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§ 貴方の傍にいるだけで
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久しぶりに夢に苛まれもせずに、ゆっくりと眠れた気がする。目を開けると、覚えのない白い天井がそこにあった。
「瑞稀」
亮の声が、ぼそっと囁くように私の名を呼んだ。頭の角度を変え、声の主を探す。ブラインドの隙間から差し込む光で逆光になっているためか、表情がよくわからないけれど、私の頬を撫でる少しゴツゴツとした手が、ひんやりと気持ちがいい。
「亮……ここはいったい?」
「病院だよ。気分はどうだ?」
肩に力を入れ起き上がろうと試みたが、シーツに張り付けられたようにびくともしない。力を抜いてしまえば全身が重く、話をするのも億劫に感じるほど。
「大丈夫。ちょっと怠いだけ」
微笑んだつもりだけれど、成功しただろうか。
なにがどうしてこうなったのか、寝起きの回らない頭で記憶を辿る。そうだ、酒井さんだ。揉み合いになって転んだところまでは覚えているけれど、そのあとがわからない。
無意識のうちに動かそうとした右手は、手の甲から繋がる点滴の管に拘束されていた。
「動かないでおとなしく寝ていなさい。覚えているか? おまえは転倒時のショックで気を失ったんだ。両膝に怪我もしている。単なる打撲で骨にまで異常はなかったから大事はないが、暫くは痛むだろうが、治るまでは仕方がないな。ただ……」
「……うん?」
「過労、貧血、栄養不良……とにかく、だ、体が弱っているから休息が必要だと医者から指示されたんだが、おまえは……」
「ご、ごめんなさい! 忙しくてついうっかり、ね?」
不摂生は私の不徳のいたすところ。反省していますから、お説教はどうかお許しください、と、懇願の笑顔を作る。
「違うな。謝るのは俺のほうだ。こんなになるまでおまえをひとりにしておいた俺が悪い」
「亮……?」
「いや、話は元気になってからいくらでもできるんだから、まずはゆっくり休養を取るべきだな。そうだ、青木さんには連絡するか?」
連絡をすれば小夜は驚いて駆けつけてくれるだろうけれど、きっと啓も一緒に来る。いまはまだ啓に会いたくない。だから。
「連絡しなくていいよ。小夜はいま忙しいから心配かけたくない」
「それでいいのか?」
「うん。落ち着いたら私から連絡入れる。そういえば、仕事は? どうしよう、私……謝らなくちゃ。会社の人たちに迷惑かけちゃったもの」
「会社は気にしなくていい。おまえが抜けた穴はあいつらが責任持って埋めるし、本田さんにも頼んである」
「亮は?」
「安心しなさい。付き添ってやれと、本田さんに言われたよ」
本田さんにまで気を遣わせてしまって、少々心苦しいけれど、亮が傍にいてくれるのは嬉しい。
頭を撫でられ指先で髪を梳かれる心地よさに眠気を誘われ、瞼が自然と落ちてくる。意識が吸い込まれる寸前、近づく軽い足音に気がついた。
「必要なものひととおり買ってきましたけ……あ?」
ベッドの足元に、言いかけた言葉を飲み込み目を丸くしている白石さんが立っていた。
「瑞稀」
亮の声が、ぼそっと囁くように私の名を呼んだ。頭の角度を変え、声の主を探す。ブラインドの隙間から差し込む光で逆光になっているためか、表情がよくわからないけれど、私の頬を撫でる少しゴツゴツとした手が、ひんやりと気持ちがいい。
「亮……ここはいったい?」
「病院だよ。気分はどうだ?」
肩に力を入れ起き上がろうと試みたが、シーツに張り付けられたようにびくともしない。力を抜いてしまえば全身が重く、話をするのも億劫に感じるほど。
「大丈夫。ちょっと怠いだけ」
微笑んだつもりだけれど、成功しただろうか。
なにがどうしてこうなったのか、寝起きの回らない頭で記憶を辿る。そうだ、酒井さんだ。揉み合いになって転んだところまでは覚えているけれど、そのあとがわからない。
無意識のうちに動かそうとした右手は、手の甲から繋がる点滴の管に拘束されていた。
「動かないでおとなしく寝ていなさい。覚えているか? おまえは転倒時のショックで気を失ったんだ。両膝に怪我もしている。単なる打撲で骨にまで異常はなかったから大事はないが、暫くは痛むだろうが、治るまでは仕方がないな。ただ……」
「……うん?」
「過労、貧血、栄養不良……とにかく、だ、体が弱っているから休息が必要だと医者から指示されたんだが、おまえは……」
「ご、ごめんなさい! 忙しくてついうっかり、ね?」
不摂生は私の不徳のいたすところ。反省していますから、お説教はどうかお許しください、と、懇願の笑顔を作る。
「違うな。謝るのは俺のほうだ。こんなになるまでおまえをひとりにしておいた俺が悪い」
「亮……?」
「いや、話は元気になってからいくらでもできるんだから、まずはゆっくり休養を取るべきだな。そうだ、青木さんには連絡するか?」
連絡をすれば小夜は驚いて駆けつけてくれるだろうけれど、きっと啓も一緒に来る。いまはまだ啓に会いたくない。だから。
「連絡しなくていいよ。小夜はいま忙しいから心配かけたくない」
「それでいいのか?」
「うん。落ち着いたら私から連絡入れる。そういえば、仕事は? どうしよう、私……謝らなくちゃ。会社の人たちに迷惑かけちゃったもの」
「会社は気にしなくていい。おまえが抜けた穴はあいつらが責任持って埋めるし、本田さんにも頼んである」
「亮は?」
「安心しなさい。付き添ってやれと、本田さんに言われたよ」
本田さんにまで気を遣わせてしまって、少々心苦しいけれど、亮が傍にいてくれるのは嬉しい。
頭を撫でられ指先で髪を梳かれる心地よさに眠気を誘われ、瞼が自然と落ちてくる。意識が吸い込まれる寸前、近づく軽い足音に気がついた。
「必要なものひととおり買ってきましたけ……あ?」
ベッドの足元に、言いかけた言葉を飲み込み目を丸くしている白石さんが立っていた。
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