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§ 貴方の傍にいるだけで
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小会議室に連れ込まれ、早速本田さんから、メーリングリストを利用し私を騙ったメールについての内部調査結果が報告を受けた。
偽装メールを書き発信したのは、三浦理恵。これは以前、関根さんから聞いている。さらに重要なパスワードを漏洩させたのは、驚くことに社内のセキュリティにも関わるシステムエンジニアの酒井さんだった。
三浦理恵は、彼女の会社が受注を減らされたのはうちの会社が割り込んだせいだと思い込んだ彼女の上司の指示を受け、私に汚名を被せて追い出す目的だったとのこと。
もちろん、三浦理恵の会社へは、時期的にたまたま見合う案件が少なかっただけで発注を減らしているなんてことはなく、今回トラブルを起こしたことで、逆に今後の関係を見直すと通告され、あちらの会社は蜂の巣を突いたような騒ぎになっているらしい。
もう一方の酒井さんは、現在のポジションを外され降格。もっと厳しい処分を望む声もあったそうだが、なにかしらそれを許さない社内事情があるようだった。
後輩のくせに仕事ができる出世頭で社内一モテまくる亮に嫉妬。プロジェクト内でのトラブルを誘えば、亮の仕事に汚点を付けられると考えたようだが、そんな姑息な手段を用いずとも、それなりの実力はあるのだから、真面目に仕事をしていればそれだけで評価はされただろうに。
ふたりがことを起こしたくだらない動機を聞いて、すっかり呆れてしまった。
「……と、まあそういうわけなんだ。河原さんにはうちの酒井が怪我までさせてしまい、御社にもそうだが、特に河原さん個人には多大なるご迷惑をおかけして、本当に申し訳ない」
本田さんだけではなく亮までが立ち上がり、私に向かって頭を下げられては、居心地の悪いことこの上ない。
「いえいえ、そんな……おふたりとも頭を上げてください。私のほうは事情がわかればそれで十分ですから」
「そういってくれるとありがたい。先ほど御社の林さんにも事情をお話ししてお詫びしたんだが、直接の被害にあった河原さんにも会えてお詫びが言えてよかったよ」
慌てふためく私に、本田さんのひと言が刺さった。
「はい?」
すでに社長レベルで話が済んでいたなんて。失敗した。啓の電話番号をブラックリストから救出するのを忘れていたのは私のミスだけれど、小夜だっているし、他のメンバーからでも連絡が可能なのに。私にひと言もないなんて、あんまりじゃないか。
あいつは私が個人的な理由を優先して、任された仕事を放り出すような人間だとでも思っているのか。仕事上の連絡すらしてこないとは、この間のことで合わせる顔がないのかも知れないけれど、このやりようは凡そ啓らしくない。
小夜じゃないけれど、一発くらい、殴っておくべきだな。
笑顔を作り話を合わせながら、内心では頬か、顎か、それとも鳩尾か、と、効果的な痛めつけ方を模索した。
偽装メールを書き発信したのは、三浦理恵。これは以前、関根さんから聞いている。さらに重要なパスワードを漏洩させたのは、驚くことに社内のセキュリティにも関わるシステムエンジニアの酒井さんだった。
三浦理恵は、彼女の会社が受注を減らされたのはうちの会社が割り込んだせいだと思い込んだ彼女の上司の指示を受け、私に汚名を被せて追い出す目的だったとのこと。
もちろん、三浦理恵の会社へは、時期的にたまたま見合う案件が少なかっただけで発注を減らしているなんてことはなく、今回トラブルを起こしたことで、逆に今後の関係を見直すと通告され、あちらの会社は蜂の巣を突いたような騒ぎになっているらしい。
もう一方の酒井さんは、現在のポジションを外され降格。もっと厳しい処分を望む声もあったそうだが、なにかしらそれを許さない社内事情があるようだった。
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ふたりがことを起こしたくだらない動機を聞いて、すっかり呆れてしまった。
「……と、まあそういうわけなんだ。河原さんにはうちの酒井が怪我までさせてしまい、御社にもそうだが、特に河原さん個人には多大なるご迷惑をおかけして、本当に申し訳ない」
本田さんだけではなく亮までが立ち上がり、私に向かって頭を下げられては、居心地の悪いことこの上ない。
「いえいえ、そんな……おふたりとも頭を上げてください。私のほうは事情がわかればそれで十分ですから」
「そういってくれるとありがたい。先ほど御社の林さんにも事情をお話ししてお詫びしたんだが、直接の被害にあった河原さんにも会えてお詫びが言えてよかったよ」
慌てふためく私に、本田さんのひと言が刺さった。
「はい?」
すでに社長レベルで話が済んでいたなんて。失敗した。啓の電話番号をブラックリストから救出するのを忘れていたのは私のミスだけれど、小夜だっているし、他のメンバーからでも連絡が可能なのに。私にひと言もないなんて、あんまりじゃないか。
あいつは私が個人的な理由を優先して、任された仕事を放り出すような人間だとでも思っているのか。仕事上の連絡すらしてこないとは、この間のことで合わせる顔がないのかも知れないけれど、このやりようは凡そ啓らしくない。
小夜じゃないけれど、一発くらい、殴っておくべきだな。
笑顔を作り話を合わせながら、内心では頬か、顎か、それとも鳩尾か、と、効果的な痛めつけ方を模索した。
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