

「月老……これ?」
「タイムリミットは、次の満月だ。次の満月を過ぎれば、阿海は消滅する。当然、弟子入りもない。わかったな?」

 満月は昨日だったか一昨日だったか。月の周期はたしか、一ヶ月もないはず。いずれにせよ次の満月なんて、すぐじゃないか。

 突然湧き出た緊張感に、体がぶるっと震える。冷静になっていく頭のなかで、それまでもやもやとしていたひとつの考えが、はっきりとした形を持った。

 この人は、只者ではない——只者なわけもないのだがでも、何者?

「心配は要らない。さて、今日のところはこんなものだろう。小鈴、土産だ。持って帰りなさい」

 ぽいっとドライマンゴーの紙袋が、わたしの膝に乗せられた。


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